人工知能が医療に与える7つ影響

  by 早瀧正治  Tags :  

データが多いほど、機械学習はより大きな成果を上げます。そして、ヘルスケアと医療は、データの宝庫です。McKinseyは、薬と医療の分野では、ビッグデータは毎年1億ドルの付加価値を生み出す可能性があると指摘しています。

研究開発、医者、診療所、介護士、看護師など、さまざまなデータソースがあります。また、ウェアラブルデバイスなど、さまざまなテクノロジーが、データソースをより増やします。これらのデータソースを連携し、大規模なデータインフラストラクチャーが実現すれば、医療は大きく発展するでしょう。

しかし、新薬の開発だけが医療の発展ではありません。この記事では、人工知能と機械学習が、医療に与える影響を8つの側面から分析します。

1 – 疾患の特定/診断

診断は、人工知能と機械学習で進歩する分野の一つです。

アメリカの医薬研究と製造の研究機関によると、800以上の医薬品とワクチンが試験中だと言われています。その原因の一つが、試験の結果を処理に伴う困難です。結果の分析には、情報科学とコンピュータサイエンスとの協力が必要ですが、常に十分な協力が得られるとは限りません。

2016年、IBMのWatson Healthは、IBM Watson Genomicsという、Quest Diagnosticsとの協力体制による、コグニティブコンピュータとの連携によるゲノム腫瘍の配列決定を発表しました。

また、biopharma company Bergは、人工知能を活用した、オンコロジーを含む、さまざまな分野の診断技術を開発しています。例えば、投薬した医薬品の量に対するがん腫瘍の反応の研究を行っています。

また、GoogleのDeepMind Healthも老化した目の黄斑変性の研究を行っています。

出展: Google DeepMind Health – An OCT scan of one of the DeepMind Health team’s eyes

2 – パーソナライズされた治療と、行動の修正

パーソナライズされた投薬、個人の健康データや、予測的な分析にもとづいた治療はより効果的です。そして、人工知能が大きく貢献できる分野でもあります。

誤解されがちですが、人工知能は医師に代わって診断を下しません。Supervised learning(教師あり学習)が活用され、医師は人工知能が算出した診断候補から選択をします。例えば、症状や遺伝情報から、患者の投薬リスクなどを判断します。

IBM Watson Oncologyは、患者の情報や履歴から、治療の選択肢を最適化します。

超小型の生体センサーや、Fitbitなどのモバイルアプリにより、分析対象となるデータが増え、研究開発や、ここの患者に最適化された治療がより進歩するでしょう。

行動の修正も、人工知能が貢献できる分野です。

例えば、SkinVisionというアプリは、皮膚がんを予防するためのアプリです。このアプリで、ほくろなどの写真を撮ると、ビッグデータを活用した人工知能が、その診断結果をユーザーに送ります。

3 – 新薬の開発と製造

人工知能は、合剤の初期スクリーニングや、効き目の予測など、新薬開発の初期段階に大きく貢献する見込みです。

これには、次世代シーケンシングのような研究開発技術が含まれます。「多因子性」疾患のメカニズムを特定し、治療の代替経路を特定する精密薬が、この分野の最前線です。この研究の多くは教師なし学習を含み、大部分は予測なしのデータのパターンを特定することに限定されています。

例えば、MIT Clinical Machine Learning Groupは、糖尿病の治療にたいし、病気のプロセスをより理解するためのアルゴリズムの開発に力を入れ、Microsoft’s Project Hanoverは、the Knight Cancer Instituteと提携して、がんの精密薬のために人工知能の開発をしています。

4 – 臨床試験研究

機械学習は臨床試験の分野でも応用が期待されています。高度な予測的分析を応用して、臨床試験の候補者を特定すれば、ソーシャルメディア、通院歴、遺伝情報などの、より広範なデータを得られます。これにより、より小さく、速く、安価な臨床試験が可能です。

5 – 放射線科および放射線療法

2016年10月のStat Newsとのインタビューで、ハーバード大学医学部の助教授、ジアド・オーバーマイヤー博士は「20年後、放射線科医はいなくなるでしょう」と述べています。

現状でもすでに、DeepMind HealthUniversity College London Hospital (UCLH) と協力して、健康な組織とがん組織を識別するアルゴリズムを開発しています。

出展: Google DeepMind Health – radiotherapy planning

6 – 疫病の予防

人工知能は、衛星から収集したデータ、Web上の履歴情報、リアルタイムのソーシャルメディアの更新、およびその他の情報源に基づいて、世界中の疫病の流行を監視し予測するためにも応用されています。 例えば、温度、平均月降水量、陽性症例の総数、および他のデータ点などのデータを考慮して、サポートベクターマシンおよび人工ニューラルネットワークが、例えば、マラリアの流行を予測するために使用されています。

出展: CDC — HealthMap report used to track and predict dengue virus outbreaks

7 – 病院事務の自動化

最後に、決して無視できないのが病院の自動化です。治療や診断のみが、医師や看護師の仕事ではありません。医療事務は残業が多く、過酷な仕事です。

医師事務作業補助者(医師クラーク)という職種もありますが、必ずしも人手が足りているとは言えません。とくに途上国では、経営困難で人手が不足している病院も多くあります。

WorkFusionなどが提供している、人工知能を搭載したロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)は、複数のソフトウェア、データベース、パソコン、書類などをまたいだ事務作業を自動化するソフトウェアで、すでに銀行など繰り返し業務を大幅に自動化し、コスト削減と作業の正確性向上に貢献しています。

RPAがより多くの病院に導入されれば、コスト削減による病院の経営困難の解消や、人手不足による混乱から生まれる医療ミスなどが減るでしょう。

リモートワークで海外企業と働きながら、ヨーロッパの田舎町でスローライフを送っています。

Twitter: @mhayataki