【完全ネタバレ】映画『エイリアン:ロムルス』解説 / マニアにとって今作はホラー映画ではなく「重要参考資料」

  by クドウ秘境メシ  Tags :  

映画『エイリアン:ロムルス』を解説する。駄文である。確かに今作はSFホラー映画というジャンルに分類することはできるが、エイリアンマニアにとって今作はホラー映画ではなく「重要参考資料」である。よってハラハラドキドキよりも「なるほど」と頷くことが鑑賞時間の大部分を占め、極めて興味深い内容となっている。

恐怖をメインの目的として撮影していないと思われる『エイリアン:ロムルス』

SFホラー映画としての恐怖の度合いはかなりソフトで、エイリアンシリーズのなかでもっともホラー表現が優しい。激しい描写を好まない今の世代に配慮した内容に仕上げたのかもしれない。おそらくだが、制作陣のコアなスタッフは「エイリアンらしさ」を残しつつも、恐怖をメインの目的として撮影していないと思われる。

制作陣はマニアの気持ちを良く理解している

「恐怖が目的ではない」というポイントから、もうひとつの理由が浮かび上がる。この作品はマニアに向けたエイリアンシリーズの情報補完であり「重要参考資料」。そう考えれば、制作陣はマニアの気持ちを良く理解していると感心させられる。もはやマニアはエイリアンシリーズに恐怖を求めておらず、探求心をくすぐる情報を求めているからだ。

過去作よりウェイランド・ユタニ社に言及する度合い増

過去作を知っているマニアにとって『エイリアン:ロムルス』はご褒美だ。『エイリアン』のノストロモ号と同じ効果音や宇宙船描写を使用。『エイリアンズVS.プレデター』でユタニ社がプレデターが残した武器を入手し、ウェイランド社と合併後、その技術が『エイリアン:ロムルス』の電子ガンに流用されている可能性を考えると心が躍る。

主人公たちがウェイランド・ユタニ社の支配から逃れ、新天地を求めて冷凍睡眠ポッドを入手するシーンで、次回作の展開をイメージさせるてくるのも凄まじい。冷凍睡眠ポッドが5つまとまった形状をよく見ると、ウェイランド・ユタニ社のトレードマークになっているのである。

そもそも冷凍睡眠ポッドはウェイランド・ユタニ社のものではあるが、マークが貼られているだけならまだしも、5つまとまった形状がウェイランド・ユタニ社のマークになるのは不自然であり、それは「どうあがいても逃げられない」ことを暗に意味していると思われる。主人公らは無事な結末を迎えたとしても、安心できないのである。『プロメテウス』や『エイリアン コヴェナント』と同じように。

また、過去作よりウェイランド・ユタニ社に言及する度合いと描写を増やし、悪しき日系企業の支配力と、その方針が腐りきっていることを強調。

ウェイランド・ユタニ社は『エイリアン4』の時代には没落しており、連合軍に覇権を奪われる未来が待っていると思うと、それまで振り回され続けたショウやリプリーを含む多くの犠牲者の不憫さを『エイリアン:ロムルス』を観ながら感じる。

<宇宙進出における人類の実行支配>
ウェイランド社 (エイリアン コヴェナントまで)

ウェイランド・ユタニ社 (エイリアン3まで)

連合軍 (エイリアン4)

『エイリアン:ロムルス』この瞬間もリプリーは宇宙空間を漂っている

『エイリアン』は西暦2122年の出来事で、『エイリアン:ロムルス』は西暦2142年、『エイリアン2』は西暦2179年。宇宙ステーション・ロムルスで若者たちがエイリアンと対峙している間も、リプリーは宇宙空間を漂っており、この先、死闘を繰り広げることになる。そんな彼女の状況にを思いを馳せるマニアは多いと思うが、そこがある意味「キモ」といえるかもしれない。

エイリアン生成物ともいえる漆黒の液体

遥か太古、地球に人類をもたらしつつ、エイリアンを利用しようとしたエンジニアたち。彼らはエイリアン生成物ともいえる漆黒の液体を「種の存続に関わる素」として研究していた。その漆黒の液体と酷似したものが『エイリアン:ロムルス』に登場している。

それを人類はどのように入手したか?『プロメテウス』の際にもたらされた可能性もあるが、そこは『エイリアン:ロムルス』で描写されておらず、『エイリアン コヴェナント』でデイビットが惑星オリガエ6に持ち込んだことから、のちにウェイランド・ユタニ社に渡ったと考えらられる。

<漆黒の液体の流れ / 推測>
LV-223 (プロメテウス)

パラダイス (エイリアン コヴェナント)

オリガエ6

LV-410軌道上ロムルス (エイリアン:ロムルス)

<登場・舞台となった惑星>
LV-223 (プロメテウス)
パラダイス (エイリアン コヴェナント)
LV-426 (エイリアン)
LV-410 (エイリアン:ロムルス)
LV-426 (エイリアン2)
Fury161 (エイリアン3)
地球 / パリ (エイリアン4)

しかし、『プロメテウス』や『エイリアン コヴェナント』の展開から考えるに、エンジニアの科学力でさえも漆黒の液体を完璧なものに仕上げられていなかったといえる。つまり、ウェイランド・ユタニ社は不完全な漆黒の液体しか得ておらず、『エイリアン:ロムルス』の時代においても、いまだ「エイリアンの力」を得られていないわけだ。

ウェイランド・ユタニ社は「エイリアンの力」を得るために躍起

西暦2179年、ようやく『エイリアン2』にて救出されたリプリー。その時代でもウェイランド・ユタニ社は「エイリアンの力」を得るために躍起だ。それは過去作すべてにおいてその力をモノにできていないことを意味する。力をモノにできていない点を深掘りしていくと、『エイリアン:ロムルス』がより興味深いものとなる。

人型エイリアンから見えてくる人類の愚かさ

『エイリアン:ロムルス』には人型のエイリアンが登場する。妊娠した女性から誕生したエイリアンであり、人間の胎児とエイリアンのDNAが混在した存在だ。劇中の描写から考えると、ウェイランド・ユタニ社が漆黒の液体を改変したものを体内に注入したことにより、胎児に異変が起きた可能性が高い。そのビジュアルはエンジニアに極めて似ており、漆黒の液体がエンジニア由来である裏付けにもなっている。

今まで複数の人型エイリアンが登場してきた。エンジニアを母体としたエイリアン、リプリーの遺伝子を持つエイリアン、プレデターを母体としたプレデリアンなど。しかしどれも人類とはかけ離れた存在として誕生。たとえばエンジニアから生まれたエイリアンは完全に凶暴で、従来のエイリアンと変わらぬ存在。リプリーの遺伝子を持つエイリアンは、リプリーを母親だと思う赤子のような思考はありつつも、極めて凶暴。

『エイリアン:ロムルス』の人型エイリアンに関しては、もっともビジュアルが人類に近いものの、エイリアンとしての凶暴性は健在であり、母親を食べるという凶暴性も持つ。エンジニアから生まれたエイリアンに近いものを感じさせる。

そこからわかってくることは、人類は『エイリアン4』の時代でも漆黒の液体、そしてエイリアンの力をモノにできていないということ。気がつけば、地球は焼け野原に。もはやエンジニアやエイリアンが手を下さなくとも、人類は衰退し、消滅へと向かっているのであった。

<エイリアンシリーズの時系列>
プロメテウス
エイリアン コヴェナント
エイリアン
エイリアン ロムルス
エイリアン2
エイリアン3
エイリアン4

<エイリアン関連作品も含む時系列>
プレデター:ザ・プレイ
プレデター
プレデター2
エイリアンVS.プレデター
エイリアンズVS.プレデター
ザ・プレデター
プレデターズ
プロメテウス
エイリアン コヴェナント
エイリアン
エイリアン ロムルス
エイリアン2
エイリアン3
エイリアン4

エイリアンマニアは絶対に鑑賞すると思われるが

ほかにも多数の散りばめられた「重要参考資料」的な要素がある『エイリアン:ロムルス』。エイリアンマニアは絶対に鑑賞すると思われるが、「エイリアンシリーズを観たことがない」「観たことあるけど詳しくない」という人でも、「宇宙からエイリアンを回収したら暴れだしたから逃げる映画」ということだけ頭に入れて観れば、問題なく鑑賞できるはず。

エイリアンシリーズは詳しくないけどもっと楽しんで観たいという人は、『エイリアン』を観てから『エイリアン:ロムルス』を観るだけでオーケー。そういう点でも、続編でありながら入り込みやすい作品といえよう。

個人的には、いまだに解明されていない『エイリアン』におけるLV-426のスペースジョッキーの存在について、より深掘りできる続編を求めたい。つまり『エイリアン』以降の補完作品ではなくエイリアン前日譚として『エイリアン コヴェナント』の続編を観てみたいが、皆さんはどうお思いだろうか。


※記事画像は20世紀スタジオの公式Xツイートより引用

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