ここ数日、日本語版『Wikipedia』で「犬の品種に関する記事で、実在が確認できない出版社の刊行物を出典に挙げたものが多数確認された」と話題になっています。問題の出版社は『央端社』(おうえいしゃ)と言う名前で、例えばチェコ原産の犬種「プラシュスキー・クリザジーク」の記事では、この央端社が刊行する『世界の愛犬』という本を出典として「2008年現在の個体数は1800頭にも及」ぶと記述されていますが、国立国会図書館はもちろん日本で刊行される出版物のISBNコードを管理している日本図書コード管理センターにも該当する出版社は登録されていません。
2012年には既に『OKwave』で央端社の実在性を疑う質問が投稿されており、この当時『Wikipedia』で出典や参考文献に挙げられていた以下の8点の文献(現在はほとんどが他の編集者により除去)について国会図書館や主要なネット書店、オークションを調べたが1件もヒットしなかったという回答が寄せられています。
『謎の絶滅犬種を追え』高橋庄平著 1996年
『世界の愛犬』
『アメリカ二重純血種の是非』
『ブル・テリアの歴史』中嶋倫子著
『戦禍に散った忠犬たちのまなざし』 山元毅著 1999年
『珍犬種100選』1998年
『アメリカにおける新品種』
『犬食文化と7つ犬種』 田中沙耶著 1995年央端社という出版社の本ありますか?(OKwave)‥画像
http://okwave.jp/qa/q7338908.html [リンク]
少なくとも1996年から2008年の間に出版活動を行っているならばISBNコードを取得していないとは考えにくく、上記の文献のどれか1冊ぐらいは国会図書館やネット書店に登録されていてもおかしくないはずなのにまったく出て来ないのが当時から不審に思われていたことはわかりますが、専門的な知識が求められる分野のためか検証は進まなかったらしく「問題あり」とはされながらも一部の記事を除き「検証困難」として放置された状態が続いていました。
記事「サラ・スピッツ」のノートでは央端社の刊行物を出典として挙げていた編集者が「どこかしら宮城県内にあったが、現在は倒産したのか場所が確認できないということくらいしか分からない」とコメントしていますが、宮城県図書館の横断検索を使用してもやはり「央端社」の刊行物は1件もヒットせず、そもそも典拠として挙げた資料を直に見ているはずの編集者が資料にある奥付の記載すらも参照が困難であるかのような回答をしているのも不審を感じさせます。
ユーザーページによれば仙台在住で、東日本大震災により被災したという問題の編集者は『OKwave』に央端社の実在性を疑う質問が投稿されたのに前後して『Wikipedia』の編集から離れているようです。問題の編集者が央端社の刊行物を参考文献として挙げた記事の一部は「内容が疑わしい」として削除依頼が提出されていますが、犬の品種に関する記事の投稿数が700件近くにのぼるため全体の検証にはかなりの時間を要するのではないかとみられます。英語版では2007年に投稿された”Bicholim conflict”(ビコリム戦争)というあたかも実際に起こったかのように記述された戦争に関する記事が架空のものだったと発覚するまで5年を要したことがありますが、今回の央端社問題もこれに匹敵するインパクトを持った事件として記憶されるかも知れません。
参考‥Wikipediaの参考文献に挙がっているが、存在が確認できない出版社『央端社』(Togetterまとめ)
http://togetter.com/li/841004 [リンク]