「寡占企業だ」「競争相手がいないから楽」
テレビ局やその社員を揶揄する時、そんな声が聞こえてくる。
確かに民放テレビ局において、最大でも競争相手は4社しかなく
佐賀、徳島のようにテレビ局が1局しかない地域もある。
ではなぜ、テレビ局は番組の視聴率にこだわるのか。
それは、あまり理解が浸透していない民放テレビ局の収益構造に起因する。
一言で言えば、彼らは“在庫商売”しか出来ないのである。
大前提として、NHKと民放局では収益構造が根本から違う。
NHKは視聴者から『受信料』を徴収し、それが局の収入になる。
民放局は受信料の代わりに企業からの『広告料』が収入となる。
ここまでは誰しも知っている事なのだが、その中身は意外なほど知られていない。
もしあなたがNHKの社長で、自分の会社の売上を伸ばしたい時はどうすればいいか。
仮定の話なので、受信料不払いや事業収入は一旦置いて考えて欲しい。
答えは簡単、“受信料の値上げ”だ。そうすれば単純に売上を伸ばすことができる。
もちろん、実際にはいくつものハードルがあるのでそう簡単な事ではないが。
では民放の場合はどうだろう。すぐに思いつく方法として下記の二点がある。
・広告量の増枠
・広告料の値上げ
しかし広告量の増枠に関しては、放送法という法律で広告に使用していいとされる秒数が定められているので現状より1秒だって多く広告を流すことはできない。
では広告料の値上げについてはどうだろう。
あなたがスポンサーなら、値上げをするテレビ局と値上げをしないテレビ局、どちらに多くのCMを流したいか答えは明白なはずだ。
前置きが長くなったが、ここで重要なのが“視聴率”なのである。
テレビCMには、大きく分けて二つの種類がある。
『タイムCM』と『スポットCM』。よく耳にする「この番組は、ご覧のスポンサーの提供で……」
というものが前者のタイムCMで、これはCMを必ずその番組内で流すというもので、特定のターゲットや企業のブランドを訴求したい時に役立つ。基本的に30秒以上のCMが必要になる。
“テレビ局から、秒数を買う”という考え方が最も適しているかもしれない。
ライオンの『ごきげんよう』、日立の『世界ふしぎ発見』、ロート製薬の『SMAP×SMAP』だったりが最も分かりやすい例であり、もちろん『月9』もその中の一つである。
この『タイムCM』においては、前述した“料金値上げ”の交渉がスポンサー・代理店・局の間で頻繁に行われている。
視聴率が最も影響してくるCM、それが『スポットCM』だ。
『スポットCM』とは、期間・CM放映可能時間・可能番組等を指定し放映するもので、
“二十日三十日は5%オフ”や“新商品発売”のようなものはスポットCMであることが多い。
このスポットCMは、短期的に、大量に出稿することによって爆発的に世の中に商品を知らしめることができるのだ。
このスポットCMこそが、テレビ局の売上を伸ばすことのできるものなのだ。
それは、スポットCMが“テレビ局から、視聴率を買う”という考え方だからである。
まずスポンサーがスポットCMを流したい時、テレビ局から見積もりを取る。
この見積もりは“何月何日から何月何日までの間で何時から何時の間にCMを流したい”という条件で提出される。
テレビ局から提出される見積もりは「その条件ならウチの視聴率1%、○○万円です」というものである。
仮に1%あたりのコストが10万円だとして、スポンサーが1000万円の発注をしたとしよう。
そうすると、テレビ局はスポンサーのCMを視聴率100%分放映しなければいけないことになる。
例えば『月9』の視聴率が15%だとすると、その中で1本CMを流せば100%中の15%を消費することになる。
CMを流すポジションをパズルのように組み立てていき、スポットCMというビジネスは成り立っている。
しかし前述したように、テレビ局はCMを流していい秒数が決まっている。
つまり売上を伸ばすには“売り物=視聴率”を伸ばすしか方法はないのだ。
これが、テレビ局が視聴率にこだわる理由。
彼らが視聴率を伸ばすということ=売り物が増えるということなのである。
単純に言えば、一日の平均視聴率が1%しかない局と10%ある局とでは売り物(視聴率)の在庫が10倍違うのだ。
彼らは、製造業のように売れれば売れるほどモノを作れるわけではない。
限りのある売り物を、他社と激しく取り合いビジネスに結び付けているのである。
一度、そのことを思い出しながらテレビを観て欲しい。もしかしたら、少しテレビを見る目が変わるかもしれない。
筆者はこの記事が初寄稿になります。ご意見等伺いながら今後さらに面白い記事を書いていければと思いますので
宜しくお願いいたします。