新潟国際アニメーション映画祭 開催2年目にして充実のラインナップを達成! 課題は集客

  by リットーミュージックと立東舎の中の人  Tags :  

新潟市民プラザをメイン会場に世界各地から集まった長編アニメーションを3月15日からの6日間で約60本上映した第2回新潟国際アニメーション映画祭。その開催の様子を『押井守の映画50年50本』『映画の正体 続編の法則』(立東舎)の編者で新潟市出身の鶴原顕央が徹底レビューする。

国際色豊かな作品が並んだコンペティション部門

昨年のコンペティション部門審査委員長押井守がグランプリを授けたフランス・ルクセンブルク・カナダ・オランダ合作映画『めくらやなぎと眠る女』(22)は日本公開を今夏に控えるが、開催第2回となる今年は『ブレッドウィナー』(17)でアフガニスタンに生きる少女の苦難を描いたアイルランド出身のノラ・トゥーミー監督が審査委員長を務めた。その『ブレッドウィナー』特別上映も実施され、観客との質疑応答に登壇したノラ・トゥーミーは「アニメーションには開拓の余地がまだまだある。我々は表面をこすったにすぎない」とアニメーション表現の可能性を示した。

映画祭の目玉であるコンペティション部門は、昨年は欧米地域に偏ってしまい、アジアからの出品は日本アニメ『劇場版「ヴァンパイア・イン・ザ・ガーデン」』(22)のみにとどまったが、今年はタイのCGアニメーションSF叙事詩『マントラ・ウォーリアー〜8つの月の伝説〜』(23)や手描きの楽しさに溢れたブラジル映画『深海からの奇妙な魚』(23)など国際色豊かな作品が顔を揃えた。

©Riff studio / ASAP Corporation co.,Ltd.

©Marao Filmes

国際映画祭として世界各地の作品をバランスよく並べるか、それとも作品の質を重視するかは常に悩ましいところだろうが、今回は日本では昨年劇場公開済みでネットフリックスでの配信も開始している岡田麿里監督の『アリスとテレスのまぼろし工場』(23)や昨秋の東京国際映画祭で上映済みのインドが舞台のスペイン映画『スルタナの夢』(23)など世界初上映どころかジャパンプレミアですらない作品がコンペティション部門に選ばれた。しかし作品の質と国際バランスの両方を揃えたと思えば納得できるラインナップである。

©新見伏製鐵保存会

©Isabel Herguera

グランプリは『アダムが変わるとき』

最高賞であるグランプリを受賞したのはカナダ製のフランス語映画『アダムが変わるとき』(23)。

©PARCE QUE FILMS

「あんた、また太ったね」と祖母に愚痴を言われるたびに青年アダムの体型が巨大化して変形していく。呪いの言葉をかけられたのか、それとも思春期の悩みをヴィジュアル化しただけなのか。その解釈は観客に委ねられるが、どんどん異形化していく青年アダムにやさしく寄り添うアニメーションだ。画風やオフビートな雰囲気はマイク・ジャッジのテレビアニメ『ビーバス・アンド・バットヘッド』(93-98)や『キング・オブ・ザ・ヒル』(97-10)に似ているが、バンドミュージシャンでもあるジョエル・ヴォードロイユ監督がキャラクターを描き、監督のパートナーであるキャロリン・シェーナが背景を、そしてバンド仲間のニコラ・ムセットがメインアニメーター。少人数スタッフで長編アニメーションを実現させた野心と、思春期の機微を描こうとする明確なテーマが評価されたのだろう。

昨年の審査委員長押井守が通常の映画祭の監督賞と脚本賞の代わりとして設立した傾奇(かぶく)賞に選ばれたのは前述の『アリスとテレスのまぼろし工場』、そして挑戦的な作品に与えられる境界賞にはフランスのサイバーサスペンス映画『マーズ・エクスプレス』(23)が選ばれた。

©Gebeka Films / Everybody on Deck

画期的なアニメーション映画『オン・ザ・ブリッジ』

今回のコンペティション部門では受賞作品以外にも忘れがたい作品が多く上映された。スイス・フランス合作映画の『オン・ザ・ブリッジ』(22)は双子の監督コンビであるサム&フレッド・ギヨームが、死期を迎えつつある人々を取材。映画のための音声収録である旨を伝えて、カードを見せて自由に語ってもらう。たとえば「針のない時計」が描かれたカードを。本編では駅に集まった人々が列車に乗り、その列車が橋の上で停まる。そして橋が崩落する。その駅の待合室に針のない時計が置いてある。劇中では乗客たちが会話をしているが、実際の取材は1人ずつ収録している。個々の音声をまるで会話をしているように組み替えているのだ。ホスピスで取材をしているので、取材対象者は駅にも行っていないし、列車にも乗っていない。シネマのマジックを駆使した映画である。乗客を乗せた列車が、あの世とこの世のあいだである橋の真ん中で停まるから『オン・ザ・ブリッジ』というタイトルであるが、ドキュメンタリーとフィクションのあいだを行くから『オン・ザ・ブリッジ』でもある。こういう方法論で映画を作ることが可能なのかと驚かされるアニメーションであり、この技巧を用いれば各国版の『オン・ザ・ブリッジ』も制作可能だろう。

©Sam and Fred Guillaume

だがアニメーションとしては満点をつけにくい。音声に基づいて俳優が演技をして、その映像をアニメーションに変換しているが、演者と声の不一致があるので顔はハッキリとは描かれない。取材対象者が匿名を希望したという理由もあって、登場する人々は後ろ姿であったり、影がかかっていたり。そのぼんやりとした映像が煉獄を感じさせると擁護することも可能だが、表情を描くことがアニメーションの醍醐味だとすれば、それをさけているから受賞に至らなかったのだろうと推察できる。しかし画期的な映画であることは間違いない。

地元に根づく映画祭をどう実現させていくか

コンペティション部門12作品のほかにも高畑勲レトロスペクティブ、さらには富野由悠季監督のアニメ業界歴60周年を記念して『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』(88)も上映され、富野監督とメカニックデザイナーの出渕裕が新潟に駆けつけた。

同上映は入場を待つ観客の列で会場がごった返すほどの盛況ぶり。県外からの観客も多くいたはずだが、「富野監督が新潟に来てくれた」との声も聞こえた。もちろんチケットは完売。逆にコンペティション部門は、土日の昼間の上映であろうとも客席が完全に埋まることはなかった。映画祭の存在が世間に周知されていないからではない。『逆襲のシャア』のように作品によっては満席になるのだから、日本の、特に新潟の人にとっては未知の新作映画であるコンペティション作品の魅力をいかに伝えていくか。カルフォルニアのサンタバーバラ国際映画祭のように地元の小中学生を学校単位で招待して特別上映を実施すればいい。せっかくなら日本映画ではなく外国映画を上映すべきであり、日本語字幕での上映となると小学生には難しいかもしれないから、近隣の中学生を学校単位、あるいは学年単位で映画祭に招待し、上映後は監督やプロデューサーとのQ&Aを実施する。海外からアニメーションの作り手が新潟にやって来る稀有な機会だ。登壇ゲストが英語OKなら、英語で質問してみたいと考える中学生もいるだろう。この特別上映を映画祭初日の金曜日に実施すればローカルテレビ局のニュースにもなるだろうし、我が子が鑑賞した映画を土日の通常上映時に家族全員で観てみようと考えるかもしれないし、別の映画も観てみようと思うかもしれない。そうやって若い観客を育てていく。貴重な体験をした少年少女が将来は映画祭スタッフになることもあるだろうし、アニメーターや映画監督をめざす可能性もある。新潟国際アニメーション映画祭は地元の観客のことをもっと意識すべきである。今年のコンペティション部門作品なら奨励賞を受賞したレオナルド・ダ・ヴィンチとマルグリット王妃を主人公にしたアメリカ製のストップモーション映画『インベンター』(23)や、月に移住すべく顔や体を四角に矯正する人類を描いた摩訶不思議なコロンビア映画『アザー・シェイプ』(23)は家族で鑑賞可能なアニメーションだった。

©2023 Curiosity Studio

©HIERROanimacion and GIZ Studio

ファミリーアニメという言葉はあっても、ファミリー実写という言葉はない。キッズアニメも同様。キッズ実写という言葉はない。アニメーションには取っつきやすさがある。地元に根づく映画祭を実現しやすいはずなのだ。難解な作品ももちろんあるが、それは映画祭事務局がきちんと宣伝誘導すればいいだけのことである。

開催2年目にして早くも充実のラインナップを用意でき、映画祭としては理想形を実現したと言っていいだろう。残る課題は集客だけなのだから、アニメーションの特性を活かして、地域密着型の、住民にフレンドリーな映画祭にしていけばいい。

(文と写真:鶴原顕央)

『映画の正体 続編の法則』
http://rittorsha.jp/items/20317420.html
著者: 押井守
定価: 2,200円(本体2,000円+税10%)
発行: 立東舎

気がつけば興行収入ランキングの上位を占めるのは続編映画ばかり。そんな時代だからこそ、続編映画を通して映画の正体に近づいていきたい。人はなぜ続編映画を作り、シリーズものを見に行き、あまつさえリブートを企画するのか。自らを続編監督と自認する押井守監督が、その秘密に迫ります。第7章に〈ハリウッド版『ゴジラ』と国難映画〉を収録。

リットーミュージックと立東舎の中の人

( ̄▼ ̄)ニヤッ インプレスグループの一員の出版社「リットーミュージック」と「立東舎」の中の人が、自社の書籍の愛を叫びます。

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