【大人になっても読みたい児童文学】『おしいれのぼうけん』(作 古田足日・田畑精一/童心社)

  by すえこ  Tags :  

幼い頃に読んだ絵本や物語を、ふと思い出してしまうことはありませんか。大人になってからも、心にひっかかっているあのシーンや、あのフレーズ。この記事では、そんな懐かしい児童文学作品をご紹介します。この絵本を読んで、おしいれがトラウマになった人も多いのではないでしょうか。今回は、『おしいれのぼうけん』(作 古田足日・田畑精一/童心社)です。

『おしいれのぼうけん』

物語の舞台は、さくら保育園。この保育園には、2つの怖いものがあります。1つめは、悪いことをした子どもが入れられる“おしいれ”。
2つめは、先生たちの人形劇に登場する、気味の悪い“ねずみばあさん”。“ねずみばあさん”に睨まられると、たちまち動けなくなってしまうのです。

主人公の“さとし”と“あきら”は、ある日ミニカーを取り合って、ケンカをしたために、おしいれの上段と下段に入れられてしまいます。反省して「ごめんなさい」を言えば、すぐ出してもらえますが、さとしは、無理やりおしいれに入れられたことに、腹を立てて、絶対に謝らないぞと決めていました。
はじめは、おしいれの中から見える景色を面白がっていた2人でしたが、しばらくして、あきらがベソをかきだしました。すると、さとしは、「さっきはごめんね。これで遊べよ」とケンカの元になったミニカーを返します。代わりに、あきらはポケットに入っていたミニ蒸気機関車をさとしに貸してあげました。

「な、あーくん。ミニカーと、このデゴイチとはしらせようよ。デゴイチは、やまのなかのさかをあがっていくんだ。よるなんだよ。」
「うん、ミニカーはね、そのやまのしたのかいがんをはしるんだ。」
「ピー。ガッタン、シュッ、シュッ。ガッタンシュッシュッ、ピー。」
「ブーブー。」
ミニきかんしゃとミニカーは、うごきだしました
(『おしいれのぼうけん』P.32より抜粋)

しかし、しばらくすると、2人はおしいれの中がだんだん怖くなってきました。ベニヤ板の模様が真っ暗闇のトンネルに見えたり、壁のシミが人の横顔に見えます。2人は気にしないように、ミニカーとミニ機関車を走らせますが、

「そこにいるのはだれだ?わしは、ねずみばあさんだぞ。」
(『おしいれのぼうけん』P.40より引用)

と、何千匹ものねずみを引き連れて、ねずみばあさんがやってきて……。
いつしか2人の前には、薄暗い森が広がっています。こうして、ねずみばあさんから逃げるための、2人の『おしいれの冒険』が始まるのです。

長年愛され、読み継がれている1冊

1974年に出版されて以来、累計部数が200万部を超えているロングセラー絵本『おしいれのぼうけん』。絵本にしては、長編ですが、2人の冒険が気になって、あっという間に終わりまで読んでしまいます。
現在の保育園や幼稚園などで、“言うことを聞かない子をおしいれにいれる”というのはありえないことかも知れませんし、そもそも“おしいれ”がある家も少なくなり、現在と昔の子どもの日常について、変わってきている部分も多いはず。しかし、今も昔も子どもにとって、“怖いもの”や“わくわくするもの”の根本は変わらない気がします。だからこそ、この本が長年に渡り、愛され、親しまれているのではないでしょうか。
また、子どもたちの遊び方……例えば、何も無くても空想だけで、世界を作り上げて、すんなり入り込んでしまう素直さや感受性の豊かさにも、どこか懐かしさを感じました。
子どもたちの様子が、寄り添うように描かれている“おしいれのぼうけん”。大人になった今では実感できない、子ども特有の感覚がたくさん詰まっている1冊です。
皆さんも、昔“怖かったもの”を思い出しながら、読んでみてはいかがでしょうか。

『おしいれのぼうけん』
作:古田足日/田畑精一
出版社:童心社
定価:1300円
発行:1974年11月
参考:http://www.doshinsha.co.jp/search/info.php?isbn=9784494006069[リンク]

※画像は、株式会社 童心社様(http://www.doshinsha.co.jp/[リンク])より引用しています。

読書をしたり、音楽を聞いたりして、 答えの無いアレやコレを考えるのがすきです。