どうも、特殊犯罪アナリスト&裏社会ライターの丸野裕行です。
働けど働けど、下流社会から抜け出せない人々が頼るもの、それが“金融業者”です。
今回も、手を変え品を変え、債務者の骨までしゃぶりつくす“ヤミ金融”にやってくる客たちの素顔に迫りたいと思います。
シリーズ「ヤミ金に群がる客たち」
家族に手をかけかねない男
債務者はさらに続きます。
【AM11:34】
3人目……男性(41才/職業:タクシー乗務員)
求人雑誌でタクシー会社に就職したが、業界自体の自由化が影響してタクシー台数が急増。客がいない。
稼げない現状の中、2人の子供を育てるために妻と偽装離婚して母子手当で糊口をしのいでいます。生活苦の中で「できるだけ客を1人でも拾いたい」と焦り、2度の事故を起こしました。
1度目は会社と保険会社が面倒をみたのですが、2度目は自己責任として処理され、賠償金を会社に返済しているといいます。客商売をしているからか、愛想はいいのですが、借金の事情を話すときの口癖が気になります。
「もう家族殺して、ワシも死のう思いますわ……」
「まぁ、そう言わんと! こっちも金貸して、死なれたら、さっぱりワヤですわ」
「せめて、家族だけでもおらんようになったら楽なんやけど……」
その言葉が幾度となく飛びだすのです。本当なら8万円ほど貸し出せたのですが、N氏の判断で4万5千円に抑えました。借りた金を、皺くちゃのスラックスのポケットに突っ込みます。幾度となく鳴り響く携帯の着信音。親の仇のように着信拒否ボタンを押す彼の強い指先。恐らく他の金融業者からの催促の電話なのではないでしょうか。
「ありゃ、目つきがちょっとヤバいかもしれん。ありゃ、家族でも殺しかねんかもな……」
N氏が店の電話を取る社員たちを尻目に、タバコを吹かしながら鼻で嗤(わら)いました。
お昼にのり弁当をお腹に詰め込んで鋭気を養います。朝からの3人の客の“負の力”は凄まじい。スタッフ全員が言っていましたが、この事務所に生花を置くとすぐさま萎れて枯れてしまうほどだそうだ。
休憩を挟むヒマもなく、次の客がやってきました。
【AM11:57】
4人目……男性(42才/スーパー店長)
ハイテンションな常連客。給料日に返済し、またその場で借り入れをしていく上客です。和気藹々(わきあいあい)とN氏や社員たちと話しをしていました。
「あれっ、新人さん? これからよろしくお願いしますね! 僕の顔、憶えてね!」
こちらが会釈すると、そんな気軽な言葉が返ってきました。自分の立場がわかっているのでしょうか?
しかし、明るいキャラクターとは裏腹に、勤めている中型スーパーの仕事の話題は暗く、先行きの見えない話しぶりになります。
単価低下などの動きや競合の大型スーパーの建設ラッシュなどで経営は下火。バイト・パートの人件費を大幅にカットしたのですが、店長である彼の負担は増えます。朝6時から深夜までの労働は日常化し、自身の給料は大幅に下がっているにもかかわらず、ストレス解消に深夜のホテヘル遊びにハマってしまったそうです。
仕事を持つ妻とは別居状態で子供はなし。給料の大半を22才のホテヘル嬢につぎ込み、店の金にも手を出しました。補填のための10万円を今日は借りて帰るといいます。
「僕は一度自己破産してるから、金融ブラックなんですよ。そやから、Nさんにはお世話になってる。どこも貸してくれへんから、恩を感じてます……」
彼は今日も懲りずにお気に入りのホテヘル嬢と会うために、スーツを着てスーパーのオーナーを演じるそうです。
【PM13:46】
5人目……男性(35才/ホテルマン)
常連の彼は、華奢な体で今日もいつもの提出書類を持ってきていました。給料の振込みのある通帳、印鑑、健康保険証、年金手帳です。
「ちょっと、今回も旅行があって……」
よく分からない嘘ばかりをつくのが彼の特徴だとN氏。ここを訪れる男性債務者たちは、必ずどこかでどうでもいい嘘をつくそうです。しかし、その嘘を見つけるのではなく、その嘘に悪意があるかどうかでヤミ金融の人間は、融資の是非を判断するそうです。彼の嘘には悪意はないといいます。
彼は、父親と母親の年金手帳を担保に借り入れを繰り返しているというツワモノ。両親も感づいてはいるが、何も言わないといいます。息子と一緒にずっと一つ屋根の下住み続けたいからです。2流ホテルの安い給料でキャッシングを繰り返し、借金が雪だるま式に増えたという多重債務者の典型です。
ホテルマンでありながら、彼ももちろん、靴が汚い。それはいつまでも両親にパラサイトする地に足が着いていない証拠でした。
ファミレスにも2人の借り入れ客が……
【PM15:02】
「今日は、“質屋”の回収と貸出しがあるさかい、ファミレス行こか」
N氏は閉店前に僕にこう言いいました。事務所を社員に任せて、近くのファミレスまでレクサスLS600で移動。2人でドリンクバーを頼み、客を待ちます。
≫≫続く
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