企業と学生の終わらない悲喜劇 「コミュニケーション能力幻想」という負のスパイラル

  by numb_86  Tags :  


7月30日、経団連が「新卒採用(2012年4月入社対象)に関するアンケート調査結果」を発表した。
http://www.keidanren.or.jp/policy/2012/058.html

調査の結果、採用選考時に企業が最も重視する要素が9年連続で「コミュニケーション能力」になったことが分かり、大きく報道された。

就職活動において、コミュニケーション能力、いわゆる「コミュ力」が重要だということは、様々な識者が何度も論じている。
その一方で、そういった「コミュ力重視」の風潮に対する批判もまた、繰り返し行われている。
「コミュニケーション能力」というのは何とも曖昧な言葉だし、学業や個性よりも同調性を重視するかのような企業の態度にも、問題があるのではないか。そういった批判をよく見かける。

とはいえ、相手の発言の意図を読み取る能力や、臨機応変な対応といったものは、確かに必要なものだ。働く上でとても重要な能力であることは、間違いない。
学生がそういった能力を持っているのか知りたい、見抜きたいという気持ちが、「選考においてはコミュニケーション能力を重視する」という態度につながっているのだろう。

だが、選考の場でそれを見抜こうとするのは、無理があるのではないだろうか。
企業が求めるコミュニケーション能力、それは、面接やグループワークで簡単に見抜けるようなものではないだろう。

貴方は、「では今から、円滑で自然なコミュニケーションを実践して見せてください」と言われて、出来るだろうか。かえって不自然で上滑りした受け答えをしてしまうのではないか?

ただでさえ、就活生は不安や恐怖に支配されているのだ。
新卒で就職できなければ終わりだ、人生台無しだと、メディアや大学は不安を煽(あお)る。
就職活動が順調に進む学生はごく一部で、ほとんどの学生は、何度も選考に落ち続け、自信を失っている。
そして企業や就職活動サイトは相変わらず、「とにかくコミュニケーション能力を見せろ」と迫る。
このような状況下で円滑なコミュニケーションを取れる人間が、どれだけいるだろう。

その結果、多くの学生は、チグハグな受け答えをすることになる。
聞いてもいない自己アピールを始めたり、何を話すにも3つに分けて理由を説明してみたり、逆に、緊張してろくに話せなくなってしまったり。

そんな学生たちを見た企業は頭を抱え、「やはりもっとコミュニケーション能力のある学生を確保しないとまずい」との思いを強める。
それが、冒頭に紹介した調査結果のような風潮につながっていくのだろう。

だが、選考の短い時間でコミュニケーション能力を見抜こうというのが、そもそも無茶な話なのだ。
それを無理して見抜こうとするから、「貴方を文房具に例えると何ですか」などという珍妙な質問が、多発することになる。ちなみに私も、新卒の就職活動の際に実際に質問されたことがある。

そして、そのような企業の態度を受けて、学生の不安や焦りはさらに深まっていく。
コミュニケーション能力って一体何なんだろう、何が「正解」なんだろう、どうすれば内定をもらえるんだろう……。
迷いや悩みは深まり、ますますチグハグな言動を繰り返す。

そして企業は、そんな学生たちに不安を覚え、コミュニケーション能力重視の姿勢をさらに鮮明に打ち出していく。目の前の学生がコミュニケーション能力を持っているのか見抜くべく、謎かけのような質問を次々に繰り出していく……。

「コミュニケーション能力を持った人間を採用したい」という企業の気持ちは分かるが、そういう姿勢はもはや、誰のためにもならないのではないだろうか。
「コミュニケーション能力」という言葉や概念がひとり歩きし、何だかとても恐ろしくて正体不明なものになってしまっている。企業も学生も、それに囚われ過ぎて、振り回されているように思える。

「コミュニケーション能力」は非常に便利な言葉だ。人に働きかける力も、人の話を聞く力も、状況を読み取る力も、機転を利かせる力も、全て「コミュニケーション能力」で表現できる。
だが、その便利な言葉に頼ることで、肝心なことが疎かになっているのではないだろうか。
伝えるべきことや知るべきことを、見失っているのではないか。
本当に、自分を文房具や野菜に器用に例えられるような学生が、企業の採用したい人材なのだろうか?

企業も学生も、貴重な時間を割いて面接に臨んでいるのだ。双方にとって有益な選考にしていくためにも、「コミュニケーション能力」という幻想からもう少し自由になるべきではないだろうか。

画像出典:
http://www.ashinari.com/

3年ほど勤めた会社を退職し、貯金を食い潰しながら生きているニートです。新しい働き方や生き方に関心があり、自ら実践、模索中。引きこもり、対人恐怖症、高校中退などの経験があるため、「何らかの生きにくさを抱えた若者」にも関心があります。

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