『ゼルダの伝説 知恵のかりもの』レビュー:スピンオフではないシリーズ最新作! 主役が変わった革新性・普遍性の塩梅が素晴らしい一作

「ゼルダの伝説」(以下、「ゼル伝」)初の、ゼルダ姫を主人公としたゲームが登場した。それが9月26日に発売されたシリーズ最新作『ゼルダの伝説 知恵のかりもの』(以下、『知恵かり』)である。

従来の「ゼル伝」にとってゼルダ姫とは「マリオ」シリーズにとってのピーチ姫のように、冒険の末に助け出すべきヒロインだった。時には、主人公のリンクと共にハイラルの平和を取り戻すために力を尽くすパートナーのような存在だったときもある。一方『知恵かり』では、逆にリンクが行方不明となり、ゼルダ姫自身がハイラルを救うために旅立っていく。

▲シリーズお馴染みのゾーラ族(画面左の川ゾーラと、右の海ゾーラ)が登場。今作では川ゾーラも友好的な種族として登場する

しかも、例えば「『マリオブラザーズ』シリーズ」に対しての「『プリンセスピーチ』シリーズ」のような、ストーリーや操作性もまるっきり異なるスピンオフ作品ではない。『知恵かり』は、グラフィックはSwitch版『夢をみる島』を踏襲しつつ、マップや冒険手帳画面などのUI部分は『ティアーズ オブ ザ キングダム』に近い。過去の見下ろしスタイルの「ゼル伝」シリーズに、最近のシリーズの良い部分も統合しながら、正統なる最新作という形を取っていると感じる。

▲冒険手帳画面

本作では、ゾーラ族やゴロン族といった種族、カカリコ村やデスマウンテンなど従来の「ゼル伝」に登場した種族・地名もたくさん登場する。特にアキンドナッツやコッコお姉さん、ダンペイなど、Nintendo64の『時のオカリナ』で出てきたキャラクターまで登場したのは驚きだった。ダンペイは墓守ではなく発明家になっており、顔と名前が同じなだけの別人(あるいはリンクやゼルダの設定に倣い、輪廻転生した存在?)であるが、だとしてもまた懐かしい顔に出会えてシリーズのファンとしては嬉しくなってしまった。

▲今作のアキンドナッツは、素材を2つ渡すとスムージーを作ってくれる

▲『時のオカリナ』でもあった、逃げ出したコッコを集めるイベント。達成すると、あのアイテムがもらえる

▲墓守だったダンペイは、今作では発明家として登場する

操作性に関しても、過去作のオマージュを感じる部分が見られる。ゼルダは姫なので序盤は剣が使えないが、「スピン」アクションで草を刈ってルピーなどのアイテムを入手できる。これはNintendo64の『ムジュラの仮面』で、デクナッツに変身して剣が持てない状態のリンクも使っていたアクションだ。

一方で、主役が違うことでまるっきりプレイ体験が異なる部分もある。初めて魔物と遭遇した際には石を投げるなどして倒さなければならないが、倒した魔物はカリモノとしてつくり出せるようになる。自分で戦わず、魔物相手に自分の魔物をぶつけて戦わせる様は、まるでポケモントレーナーだ。

▲初めての魔物に遭遇! 目の前の石をぶつければ姫でも倒せる!

▲倒した魔物は、カリモノとしてつくれるようになる

▲少し離れた場所から、つくりだした魔物と野生の魔物の戦いを見守る様は、まるでポケモントレーナー

一度につくり出せる数には制限もある。「カリモノ」の力を使わせてくれる仲間・トリィの力が弱まっているので、最初は3つまで。制限を超えてつくり出せば、すでにつくり出しているカリモノの中の、つくり出した順が一番早いものから消えてしまう。

また、カリモノによってはつくり出すのに2つ分、3つ分などコストを要するものもある。冒険していく中でトリィのレベルが上がると、つくり出せる数が増えたり、特定のカリモノのコストが減ったりするので、徐々に自由度も上がっていく。

▲冒険の中で、トリィもレベルアップ!

カリモノとなる道具も種類が豊富だ。ベッドは足場になるだけでなく、上で寝て体力回復もできる。ツボは中に隠れて移動できるので敵に気づかれず進んでいくのに便利だ。さらに重宝するのは「水のかたまり」だ。これを繋げることで中を泳いで縦にも横にも移動できるため、テーブルやベッドを重ねるよりラクに進めるようになる。

▲ツボに入ってピョンピョンしながら移動する姫。シュールすぎる

▲いつでもどこでも寝れるベッド。周りに魔物がいないかどうかは注意したい

▲サンドボックスゲームに出てくるような立方体の「水のかたまり」

「象の像」など特定のイベントでしか役立たないようなカリモノもあるが、これと「シンク」(物体や魔物と、自分の動きを連動させる特殊能力)することで壁から噴き出す熱風から身を守りながら梯子を登れることに気づいたときには「しめた!」と感じた。まさに『知恵のかりもの』というタイトルの通り、どのカリモノがどこで役立つか、知恵を働かせながら進んでいくゲームとなっている。

▲特定のイベントでしか用途がなさそうだった「象の像」に別の使い道が見つかり、嬉しい

また冒険の途中、リンクが失ったつるぎを手に入れることで、ゼルダ姫も「剣士モード」となって戦うことができるようになる。ただし「剣士モード」発動中はエネルギーゲージが消費され、無くなると強制的に元に戻ってしまうので、基本的には「ここぞ」というタイミングでしか使えない。このように「従来の『ゼル伝』と変わらない部分」と、「ゼルダが主人公となったことで革新された部分」の塩梅が非常に良いゲームになっていると感じる。

▲リンクが失くした不思議なつるぎを拾い、剣士モードへ

▲「剣士モード」ではカリモノの魔物をつくる手間なくバトルに挑めるが、画面左上のゲージがなくなれば強制的に元に戻ってしまう

なお、本作がCERO-A(全年齢対象)である部分にも注目したい。「ゼル伝」は『神々のトライフォース2』『スカイウォードソードHD』などCERO-Aのものが多い一方、『ブレス オブ ザ ワイルド』や『ティアーズ オブ ザ キングダム』など、CERO-B(対象年齢12歳以上)となっているものもある。

子供に初めて遊ばせる「ゼルダ」シリーズとしても、今作は非常に遊びやすく映像も可愛らしいので、おススメしやすい。事実、8歳の我が娘も、普段はいろいろなゲームに挑戦しては途中で投げ出していたが、今作に関しては筆者よりも先にエンディングを迎えてしまった。

もちろん、子供にも遊びやすいからイコール子供向けのゲームというわけでもない。マップの広さは『夢をみる島』の8倍とボリュームがあるのに加え、ストーリーも大人の胸を打つ部分がある。

例えば今作でゴロン族の新米族長として登場するダルストンは、「ゴロン族の心得」が記載された石板を常に持ち歩き、毎回それを見ながらでないと行動できず、それには部族の仲間たちも不安を寄せている。彼が物語の中で成長を遂げ、やがてとある形で石板を手放す時がきたシーンでは、かつて自分も仕事で似たような経験があったことを思い出し、個人的に胸が熱くなった。

そうした個性豊かなキャラクターが他にもたくさん登場する点は、じつに「ゼル伝」らしい。主人公がリンクでも、ゼルダ姫でも、ハイラルに生きるキャラクター達が魅力的な部分は変わらない。今作でも各地で時空の裂け目が現れるという未曽有の危機がハイラルに迫るが、これまでも常にそういった厄災と隣り合わせで生きてきたからこそ、きっとそこに生きる人々の個性も輝くのだろう。

『知恵かり』でもぜひ、そうした濃密なハイラルの世界や人々の巡り合いを堪能してほしい。

(文/平原学)

ガジェット通信ゲーム班

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