みなさま、ヒグマのお肉を食べたことはありますか?
調べてみると「熊肉は匂いもクセもなくとても美味しい」や「脂が甘くてものすごく美味しい」といった好意的な意見から、「臭くて硬くてマズい」といった否定的な意見までさまざまな評価があります。
実際にはどうなのでしょうか? 友人のハンターがしょっちゅうヒグマを獲ってくるので、お肉を頂いて確かめてみることにしました!
ヒグマ
ヒグマは日本では北海道にのみ生息しており、大きさはホッキョクグマと並びクマ科最大となっています。日本の陸上生物の中で最も大きい種です。
オスの成獣では体長約2m・体重約150~400kgにもなります。メスは一回り小さく、体長約1.5m・体重約100~200kg。
ヒグマは古来より人々に畏怖され、また愛されてきました。
しかし近年ヒグマによる農業や林業、畜産業への被害が増加傾向にあり、人身被害も起こっていることから、たびたびニュースなどで話題になります。
友人は地域の人々の生活を守るべく、要請に応じてヒグマを狩りに行きます。
仕留めたヒグマの手を見ると……爪がすごいです……こんなのに襲われたらと思うとゾッとします……
熊が悪いわけではないので仕留められた亡骸を見ると心が痛みます。時々害獣駆除に対して反対の声があがりますが、その気持ちも分からなくはありません。
しかし甚大な被害が出てからでは遅いので、人里を生活圏にしてしまった熊の退治を「かわいそう」という感情論で批判することはできません。
プロの友人でも「ヒグマがヤブにもぐり込んで少しづつ近寄ってくることがあって、そういう時は怖い」と言いますし、ハンターが返り討ちにあい命を落とすこともあるので、ヒグマと同じ土地に暮らす人々にとってヒグマは死活問題です。
人と野生動物が完全に住み分けできたり、もしくは安全に共存できる方法があると良いのですが……
自然と人間の難しい関係性を思案しつつも、ヒグマとハンターたちに感謝してそのお肉を頂きたいと思います。
ヒグマのお肉
一般的に熊肉は脂が絶品で脂の美味しさを味わうのが醍醐味だと言われています。
また食性によってお肉の味が変わるため、最も美味しいのは冬眠前に木の実をたっぷり食べて脂肪を蓄えた熊で、逆に夏の熊肉は「臭くてマズい」とも聞きます。
今回私が頂いたヒグマのお肉は7月下旬に仕留められた、脂のないモモ肉です。
※友人は有害駆除隊員なので狩猟可能期間の10/1~1/31以外でも一年中狩りを行うことができます。
ちなみに友人曰く「脂がのって柔らかい背ロースがいちばん美味しい!!」らしいです。でも今回はモモ肉を食べます。だって不人気部位だから残って捨てることになったら熊に申し訳ないからね!
頂いた時は真夏で暑すぎて調理できず、現在まで冷凍保存していたお肉を解凍します。
▲お分かりいただけるでしょうか。よく見ると熊の毛がついています。ハンター直送肉だからこそのワイルドさです!
果たしてどんな味がするのでしょうか? さっそく調理して食べてみたいと思います!
ヒグマ肉の注意点
熊肉に限らずなのですが、野生動物には寄生虫がいます。
旋毛虫(トリヒナ)という寄生虫は厄介なので、中までしっかり加熱することが非常に重要になります!
旋毛虫は乾燥処理や数か月の冷凍処理をしても死滅せず、感染すると脳や臓器に侵入してきて最悪死にいたります。
ジビエ肉を食べる時はしっっっっかり加熱! これは絶対!!
生肉を調理したキッチンも、まな板包丁のみならずシンク丸ごと熱湯消毒した後に塩素系漂白剤を用いて掃除します。
本日のお品書き
・焼肉
・竜田揚げ
・ハンバーグ
・チャーシュー
・ジャーキー
で頂きます。
ヒグマ肉の焼肉
ヒグマの調理法とかぶっちゃけよく分かんないのですが、全料理の共通項目としてとりあえずまずは醤油と酒に10分ほど漬けて臭みをとり、浮いた汚れを水で洗い流す下処理を行いました。
血の気が多いというか、見てるだけで気持ちが昂るような、真っ赤でワイルドなお肉ですね。
いらないスジを切り落として(めちゃめちゃ硬いので私はハサミを使いました)薄切りにします。
ただでさえ熊肉はとても硬いと評判なのに、今回もらったのはごっついモモ肉で、ハンターの友人も「硬すぎて食べられなかったらごめんね」と言っていただので、できる限り薄切りにします。
塩をふったらよーーーーく焼きます。熊肉の味を殺さないために、ごく少量のサラダ油で焼きます。
寄生虫を気にするあまり20分ぐらいかけて焼いたためジャーキーみたいになってしまいましたが、塩をふって頂いてみます(。・н・。)パクッ
めっっっっちゃくちゃウマい!!!!!!!!!!!!!!!!!!
夏の熊なので臭みや雑味を警戒していましたが、そんなものは皆無です!
獣臭やクセは全くなく、牛によく似た味わいです。ラムのようなミルキーさも感じられます。
なによりも旨みたっぷりで、噛むほどに味が染み出てきます。お肉の味がとにかく濃い!!
でもちょっとハツや鹿肉のような野性的な風味もあって、ジビエ!!!!!!!! って感じのお味です。
お肉を親戚や近所の人にもお裾分けしたのですが、獣臭がダメでお肉全般が苦手な人から獣臭プンプンのジビエ肉大好きな人まで皆「美味しい!!」と太鼓判を押してました。
ヒグマ肉は臭みもクセもなく肉嫌いな人でも食べやすいのに、「獣臭ウェルカム! お肉大好き!」と真逆な人まで満足させる不思議なお肉ですねぇ。
ただし驚くほど硬いです。薄切りでもゴムのようなビーフジャーキー30枚重ねしたくらいの咀嚼力を試される硬さになっており、モモ肉の焼肉だとたくさん食べるのは難しいかもしれません。
でもお肉の味が非常に濃くてうま味の持続力もあるので、少量でも満足感がすごいです!
ヒグマ肉の竜田揚げ
ヒグマ肉を酒、醤油、ハチミツに30分ほど漬けて下味をつけてから片栗粉をまぶしてじっくり揚げました。
おっ! 片栗粉効果なのかお肉が柔らかくなっています! 普通に硬い肉ぐらいの柔らかさになりました!
味はもちろん美味しいのですが、衣や揚げ油が邪魔してせっかくの熊肉の風味を堪能することができません。
なので個人的には焼肉のほうが美味しいと思いました。竜田揚げにするなら衣は薄くして、少量の油で揚げ焼きにするほうが良いかもです。
ヒグマ肉のハンバーグ
ヒグマ肉を細かく切ったら半冷凍し、少し凍ったままの状態でミキサーにかけて粗びきにします。
ヒグマ粗びき肉、タマネギのみじん切り、塩コショウを合わせて練ります。私は肉肉しいハンバーグが好きなのでつなぎは入れません。
▲馬肉のような色してます。
片面がこんがり焼けたらひっくり返してもう片面も焼き、フライパンに酒を入れてフタをし弱火で蒸し焼きにします。40分ぐらいかけて焼きました。
焼いたフライパンに残った肉汁を赤ワインと醤油、ハチミツで煮詰めたソースを添えて頂きます(・н・)パクッ
これは今まで食べたハンバーグの中でトップ3に入る美味しさかもしれない!!!!!!!
脂のないモモ肉を使い、しかもよーーーく焼いたので、正直パッサパサでジューシーさの欠片もないのに何だこの旨さは!?!?!?!?!?
肉自体はもちろん硬いのだけど、それが「お肉を食べてる!!」という噛み応えになっていて非常に良いです。ミンチなので噛み切る必要がないため、「噛み締める」ことに全集中できて、硬い肉質が魅力に変わります。
旨みを極限まで高めたクセのない極上牛ハンバーグのような感じです。熊肉は肉の味が濃いがゆえにうま味の持続力がすごく、口の中がいつまでも幸せです。
少しだけレバーっぽい風味がするものの、その風味と焦げの相性がバツグンによく、ワイルドさが出て美味しいです。
肉汁で作ったソースもものすごく味が良いのですが、塩で頂いたほうが美味しいです!
それぐらいヒグマ肉自体の味が良いのです!
ヒグマ肉のチャーシュー
とにかく硬いヒグマモモ肉は圧力鍋で煮込んでも柔らかくならないのかしら? と思い、チャーシューに挑戦してみました。
臭みをとりつつお肉を柔らかくするため、紅茶で下茹でします。
▲アクが大量に出るのですくって捨てます。
下茹でしたものをザルにあけてビックリ。すんげー極太繊維……これはゴムのような食感なわけだわ……
水を入れ替えてネギの青い部分と生姜スライス、酒を入れて圧力鍋で1時間煮込みます。
煮てる間は焼いた馬肉のようなレバーのような獣臭が漂います。
蒸気が抜けた後でフタをあけてみると……
煮汁が黒い。
えっ? なんでこんなに黒いん? えっ? てかこれこのまま味付けして煮込んで大丈夫? いや、なんか雑味がすごそうだから、肉の味がどんどん抜けてもったいないけど水を入れ替えてもう一度煮よう。
改めてもう30分圧力鍋で煮込んでみると……
やっぱりなんか黒いんだよなぁ……熊出汁はこういう色なのかしら?
竹串がスッと入るぐらい柔らかくはなってるし、煮汁は黒いけど許容範囲なので、醤油、酒、砂糖、みりん、ハチミツを適当に入れて落とし蓋をし1時間くらい煮詰めます。
一晩おいて味を染みこませて完成です!
十分すぎるほど煮込んだのですが、ローストのような色してますね。熊肉はよく火を通しても赤みが残るみたい。では頂きます(´~`)モグモグ
ふむ、お肉は柔らかくなっています。といってもホロホロにはならず、密度の濃いサックリした良い歯ごたえの硬めチャーシューぐらいの硬さです。
しかしあれだけ茹でこぼしたのにまだまだ旨みたっぷりなのがすごい!
でもくっっっっっさ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
豚、焼いたレバー、クジラのような獣臭がすごいです……私が豚や加熱したレバーの匂いがダメなので臭く感じるのかと思い、獣臭大好きな知人にも試食をお願いしてみました。
「ダメじゃないけどこれは匂いがキツイね……」と言っていたのでやはり臭いのだと思います。
まさかここにきてクマーな香りが全面に出てくるなんて……匂い対策をほとんどしなかった焼肉やハンバーグは臭くなかったのに、紅茶やネギ、生姜でしっかり匂い消しをしたチャーシューがこんなに臭いとは……煮込むと臭みが出る性質なのかしら?
熊肉を「臭くてマズい」という人は煮込み料理を食べたからではないかと思いました。確かにこれは臭い。
このままでは食べきれない……う~ん、う~ん、どうしようかな……ジャーキーにしたらどうだろうか?
ということでヒグマチャーシューをジャーキーにリメイクします!
ヒグマジャーキー
ヒグマチャーシューを5mm幅くらいでカットし、赤ワイン、醤油、ハチミツを煮詰めたソースにおろしニンニクと粗びきコショウ、塩を加えてタレを作り、そこに3時間漬け込みます。
コショウはたっぷり入れたほうが美味しいです。
120℃のオーブンで5~10分乾燥焼きをします。
途中お肉をひっくり返すのが面倒くさいので、天板にクッキングシートを敷いて網をのせ、そこにお肉を並べました。
ちなみにこの段階で臭みは激減しており、このまま食べてもそこそこ美味しいです。
少々クマーが顔を出すものの、コンビーフや缶詰の肉のような風味です。
ヒグマが木の実や果物、植物を好む草食傾向の強い雑食動物だからなのか、赤ワインのようなフルーティーな味付けが非常によくあいます!
オーブンから取り出したらラップをかけずに冷蔵庫で1~2日乾燥させて完成です。
もともとお肉に火は通っているのでオーブンでの乾燥作業はいらなかったかも……真っ黒になっちゃった……と思いつつ頂きます。
うん! クマーな香りはほとんどなくなりました! コンビーフの香りのするうま味の強いビーフジャーキーですね!
美味しいものの、ほぼビーフジャーキーなので熊肉食べてる感はないような……
チャーシューからのリメイクではなく、最初からジャーキーにしていたらもっと熊肉の良さが出た美味しいジャーキーになっていたのだろうなと思います。
でもおやつに良いので、残りチャーシューは全てジャーキーにリメイクします!
ヒグマ肉評価
星4.5 ☆☆☆☆
味自体はものすごく美味しいです!! 特にハンバーグは絶品でした。
ただモモ肉だから硬すぎたこと、調理後の消毒が面倒くさい、そして煮込んだら臭い……という点がマイナスポイントです。
でも不人気部位のモモ肉で、しかも最もマズイとされる夏のヒグマでもこの旨さということは、冬眠前のヒグマの背ロースはとてつもなく美味しいのだと思います。
今回は肝心の熊脂を味わえなかったので、次は脂がある部位を食べてみたいものです。
これからヒグマの旬がきますので、みなさまも気になったらぜひ熊肉を扱っているレストランに行ったり、お取り寄せして食べてみてください(・∀・)
※トップ画
by Abhinna Patel via pexels
https://www.pexels.com/ja-jp/photo/25713899/
※その他の画像は全て筆者撮影
<参考>
ヒグマの生態・習性(札幌市公式HP)
https://www.city.sapporo.jp/kurashi/animal/choju/kuma/seitai/index.html[リンク]
旋毛虫(トリヒナ)について(札幌市公式HP)
https://www.city.sapporo.jp/hokenjo/trichinella.html[リンク]
ヒグマによる人身被害及び農業被害の状況資料
https://x.gd/xZNlz[リンク]
ヒグマの食生活(のぼりべつクマ牧場HP)
https://bearpark.jp/lecture/3132/[リンク]