アベノミクスの成長戦略に新たな労働時間制度が組み込まれるようです。
年収1000万円以上に加えていくつかの条件が加わるようですが、分かりやすい年収1000万円だけで考えてみると、インフレが進んだ場合将来どのようになるのかという疑問が生じます。
40年後には一般労働者も年収1000万円に
年2%のインフレが続くとすれば、10年後には22%程度のインフレになり、20年で約50%、30年で約80%、40年で120%ものインフレになります。賃金がインフレ率と同程度だけ上がるとすると、10年後には現在年収820万円の人が年収1000万円になり、40年後には年収452万円の人が年収1000万円になります。現在年収1000万円以上の人は4%程度ですが、10年後には8%、40年後には34%になります。女性の所得が低い状況ですので、女性の所得が男性と同等になった場合は男性の所得で考える必要があります。男性の場合10年後年収1000万円になるのは14%で、40年後は約50%になります。年収を絞れば一般労働者が対象にならないという意見には疑問が残ります。
40年後と言えば現在30歳の人が70歳になる頃です。少子化で高齢者も働かなければならないことを考えると、70歳でも働いている人はかなり多いと予想されます。現在30歳年収452万円の人は、70歳になったら同じ生活水準で残業代なしという形になってしまいます。
40年後には年収1000万円より高い水準が基準になっているかもしれませんが、最低賃金が大きく上がらないのと同様に、インフレ率ほどにはあがらない可能性が高く、1000万というきりの良い数字を変えたくないという意思も働きそうです。
40年後にはどうなっているのか
1000万円という数字を変えないなら半数の労働者が残業代なしという40年後はどのようになっているのかを考えてみると、労働安全衛生法の改正と判例の積み重ねで対応しているように思われます。
残業代なしなら過労死レベルで働いても企業は止めることができないことになります。勝手に働きすぎて過労死したら企業の責任というのでは企業は困りますので、健康は自己管理して結果は自己責任という契約を結ぶことになります。つまり企業は残業代を払わなくするついでに労働者の健康を管理する義務まで放棄することになります。仮にある労働者の年収を1500万円として、基本給が1000万円、残業代が500万円、企業がこの労働者の健康を管理するための費用が100万円だとします。この労働者は年収1600万円で契約を結べば損得なしになりますが、実際は1500万円を上限として銭闘が行われると予想されます。企業は労働時間を管理できないので、この労働者が残業代を稼ぐためにまじめに働いていないとの主張を入れながら、1500万からどれだけ削れるかを考えるはずで、労働者は同じだけ働くから1500万円欲しいと主張することになります。1500万円で決着がついても実は労働者が100万円損していることになります。
裁判では健康管理を自己責任とする契約が有効かどうかが焦点になりそうですが、無効にすれば企業が労働時間を管理する制度に逆戻りするし、有効として過労死は自己責任とするのも難しいなら、過労死に至る状況を分析することになり、非常に時間がかかる裁判になります。そこで健康管理費をどれだけ契約に組み込むかで判断するようになるのではないでしょうか。年収1000万円+健康管理費10万円なら、病院に行くとか薬を飲む程度しか出来ないので、症状が出ることそのものを抑えることは出来ません。しかし年収1000万円+健康管理費500万円ならどうでしょう。自分の仕事の半分は他人に任せることができるようになります。企業が期待する成果の半分は他人に任せることができるのに過労死するなら自己責任と言っても良さそうです。ただ、芸術関係などその人にしか出来ない仕事の場合はもう少し細かく契約を結ぶ必要がありそうです。
年収1000万円だから他人事と思わずに、日ごろから情報収集するか弁護士などの法律家にアドバイスを受けることが出来るようにしておくほうが良さそうです。
(画像はイラストレーターのみぃさんから頂きました)