私事で恐縮だが、私はごく最近犬を飼うことにした。理由は様々だが、とにかく犬が欲しかったのだ。それ以上の説明はいらないと思う。
今回紹介するのは犬の映画である。犬が出てくる映画はたくさんあるが、この映画はわりかと珍しい部類に入る。なぜかと言うと、犬の映画の大体が“賢い犬”だからである。人間を手助け、従順かつ素直。そして“子供と犬”という構図で描かれることが多い。しかしこの『マーリー 世界一おバカな犬が教えてくれたこと』は邦題の通り、ラブラドールレトリバーのマーリーは賢くない。原題は『Marly & Me』で直訳すると『マーリーと私』というタイトルである。ちなみに”私”は誰かというと、新聞記者のジョンである。
彼は結婚相手と暮らしているが、ラブラドールの子犬を飼うことになる。どんなに厳しく言ってもカバンを噛み、しつけ教室に行くにも追い返されるほどの始末。メス犬を見るとすぐ発情するものだから、去勢せざるを負えなくなる。車から出て、渋滞を招いてしまう。とにかくいろんなトラブルを起こす犬なのだ。見ていて、あ~厄介な犬だなぁ、と本気で思う。マーリーももちろん主役ではあるが、ジョンも主役である。彼は書きたくもないコラムを任され、悩むものの、マーリーとの生活を綴るようになり、結婚相手のジェニーは不妊治療を続けているものの、子供を授かれなくて悩んでいるところにマーリーは側に居続けた。そしてジョンが家から帰ってくると、ジェニーとマーリーがダンスをしている。と、犬と共に生活することで家族が変わっていく様子が見て取れる。賢い犬では決してないが、それでもマーリーを愛し続ける家族に変化が訪れる。ジェニーが妊娠し、子供が生まれると、一瞬「赤ちゃん食べちゃったらどうしよう」と思うが、子供が成長するに連れ、マーリーも年を取る。家族の歳月と、犬の歳月が重なっていくところが最大に面白いところだと私は考えている。
主人公のジョンは家庭に自分の居場所がないのでは、と思うことがあったり、同業者の友人はどんどんスクープを書いて成功を収めていき、嫉妬することがある。
ジョンは確かに最初こそ友人に嫉妬しているが、その友人はいつでも付き合う女性を変えていて落ち着く気配が一切ないために、ジョンの一瞬、その友人に対する微妙な表情を見ることが出来る。そのとき、観客は“幸せとは何なのか”ということを考えるだろう。
犬を飼うことが幸せだという意味ではない。また“結婚して安定すること”が幸せと言っている訳ではない。ただ犬を飼うということで得られるものは、その人の価値になり得るだろう。この映画の最後はジョンのモノローグで終わる。その台詞は是非映画を見て頂きたい。
代わりにノーベル賞作家川端康成の言葉をここに記したい。
“犬は人間を愛するために生きている”。