発売が発表されてから個人的にもっとも注目していたゲームハードがとうとう発売された。それは、『Steam Deck』! PCゲームをダウンロード配信しているストア『Steam』のゲームがプレイできる携帯ゲーム機だ。
筆者と同じように注目していた人も多いだろうし、買うべきかどうか迷っている人も少なくないのではないだろうか。ちなみに筆者の個人的な感想としては、断然「買い」! この記事で『Steam Deck』のレビューをしつつ、その理由を語りたい。
『Steam』で配信されるPCゲームがプレイ可能な携帯ゲーム機
既に触れたとおり、『Steam Deck』はPCゲームのダウンロードストアである『Steam』のゲームがプレイ可能な携帯ゲーム機だ。PCゲームのダウンロードストアには『Steam』以外にも『Battle.net』『Epic Gamesストア』などさまざまなものがあるが、Valve社の運営する『Steam』は、日本でもっとも有名なストアといっても過言ではない。実際、最近のゲームは複数の家庭用ハードと並んで『Steam』での配信が告知されることが多く、たいていのゲームは『Steam』でプレイ可能だ。
(画像はPC向け『Steam』)
もちろん、『Steam』で配信されないゲームもある。代表例は『スプラトゥーン』シリーズや『ポケットモンスターシリーズ』をはじめとする任天堂のゲーム、それから『フォートナイト』や『オーバーウォッチ2』など。とはいえ、これは当然のこと。
(画像は『スプラトゥーン3』)
『スプラトゥーン』シリーズや『ポケットモンスターシリーズ』シリーズをリリースしている任天堂は、『Nintendo Switch』の提供企業。『フォートナイト』は『Epic Gamesストア』を運営するEpic Gamesの看板タイトルで、『オーバーウォッチ2』は『Battle.net』を運営するアクティビジョン・ブリザードの看板タイトルだ。つまり、『Steam』のライバルとなる企業の看板タイトルは、『Steam』で配信されることはない。
(画像は『オーバーウォッチ2』)
逆にいうと、そうした例外を除けばほとんどのゲームが『Steam』で配信されているということになる。そして、そんな多数のゲームを楽しめちゃうのが『Steam Deck』……というわけだが、残念ながら『Steam』で配信されるすべてのゲームをプレイできるわけではない。
『Play Station5』や『Nintendo Switch』といった家庭用ハード向けのゲームというのは、基本的にそのハードでの動作が保証されている。これは、ハードの性能が固定されているからだ。だからこそ「この性能の中で開発してくださいね」という、コミットのようなことが行える。
(画像は『Steam Deck』と『Nintendo Switch』)
一方、『Steam』が対象とするPCは、そもそもハードウェアの性能がまちまちだ。たとえば、『Word』や『Excel』といったアプリで仕事を行うためのPCと、ゲーミングPCとでは性能に天と地の開きがある。
このため『Steam』で配信されているゲームを購入する場合、まず自分の持っているPCで動くかどうかの確認が必要。『Steam Deck』でもこの点は同様といえるだろう。
手にしっくりと馴染むつくり! 重さや操作性は上々
そんな『Steam Deck』が筆者の元に届き、まず驚いたのはそのパッケージ。一般的なゲーム機のような化粧箱に梱包されているのではなく、持ち運び用のケースに入っていて、その上が厚紙でパッケージされているという形式。これがまずカッコいい!
ゲーム機ではないが、はじめてiPhoneを買った時のような衝撃を受けた。今ではどのスマートフォンも似たようなパッケージングになっているが、スマートフォンがまだまだ普及していなかったころ、箱を開けたらすぐ端末があり、説明書類は最低限……というiPhoneのパッケージングはクールだった。「これまでの携帯電話とは違う、スタイリッシュさ」がそこからは演出されていたのだ。
『Steam Deck』のパッケージングはiPhoneのようなスタイリッシュさと方向性は異なるものの、「これまでのゲーム機と違う」というメッセージ性が込められているように思う。ちなみに筆者が感じたのは、「携帯機なんだぜ? 最初からケースの中に入れておいて、即持ち運べるようにしといたぜ」というメッセージ性だ。もちろん、実際にValveのパッケージ担当がそんなことを考えたのかどうかはわからないが……。
ケースを開けて『Steam Deck』を手に持つと、しっくりと馴染む。まるで筆者の手に合わせて作ったかのようだ。
携帯機の場合、気になるのは大きさと重さだろう。ちなみに筆者の手は比較的大きめであり、『PlayStation4』のコントローラーである『DualShock4』はやや小さめに感じる。これまで大きさがしっくりきたコントローラーは、『Xbox』向けのゲームパッドだ。
このため、『Xbox』向けのゲームパッドが大きいと感じるタイプの人には、『Steam Deck』も大きく感じられるかもしれない。ただ参考までに書いておくと、筆者より二回りほど手の小さな妻は、特に大きいとは感じなかったようだ。むしろちょうどいいサイズだと言っていた。
大きさという点では、手に持った時の大きさに加えて、各ボタンへの指のかかり方も気になるところだろう。『Steam Deck』には、左側に十字キー、左右のアナログパッド、左右のタッチパネル、画面のタッチパネル、右側にXYABという4つのボタン、上面にLB、RB、LT、RTという4ボタン、背面にL4、L5、R4、R5という4つのボタンが存在している。筆者と妻のいずれも、これらのボタン配置についても快適と感じていたので、ボタン配置も含めて大きさという面では、たいていの人にとって問題が生じないと思う。
一方、重さはどうかというと、こちらもプレイ時点ではさほど重く感じなかった。『Steam Deck』のスペック上の重量は約669gであり、この数値でみると『Nintendo Switch』や『iPad』より重い。ただ、持った時には重いというより「しっくりくる」と感じた。
この理由は、重さが左右のコントローラーに分散されているからではないかと思う。中央の液晶部分は比較的軽く、左右のコントローラー部分が比較的重いという作りになっているため、「重い」というより「しっかりホールドしている」という感覚だった。筆者の妻も同様の感想を口にしていたので、持った時の重さもたいていの人にとっては問題ないだろう。
大きさや重さについては、上々な印象だ。
『Steam』のシステムが親切! プレイも不満なし
では肝心の使用感についてはどうか……というと、こちらも不満なし! まず、基本システムである『Steam』がよくできている。インターフェースなどはPC版の『Steam』アプリと大きく変わらないので、既に『Steam』に慣れている人であればすんなり使用できるだろう。
また『Steam』で配信されているゲームだが、『Steam Deck』では動かないかもしれない……という個別での動作へのフォローも完璧だと感じた。まず動作するかどうかは『Steam Deck』のストア上での購入前に確認できる。既にPCの『Steam』で購入済みの場合でも、インストール時に確認することが可能だ。
そしてこの(上記画像のような)情報が手厚い。「完全に対応している」OR「動かない」という2択ではなく、どの機能が非対応なのかといった点や、快適と感じられなさそうな部分……たとえば一部の文字サイズが小さいなど……といった情報が細かく提供されているのだ。このため、動作しないゲームを購入してしまうことは防げるだろうし、ある程度快適さを欠くゲームであっても、それを承知の上でプレイすることができる。
ちなみに筆者が『Steam』で購入しているゲーム数は136タイトル。このうち『Steam』で快適なプレイが保証されているタイトルは54、非対応のタイトルは13だった。残る69タイトルは、動作はするものの一部に問題を抱えるタイトルだが、今のところインストールしたものについては快適に動作している。
もっとも重要なポイントであるゲームのプレイ感はどうかといえば、めちゃくちゃ良好!
ちなみに、『Steam Deck』は内部ストレージの大きさによって64GBモデル、256GBモデル、512GBモデルという3タイプが存在する。この中で、筆者が選んだのは64GBモデル。内部ストレージが少ない代わりに、もっとも価格が抑えられたモデルだ。
内部ストレージが少ないと、保存可能なゲーム本数が少なくなる。ゲームによってはそもそもダウンロードすらできなくなるだろう。ただ、マイクロSDカードを使うことで後からストレージを追加できるし、マイクロSDカードを使った場合でもさほどゲームの実行速度に差が出ないと聞いていたため、64GBモデルを選んだ。
そして、実際ダウンロードしたゲームはマイクロSDカードに保存してプレイしているが、今のところ実行速度にストレスを感じてはいない。このため、あらゆる面で筆者的には「買ってよかった……!」と思うゲームハードなのだが、ここには補足が必要だろう。
まず筆者は既にゲーミングPCを持っているので、遊ぼうと思えば『Steam Deck』を使わずともPC側でゲームプレイ可能だ。ただ、PCでは気軽にゲームをプレイできないというのが不満だった。
『サイバーパンク2077』や『エルデンリング』といった重量級のゲームであれば、ゲーミングPCでプレイするのも悪くない。こうしたタイトルは、そもそも1プレイに1時間~2時間かかる作りになっている。なので「さあこれから1時間ほど腰を据えてゲームプレイするぞ!」という準備ができた上でプレイするので、そこに「気軽さ」がなくとも何も問題ないのだ。
ただ、弾幕シューティングゲームや横スクロールアクション、ローグライトRPGといったジャンルのゲームは20分~30分くらいのちょっとしたスキマ時間にプレイしたくなる。なので、いちいち『Steam』を起動し、ライブラリからゲームを選び、起動を待ってプレイ……という時間が億劫だったのだ。サクッと気分展開したいのに、起動が伴ってくれないのが、なんともストレスで、なかなかゲームをプレイできずにいた。
もちろんこの感覚は個人的なワガママに近い。でもそんなワガママをスマートに解決してくれたのが『Steam Deck』だ。休憩などのちょっとした空き時間でも、サクッと電源を入れて即目当てのゲームをプレイでき、時間がなくなったら気軽に中断できてしまう。
こうした筆者のようなプレイスタイルであれば、『Steam Deck』はこの上なく極上のゲーム機だろう。ただ、同じゲームをプレイするにしても、オンライン対戦型のFPSや対戦格闘ゲームをプレイするとなると、感想は変わってくるかもしれない。
まず、オンライン対戦型のFPSや対戦格闘ゲームをプレイする場合、価値観にもよるがマウスやアーケードコントローラーといった入力デバイスにこだわりたくなる。この点で『Steam Deck』は向いていない。別売りのドッキングステーションを使えば『Steam Deck』にディスプレイと外部入力デバイスを取り付けてプレイ可能ではあるものの、現在にゲーミングPCや家庭用ゲーム機を持っているなら、あえて『Steam Deck』にこだわる必要はないだろう。
筆者のプレイスタイルは、オンライン対戦型のFPSや対戦格闘ゲーム、長時間プレイが前提となる重量級タイトルならゲーミングPCや家庭用ゲーム機で。それ以外のタイトルなら『Steam Deck』で……というかたちをとっている。そして、このプレイスタイルを前提とすると、『Steam Deck』はたまらなく魅力的なゲーム機だ。
これからのゲーム機選びに重要!? 保有ゲームコレクションの継承
では、筆者のようなプレイスタイル以外の人にとっては、『Steam Deck』は魅力的ではないのか……というと、そうでもないと思っている。そう思う理由が、「保有ゲームコレクションの継承」という観点だ。これはどういうことか?
たとえば筆者は、任天堂のRPG『MOTHER』と『MOTHER2 ギーグの逆襲』について、ハードを変えて4回プレイしている。最初はファミコンとスーパーファミコンでそれぞれ買い、次にゲームボーイアドバンスで出た『MOTHER+MOTHER2』を購入。その後『Wii U』のバーチャルコンソールで買いなおし、さらに『Nintendo Switch オンライン』でプレイ……というかたちだ。
何が言いたいのかというと、せっかく買ったゲームも、ハードが変わるたびに買い直さなければプレイできないということ。これが、「保有ゲームコレクションの継承」。ハードが変わると、自分の持っているコレクションを継承しなければならないのだ。
いや、買い直しさえすればコレクションを継承できるというならまだいい。中には、二度と発売されないものだってあるのだから。
こうした問題に対し、一応の解決策を提示してくれているのが『Steam Deck』といえるだろう。『Steam Deck』は確かにゲーム機はあるのだが、そもそも『Steam』というPC向けのストアが中心にある。このため、仮に『Steam Deck』の最新機種がリリースされたとしても、それまでに購入したソフトが引き継がれる可能性は高い。
もっとも、「では、購入したゲームは未来永劫、無料でプレイできるのか?」というとそれはNOだろう。なぜなら、ハードウェアが進化すればそれを動かすためのOSもアップデートせざるを得ない。ゲームはOSの機能を利用して動作するソフトなので、OSのアップデートについていかなければ、いつかは動作しなくなる。
となると、開発者が最新OSのアップデートに対応しなければならない。ただ人間が対応する以上、そこには人件費が発生するから無料というわけにはいかないだろうし、悲しいことではあるが、場合によっては開発者や開発企業がこの世に存在しないということも起こり得る。「一応」の解決法と書いたのはそのためだ。
ただ、課題はあったとしてもゲームファンとしてはやはり、いつまでも自分のゲームコレクションをプレイしたいと思うもの。この言葉に頷いてくれる人には、『Steam Deck』は有力な選択肢、解決策となるだろう。
(画像は『Unity』)
最後に、ゲームプレイヤーとは異なる観点からも『Steam Deck』の価値に触れておきたい。それは、ゲーム制作という観点から見た価値だ。一般の人にとってゲームはプレイするものであって制作するものではない……そんな時代が長く続いていたが、最近は『Unity』などといったゲームエンジンの普及もあってインディーゲームジャンルが拡大、ゲーム制作をするという人は確実に増えている。
こうしたゲーム制作をおこなう人たちにとって、『Steam Deck』はゲーム文化のルーツをお手軽に体験できる、またとないツールになる。文化というと、大げさに聞こえるかもしれない。
しかし、2023年はファミコンの発売(1983年)から数えるとかれこれ40年。「MoMA(ニューヨーク近代美術館)」にもゲームが展示されるという現在、ゲームは確実にひとつの文化となっている。
文化である以上は、そのルーツを体験できるということは大きな意義を持つ。だからこそ、そもそも「MoMA」のような美術館が存在する意義として文化のルーツを体験することもそのひとつになる。そして、『Steam Deck』もまた、こうした意義を実現するものだと筆者は思う。
筆者は専門学校でゲームの企画やプログラムの講師をしている。その際、昔のゲームのシステムに触れることが少なくない。というのも、評価を受けるためのゲーム企画には新しいアイデアが求められるからだ。
新しいアイデアを発想するためには、これまでのそのゲームジャンルがどのようにゲームシステムを発展させてきたのか、そもそもゲームシステムの中核はなんだったのか……という知識は有効だ。つまり、ゲームである以上、ゲーム文化のルーツはできる限り映像や文章といった情報ではなく、「ゲームを遊ぶこと」によって体験できた方が効果的なのだ。
となると、過去のゲームがなるべく長期間プレイでき、しかも携帯できて他人に簡単に体験してもらえる……というデバイスがほしい。そう、こんなときに『Steam Deck』はうってつけなのだ。
ここまで書いたことをまとめようとしたとき、現在の筆者にとって『Steam Deck』はあらゆるゲームハード中、最高のゲームハードとまで言える存在になっている。これから先、『Steam Deck』のスペックが向上する度に購入することだろう。この記事を読んで筆者のプレイスタイルと重なる点が多い人にとっては、きっといいハードだと思うので、是非おススメしたい!
文/田中一広