アサヒビールを再建した樋口廣太郎氏の死亡記事を目にした。私はこの方の経営手腕が好きで、何より苦労をされた方だったので、心底尊敬していた。
サラリーマンを経験した方は誰しも冷や飯をくわされたことはあると思うが、樋口氏はキツかった。住友銀行の副頭取にまでなった方だが、上層部とうまくいかず、追い出される形で経営が悪化していたアサヒビールに送り込まれた。銀行員の樋口氏はビールのことなどテンデわからない。
なんと素直にも程があるが、キリンビールの社長を訪ね、ビールに関しての知恵を授けてもらう。
私はビール業界素人だから人に聞くのが一番だということで、厚かましくもまずライバル会社のキリンビールの小西秀次会長や山本英世社長のところに行って、「ビールには何が一番大事なんですか」と聞いてみました。すると、小西さんは即座に「品質第一」と答えてくださった。そこで、「品質第一の根本は何ですか」と聞いてみたら、「それは原材料に金を惜しまないこと」とおっしゃる。そして今度は、サッポロビールにも出かけてみた。
業績が悪くとも従業員をリストラせずに、従業員達を大事にした。住友銀行からアサヒビールへ移り、アサヒビールの社員食堂に特別な組合員用の部屋があることを知り、そのドアを蹴破り組合員幹部達を叱りつけた。こんなに頼もしい経営者は素晴らしいし、人事にたいしても優しさがあった。
人事というものは10年単位で見るべきだと思っています。この人は仕事のできる人だ、社にとって大事な人だというのは、10年というスタンスで見ていると自然にわかるものなのです。
そして上司として部下に対する態度にも優しさに満ちている。部下からの報告を突っぱねる上司は多い。まるで突っぱねるのが上司の仕事でもあるように振舞う上司も多い中、部下の言葉を一生懸命聞こうとする姿は美しい。
トップとして最悪なのは、部下が何か報告しようとしたとき「それは前に聞いた」などと突っぱねる態度です。部下はやがて口も心も閉ざしてしまうでしょう。これではレーダーをもぎ取られた管制室みたいなもので、企業は迷走してしまいかねません。知恵や情報が集まらなければ、正しい改革のビジョンを打ち出すことができないからです。
経営者が謙虚であることは、企業の風通しがよくなる。
経営は謙虚な心で。これは私の持論です。トップが謙虚に人の話を聞こうと心がけていれば、部下は自然に心を開き、貴重な知恵や情報を提供してくれるようになります。悪い情報を打ち明けてくれるようになれば、なおさらしめたものです。それらは改革の筋道さえ示してくれる資産です。
樋口氏が思う企業トップの条件とは?
企業のトップに必要な条件とはなんでしょう。決断力は言うまでもありませんが、私は明るく元気で謙虚であることがとても大事だと思っています。知性も大切ですが、それが過ぎると、ついひけらかして周りを暗くさせてしまうし、問題の細かいところまで見えすぎて迷いが多くなったりします。自分のことを頭がいいと思っている人は自戒すべきですね。
夕日ビールと揶揄されたアサヒビールを建て直した樋口氏の『仕事十訓』を読むと、きっと背筋が伸びると思う。
仕事十訓
1. 基本に忠実であれ。基本とは、困難に直面したとき、志を高く持ち初心を貫くこと、常に他人に対する思いやりの心を忘れないこと。
2. 口先や頭の中で商売をするな。心で商売をせよ。
3. 生きた金を使え。死に金を使うな。
4. 約束は守れ。守れないことは約束するな。
5. できることと、できないことをはっきりさせ、YES、NOを明確にせよ。
6. 期限のつかない仕事は「仕事」ではない。
7. 他人の悪口は言うな。他人の悪口が始まったら耳休みせよ。
8. 毎日の仕事をこなしていくとき、いま何をすることが一番大事かということを常に考えよ。
9. 最後までやりぬけるか否かは、最後の一歩をどう克服するかにかかっている。それは集中力をどれだけ発揮できるかによって決まる。
10. 二人で同じ仕事をするな。お互いに相手がやってくれると思うから「抜け」ができる。一人であれば緊張感が高まり、集中力が生まれてよい仕事ができる。
大好きな経営者であった。
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