日本舞踊に魅せられた金髪碧眼の『ヒメ』が主人公である男子高校生『菊央』の家に弟子入りを志願して家に転がり込むことから始まる青春日本舞踊マンガ『さんさん桜』の魅力の秘密を、作者の「くらの」先生(以下、くらの)に聞いてみました。『さんさん桜』は現在、LINEマンガにて好評連載中です。
さんさん桜|漫画無料・試し読み|LINE マンガ
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日本舞踊の名家に生まれた菊央は父の死をきっかけに舞台を降りた。そんななか、突然家にやってきたのは、日本舞踊を習いにやってきたという金髪碧眼のヒメ。そんなヒメに振り回されながら、菊央は再び踊る決意をするのだった――。
(※『LINEマンガ』サイト内の作品紹介文より)
🌸日本舞踊って知ってますか?🌸(1/2) pic.twitter.com/orlRWdYnYm
— くらの🌸さんさん桜連載中 (@kuranonn) 2018年12月7日
――連載中の『さんさん桜』が単行本化されました。おめでとうございます。初単行本とのことですが、実際に本として完成したものを手に取ってどのような感情が湧き上がってきましたか?
さんさん桜 1 くらの:コミック | KADOKAWA
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くらの:ありがとうございます。「あ、本だ」って思いました。
飛び跳ねて喜ぶんだろうと思ってたんですけど「もっとこの構図工夫できたんじゃないか、展開はこれでよかったのか、作画は本当にこの時精一杯の力出せていただろうか」など厳しい目でみてました。でも手にとって喜んでくださってる読者さんの言葉を受けて嬉しさが込み上げてきました。
――日本舞踊を舞台にしたマンガは異色だと思いますが、日本舞踊を題材にしようと決めた要因はありますか?
くらの:自身が中高生の時に習っていたのとマイナージャンルだからです。しかし調べれば調べるほどわからないことが増えて一時期は後悔しました(笑)。
自分が習っていたのは演歌がメインで古典的な曲は少ない『新舞踊』と呼ばれるジャンルでしたし、お稽古代は先生のご厚意で無料同然でした。『五大流派』なんて知ったのはつい最近なんです。お月謝も1万円台がザラだなんて知りませんでした。Twitterで漫画の宣伝をしたら日舞経験者の方からウチに取材来てくださいと声をかけられる事も増え、今日までに10人以上お話を聞かせて頂きましたが、師が違えばここまで変わるのかと愕然としました。
(※『五大流派』とは、『坂東』『花柳』『藤間』『若柳』『西川』の5つの流派とのこと:単行本第1巻p30より)
――日本舞踊の経験があるとのことですが、ズバリ日本舞踊の魅力とは何でしょう?
くらの:一生涯続けられる奥深さ…ですかね。2歳から晩年まで踊っても極められないと聞きます。練習して上達したらまた新たな課題が見えてそこが面白いと思います。
見るより踊ったほうが楽しいです。振りのひとつひとつに理由があって、数分間に凝縮された伝統芸能の美しさ…がだんだんわかってくる面白さ。それを知らない人に伝える難しさを痛感しております…。好きなジャンルに引き込むって難しいですね。
――格闘系マンガのようなバトルや派手なシーンもなく、ごく普通の高校生の日常として淡々と話が展開していきます。
くらの:日本舞踊って特別なイメージあるんですけど、実際は全然そんなことないんですよ。名取なのに古典系の曲は眠くなるとか、ダンスの方が好きだとか(笑)。
実際取材させていただいた方々は教室の隣にいるような人たちなんです。特に1巻以降は学校メインになってくるので、日本舞踊が少しでも身近になってもらえればな、と。
――物語の中心人物である『ヒメ』は金髪碧眼で出身国籍不明というミステリアスな設定で登場します。おまけに主人公である『菊央』の家に転がり込み、弟子入りを志願する大胆さがあります。「この2人を中心に進めて行こう」とキャラを決める決め手になったようなものはありますか?
くらの:元々わたしが金髪碧眼の意志の強いキャラが好きで、その対極のキャラを…といった感じですかね。可愛い子にはアンバランスにピアスたくさんつけたり腹筋割ったりとか性癖詰め込みました。
菊央の元案は黒髪のさわやか少年だったんですけど、気がついたらマイルドヤンキーみたいになってました。二人を中心にというか、この二人だから物語が生まれました。
ヒメの性別について連載当初からどっち?と聞かれる事が多かったんですが、自分からしたらどうして皆聞くんだろう?決まってるのになぁと不思議でならなかったです(笑)。菊央は軽そうな見た目だけどハンカチはしっかり持ってるしご飯も綺麗に食べるいい子です。
――登場人物の心理描写が繊細で、強く惹かれるものがあります。特に『ヒメ』が名言のような強い発言をする時の表情が特に魅力的です。
くらの:ありがとうございます。やっぱ見せ場になるシーンなので、何回も描き直したり他のコマより時間かけてます。特に眼力。大切なことを伝える時は相手の目を見てしっかり言わせてます。逆に目を閉じている時は…。
顔描くのが一番苦手なので、注目してもらえると嬉しいです。
――日本舞踊に詳しくない自分でもわかりやすくとても読みやすいのですが、工夫していることはありますか?また、踊りを絵として表現する時に気をつけていることなどはあるでしょうか?
くらの:殆どの読者が知らないのを前提に描いているので、そう言ってもらえると本当にホッとします。情報が多すぎるとわたしもついていけないので、1話に1日舞ネタ入れようって心がけてます。
気をつけてることは、やはりどうしても絵にすると地味なんです。腕の可動域は狭いですし足は開かないし…。なので謎の風(笑)を吹かせたり変なアングルで躍動感出したりとかですね。日本舞踊経験者の方々からも賛同の声をよく聞きますのでそこはかなり安心しました。
――先ほども日本舞踊経験者から取材をしたとの話がありましたが、そういった方々から作品に対して、あるいはくらの先生自身に対してかけられた言葉で何か印象に残っているものはありますか?
くらの:日舞の漫画が圧倒的に少ないので「題材にしてくれてありがとう!」です!みなさん嬉々として踊りについてアレコレ語ってくださってとても嬉しかったです。
作中に出てくる豆知識なんかも「わかる~」とか「初めて聞いた!」とか細かく指摘してくださり、描いてよかったと毎度思います。とくに『金の目』なんかは知らないって方が多くて驚きました。わたしも知らなかったですが(笑)。
(※『金の目』とは「正面を見る目、いちばん大切な目」のことだそうです。)
――連載マンガとして、前話までの謎を回収し新たな謎を残すという形でストーリーが展開していくので、読者としては次の話がついつい気になってしまう仕組みがとてもうまくできていると思います。話を展開していく上でのストーリー作りのポイントみたいなものがあれば…。
くらの:逆…逆なんですよ…。ヒキの無い話を描くのがとても苦手なんです…。ヒキがないと満足しちゃってもう次読まれないんじゃないかって不安なんです。
――では、そういった心境の中でどうやってストーリーを紡ぎ出していったのでしょうか?
くらの:そうですね、完結型が不安で苦手なら自分がここで「続く」だったら面白いんじゃ!?と舵を切った感じです。克服を諦めました(笑)。
――ストーリーを作り出す上での手がかりというか、取っ掛かりみたいなものは
くらの:まず大筋を決める、その中で外せないエピソードや台詞を列挙しなんとなく配置する、オチと見せ場を決める、ネームに描きだす…そしたらキャラが動いてくれるという流れです。幸いもエピソードが止むことがないので救われております。それらを隙あらば日舞ネタにくっつけるという感覚頼りの手法です。
――ネタバレにならない程度で結構ですが、今後の展開で注目してほしい点はありますか?
くらの:ヒメの打算的なところ、菊央の優しさ、菊央とヒメの過去を知る花崗(みかげ)の登場。表現者であるという事はどういうことか、それぞれの葛藤をぜひ見守ってあげてください。
――最後に読者の方にメッセージをお願いします。
くらの:いつも温かい応援ありがとうございます!漫画で伝えたいことは漫画に描いたのでぜひ読んで頂ければ幸いです。それで何か感じてもらえたら嬉しいです。
――貴重なお話、ありがとうございました。
※トップ画像はくらの先生のTwitterより
https://twitter.com/kuranonn/status/1062178662047346688