【動画あり】明治天皇がおかわりを御所望された1杯を飲みに行く!『サッポロビール博物館』取材旅行記

  by 古川 智規  Tags :  

北海道に行ってサッポロビール園でジンギスカンを食べた方は多いだろう。
その一角にサッポロビール博物館というものがあるのは、意外と知られていない。
というよりも、ツアーでここを訪れてジンギスカンを食べる場合はそちらの方に直行してしまうので気が付かない場合も多いというのが正直なところだろう。
その、サッポロビール博物館がリニューアルするというので、取材してきた。

東京から空路新千歳へ…というルートは取らない。
先ごろ開業した北海道新幹線と在来線特急を乗り継いで札幌まで行ってみることにした。
なお、復路は東海地方や関西地方からの魅力あるアクセスを紹介しているので、ご覧いただきたい。

10時20分発はやぶさ13号は一路、新函館北斗に向けて出発した。
青函トンネル内は3線軌条で貨物列車も走行するために、毎時140キロメートルに制限されているが、その分安定感は抜群。

かつて国鉄時代に海峡線として開業した際には、タバコを立てて置いても倒れないと言われたスーパーロングレール。果たして新幹線ではどうなのか、試してみたので動画をご覧いただきたい。

■3013B青函トンネル通過
https://youtu.be/f750cOUslWM


見事に倒れなかった。

定刻の14時37分に新函館北斗駅に到着。
在来線に乗り換える。

函館に行く人は、ここから快速「はこだてライナー」に乗車する。

記者は15時15分発、札幌行きのスーパー北斗15号に乗車した。

大沼公園を左手に見ながら、函館本線、室蘭本線、千歳線と走り抜ける。

東京駅を出て8時間21分。
18時41分に札幌駅に到着した。
さすがに新幹線と在来線を乗り継いで8時間は普通の人には苦行かもしれない。
乗り鉄の記者にはさほどの苦痛はなかったが、それでも寝台列車で何度も渡道したころが懐かしい。

翌日、札幌駅からサッポロビール園にやってきた。
最も楽なのは、札幌駅北口のバス乗り場からサッポロビール園行きの直行バスに乗ることで、所要7分。

立派な赤レンガの建物がサッポロビール博物館だ。
北海道遺産にも指定されている。

入場は無料で自由に見学できるが、有料の館内ツアーもある。
案内員が説明してくれるだけかと思ったらそれは大間違いで、料金は500円だがぜひこのツアーをお勧めする。
理由は後ほど。

この大きな銅製の釜は見るからに年代物なのだが、驚くべきはなんと13年前まで使用していたということ。
この釜で作られたビールをもしかしたら飲んでいたのかもしれないと思うと、不思議な感情にとらわれる。

ビールの歴史を紹介したエリアでは、サッポロビール創業以来のビール瓶が展示してある。
なお、ビールの歴史を紹介した博物館は日本で唯一ここだけだという。

ここではビールの香りや苦みの「原材料」である本物のホップを見ることができる。
どんなにおいなのかは、かいでみてのお楽しみ。

この赤レンガの建物は外側だけがオリジナルで、中身は近代的に「リフォーム」されているので見学に不自由さはない。

北海道初上陸の6Kシアターは圧巻で、有料のプレミアムツアーだけの特典。
通常は撮影禁止で、取材のため特に許可を得て撮影している。

ところで、日本にビールが上陸した当初はすべてが生ビールだったというと、にわかに信じられないだろうか。
確かに1970年代になって全国で生ビールが比較的簡単に飲めるようになったのは事実で、それまでは熱処理されたものが主流だった。
しかし、最初のビールは熱処理の技術がなかったので、すべて生ビールだったそうだ。ただし、鮮度を保つ技術や輸送上の問題から当時は醸造所からそう遠く離れていないところでしかビールそのものが飲めなかったということらしい。
明治の人は生ビールを飲んでいたということになるのだろうか。

さて、プレミアムツアーも終わりに近づき、このツアーで最も価値があるであろうクライマックスだ。
ビール瓶を模したシャンデリアがあるホールに案内される。

ここでは、サッポロビールの前身である札幌開拓使麦酒醸造所の創業当時のレシピにしたがった復刻ビールを飲む栄誉が与えられる。
この復刻ビールは、市販はもちろんお土産でさえ売っていない。完全非売品でこのツアー参加者のみが飲むことができるという超プレミアムなものである。
そして、最新のサッポロ黒ラベルとの飲み比べを堪能することができる。

しかしなぜ、「栄誉」と言ったのか。
実は、開拓使の視察で行幸された明治天皇にこのビールを献上奉れば、陛下いわくおかわりを御所望されたという。
つまり、明治天皇が美味しくて2杯飲んだそのビールを飲むことができる栄誉にあずかれるというわけだ。

当時は冷蔵技術も乏しかったことから、おそらくキンキンに冷えた…ということはなく、多少ぬるいビールだったはずである。
しかし、冷えていなくてもガツンとパンチの効いた苦みは喉に引っかかって離れようとはせず、最近ののど越しさわやかなビールとは一味も二味も違った大変結構なものだった。

ちなみにサッポロビールのトレードマークである赤い星印は「五陵星」と称し、開拓使の旗印だったそうだ。
本当にプレミアムな時間を過ごしてサッポロビール博物館を後にした。

さて、ここからは復路となるわけだが、東京に戻るのに船舶を利用した。この逆をたどれば、東海・関西地方の方でも豪華客船のような船旅でアクセスができる。

札幌駅から高速バス「とまこまい号」で苫小牧西港に向かう。運賃は1310円。

19時発の仙台経由名古屋行きの太平洋フェリーに乗船する。

乗船用・下船用の半券と搭乗券に食券5枚が発券された。
今回は片道フルパックという全食事付きの1等船室を予約した。運賃は食事込みで21400円。通常定員を下回る人数での個室利用は貸切料金を徴収されるが、太平洋フェリーでは閑散期は徴収しない。

ターミナルには多くの自衛隊員が乗船を待っていた。
たまたま喫煙室にいた隊員と二人になったので話しかけてみたが、どうやら最終的に熊本に向かうようだった。
道内の各部隊から集結して熊本に向かうようで、様々なルートで支援に行くのだろう。
別れ際に「お願いします」と記者は自然と頭を下げていた。
隊員も「道中お気をつけて」と声を掛けてくれたのだが、それはまさに「こっちのセリフ」だった。

上級船室の個室はカードキーで、下船時に記念に持ち帰って構わない。

二人用の船室は内部屋で外向きの窓はない。設置してあるすりガラスの窓は採光用の吹き抜けに面しており、昼夜がわかるなかなか憎い設計だ。

出港30分前と15分前にドラが鳴り、これで北海道ともお別れだ。
写真はパノラマ・HDR合成。

ファンネルマークも誇らしく、汽笛一発まずは仙台港に向けて出港した。

食事は3食ともバイキングで、何をいくら食べてもかまわない。ドリンクバーやスイーツもあり、すべてコミコミ。アルコールだけは別料金。
一等船室にはシャワーが付いているが、そこはやはり大浴場。窓から海を眺めながらのお風呂は気持ちがいい。サウナもある。
さすがに撮影はしなかったが、写真のポスターを見てハッとした。

北海道好きの方はよくご存知かもしれないが、サッポロクラシックという道内限定のビールがあったのをすっかり忘れていた。
でも大丈夫。苫小牧でちゃんと積み込まれていて、自販機で販売されているので飲み忘れた方でも問題ない。

明朝、朝食を食べ終えると間もなく仙台港入港だ。

名古屋まで乗船する人は仙台港で一時下船もできる。あらかじめ手続きが必要だが、2時間30分程度あるので散策したりタクシーを使って付近を観光したりと、結構楽しむことができる。

記者は下船せずに船内で過ごしたが、デッキで出てみると待っていたかのようにカモメが舞い降りてきた。

仙台港を出港してしばらくすると、姉妹船とすれ違う。記者が乗船している本船は「きそ」で、苫小牧行きのすれ違う姉妹船は「いしかり」だ。
動画でご覧いただこう。

■太平洋フェリー きそ/いしかり
https://youtu.be/cRLUCpj0v8c

海上は常に強風なので、自分が吹き飛ばされそうでブレブレだったが、汽笛の交換は聞き取れただろうか。

こうして、2回目の夜が更ける。

2日目の朝10時20分に名古屋港に定刻で着岸した。

フェリーふ頭バス停から名古屋市交通局のバスに乗り、10分ほどで名古屋臨海高速鉄道の野跡駅まで行く。

フェリーからは苫小牧で積んだ自衛隊の車両と隊員が下船してきた。第5旅団だろうか。くれぐれも体には気を付けて支援をしていただきたいと願うばかりだ。

野跡駅からあおなみ線に乗車。そのまま名古屋駅へ直結する。
このルートをたどれば、東海・関西地方からも北海道へのアクセスは容易だ。
航空機で飛ぶのもいいが、ゆったり船旅というのも捨てがたい。ちなみに大型船なので揺れはほとんどない。

記者は、名古屋駅からJRハイウェイバスで東京駅までラストラン。
新東名スーパーライナー14号はJR東海バス所属のダブルデッカー車で運行された。所要5時間10分。

東京駅に17時40分定刻で到着した。
岩手県では桜が見ごろだったようだが、北海道ではもう数週間は必要だろう。東京駅ではつつじが満開だった。

記録によると4日間かけて3697.56キロメートルを移動したことになる。
様々な交通機関を駆使して1杯のビールを飲みに行くにはぜい沢すぎるかもしれないが、北海道旅行の際にはぜひ立ち寄ってみたいサッポロビール博物館だった。

※写真・動画はすべて記者撮影・収録

乗り物大好き。好奇心旺盛。いいことも悪いこともあるさ。どうせなら知らないことを知って、違う価値観を覗いて、上も下も右も左もそれぞれの立ち位置で一緒に見聞を広げましょう。

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