“ネトウヨ”は存在しない

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“ネトウヨ”は存在しない。
インターネット上の巨大掲示板において、匿名の人々による大量の書き込みを見ていると、そこには生身の人間がいるというよりも、“似たようなことがたくさん書いてある現象”としか思えないのだ。そういう意味で、“ネトウヨ”は存在しない。ただし、“ネトウヨ現象”を巻き起こす無数のネットユーザーがいるのも事実である。彼らは“ネトウヨ現象”の文脈を具現化する演者とでもいうべきか。

それにしても、“ネトウヨ現象”にはなぜあんなにも『否定』の文脈があふれているのだろう。
中国や韓国(以下、中・韓)を糾弾する言葉は、内容の是非以前に、その節操・気品の乏しさに目がいってしまう。確かに、昨今の領土問題に関する中・韓の振る舞いは決して前向きに評価できるものではない。しかし、少しでも中立的または中・韓を擁護するような発言を見るや、「バカサヨ」「売国奴」「在日」などの一方的なレッテル貼りをし、これまた『否定』の言葉を浴びせる。

『否定』ということに関して、フロイトが興味深いことを述べている。
「抑圧された表象の内容や思考の内容は、それが否定されるという条件のもとでのみ、意識にまで到達することができるのである。否定は、抑圧されたものを認識するための一種の方法である。」
ネトウヨは、中国や韓国を完膚なきまでに『否定』し排斥しているように見える。それはほかならぬ「中国や韓国が気になって仕方ない」という意識の表出なのである。

おそらく、“ネトウヨ現象”の演者たち、彼らはいわゆる“右翼”思想の持ち主などではない。
国粋主義的・保守的な物言いで日本を支持するような姿勢は見られないからだ。
彼らがやっているのはただ、中・韓を『否定』すること、それだけである。
日本の領土問題には、尖閣・竹島の他にも『北方領土』がある。しかしロシアはネトウヨの餌食にならない。アメリカは、日本の領土問題に関して積極的に介入する姿勢を見せてはいない。このように、中・韓の他にも非難されておかしくない国は存在している。それなのになぜ、中・韓なのか。
思うに、中国や韓国がついこの前まで『恐るるに足らない国』だったからではないか。歴史的な経緯やその理解がネックとなり、中・韓との外交が上手くいかないことは今までもあった。その度に、中・韓を見下すことで溜飲を下げていられた部分が少なからずあったのではないかと思う。
だが、今は違う。中国は今や、政治的・経済的な影響力において、日本を上回ってしまった。韓国については、K-POPや韓流スターに日本のアーティストが圧倒されている。日本国内の主要メディアには、韓国偏重の情報発信をしていると思わざるをえないものさえある。今や、中国や韓国を見下してはいられないのだ。
天皇陛下に謝罪要求をする無礼な国が、親書を受け取らない国が、日の丸を奪って英雄扱いされる国が、日本を凌ぐ勢いで成長し影響力を増しているという事実。乱暴な言い方をすれば、「民度が低いくせに成長していて、日本を脅かしている」というわけだ。これを受け入れることのできない人々が、『否定』一辺倒の書き込みをし、巨大掲示板を埋め尽くしたとき、“ネトウヨ現象”が立ち現れる。

フロイトはこうも言っている。
「否定は本来は、抑圧を取り除くものではあるが、当然ながら抑圧されたものを受け入れることではない。」

中・韓の存在に抑圧されながらも、それを受け入れることは決してない。それだから、“ネトウヨ現象”の『否定』の文脈は、進歩も目新しさもないまま繰り返されてゆくだけなのである。

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