福岡県の北九州市にある門司港を御存知だろうか。かつては本州と九州を船で結ぶ玄関口として、そして中国との貿易の拠点として、大いに栄えた港であったが、関門海峡をトンネルが開通すると、本州からの交通は門司港を経由しなくなり、交通の要所としての地位を急速に失ってしまった。現在のJR門司港駅というのは、とどのつまりどん詰まりの駅である。現在でも門司港から船で下関市まで渡ることも可能ではあるが、単に本州と九州を行き来するだけならば船を使うことはまずない。JR下関駅から下り方面の次の駅はJR門司駅であるが、これは門司港とはかなり距離のある駅である。門司港への人の往来が無くなったわけだ。
現代の門司港が生き残る策として打ち出したのは観光地化である。明治期のレトロな建物を町並みとして整備し、重要文化財に指定されて駅舎も古い雰囲気を残しつつ改修され、近くには九州鉄道記念館も建てられた。そういうわけで門司港は全国でも有数の観光港として再び注目を集めるようになった。
そんな観光名所としての門司港のグルメ部門の代表といえば焼きカレーではないか。
焼きカレーは焼いたカレーだ。しかしカレーを焼くというのがよくわからない。カレーを焼いたところで何が美味しいのだろうか。門司港のレトロ地区を散策しながら僕はそんな風に考えていた。そこに一軒の焼きカレーを出す店が目に入る。なんとなくメニューを眺めていると、ふいに1人のオジサンが店から出てきた。
「これは美味しかったぞ~!!」
オジサンは迷っている風の僕に、喝をいれるかのように声をかけると颯爽として去っていった。なんだというのだ。そう言われたら食べたくなるではないか。2分後には僕はその店『ル・カフェ』に入って焼きカレーを注文していた。しばらく待っていると出てきたのが上記の写真のようなもの。でかいオーブンで焼き上げたカレーの上にはチーズがたっぷりと乗せられている。なるほど、カレーを焼いている意義はこういうことだったのか。一種のドリアのようだ。
カレーの味もスパイシーでなかなか美味い。美味いカレーにチーズが乗って悪かろう筈がない。さっそくスプーンをつっこんでチーズの天蓋を崩しにかかる。そこで驚いた。中心部に卵の黄身が隠されていた。卵の黄身を投入したカレーの上にチーズで蓋をして焼きあげていたのだ。すべての焼きカレーが卵入りというわけでは無いらしいが、『ル・カフェ』の焼きカレーはそうなっていたようだ。これは嬉しい。チーズとカレーと卵の三位一体の濃厚ドロドロ。焼きが入って外側は香ばしくなったチーズ。それをハフハフ言いながら口に運ぶ。
ボリュームもなかなか。卵をいつ崩すか迷うが、4分の1ほど食べたあたりでえいやとスプーンを入れる。半熟の何歩も手前の状態の卵黄が、カレールーの染み込んだ熱々のライスに心地よく絡む。皿の周辺のカレーが焦げているのも良いアクセントになる。すべて平らげるころには満足感でに包まれた。オジサンの言ってた事は本当だった。これは美味い。カレーにチーズを乗せて焼くというだけの単純なものではあるが発明には違いない。カレーを焼いてどうなるの?とか言ってた自分の心の狭さを恥じる。カレーは焼くものだ!
この焼きカレーは門司港周辺だけでも30軒以上もの店が提供しているという。焼きカレーMAPまである。それぞれどう違うのか気になるところである。
焼きカレーは家庭でも食べられているそうだ。たしかに基本的にはチーズをかけてオーブンで焼くだけだから手軽に作れる料理だ。料理レシピサイトにもたくさんの焼きカレーレシピが登録されていた。ぜひ家庭でもやってみて欲しい。焼きカレーは港町の洋食屋さんのカレーが基本なので、カレーは欧風カレーがあう。チーズをたっぷりめにかけるのがコツだ。それから、卵黄を中心部に入れるのをオススメする。半熟になりすぎない温度調整で焼きあげることが出来ればきっと美味い。僕も挑戦してみよう。
ル・カフェ(食べログ)
http://tabelog.com/fukuoka/A4005/A400501/40017435/
門司港レトロインフォメーション・焼きカレーマップ
http://www.mojiko.info/news/topics0209.html