日本と欧米で違う飼い方 初心者にこそ大型犬がオススメな理由

犬を飼った経験が少ない人には、”小型犬の方が飼いやすい”と言われています。しかし、私は全くの真逆だと考えています。初心者にこそ大型犬を飼ってもらいたいと考えています。
なぜなら、大型犬の方が簡単だからです。こう書くと「こいつ何言ってんだ?」と思うかもしれません。事実、日本の人気犬種ランキングを見ると、上位3つは小型犬が王冠を手にしています。しかしアメリカと比較すると答えは正反対になるのがわかります。

日本とアメリカの人気犬種ランキング比較

日本のランキング

・1位 トイプードル
・2位 チワワ
・3位 ミニチュアダックス

ここで、アメリカのランキングを見てみましょう。

・1位 ラブラドールレトリーバー
・2位 ジャーマンシェパード
・3位 ゴールデンレトリーバー

なぜこんなにも違うのか

ご覧の通り、アメリカでは上位は全て大型犬です。アメリカだけではなく、ヨーロッパのランキングを見ても、犬種こそ違えど大型犬の方が人気なのが常です。
日本と比べると、犬の飼い方そのものが欧米と日本では違いがあります。特に動物福祉が進んでいるヨーロッパでは、犬を飼ったらすぐにトレーナーを雇って訓練をするのが常識となっているようです。また、犬の訓練は犬が元気なうちはずっと継続されます。特にヨーロッパでは基本的にペットショップで犬を購入することはありません。容易に犬を飼ったりはぜずに、犬種の特性をよく知り、適切な知識を持って飼うことが当たり前となっています。
こうした背景から、犬も飼い主もある程度のトレーニングをしているので、日本のように「大型犬だから扱いが大変だ」とはならないようです。飼い主に知識があり、犬も人もトレーニングを受けていれば、犬の行動が制御不能になるようなことはまずないでしょう。
一方の日本では、だれでも容易にペットショップで犬を購入できてしまうため、何の知識もないままに犬を飼って、その後の問題行動に悩む飼い主さんが多くいます。それも一般に「飼いやすい」と言われている小型犬の行動を制御できずに困っているわけです。

犬の行動を力で制御する日本

なぜ、小型犬の方が”扱いやすい”となるのか。これには犬の行動を人間の物理的な力で制御するという前提があるからではないでしょうか。例えば、以下のような考え方が挙げられます。

・小型犬なら散歩の時に犬が全力で引っ張っても、力が弱いからなんとかなる
・小型犬なら噛まれても大きな怪我には発展しない
・小型犬が他の犬に吠えかかり突撃しようとしても、簡単に抱きかかえて回避できる

このような考え方は、犬の行動を人の力で抑え込んでいるように見えます。これが仮に大型犬なら、物理的な力で制御できないことは明らかでしょう。
そもそも、犬が上記に挙げたような行動をとるようなら、なんらかの対策が必要なはずです。犬が常に飼い主を引っ張って歩いているようでは、犬の体にも負担がかかります。犬が噛まないようにしつけをするのは自明です。自分の犬が他の犬に襲い掛からないようにトレーニングをする必要があります。こうした当たり前のことができていれば、犬を力で制御する必要はなくなります。

大型犬がオススメな理由

犬と暮らすのなら、飼い主は適切な知識を持って、トレーニングを継続させる必要があります。こうした前提が整っていれば、大型犬の方が行動の制御はずっと楽になります。
たとえば、家の中で自由にしている犬の動きを止めようとすると想定しましょう。やり方は実に簡単です。飼い主が犬の目の前に立つだけです。犬は正面に立たれると緊張し、動きを止めます。家の中には家具などがあるでしょうから、犬は飼い主を避けて通ることが物理的に困難となります。廊下などで行えばだれでも使えるテクニックです。少し広い場所では、足を肩幅より少し広く広げ、腕も広げ(ゴールキーパーのような感じ)て、犬の前に立てば、犬は身動きがしづらくなります。こうして動きを封じて「マテ」を教えることもできます。
一方、小型犬ではこのテクニックが中々通用しません。体が小さい小型犬は、いとも簡単に隙間を縫って通り抜けてしまいます。このため、犬を捕まえるために追いかけっこ状態になってしまいがちです。
さらに、ほとんどの大型犬は小型犬ほど俊敏に動けません。つまり、行動の予測と対処が大型犬の方が簡単になるわけです。
こうした大型犬での利点は、いざという時にコマンドが通じないような状況でも犬の行動を制御しやすくするので、交通事故や咬傷事故の防止にも役にたつでしょう。

大型犬でも小型犬でも行動を力ずくで制御するのではなく、トレーニングを行って飼い主の指示で制御できるようにすることは飼い主の責任です。また犬について知識を持つことも重要です。このような前提があれば、大型犬の方が行動の制御が楽になります。なので”小型犬の方が飼いやすい”とはならいわけです。むしろその逆で、小型犬の方が扱いが大変となります。
 
大型犬のオーナーは小型犬のオーナーに比べて訓練を行うことが多いのも、力では制御が難しいと最初から解るからでしょう。しかし、小型犬ならトレーニングはいらないとはなりません。犬が大型でも小型でも、飼い主としっかりした信頼関係を築けば、どんな犬も飼い主の言うことを聞いてくれます。力ずくで行動を制御される犬の気持ちも考えて欲しいものです。力ずくで制御するのではなく、犬が自らの意思で自制できるようにしてあげたいものです。そのためには信頼関係の強化を促すトレーニングが、どんな犬にも必要であると言えます。

また、小型犬の方が飼いやすいとされる理由に、室内で飼えるや、散歩が少なくて済む、などがあります。これらの意見はただの都市伝説と言っても良いでしょう。先のランキングにあったような大型犬種も、ほとんどが室内飼育です。そもそもヨーロッパでは室内飼育が前提です。散歩の量は、その犬の個体によっても異なります。30分歩いただけでバテる大型犬もいれば、3時間連続で歩いてもまだまだ元気満載なチワワもいるほどです。そして散歩は犬種に問わず、毎日しっかりと行うのは当たり前のことです。

唯一、小型犬に軍配があがるのは餌代でしょう。これは大型犬ほどお金はかかりません。しかし、小型犬ならではの遺伝疾患も多くあるので、病院代までも含めると、どうなるかわかりません。

もし、愛犬家の初心者の方で「大型犬が欲しいけど、最初だから難しいかなぁ」と考えているのなら、それは無用な心配です。犬について正しい知識を持ち、適切なトレーニングをしてれば、犬のサイズに関係なく犬は飼いやすい動物です。知識を持たず、トレーニングもしないのであれば、大型犬でも小型犬でも、飼いにくい動物になります。

いかがでしょうか。小型犬の方が飼いやすいと言う意見の反証をしてみました。これから犬を迎えようとする方の参考になれば幸いです。ご自身に合った犬を見つけてくださいね。

※TOP画像は著者が撮影したもの。
 

DBCA認定ドッグビヘイビアリスト(犬の行動心理カウンセラー)・JCSA認定ドックトレーナー(家庭犬訓練士)・動物行動学研究者(日本動物行動学会)。 警察犬訓練所でドッグトレーニングを学び、その後に英国の国際教育機関にて”犬の行動と心理学上級コース(Higher Canine Behaviour and Psychology)”を修了。ドッグビヘイビアリストとして問題行動を持つ犬のリハビリを行っている。保健所の犬をレスキューする保護活動にも精力的に取り組んでいる。 動物行動学・心理学・認知行動学を専門とし、犬がペットとして幸せな暮らしができるよう『Healthy Dog Ownership』をテーマに掲げ、動物福祉の向上を目指して活動中。 一般の飼主さんだけでなく、行政や保護団体からの依頼も多く、主に問題行動のリハビリが専門。 訓練(トレーニング)やリハビリの事、愛犬との接し方やペット産業の現状などについて執筆している。 著書:散歩でマスターする犬のしつけ術: 愛犬とより強い絆を築くために(amazon Kindle)・失敗しない犬の選び方-How to Choose Your Dog-(amazon Kindle)

ウェブサイト: http://www.healthydogownership.com

Twitter: HealthyDogOwner