キングジムのポメラシリーズはテキスト書きに特化したフルキーボード搭載のデジタルメモ帳だ。初代のポメラから「こんなテキストを打つだけのデバイスなんか売れるんかいな?」と疑問を持つ層もいたのだが、ふたを開けてみると大ヒット商品になっていた。そういう記者も2015年からDM100を愛用していた。今回はDM250を手に入れたので当時では考えられなかった「メーカー保証外」の禁じ手「PC化」を実験してみた。(メーカー保証外なので実行は自己責任である)
※参考記事
マニアもうなる?キングジムのアイテムをとことん組み合わせて取材してみた!
https://rensai.jp/403533 [リンク]
今さらながらキングジムのデジタルメモ『ポメラDM100』を使い倒してみた
https://rensai.jp/146137 [リンク]
辞書やIMEを妥協のない高級品で武装し、キーボードにもこだわりを見せた同シリーズは、テキストを書き続ける作家や記者、芸人のネタ書きに至るまで多様な活躍を見せている。代を重ねても基本的な使い方は変わらないものの、デバイスのハードウェアや外部連携のソフトは進化し続け、いつの間にかコアなポメラファンが存在するまでに至った。
もちろん、テキスト書きをしてアプリを通じてまたは、従来通りQRコードを生成してスマホに転送し、最終的な成果物に仕上げるという使用方法が基本で、これ以上でも以下でもない。テキスト打ちに特化しているので、いかに心地よく楽に場所を選ばず長文テキストを打ち続けられるかに重点が置かれている。
しかしコアなファンはポメラのハード的な実力を引き出す方向にシフトしている。外観で液晶画面があり、フルキーボード搭載、内部にはPCと同様にCPUとメモリにストレージが入っていれば考えることは一つだ。
PCとして動く?
本機は電源投入後には専用のソフトウェアが起動し、即座にテキストを打ち始めることができる。画面は白黒だが初期の製品のように液晶の色ではなく、白地に黒またはその反転だ。テキスト転送用にスマホアプリに接続するため、Wi-Fiにはアクセスできるがネット接続はできない。本機はテキストを打つことのみに集中し、ネットに接続して集中力を削ぐことを防ぐ目的もあり、同社では従来からこの方針を貫いている。ノーマル使用者もこれに対して大きな不満はなさそうだ。
しかしプログラマーやエンジニアたちは、本機はもっと高性能であることを見抜いており、先代のDM200からLinuxをインストールすることを試みて成功している。しかもLinuxのDebianを本機の仕様に合わせて改修し、専用OSまで作り出した。これをSDカードにインストールすれば選択的にポメラとLinuxをデュアルブートすることができる。つまりLinuxを動かせるほどの性能があるわけだ。もっともWindowsが動くノートPCと比較する余地はまったくないが、この筐体で簡易なPC環境が整うこと自体は驚異である。
ただしOSそのものはSDカードにインストールするが、本機のストレージ(eMMCを採用している)上のカーネル部分を書き換えるためメーカー動作保証外であり、故障しても保証は受けられないので自己責任で行う必要がある。よってインストールの詳細は掲載しない。
写真は本機のオリジナルの中身をSDカードに専用バックアップするツールを使用して、丸ごとコピーしているところ。
専用のLinuxは有志により無償公開されていて(Linuxそのものが元来無償で自由に改変できることになっている)、前述のバックアップツールも付属している新設設計だ。
しかし、最低限のLinuxを動かす知識は必要なので、万人におススメできるわけではない。LinuxをインストールしてもノートPC並みの性能があるわけではないので、Windowsのようにマウスでスイスイ何でも作業とはいかないことに注意が必要だ。基本はコマンドで動かすくらいの覚悟が必要だ。
それでもLinuxで最も軽いデスクトップの一つであるxfce4が実装されているので、コマンドで呼び出せばGUIでマウス操作も可能なのがすごいところだ。
写真はSDカードにLinuxをインストールしているところ。
OSのインストールが完了すると、指定の方法で電源を投入することにより、デュアルブート環境でLinuxが起動する。普通に電源ボタンを押せばポメラが起動するので、そのまま通常のポメラとしてテキスト打ちを開始できる。
写真はLinuxが起動しているところ。
LinuxはCUI(コマンド入力による環境)で起動するので、デスクトップを呼び出すとWindowsのようなOSのデスクトップ画面が現れる。昨日はかなり限られるものの、以降の操作はPCと大して変わらない。動くのであればLinuxのアプリをインストールすることも可能だ。この状態でネットにも接続できるので(設定ファイルを書き換える必要がありWindowsよりも敷居は高い)、実用面としてはネットサーフィンではなく、ポメラで保存したテキストをサーバーにアップロードしたり、CMS(WEBコンテンツを管理するシステム)を操作して記事やブログを管理することもできる。記者の場合は現在のところ、ポメラもLinuxも正常に動作している。すでに写真で気が付いているだろうが、液晶画面はカラーだ。つまり本機は、そもそもカラーで表現できるパネルであり、フルカラー高解像とまではいかないものの、実用上の問題はない程度の表現ができるモニターであることは間違いない。
ポメラマニアは、さらにLinux上にエミュレータを導入して昭和のレトロPCとして当時のゲームを再現して楽しんでいるようだ。
本稿ではLinux導入を推奨するわけではないものの、本機が持つポテンシャルがかなり高いことを示すため今回の実験をした。デジタル機器にかかわらず事務用品においてもキングジム製品のファンはかなり多く、新製品が出るたびに買い求めて独自のアイデアで使用方法を模索する行動が盛んに試されている。
ポメラはノーマル状態ですでにヒット商品だ。そのままでの使い勝手はテキスト打ち用途では限りなくPCに近く、携帯性はタブレット端末以上だ。シリーズが進化するたびに、通常とは別の次元でマニアがいじり倒しPC化して楽しむことだろう。そのためだけの購入しているファンも多いことからそれがわかる。それほど高いポテンシャルを持ったポメラDM250なので、本来の目的で使用する限りにおいては、動作でストレスがたまることはないことは断言できる。DM250でテキスト打ちに没頭してみてはいかがだろうか。
※写真はすべて記者撮影