本場シカゴで20年、世界でプレイしてきたギタリスト菊田俊介が直伝する“生きたブルースの身につけ方”

  by リットーミュージックと立東舎の中の人  Tags :  

シカゴ、メンフィス、ニューオーリンズ、ミシシッピ……熱々のブルース・スポットをまわった時のエピソードを紹介する大好評のリアル・ガイドブック『世界のブルース横丁』に続いて、本場仕込みのブルース・ギターの極意をわかりやすく伝授する『生きたブルースを身につける方法』を出版したギタリスト菊田俊介さん

シカゴの第一線で活躍してきた彼に、担当編集であるギター・マガジン書籍部の鈴木が、リアル・ブルースを知るギタリストだからこそのスピリットを聞いてみました!

「B.B.KingのThe Thrill Is Goneも知らねぇのかっ!?」って怒られた…

鈴木 『世界のブルース横丁』は、菊田さんが、世界中のブルース好きの集まるスポットや、グラミー賞にもノミネートされたココ・テイラーやジェイムス・コットンなどのブルース・レジェンドとともに世界をまわった時のエピソードを紹介した旅行記のような一冊でした。これがブルースファンに大変好評だったので、僕が菊田さんに“生きたブルースを身につける方法”という別のテーマで企画をご相談してみたところ……。

菊田 とても良いテーマだと思ったので、どうやって作りこんでいけるかなとしばらく考えました。実際、『生きたブルースを身につける方法』には今の自分が持っているものを全部詰め込めた手応えはあります。

鈴木 菊田さんは実際に本場アメリカでプレイしながらブルースを学んでいったんですよね?

菊田 ええ。なので最初はジャムセッションに参加しても、知らない曲だらけでしたよ。「今のって誰の曲なの?」て周りに聞くと、「B.B.KingのThe Thrill Is Goneも知らねぇのかっ!?」って怒られるくらい(笑)。その頃は、3コードは弾けるけど、スモールコードやテンションの入れ方は全然分からなかった。でも一番苦労したのは、コードとリズムの取り方ですね。周りの腕の立つ先輩たちをジーっと見ながら覚えていきました。

テンポは同じでもレイドバックしているから大きな演奏になる

鈴木 リズムやスモールコードなどは、頭でわかっていても、実際の現場でプレイするのは難しそうです。

菊田 タイミングやタッチを身に付けるのは簡単ではないですね。

鈴木 本には、リズム・ギターを弾くときは「少し遅めに弾くクセをつける」(本書p.171)と書いてありました。

菊田 シカゴで一緒にプレイした黒人のドラマーたちは、レイドバックするグルーヴをプレイする人が多く、特にスネアはかなりうしろのタイミングで叩くんです。だから自分では「ワン・トゥ・スリー・フォー」って合わせているつもりでも、後から録音を聞くと、自分だけが先走って弾いてたり。彼らは、テンポは同じでもレイドバックしているから、より大きくゆったりした演奏ができているんですね。

バディ・ガイやオーティス・ラッシュと一緒にステージに立つと、音圧のすごさに気付く

鈴木 日本でジャム・セッションに参加している人も、シカゴに行ってみたら大きな発見があるんでしょうね。

菊田 リズムは違うし、音もでかい。ドラムはバッチバッチ叩くし、ベースもグイグイ! だからもしシカゴでギターを弾くときは、かなりのボリュームでドライブした音にしてみるといいですよ。バディ・ガイやオーティス・ラッシュと一緒にステージに立つと、彼らのステージ上での音圧がものすごいことに気付きますよ。アンプから丸太が一本“ガツーン!”と出てくる感じ。これは一緒にステージに立ってみないと分からないことでしたね。

普段から「アンプを通して弾く」のが大事

鈴木 そういうことは客席からだと分かりにくいですよね。練習時に気をつけることがあるとしたら何でしょう?

菊田 日本の住宅事情の問題はありますが、普段から“アンプを通して弾く”ということは大事だと思います。アンプを通さないで弾くと、タッチが荒くてもそれなりに聞こえてしまう。でもアンプを通して弾くと、タッチが増幅されて出てくるので「あれ?こんな感じじゃないはず」と自分で気付けるんです。

鈴木 自宅では小さいアンプで練習するのが良さそうですね。アンプを通して弾くと、音量を絞ったときのギターの弾き方も変わってくると書いていますね。

菊田 ええ。ボリュームが大きな状態でギターを小さく弾くというのは、ものすごくテクニックがいりますからね。そういうピッキング、左手の微妙なニュアンスなんかは、アンプを通さないと気付けない。アメリカでは自宅に地下室があるところも多いから、夜中でもステージと同じ音量でギターを弾きまくれる。小さい頃からそういう環境で育つから、彼らは音の鳴らし方が身に付いていますよね。

アンプは、ものすごく重要な「楽器」

鈴木 実際、エレキギターはギターとアンプですからね。

菊田 そう、アンプってものすごく重要な「楽器」。ギターばかりに目がいくけど、アンプもギターと同じくらいに重要。

鈴木 『生きたブルースを身につける方法』では“ブルースにあうギター”“ブルースにあう機材”も紹介していますが、この部分をフォーカスした教則本ってほとんどないですよね。また、ほかではほとんど書かれていないと思うのは、ブルースの基礎でもあるリズム・パターン「ランプ・アンド・ランプ」(本書p.53)と、黒人ミュージシャンが一番大切にする“シンプルでグルーヴするリズム・パターン”「ポケット」(本書p.109)のところ。

ポケットだ。ポケットをプレイし続けろ

菊田 向こうのミュージシャンは「ポケットだ。ポケットをプレイし続けろ」って言葉を実際によく言います。シンプルで歌うリズムは、彼らにとって一番大事なところなんですよ。例えば、ジェームス・ブラウンのようなファンク・ナンバーはシンプルなリズムが延々と続きますよね。なぜそうなのかというと、踊るためなんです。ダンス・ミュージックだから、一定のリズムが延々繰り返されていたほうが、踊りやすいしノリやすい。ブルースもダンス・ミュージックなんです。だから同じことを繰り返し続けることで、グルーヴが「覚醒」していくんです。

鈴木 セッションに参加する時は、ソロを弾いて楽しむだけではなく、ブルースのリズムを楽しむ視点で取り組むと、またグルーヴが違って面白くなるということですね。

菊田 ええ。バックでリズムを弾きながら高まっていく感覚が分かってくると、ソロを弾かなくても、グルーヴだけで楽しめちゃいますよ。

鈴木 なるほど。バッキングが大切ということですね。

菊田 実は“ソロ”というのは、歴史的には一番最後に出てきたものなんですよ。リズムがあって、歌があって、伴奏が続いて、そこにエレキギターとソロが入ってきて、ようやく「B.B.キング、アルバート・キングのソロってかっこいい!」って注目されるようになってきたんです。そもそもソロは歌の延長ですから。一番大事なのは、リズムの骨格の部分。それがないと、ソロを弾いても形になりませんからね。

鈴木 ブルースのセッションでは、歌とオブリの「コール&レスポンス」もとても重要と書かれていますね。

菊田 自分はシカゴで相当鍛えられました。シンガーにとって、ギタリストが良いオブリを入れることは、気持ち良く歌ううえでとても大切なんです。シカゴに行ったばかりの頃、タイミングがうまくいかずに、向こうのミュージシャン達に睨まれたことが何度もありました(笑)。自分のプレイに集中し過ぎて周りが見えていないと、周りの演奏が終わっているのに自分だけ弾き続けていたり(笑)。間を作ったり、相手の音を聞いて返したり、生きたコール&レスポンスを身に付けるには経験が必要ですね。

「シュン、歌を歌いなさい。ブルースマンは歌わなきゃだめだよ」ーージュニア・ウェルズ

鈴木 菊田さんは「歌うこと」を強く勧めています。「歌ってこそブルースがわかる」(本書p.212)では、菊田さん自身、シカゴ・ブルースのゴッドファーザーことジュニア・ウェルズから「シュン、歌を歌いなさい。ブルースマンは歌わなきゃだめだよ」と言って、無理矢理歌わされたとか。

菊田 最初は本当に嫌でねー(笑)。だってアメリカ人のお客さんの前で、英語のブルースの歌を歌うなんて。お客さんに笑われますし!

鈴木 “ブルースの女王”ココ・テイラーもそうですが、菊田さんはすごいシンガーと一緒にやっていて、あのクラスのシンガーから「歌え」と言われてもなかなかできないと思います(笑)。

菊田 でも今はすごく感謝しています。歌うことでブルースのメロディがどんどん自分の中に入ってきて、ギターでもそれが生きてきた。自分のギターがもっとメロディアスになっていった実感がある。実際、歌うギタリストと歌わないギタリストでは、弾き方がまったく違いますよね。例えばジェフ・ベックとエリック・クラプトン。どっちが良い悪いではなく、スタイルが違いますよね。クラプトンは自分が歌うから、ガリガリとギターを弾かなくても、歌とのカップリングで聴かせられるメロディが出てくる。逆にベックはギターですべてを表現するから、トリッキーなフレーズなど、耳を惹きつけるプレイも多くなって、歌のメロディからはどんどん離れていってますね。

鈴木 これから本書を手にとる読者に、特にここを読んで欲しいという部分はありますか?

菊田 第7章の「ブルースの極意を身につける」(本書p.155)は、自分が伝えたいこと、特に「歌を歌おう」「頭でイメージしたフレーズを弾く」「グルーヴを感じる」ことについてまとめられたのは良かったですね。この本のインスピレーションでもあるB.B.キング、ココ・テイラー、ジュニア・ウェルズ、オーティス・ラッシュ、オーティス・クレイ、ジェームス・コットン、ルイス・マイヤーズ、JWウィリアムズほか、ブルースを教えてくれた先輩ミュージシャン達に感謝したいです。


『ギター・マガジン 生きたブルースを身につける方法 もっと深く、よりシンプルに、ブルース・ギターをインプットする』
(リットーミュージック)
著者:菊田俊介
定価:(本体1,900円+税)
発売:リットーミュージック

PROFILE 菊田俊介
栃木県宇都宮市出身。1986年ボストンのバークリー音楽大学に留学。卒業と同時にブルース・ミュージシャンを目指してシカゴに移住。“ブルースの女王” ココ・テイラー、JWウィリアムス、ジュニア・ウェルズ、オーティス・クレイ、ジェイムス・コットンなどのバンドで活動。さらにバディ・ガイ、オーティス・ラッシュ、ボ・ディドリー、アーマ・トーマス、ケニー・ウェイン・シェパード、ヒューバート・サムリン、ロバート・ロックウッドJr、チャーリー・マッセルホワイトなど多くのアーティストと共演。全米放映された『An Evening with B.B.King』でB.B.キングとも共演した。2011年から本格的にソロ活動を開始、シカゴ・ブルース・フェスを筆頭にアジア各地を含むフェスやクラブに出演。これまでに9枚のアルバム、多数の教則DVDや書籍を発表。栃木県の福田冨一知事に任命されて、栃木未来大使。

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( ̄▼ ̄)ニヤッ インプレスグループの一員の出版社「リットーミュージック」と「立東舎」の中の人が、自社の書籍の愛を叫びます。

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