サスペンス映画で泣くとは…一流テレビ局まさかの大誤報?『ニュースの真相』

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気になっていた映画『ニュースの真相』を、昨日駆け込みで観てきた。
東京だと角川シネマ新宿だけまだ上映していたが、23日金曜までとあったので、本当にギリギリ。
観終わってから、間に合ってラッキーだったと思った。1800円の元が十二分にとれる作品である。

著者撮影

サスペンスが好き、ジャーナリズム関連は特に好き。先日観た『マネーモンスター』もおもしろかった。どちらも展開のスピード感がすばらしく、ラストまであっという間に引っ張っていかれる。
しかし『マネーモンスター』は多少笑いどころもあるアクションサスペンスなのに対し、『ニュースの真相』は社会派サスペンス。おまけに実話だ。

以下、上映終了間近ということでネタバレもしつつ、本作の魅力を紹介したいと思う。

アメリカ最大権力に一流メディアが噛みついた!…はずが

大統領は臆病で卑怯なボンボン?

映画原作はある女性の手記。アメリカの一流テレビ局・CBSのプロデューサーだった彼女は、担当したニュース番組で2004年に誤報騒動を起こした責任を問われ、クビにされた。この女性というのが『ニュースの真相』の主役であるメアリー・メイプスだ。

誤報を疑われたニュースとは、当時の米大統領ブッシュの「軍歴詐称疑惑」。
“若き日のブッシュは政治家であるパパの権力で、激戦地ベトナムへの派遣を逃れるべくズルいことをやった”……以前から囁かれていたこの噂を立証する書類が見つかった、という報道である。

公式サイト予告編より(http://truth-movie.jp/)

放送時ブッシュは再選を目指す大統領選の真っ最中。対抗馬の候補はベトナム戦争の英雄なのに、ブッシュは臆病で卑怯なボンボンと証明されれば致命傷になりかねない。

まさに権力の横暴を暴く大スクープである。放送直後、メアリー率いる番組チームには賞賛の声が寄せられた。

放送翌日、天国から地獄

ところが放送翌日、とんでもない情報がネットに流れる。“書類はニセモノ。あれwordのデフォルトで打ってるじゃん”

事実を確認できないまま、憶測が憶測を呼び、CBSへの非難が始まる。とりわけニュースを読み上げたアナウンサー・ダンと、番組を担当した敏腕プロデューサー・メアリーへのバッシングは凄まじいものになった。

公式サイト予告編より(http://truth-movie.jp/)

メアリー率いる番組チームは報道の正当性を主張するべく、新たな証言や証拠をかき集めるが、世間の意見は変わる気配がない。ついにCBS上層部は非を認めて事態を収拾する方向に動き出す。

結局「書類の信憑性を保証できない」という理由で番組は謝罪する。誤報だったと証明されたわけじゃないけど、誤報じゃない証拠を示すこともできなかったのだ。

まさかサスペンス映画で泣かされるとは

クライマックス、劇場内で響いたのは…

本作は番組チームの敗北で幕を閉じる。アナウンサー・ダンは降板され、プロデューサー・メアリーに至っては解雇という厳しい処分だ。

二人とも一流テレビ局でトップにのし上がったエリート。失敗はたった一度でも全てを失わせるというシビアな現実が描かれている。社会人なら誰もが「こえぇ…」とゾッとする話だ。

しかし本作クライマックス、涙ながらにこれまでを振り返る二人がスクリーンに映されたとき、なんと客席からは鼻をすする音が聞こえたのである。

公式サイト予告編より※別シーン(http://truth-movie.jp/)

かくいう私もとっくに泣かされていたのだが、それは自分が普通より涙腺が弱いからだろう思っていたので「まさか仲間が」と結構びっくりした。

ドキュメンタリーじゃなく映画だからの感動

サスペンス映画で泣くことは、涙腺の弱い私でもあまりない。

本作でもメアリーの父親に関するエピソードでは泣かなかった。「感動させようとして」と穿った見方をした。

しかしクライマックスに近づくにつれ、番組チームの敗北が確実になり始めると(実話だから知ってはいたけど)、「一つの失敗で積み上げてきた全てがなくなる。時間は戻せないんだ」という気持ちが盛り上がってきて涙が出た。

もしこの話をドキュメンタリーで映像化したとしたら、とりかえしのつかないビジネス上の失敗や、予期せぬ激しいバッシングなど「こえぇ…」がメインの感想になったと思う。

それが映画だから、登場人物が単なる『エリート』ではなく『一人の人間』に見えて感情移入し、そこに『実話』という重みが加わって、“必死で積み上げてきた、でも終わってしまった…”と噛み締める二人に、涙と鼻水が止まらなくなる人が出たんじゃないだろうか。

公式サイト予告編より(http://truth-movie.jp/)

そうやって絶望にドーンと落としておいて、ラストシーン、ダンの番組最後の挨拶とそれを聞くメアリーの描写は、二人がちゃんと前に進んで行くと感じさせるかすかに希望のあるもので、また鼻をすする音が響いた。

10年以上前からあった“ネット上の非難”の怖さ

ネット上で事実と広まったら事実になる

感動したのと別に、本作を見て思ったのだが、この誤報騒動はネットがない時代だったら起きなかったんじゃないだろうか。

というのも、騒動の火つけになった“書類はニセモノ”というネット上の指摘が、そもそも誤った情報に基づいたものだったのだ。

公式サイト予告編より(http://truth-movie.jp/)

“書類のフォントはベトナム戦争当時はなかった”、“書類内の肩文字は当時のタイプライターで打てないもの”とネット上の自称専門家たちが指摘をしたが、番組チームはいずれの指摘も事実でないことを、証拠を提示して証明する。

にも関わらず“書類はニセモノ”疑惑が消えることはなく、騒動はお構いなしに激しくなっていった。
ネット上で一旦『事実』と広まったことを覆すのは、今もそうだけど10年以上前も、非常に困難だったのだ。

報道機関は誤報1コでアウト、噂話はいくらでも間違いOK

本作ではテレビでの大統領批判と、ネットでのテレビ局批判がある。

『テレビ』は誤報一つ、いや“誤報かもしれない”という疑惑一つで責任を取らされ、一方『ネット上の声』は間違いが公に証明されても影響がない。“そうか違ったか。じゃあ別の落ち度を見つけよう”と調査は続行される。

『テレビ』は報道機関で『ネット上の声』は噂話にすぎないのだから、当然といえば当然だ。なのに影響力の点ではテレビに全くひけをとらない、というのはやっぱり怖い話だ。

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