「作品を描くという一点だけは変わらない」 日本漫画界の奇才・羽生生純が語る漫画業界の今後

日本漫画は本当に数多くの種類の漫画があります。
児童向けから少年少女向け、青年向けと世代別にわけられた漫画雑誌を読むことは国民の娯楽のひとつとして定着しています。

漫画は子どもの読むもの、という古い概念はとっくになくなり、大人向けエンターティメント作品も多く発表されている昨今です。

『ドラゴンボール』や『ONE PIECE』、『NARUTO』といった知名度の高い大衆向け漫画が売れている一方、世間的にはあまり知られていないものの一定数のファンから熱狂的支持を受けているサブカルチャー寄りの漫画もあります。浅野いにお、新井英樹、漫☆画太郎などがそれにあたるでしょう。

羽生生純は後者の部類の漫画家でしょう。1990年代初頭にデビュー、以後アスキー、エンターブレイン系で作品を発表、その絵柄だけで読むのを拒む人もいれば、羽生生純の画がたまらなく大好きだという人もいます。

描くジャンルもギャグからラブストーリー、伝奇物とさまざまでありながら、どれも「羽生生純にしか描けない」作品です。

“ジュウマン”

地方都市に突如出現した謎の巨大物体「マンジュウ」立ち向かうのは選ばれし5人の戦士(全員変人)
いわゆる特撮ヒーローアクション物を羽生生先生が描いたらこんなことに……!

(C)2014 羽生生純/KADOKAWA/エンターブレイン

“千九人童子ノ件”

落ちぶれた漫画家、搬入が故郷へ戻り新作漫画のアイデアを考えているときに出会った全身に痣のある少女。少女を襲うものは何か? 千九人童子とは? 物語は鬼気迫る迫力でエスカレートしていく……。

(c)2010 羽生生純/エンターブレイン

“恋の門”

自称漫画芸術家の童貞、蒼木門はアニヲタコスプレイヤー証恋乃と出会う。理解しあえそうでできない男女は何度も近づいたり衝突しながら紆余曲折を経て本当の愛を見つけていく。いわく「手に汗握る恋愛漫画」(後に松尾スズキ監督によって実写映画化されました)。
(c) 2004 羽生生純/エンターブレイン

漫画家の吉田戦車先生が「恋の門」を『ふつうの漫画が惣菜ならこの漫画は山菜だ、味覚の幅を広げてくれる』といっているように、羽生生先生の漫画は、彼にしか表現できないものがあり、他の大衆向けヒット作品とは一線を画した不思議な魅力があります。

どんな漫画家でもアシスタント経験を経て師匠に絵柄が似るということはあります。マニアなファンなら絵柄を見ただけで、「この人の画は○○先生の影響受けてるな」くらい見抜くことができるでしょう。

しかし羽生生純先生は、師匠と思しき漫画家もなく、誰かに強い影響を受けた形跡もみえない。突然変異型の作風です。

今回羽生生先生にメールによるインタビューをさせてもらう機会がいただけたので、羽生生先生自身から、その作風や影響されたものを訊かせてもらいました。

奇才・羽生生純インタビュー

――いつごろから漫画家になろうと思ってましたか?デビューのきっかけは?

小さい頃から絵を描くのが好きで漫画の真似事をチョコチョコ描いてました。
高校の時8mm映画同好会で映画を作ってそっちの方向にも行きたくなりましたが多くの人とコミュニケーションをとりながらものを作るのは苦手だと思い知ったのでひとりで全部出来る漫画を選び、東京の専門学校に行ってみました。

しかしコンピュータ雑誌の「ログイン」で何故か募集してた漫画大賞に応募し何かしらの賞をもらったので「ここで学ぶことは無い」と勝手に思い込み半年で行かなくなり、その後「ファミコン通信」でも何故か募集してた漫画大賞に応募して何かしらの賞をもらってなんやかんやの流れでイラストや短編漫画を描かせてもらってるうちに竹熊健太郎さんの『ファミ通のアレ(仮題)』の作画で声をかけて頂きました。

――独特の絵柄ですが、影響を受けた漫画家やイラストレーターはいますか?

湖川友謙さんの絵が好きで真似しようと思ったのですが力不足で上手く描けず、山田芳裕さんの自由で大胆な描き方が好きで真似しようと思ったのですが力不足で取り入れられず、普通の漫画の絵を描いても埋もれてしまうと思ったのでエゴン・シーレの画集を買って来て模写したりしましたが力不足で吸収できず、その他たくさんの人に憧れてつまみ食いしたりしてるうちに、そんなこんなで下手なまま臭みだけが残った結果こんな感じになりました。

――ストーリーのほうも異色なものが多いですが、こちらのアイデア、ネタ等はどうやって生み出していますか?

自分としては興味をもったネタを描かせてもらってるだけなのですが、気持ち的には「あんまり他では読んだこと無い」と思うような話というか「どうしてこうなった?」みたいな話が好きなので、結果的にそういう方向に行きがちかもしれません。
アイデアはぼんやりしてる時やひねり出そうとうなってる時、焦ってる時や何も考えてない時に出てきたりしてまちまちです。

――ギャグ漫画から始まってラブストーリー、ゲーム業界ルポ漫画、大河小説の漫画化、伝奇風ホラー、ガンダムの異色パロディと幅広いジャンルに挑戦していますが今後やってみたいシナリオや企画などありますか?

どちらかと言うと自分でやりたい事をたくさん持ってるというよりは話し合う中で行けそうなネタを膨らめていくほうが多いのですが、基本的には「やったこと無いネタをやってみたい」という姿勢なので、どんどん場違いなことをやりたいと思っています。

――出版不況で本が売れないといわれてますが、先生としては今後の出版業界はどう変わっていくと思いますか?

一握りの超ヒット作家さんを頂点とした漫画家ピラミッドの下のほうにしがみついてる立場の私ですが、出版業界がどう変わろうと漫画家としては「作品を描く」という一点だけは変わらないので、そこから先は(といってもここが一番難しいから大変なのですが)現物合わせでなんとか描けて食えるぐらいの感じになったらうれしいなあと思います。

――現役の漫画家や現在漫画家志望の人たちに何かメッセージやアドバイスなどありましたらどうぞ

どんどんヒット作を生み出して業界を底上げしてもらい、
私のような漫画家も打席に立てるような良い感じにしていただきたいと切に願います。

――羽生生純作品を読んだことがない、敬遠しているという人たちになにか一言どうぞ

普通はメインディッシュのおいしい漫画を摂取するだけで
満足出来ますが、たまには地元の人しか食べないような、
珍味的な漫画も案外イケたりするかも知れませんので
一度試してみてほしいなあと思います。

告知!

最後に羽生生先生からの告知です。

コミックビーム6月号から『恋の門』の続編となる『恋と問』をはじめます。

他にも近々はじめる予定ですのでよろしくお願いします。

とのことです。『恋の門』の続編、いったいどうなるんでしょうか? 今度はどんなキャラが出てくるのか? また複雑な恋愛模様に悩まされるのか? 前作キャラも絡んでくるのか? 興味は尽きません。

画像提供 KADOKAWAエンターブレイン社様
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糖尿病など厄介な病気を抱える新米WEBライター。静岡在住。 本業の労働のかたわら、ネットのあちこちに文章を書き散らす日々。 サブカルチャー、オタクカルチャー界隈のゲームや同人音楽を研究中。 「つまらない時代に面白い人が面白いことをやっているので取材して記事にする」がモットー。

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