図書館で本が読めなくなる? 財政難で「閲覧廃止」が検討される神奈川県立図書館

  by 小雨  Tags :  

お金がないから閲覧廃止?

繰り返し同じ壁につきあたり、何が不足しているのかすらわからないとき、どうしたらいいのでしょうか? 筆者は図書館に行くことがあります。以前は私服にエプロン姿だった館員が、急にごつごつしたアームカバーやベストの作業衣姿に変わっていたことがありました。話を伺ったところ、財政難で運営が民間に委託されたとのこと。ゴツすぎる制服姿にげんなりしたものです。しかし、今年度から方針が変わったのでしょうか。執事のような黒い上下のサロンというしっとりとした装いになっていました。さながら銀座のカフェのよう。サロンやエプロンには妙に癒されるわけで…理想的な図書館員スタイルを見て、足繁く通うことを誓った春の日でした。かように目で見える変化とは利用者のハートにあっさり影響するものです。

それにしても、今はどこの図書館も財政難に喘いでいるのでしょうか。

2012年秋、神奈川県では、財政難により県立図書館の「閲覧・貸出の廃止の検討」が発案されました。この廃止案の概要は下記の通りです。

平成24年10月17日に公表した「緊急財政対策」では、県立の図書館の機能を集約・純化することが示されており、その後11月8日に示された「県民利用施設の検討の方向性に関する説明資料」では

県立図書館については、「市町村立図書館との役割分担を精査しながら、県立図書館の機能を純化し、効率化に向けて検討。具体的には、閲覧・貸出機能を廃止し、県内の公立図書館間の相互貸借システムの運営など広域的サービス等について、市町村図書館とも協議しながら、検討する。」
県立川崎図書館については、「川崎市からの借地であり、川崎市の再編整備計画により、平成29年度までに現在地から移転する必要があることから、県立図書館等との集約化を含めた検討を行う。」

とされています。

閲覧の廃止に代わるものとして、公立図書館など112機関が加入する「県図書館情報ネットワークシステム」(KLネット)を大学や企業に拡充し、各館で共有。いずれの施設でも専門書を閲覧可能とする。書籍の貸し出しそのものは市民図書館に委ね、県立図書館の閲覧を無くす方向に切り替えるという案です。

現代は、インターネットの普及により希望する本のタイトルだけをリストアップすることが可能です。そのような簡便性を追及すれば、利用者数の少ない図書館の閲覧は不要、という考え方があるようです。

県立図書館の業務を集約化し、県立図書館そのものでの閲覧を廃止させ、各市町村の図書館で貸し出しを行うこととする。当の県立図書館は相互貸借システムを運営、司書の研修、専門書の収集といった専門性の高い業務に終始する。この案は、図書館関係者や知識人から批判の的となりました。図書館問題研究会・全国委員会は緊急アピールを公表しています。

1. 法律や基準に反する内容です
憲法で謳われている「国民の知る権利を保証する」ことは、テレビや新聞と同じように図書館の重要な役割であり、また図書館法第二条では「一般公衆の利用に供し」と定めています。ところが、県の方針では借りることも見ることすらできない資料が大量に発生することになり、これらの法律に反することになります。
また、2012年12月に改訂された「公立図書館の設置及び運営に関する望ましい基準」(文部科学省告示)でも、住民の閲覧も含む直接利用が県立図書館の役割であることを明記しています。

以下、「2. 県民への情報開示及び討議が不十分」「3. 教育施設に関して拙速な判断は危険」「4. 県立図書館に閲覧・貸出の禁止はそぐわない」「5. 市町村立図書館に負担を押し付けないでください」「6. 神奈川県は図書館整備が不十分な県です」と続きます。

違憲性の指摘に留まらず、受け入れる側の図書館整備が不十分であるにも関わらず、中央的施設の専門性の高い書籍の貸し出しを行うこと自体が暴挙として問題視されています。

何故「本を見せない」廃止案などという考えが出て来るのでしょうか。例えば、東京都の都立図書館でも個人に対する資料の館外貸出は行っていません。しかし閲覧は可能です。

専門性の高い書籍をメインとする県立図書館の特色を考慮しますと、一般の市立図書館より利用者が少ないのは必然。県民に閲覧の場を提供しないのはあまりに狭苦しい考えです。財政難に向き合ったとき、「じゃあ、あんまり本読まれてないし閲覧廃止すればいいんじゃん?」というのは短絡ではないでしょうか。

 

神奈川県立図書館の特徴とブラウジングの重要性

確かにインターネットの普及した現代では、こんなことが可能です。

書店で読みたい本を見つけたら、ISBNをスマートフォンのバーコードリーダーで読み取り、ブクログへ登録。帰宅してカーリルで検索し、レビューを確認して読みたいかどうかゆっくり検討。決まったら図書館で予約する。2.3日後、読みたかった本の到着がメールで知らされる…このような作業を行えば、図書館の書架を見つめる必要はありません。しかし、これは偶然の産物です。

書店で「読みたい本」が見つかるのはあたりまえです。何故なら、書店は本を売買する場であり、出版社や作者が背後にいて売ってほしい「新刊」を売り出すマーケットです。マーケットの現場では、買いたくなる工夫が無尽蔵に凝らされてます。
例えば、自分ひとりで解決できない悩みを抱えたとき、アイデアに詰まったとき、どうすればいいのでしょうか?

普段は入らない業界やその分野へ飛び込もうとする場合、現実社会ではあまりに労力がかかります。勿論、インターネットでも膨大な情報が列挙されますが、そこから選択し、正しい答えを得るには確からしさに欠けることがあります。その点、書物は未知の確実性の高い情報を教えてくれます。
電子端末のブラウザや、「本を売りたい現場」である書店から受ける印象では、自分の視覚をもとにしたタイトルしか選び出せないかもしれません。新旧問わず、帯もポップもないフラットな状態の書物に囲まれて、初めて生じる感覚があるはずです。五感と全身で自ら選び出す作業が、まだ見ぬ情報への手渡しをなしてくれるのではないでしょうか。
本は生き物です。書庫として死蔵されてしまえば、紙は痛みます。何よりも、目で探し出すことをやめてしまえば手にとられる機会は減ります。書架の前に立ち、本を五感で選び取る、このような作業をブラウジングというそうです。そこには、危急、危機感といった衝動も含まれているように思われます。その危機感とは「今、この場で必要!」といった感覚です。本当に困ったときに必要な書籍は、電子端末の画面から得られる情報だけでは選び出せないかもしれないのです。いえ、選択できたとしても、それが正解だと確信がもてるでしょうか? ブラウジングこそ、その確信を抱くための技術ではないでしょうか。神奈川発コミュニティーサイト「カナロコ」連載記事「県立図書館「廃止」を問う(1)」にはこうあります。

市立中央の蔵書数は160万冊、床面積は2万1千平方メートル、年間の入館者数129万人。県立図書館は78万冊、1万2千平方メートル、25万人で、数字だけをみれば確かに水をあけられている。

だが、規模の大小では比較できない違いが両館にはある。

学生時代から両館を利用し、歴史関連の執筆を手がける横浜市中区の小嶋寛さん(52)は県立図書館の良さについて「地域の歴史を横断的に調べられる」と、市立中央とは異なる多様な資料構成を挙げる。

廃止案はあくまでも利用者数だけを見たものです。間口が広く、老若男女の需要に応じた図書を揃えた市立図書館が多く利用されるのは当然です。利用者が少ないからと、専門性の高い郷土資料を提供する県立図書館が閲覧の廃止を詮議されるのは賢いやり方とは言えないのではないでしょうか。

 

無数にあるはずの「賢いやり方」

自治体の政治は図書館の運営に色濃く反映する――ついに運営の開始された武雄市のツタヤ図書館を見ると、そう思ってしまいます。商業が前に出すぎだと指摘される一方、斬新で面白い! と、多くの利用者には好評の模様。今までにない「ポイントつき」図書館の形態に関心が寄せられていることは 確かです。ツタヤ図書館ほどの様変わりは稀なケースですが、近頃では財政難により図書館の運営が民間の業者に委託される事例が相次いでいるのです。

現状ではどのような方針が検討されているのでしょうか。

その後、平成25年2月21日に行われた、平成25年神奈川県議会第1回定例会における自民党佐藤光議員の代表質問に対して、教育長より

県立の図書館は、閲覧機能を維持する方向で検討する。
川崎図書館は、企業活動の支援につながる機能に高度化・特化して、川崎市内に残す方向で検討する。

という趣旨の答弁がありました。

現在、神奈川県立図書館では県外の人たちからもアンケートを募っています。財政難は確かです。閲覧の維持・廃止といった二極的な意見だけでなく、「来館者を増やす工夫」が求められているのかもしれません。
また、「全館ツアー&お宝紹介」【リンク】といったサービスも始められています。市立図書館との差異化がデメリットではなくメリットにつながれば来館者は増えるはず。空間としての図書館利用のメリットは、何よりも市民を活気付けることにあるのではないでしょうか。
これまでの需要の数だけを見て門戸を閉ざしきってしまうのではなく、専門的な資料の価値を、知識人に限らず、多くの人に伝える役割も担っているはず。数がないから廃止というのでなく、質に注目して、数を増やすための智恵を絞るのが良い政治と言えるでしょう。

旭山動物園ではアザラシの豊かな表情の鑑賞を可能とすることで、来園者の増加に成功しました。紀伊国屋書店では「本の枕」フェアを行い、頭の一文だけを示す斬新な見せ方で話題になりました。あっと驚くような「新しい図書の閲覧」提案がなされれば、来館者が続々と生み出されるかもしれません。郷土資料というコンテンツを、一般人に身近に感じさせること。それがこの図書館の課題であり、テーマです。

利用者の声を数多く集めれば、図書館を生かす斬新なプラン、面白いアイデアはきっと浮かんでくるはず。この度の閲覧廃止案はそういった相互の意見交換を切り捨てた考えであるため始末が悪く感じられるのです。

筆者の平凡な頭ではカフェの併設やスタンプラリー、宝探しツアー、サンシャイン水族館「夜の探検隊」のような子供たちのお泊り会を実施させる、といったプランしか浮かびませんでした。

しかし、いっそ図書館のプロデューサーになったつもりで意見を寄せてみるのは楽しいものです。それこそ、県外からの来訪者を増やすような、商業主義の民間業者を凌ぐほどのアイデアをアンケートに寄せてみる。そこから新たなドラマが始まるかもしれません。

 

神奈川県立図書館のホームページ 【リンク】

 

【参照サイト】

○神奈川県議会【リンク】

○神奈川県立図書館、神奈川県立川崎図書館の職員によるブログ 司書の出番!「図書館って知らなかった! 意外に! ご意見お待ちしております」【リンク】

○神奈川発コミュニティーサイト カナロコ「県立図書館の閲覧・貸し出し廃止、川崎は廃館」と県教委方針/神奈川【リンク】

○図書館問題研究会 神奈川県立図書館に関する緊急アピール【リンク】

○Copy&Copyright Diary 神奈川県資料室研究会が神奈川県立川崎図書館の今後のあり方についての要望書を提出【リンク】

小雨

百合と猫と漫画を好みます。note:http://note.mu/kn_yuri