終活で注目の海洋散骨って実際は何をする?体験クルーズで乗船取材してきた!

  by 古川 智規  Tags :  

終活という言葉が一般化してもうずいぶんと経過する。自分がいなくなったときにどうするのかという命題は人生の最後を考える大切な問題だ。
もっとも、これまでは火葬後にお墓や納骨堂に入って…というお決まりのコースしか選択がなかったのだが、核家族化や少子高齢化で墓を守ること自体が困難な状況になっているのが日本社会の現実だ。
そこで、人生を終わる前にどうするのかを考える方が増えてきている。その一つの選択肢として「海洋散骨」というのが注目されている。

しかし、自分の骨がどうなるのかを知っておきたいという不安があるのも事実だ。そこでハウスボートクラブが行っている海洋散骨の体験クルーズに乗船取材したのでレポートする。
勝どき駅近くの公共桟橋に着岸した専用のクルーザーに乗船するところからスタートする。この体験クルーズは有料で、東京のほかにも各地で定期的に開催されている。

まずはキャビン内で船長の出航前の挨拶がある。キャビン内でも操縦はできるが、海洋散骨葬儀の本番の場合はできるだけ身内だけで過ごしてもらうために、船長は上部甲板にあるフライブリッジで操縦をする。

今回は複数の乗客を搭乗させた体験クルーズのため、各テーブルに海洋散骨に関するパンフレットが置かれ、逐次スタッフの説明が入る。

モニターでは航空機と同様に安全に関するビデオが流れ、全員が救命胴衣を着用する。頭からかぶる形式ではなく、腰に装着して水を自動検知して炭酸ガスで自動膨張させるタイプのものなので邪魔にはならない。

出航すると、キャビンではスタッフにより海洋散骨の説明が行われる。まず疑問点として散骨してもいいのかという点については、禁止する法的規定はないので可能だが都道府県の条例や規則により後々問題にならないように取り決めはある。当然だが、同社ではそれを遵守しているので問題はない。
東京都保健医療局によると「海や山に焼骨(遺灰)を撒く、いわゆる「散骨」について、国は、「墓地、埋葬等に関する法律においてこれを禁止する規定はない。この問題については、国民の意識、宗教的感情の動向等を注意深く見守っていく必要がある。」との見解を示しています。」としており、現に墓に納骨している遺骨を取り出して散骨する等の所定の手続きが必要な場合を除くほかは特に問題になるようなことではない。前述のようなことや、最近問題になっている墓を守ることが困難なことからくる「墓じまい」についても同社では相談に応じていて、それらを含めたトータルでのサポートを行っているようだ。

さて船は東京港を出て羽田方向に針路を取り、およそ10ノット(18.52km/h)で進む。と、突然大型の客船が現れた。クイーンエリザベス号だ。岸壁側から見ることは可能だが、海側から全景を眺めるならば船からしかできない。本体験クルーズとは直接の関係はないが、本番ではないので乗船時の桜とともに思い出の光景となったはずだ。

羽田空港沖に近づくと、あらかじめ決めていた座標付近へ船を進める。現在はGPSがあるので特定の座標にピンポイントで向かうことは困難ではない。
しかし、なぜ座標がそんなに重要なのか。それは散骨してしまえばどこに骨をまいたのかわからなくなってしまうからだ。同社が発行している散骨証明書には散骨した座標を緯度経度で記入している。墓や納骨堂のような地上の地図上で住所が特定できるわけではないので、座標で示すしか方法がないのだ。しかしそれさえわかれば、スマホの地図でも座標を入力しさえすれば散骨した場所を特定可能だ。それだけ座標は重要ということがわかる。
そして羽田空港沖であれば、空港の送迎デッキから遥拝することが可能なのだ。もちろん同社では散骨しておしまいというわけではなく、希望があれば散骨した座標にチャーター船を出して故人をしのぶことも可能だ。

所定の海域に到着した船は停船し、後部デッキから散骨が始まる。今回は体験なので本物を散骨するわけにはいかないので、塩や小麦粉で作った「疑似遺骨」で散骨体験する。船に乗れない参列者のためにネット中継するサービスも行ているので、散骨を実況するためにあるいは映像として残すためにスタッフによりカメラが出される。

模擬散骨をすると洋上を白い奇跡をしばらく残して消えていく。

その後に献花が行われるが、これも海洋汚染を防ぐ目的で花きの花の部分だけが海にささげられる。

参列者が花をささげていくと、きらびやかな色の花だけではしばらく海上を漂うことになり、散骨した海域が視覚に残る。

上部デッキではスタッフにより鎮魂の鐘が鳴らされ、船長が散骨海域の周囲を数周するように舵を取る。ささげた花の周囲を数回まわることになるのだが、これが実質的に最後のお別れとなる。船長は船の汽笛を数秒間吹鳴して、海域を離脱する。

最後に沈む前の花を見届けて桟橋に戻る。

帰路はスタッフに質問をしたり、個別の相談があれば応じるといった時間に充てられた。カモメが多く飛んでいることから、上部甲板で菓子を手に持つと飛びながらくわえて持っていくという芸を見せてくれる。

参加者の想定としては、自分の死後の散骨を考えている人、身内の散骨を考えている人等が想定されたが、実際には自分の散骨を考えて視察する高齢者が多かったような気がする。
セレモニー自体は非常に厳かで疑似体験とはいえシュールであることは間違いない。しかし、自分のことであれ身内のことであれ、選択肢を増やして将来のことを今から考えておくことは決して悪いことではない。費用や時間や手間といった物理的・経済的なことだけではなく、散骨されて手元からなくなってしまう精神的なの問題を解決しなければならない場合もあるだろう。そうした疑問や不安をぶつけることにより、完全解決できるのか折衷案で解決できる問題なのかを整理する必要もあるだろう。そのための体験クルーズなので、船内に設けられた祭壇に自分を重ねながら今のうちに聞くべきことは聞いておくのが選択肢を広げるコツといえそうだ。

※写真はすべて記者撮影次回

乗り物大好き。好奇心旺盛。いいことも悪いこともあるさ。どうせなら知らないことを知って、違う価値観を覗いて、上も下も右も左もそれぞれの立ち位置で一緒に見聞を広げましょう。

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