犬が穏やかに暮らせる餌やりの方法

 皆さんの愛犬は、いつ、どのように餌(以下、ご飯という)を食べていますか?犬のご飯については、その家庭によっても様々で、1日での回数や、タイミングや与え方もまちまちだったりします。適切なご飯のタイミングはいつなのでしょうか。
 たかが、ご飯と思う方もいらっしゃるでしょう。いやいや、ご飯タイムは犬達にしたら一日の中の最大イベントです。このご飯の与え方一つで愛犬の行動にも影響を与えるほどです。今日は、私が実践している”犬が穏やかに暮らせる餌やりの方法”をご紹介します。

ご飯の回数は?

 これには生物学の分野によって諸説あることろです。”一日に数回に別けて与える”や”一日一回で与える”など色々とあります。一部の警察犬では一日一回でご飯を与え、空腹な状態を維持することで、警察犬としての任務に集中させるというものもあります。確かに任務がありますから、満腹でウトウトしていては仕事に集中できません。しかし我々と共に暮らす愛犬には集中すべき任務はありません。愛犬には家でマッタリと過ごしてもらいたいものですよね。
 満腹になった犬の取る行動はとてもシンプルです。適当にグルーミング(口を舐めたり、身体を舐めたり)して、しばらくするとウトウト…..。私達ヒトも満腹になれば眠くなるのと同じです。つまり、ご飯は一日に2回程度で良いのです。

ご飯はいつ与える?胃捻転に要注意!

 家で愛犬が穏やかに過ごすためには、エネルギーの発散が欠かせません。エネルギーの発散ができていない状態でご飯を食べれば更にエネルギーが増します。これでは穏やかに過ごすどころか、逆に興奮を煽っているようなものです。なので、ご飯は散歩や運動の後に与えるのが鉄則です。散歩や運動でエネルギーの発散をした後にご飯を食べれば、適度な疲労に満腹が重なります。こうなれば後は爆睡するのみ!愛犬は穏やかに部屋でゴロゴロとするでしょう(ウラヤマシイ)。ご飯には時間の間隔も必要なので、散歩を朝と晩に行って、それぞれの散歩後に与えるようにします。そうすれば日中や、夜間にやたらと興奮することもなくなります。
 また、エネルギーの発散ができていない時にご飯を食べると、食後にも興奮が収まらず、行動が活発になることがあります。食後の活発な運動は胃捻転などの病気の発生リスクを高めてしまいます。胃捻転は命に関わる病気なので絶対に食後の運動をさせてはなりません。胃捻転は大型犬に多い病気で、痩せている犬に多く見られますが、小型犬でも胃捻転になることがあるので充分な注意が必要です。

興奮している時には絶対に与えない

 散歩から帰ってきても、愛犬が興奮しているようなら、犬が落ち着くまで待ちましょう。興奮している状態でご飯を与えると犬はガッツキます。ガッツクと急いで食べることになるので、食道に食べ物が詰まったり、消化が悪くなったりします。また、興奮状態でご飯を食べるのが習慣になっていると、犬はご飯に対しての執着心が強くなる事があります。こうなると、犬がご飯を食べている時に飼主が近づくと、犬は唸ったり、攻撃してご飯を守るようになってしまいます。これを一般にはフードガーディング(Food Guarding)と言います。これは問題行動になるので注意が必要です。愛犬が興奮している時は、しばらく無視をして落ち着くのを待ってから与えるようにします。落ち着くまでの時間は個体差がありますが、だいたい15分程度で興奮は冷めるでしょう。

ご飯の前には「いただきます」の礼儀を教える

 私達が子供の頃に、親から「ちゃんと”いただきます”してからよ!」と教わりますよね。そうしないと勝手に食べ始めるのは犬もヒトも同じです。愛犬にご飯を与える時も、犬にそれなりの礼儀を教えてあげましょう。興奮が冷めた犬も、美味しそうなご飯を目の前にすればテンションが上がります。なので、ここで小休止をさせます。ご飯を犬の前に置いて「マテ」の指示をだします。しばらく待つと犬の口からヨダレが出てきます。そして大人しく待てたら「ヨシ」と指示をしてから与えるようにします。ヨダレは消化を助けるとも言われています。また犬の唾液は殺菌作用が強いとも言われます。このように、犬を落ち着かせる(マテ→ヨシ)ことで、犬は「穏やかでいればご飯が食べられる」や「飼主の指示に応えればご褒美(この場合はご飯)が貰える」と学習します。こうしたコミニュケーションを取ることで、愛犬との信頼関係の強化にも貢献します。

ちょっと困った都市伝説

 ”犬の世界ではボスが先に食べる。なので飼主の食事が終わった後でないと、犬がボスになってしまう”という事が言われます。しかしこれには明確な根拠はありません。確かに野生の犬やオオカミは群れのボスが先に食べることもあります。しかし、いつも決まってそうなのか、というと結構あいまいです。むしろ、ボス犬は群れのメンバー達が食事を始めるタイミングをコントロールします。ボスが「お前らも食べな!」というメッセージを待たない犬は、こっぴどくボス犬に襲われるのです。こうすることで、ボス犬は群れの規律を徹底し、チームワークの強化を図っています。なので”誰が先に食べるか”ではなく”ボスの指示で食べる”というのが正しい解釈であり、犬にとっても自然な行為と言えるでしょう。

まとめ

・ご飯は朝晩の2回で与える
・ご飯は散歩の後に与える
・犬が穏やかな時に与えるようにする
・食べる前には「マテ→ヨシ」のコミュニケーションをとる
 いかがでしょうか。普段のちょっとしたご飯タイムも、愛犬にとっては一大イベントです。この機会に愛犬とコミュニケーションをとることで愛犬の振る舞いにも大いに影響を与えます。なにしろご飯は毎日のことです。良い習慣を身につけることで、健康維持にもなり、しつけにも重要な意味を持ちます。

おまけ:私の家ではドッグフードではなく、手作りのご飯を与えています。作るのには栄養の事や、犬の身体の事を学ぶ必要があります。適切なご飯が作れれば、ドッグフードよりも健康的な食事を与えることができます。定期的な健康診断と血液検査を行なう事で、個体の体質に合わせた食事を与えることができるというメリットがあります。糞尿の匂いも治まりますし、毛艶も良くなり、肉球もプルプルになります。
”健康は毎日の食事から”というのは犬もヒトも同じですね。

それでは犬の皆さん、楽しい食事タイムを!

TOP画像は著者が撮影したもの。
 

DBCA認定ドッグビヘイビアリスト(犬の行動心理カウンセラー)・JCSA認定ドックトレーナー(家庭犬訓練士)・動物行動学研究者(日本動物行動学会)。 警察犬訓練所でドッグトレーニングを学び、その後に英国の国際教育機関にて”犬の行動と心理学上級コース(Higher Canine Behaviour and Psychology)”を修了。ドッグビヘイビアリストとして問題行動を持つ犬のリハビリを行っている。保健所の犬をレスキューする保護活動にも精力的に取り組んでいる。 動物行動学・心理学・認知行動学を専門とし、犬がペットとして幸せな暮らしができるよう『Healthy Dog Ownership』をテーマに掲げ、動物福祉の向上を目指して活動中。 一般の飼主さんだけでなく、行政や保護団体からの依頼も多く、主に問題行動のリハビリが専門。 訓練(トレーニング)やリハビリの事、愛犬との接し方やペット産業の現状などについて執筆している。 著書:散歩でマスターする犬のしつけ術: 愛犬とより強い絆を築くために(amazon Kindle)・失敗しない犬の選び方-How to Choose Your Dog-(amazon Kindle)

ウェブサイト: http://www.healthydogownership.com

Twitter: HealthyDogOwner