ニートのための10章

  by 白井 京月  Tags :  

これからの時代を作るのはエリートではなくニートかもしれない。厚生労働省の調査によると、35歳未満のニート(働いていない+教育機関に行っていない)の数は70万人とされる。35歳という定義に特に意味はない。実態として、日本のニートの数は150万人~200万人と推定できる。この一群が、社会的、経済的、文化的にどのようなインパクトを持つのかという視点とは別に、今日は実際のニート研究を踏まえて、ニートとなった場合に注意すべき10項目を指摘したい。

1.ニートであることに罪悪感や劣等感を持たないこと

ニートは甘えでも努力不足でもない。これは大きな社会現象なのであって、確率的に幸か不幸かそういう状況になっただけのことだ。自己責任などと言う人もいるが、いったい何の責任なのか。別に犯罪や問題を起こしたわけでもないのに、責任という言葉が使われるというのは意味不明である。とにかく、他者からの無責任な批判に耳を貸してはいけない。「私はニートですが、それがなにか?」と胸を張るくらいで問題ない。

2.時代の文法に騙されないこと。

現代の日本には20世紀のアメリカニズムの影響が強く残っている。成果、成長、成功を求めて努力することが当然のように思われている。しかし、それは現代日本に特有の考え方であり、歴史的に見てもとてもいびつなものだ。そういう価値観に向いている人など、おそらく5%もいない。多くの人が無理をして時代の文法に隷従しているだけなのだ。ニートは視野を広く持って、働くことにこだわらない生き方を考えても良い。

3.生活のリズムを守る

ニートにとって一番やっかいなのが、規律ある生活が難しくなることだ。相当に自覚的、自律的でない限り、生活のリズムが狂う。引きこもりがちになり、食事と睡眠の時間が乱れ、昼夜逆転になることも少なくない。生活のリズムが狂うと、気力、体力、知力が確実に衰退する。外出を心がけ、できるだけ用事を作る。生活リズムの問題がニートにとっての一番お脅威だということは知っておく必要がある。

4.三快(快食、快眠、快便)を実感する

生理的欲求を満たすことは、人間だけでなく動物の基本だ。まったくもって普通の現象だが、日々の快食、快眠、快便に喜びを感じるくらいの余裕を持とう。

5.好きなことを一つ作る

社会との接点が乏しくなると、いろいろなことへの関心が薄れ、好奇心がなくなって行くことが多い。何か一つ好きなことを見つけ、毎日その活動を続けることができれば、毎日が充実する。どんな活動でも良い。だれからも評価される必要はない。ただ、活動することから充実感を得られることが大切なのだ。絵でも、俳句でも、写真でも、散歩でも、日記でも、本当に何でも良いので楽しみを見つけよう。

6.セーフティーネットに詳しくなる

ニートにもパラサイトと一人暮らしがある。経済的に余裕のあるニートもいるが、それは少数派だ。経済的に困窮している場合は早めに行政に相談するのが良い。マスコミでは悪辣な行政の対応が時々記事になるが、地域差はあるものの多くの行政は親切で保護的だ。生活保護以外にもいろいろな制度がある。間違っても、無知が故の餓死を選んではいけない。いや、実際にそういう例は少なくないのだ。

7.藁をつかまない

溺れる者は藁をもつかむというが、ニートからの脱出や一発逆転を狙って、怪しいカウンセラーやセラピスト、コンサルタントや自己啓発本に頼る人が少なくない。しかし、そんなものは蟻地獄だ。精神や心理では問題は解決しない。客観的に世界を、そして自分自身を認識すること。甘い誘惑に騙されないようにしよう。

8.コミュニケーション・スキルなどいらない

ニートにはコミュニケーション障害が多いという説がある。しかし、この説は大嘘だ。特に一般企業が望むコミュニケーション・スキルというのは、空気を読んで上司に従順であるということでしかない。本来のコミュニケーションとは、相互理解なのだが、一般企業の側には雇用者を理解しようという発想すらないのだ。いったい、どちらがコミュンケーション障害なのか。
そもそも、なんにでもスキルだとかノウハウだとかいうものを作るというのはビジネスである。本質的に、コミュンケーションにスキルなどいらないのだ。無理をして仲良く繋がろうなどと害悪のようなスキルを使うことは、人間関係をおかしくするだけでなく、自分自身をもおかしくする。書店には、この種のトンデモ本が氾濫しているので注意して欲しい。

9.コミュニティに参加しよう。

ニートには職場も学校もない。つまり、一定の居場所がない。仕事をすることよりも、居場所を作ることの方がはるかに重要だ。それには、趣味のコミュニティが手軽でお勧めだ。友達ができるかどうかは別として、人と接触し、交流するというのは、本能レベルで必要なことなのだ。ただし、馴染めない場合には無理をして続けないこと。ある程度、居心地のいい居場所でなければ意味がない。

10.料理を作ろう

料理を自分で作れると経済的にも余裕ができる。それに、料理は創造的な活動で、五感を使うので脳も活性化される。また、料理が作れるということは生きる自信にもなる。毎食でなくても良い。とにかく、料理のスキルだけは身につけておこう。

ニート問題については、もっぱらニートに社会的を身につけさせること、そして産業社会に組み込むことが暗黙のうちに目標とされてしまっている。しかし、この発想から生まれる解決策は、ことごとく的外れなものでしかない。そうではなく、ニートというクラスタの存在を受け入れ、それをネガティブに批判するのではなく、ニートと共生する社会へと変革することが必要なのだ。社会経済学的に考えて、ニートが減少する可能性は極めて低いのだから。

最後にニート諸君にひとこと。
「恥じることは何もない。毎日を楽しもう」

http://j-robert.hatenablog.com/entry/2014/04/18/162826

フリーの哲学者。作家。詩人。ポパー的可謬主義者であるとともにローティ的アイロニスト。 テオリア(観照)のある生活を理想としている。静かなる社会派。目標は可愛いお爺ちゃん。

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