ヒカシューの2015年新作『生きてこい沈黙』は絶対必聴盤

  by 葛井  Tags :  

ヒカシューの2015年新作『生きてこい沈黙』が4月25日に発売された。
これは絶対お薦め名盤。聴かずに死ねないダントツ作である。

まあそもそも私はそれほど音楽を聴くというわけではない。そんな人から勧められたって、聴く気になるだろうか。いや逆にあまり音楽を聴かないニンゲンがこれだけは聴くべきと勧めてるんだから、聴いてくれるだろうか?
そういえば、私が初めてヒカシューを聴いたのは中学の同級生に勧められたからだった。それまで私はテレビで歌謡曲やアニメ主題歌を聴くくらいだった。一方でFMからジャズのエアチェックなどをしてたのだから、そのころから”偏った”音楽の聴き方をしていたとも言える。
その友人はジャズではなくロックをエアチェックしていた。その録音テープを3本聴かせてくれた。(これって著作権法違反? テープを貸してくれたわけでなく、友人の自宅で聴かされたのだけど)クイーンとYMOとヒカシュー。私はその中でヒカシューが気に入ってLPレコードを購入した。

ヒカシューとしては22枚目のアルバム。
実はヒカシューのアルバムは90年代後半からゼロ年代前半にかけて、全く新作が出ない時期があった。その時期でも、ライヴなどの活動はずっと続けていたが、私もライヴには行かなくなっていた。大学生のころは東京郊外に住んでいたので、毎月のようにライヴハウスに通っていたけれど、都落ちもしたし、仕事も忙しくなっていた。それでもCDだけはずっと聴いていたので、「あれこのごろ出ないな」と思ってはいたのだ。
それを復活させた『マキガミレコード』からの発売は10作目(マキガミサンタチのアルバムやシングルも含まれる)となる。レーベルも10周年となる。
などと書くと、今まであまり聞いたことのない人は気後れを感じるかも知れない。
「どれから聴けばいいの」となるからだ。リーダーの巻上さんもMCなどで「たくさんCDを出していると、よくどれから聴き始めればいいのかと聞かれる。そういうときは、一番新しいアルバムを勧めることにしている」と言っている。
そういう意味でもこの『生きてこい沈黙』が現在の最もオススメということになるのだ。

いまは、動画サイトでチェックしてみる、というのが一般的なようだ。けれど、ヒカシューを知りたければ、とりあえず一度ライヴに足を運んでもらうのが一番いいと思う。初めてライヴを聴いた若い人たちの多くが口を揃えて「すごいバンドだ」と言う。
そして会場で最新アルバムを購入してサインしてもらって帰ってくる。というのがベストのように思う。
関東に住んでいるなら、吉祥寺や渋谷で定期的にやっているから、是非行って欲しい。九州ツアーや名阪神ツアーもこのごろは毎年のようにやっている。今年は北海道でもやる。学生割引というのもあるらしい。
ライヴのレポートもいずれしたいと思うけれど、今回はともかく最新アルバムの紹介を。
その前に、バンド編成くらいは予備知識として書いた方がいいいだろうか。

歌詞カードにはこう書いてある。

巻上公一 ヴォーカル・テルミン・コルネット・尺八・篳篥・プログラミング
三田超人 ギター
坂出雅海 ベース
清水一登 ピアノ・シンセサイザー・バスクラリネット
佐藤正治 ドラムス

前置きはこれくらいにして、とにかく聴いてみようか。
ピアノから始まる。そしてシンバル。ささやくようなヴォーカル。染み入るような曲。ギターとベースも静かに加わって、テルミンがうねる。
1曲目の『生きてこい沈黙』だ。この曲はもとはタイトルだけがあって、曲はなかったらしい。というよりも”無音”の曲だったらしい。”沈黙”を聴きながら、そこから”沈黙”が生きてくるのを待つというものだったらしい。しかしあるとき「曲が出来てしまった」らしい。
1曲目が終わるといきなりリズミカルなリフが始まる。ベースなのか打ち込みなのか分からない。曲中では同じテーマをベースで弾いているようだけれど。2曲目の『ナルホド』が始まっている。

私が好きな曲で『ニコセロン』があるけれど、あれとリズムが似ている。その進化系だろうか。内臓が踊りだす感じがする。歌詞カードを見ると、タイトル以外はすべてひらがなで、いく通りにも読める多義的なものだ。感想では宇宙語とバスクラリネットが絡み合い、最後はヴォイスで締める。ヴォイスやヴォーカルも楽器の一つなのだ。
次の『自由でいいんだよ』は、インプロヴィゼーションだと思われる。歌詞があるのだけれど、ヴォーカルさえも即興だ。テルミンの音がずっと底の方を流れている。後半はリズム隊が活躍して、そこから細かいギターソロによるエンディング。
演奏とは”合わせる”ものではなく、「お互いの音を聴きながら、並んで歩くようなもの」と、巻上さんが言っていたのを思い出す。
つづいて和風なギターリフで始まるのが『イロハ模様』。この曲がこのアルバムのテーマのようだ。キャッチコピーの「すべてが移ろい およそも確信もなく 尊敬も醸造もされない」という歌詞が出てくる。いつもは力強いコルネットのソロが珍しく繊細なのが耳に残ると思ったら、篳篥だった。
5曲目の『マグマの隣』は
、心地よいピアノとギターのリフから始まる。これも私の好きな曲『カモノハシ』彷彿とさせるが、サビ前でいきなり恐ろしくなる。ジャケットのマグマから足が生えている逆柱イミリの絵がぴったりくる。
次の『メロンを鳴らせ! ベルーガ』は、刺激的なインプロヴィゼーション。レコ発ライヴでは、佐藤さんが指揮をとっていた。さまざまな組み合わせでソロやデュオを聴かせる。
7曲目の『テングリ返る』では、このアルバムの中で私の一番好きな歌詞が出てくる。

 風には足が生えている
 足には影が生えている
 影には音が生えている

この通りの映像が浮かんでくるような気がするのだ。いやでも音に映像なんてないのだから、そんなはずはないのにだ。口琴が気持ちいい。バスクラも並走している。途中でなんだか曲調が変わってびっくりする。こういう脱臼もヒカシューの良さの一つだと思う。
『はてしない憶測』は、『生きてこい沈黙』のヴァリエーション。ものすごく色彩豊かな音に溢れている。軋むバスクラ、蠅の羽音のようなテルミン、ピアノとギターのブルースそしてホーメイ。
次の『こんな人』を聴いていると、大きな空を感じる。最高の青空。このアルバムの隠れテーマとしてアルタイツアーの記憶がある。アルタイには、空や自然の精霊を崇める思想があってそれを「テングリ」というらしい。だから本来は『テングリ返る』のほうが、その曲なのだろうけれど、私はこちらのほうが、よりそれを感じるのだった。揺れるシンセサイザー。かっこいいギター。震えるヴォーカル。圧巻のギターソロ。もちろんその間もピアノもベースもドラムもまるでソロのように並走している。エンディングもインプロヴィゼーション的だ。激しいドラムに歌うテルミン。
10曲目『静かなシャボテン』こういうギターはほかにもあるのだろうか。私は詳しくないので知らないけれど、この脱臼した感じのリフが大好きだ。ヴォーカル末尾のヴァイブレーションにテルミンが重なる。メロディも三田さん特有のポップでいながら空疎な感じがするのが気持ちいい。
最後から2曲目は長めのインプロヴィゼーションで『アルタイ迷走』ここでも、メンバーの特別な音が広がっている。私はただただ圧倒されて、夢の世界に逝ってしまう。ここでは尺八を吹きながらのヴォイスという荒業も聴ける。
また『生きてこい沈黙』のヴァリエーションで『起きてこい伝説』静かなヴォーカルと素晴らしい演奏。終わってほしくないけれど、これがラストだ。低音のテルミンとピアノの絡みが心に残る。ラストはギターのハーモニクス。

終わってしまった。聴き終えて一番に思うことは、「ああ早くまたライヴに行きたい!」

写真はサイト「マキガミレコード」のスクリーンショット http://www.makigami.com/ikitekoisale.html

好きな小説・映画・音楽などについて、まとまった形で表現できればと思います。

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