ブタ散歩で奥渋谷デビュー(辛酸なめ子)

仕事に疲れたり、人間が信じられなくなったら、生態系カフェに行って動物たちと触れ合っています。猫カフェ、鳥カフェ、爬虫類カフェ,ハリネズミカフェ、マイクロブタカフェなど様々なカフェに行ってきました。中でもマイクロブタと触れ合える「mipig cafe(マイピッグカフェ)」にハマって、ブタと友達になれることがわかってから、ここ数年間ブタを食べていません。

ところで先日、奥渋谷にマイクロブタと散歩できる新たなカフェ「pignic cafe(ピグニックカフェ)」がオープンしたと聞いて、行ってきました。「王様のブランチ」などでも取り上げられた話題のスポット。こちらの系列には、あきる野市にもマイクロブタブリーダー直営のカフェがあり、「pignic cafe」代々木公園店が都心への初出店となるようです。

カフェは完全個室でブタさんと一緒にチルアウトできるシステム(ただブタの自主性に任せた場合、個室になかなか来てくれない可能性もありますが……)。30分1人1400円に別途ドリンク代がかかります。そして、このカフェでは本邦初の「おさんぽぴっぐ」という、カートに乗せたブタさんとお散歩に行けるサービスがあるのが特徴。リードだと、ブタ散歩に慣れていない初心者は不安ですが、カートなら気楽です。

このお店の周辺は、奥渋谷という東京でもおしゃれ上級者が集まるスポット。カフェや雑貨店なども点在しています。行った日は、タンクトップ姿のスタイルの良い男女が道端で座って談笑していて、話の内容からヨガのインストラクターの方々のようでした。リア充としても上級レベルというか、フリーダムな空気です。カフェも盛況で、おしゃれなタトゥーが入っている人も散見されます。内心緊張しつつ、新しいビルの2階にある「pignic cafe」へ。1階に麻婆豆腐のお店が入っているのが少し気になりました。

「pignic cafe」の内装はベージュピンクのブタ色でかわいいです。ブタのイラスト入りのTシャツやキャップなども並んでいました。カフェコーナーからは「ブヒブヒ」「キュキュキュ」と、ブタさんたちの声が聞こえてきます。

15分2000円の「おさんぽぴっぐ」コースに申し込み、しばらく待機。注意書きには「お散歩中に店頭等でpigちゃんが怪我をした場合、最大10万円の治療費を請求させていただくことをご了承ください」とありました。自分は何もないところでたまにつまづくので、ブタさんを怪我させないように細心の注意をはらいたいです。

前の枠のお客さんがカートとともに戻ってきました。お散歩から帰ってきたばかりの黒いマイクロブタもかわいかったのですが、疲れているかもしれないので別のピンク色のブタさんと一緒に行くことに。「メラニンちゃん」という女の子で、お出かけ前にひまわり柄のワンピースに着替えたらどことなく嬉しそうでした。

「まつ毛が長くて女子力が強い、人気の子です」と、スタッフさん。お散歩は宇田川遊歩道の指定範囲のみで、お店のスタッフも同行するので安心です。おとなしくカートにおさまったメラニンちゃんと一緒に遊歩道へ。カートには日よけの屋根もついているので、夏でもわりと大丈夫そうです。

すれ違う都会人はマイクロブタがカートに乗っていてもあまり気にしない風ですが、飼い主と散歩している犬が反応。ヨークシャテリアと遭遇した時は、立ち上がった犬と鼻と鼻で挨拶していました。奥渋谷なのでセレブな家で飼われているワンちゃんでしょうか。しつけもちゃんとしていて友好的でした。

ところどころで映え写真を撮りながら遊歩道を往復。意外とカメラ目線になってくれて、実は写真好きのメスブタさんなのかもしれません。ブタの承認欲求についても考えさせられました。道の途中でメラニンちゃんににんじんとキュウリのおやつをあげると、すごい勢いで食べていました。お散歩=おやつ、と刷り込まれると、これからも喜んで出かけてくれそうです。

帰り道、麻婆豆腐の店先を通った時は少し気を使いましたが、メラニンちゃんはそれほど気にしていないようでした。15分のお散歩タイムはあっという間でした。とりあえず何事もなく無事に帰還できて良かったです。短時間でもブタの命を預かる責任感に身が引き締まりました。

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト。東京生まれ、埼玉育ち。雑誌や新聞、ウェブなどに寄稿。 近著に「愛すべき音大生の生態」(PHP)「スピリチュアル系のトリセツ」(平凡社)、「電車のおじさん」(小学館)、「無心セラピー」(双葉社)、「新・人間関係のルール」(光文社新書)、「女子校礼讃」「辛酸なめ子の独断!流行大全」(中公新書ラクレ)など。