デスペラード − 劇場で出会った時の衝撃 -
ロバート・ロドリゲス(90年代は“ロベルト・ロドリゲス”と表記していたと記憶している)が若干27歳で監督・脚本・製作を手がけ、彼の名前を全世界規模に拡げることになったのが『デスペラード』である。
スティーブ・ブシェミ(役名もブシェミ!)がタバコを吸いながら安酒場に現れ、ヨタ話を始める「黒ずくめでギターケースを片手にある酒場にやって来た男」の話だ。客になま温いビールを出しながら酒場の主人は、半信半疑で耳を傾け始める…
本作のオープニングだ。
ブシェミがいい!よりブシェミらしい。
筆者はその頃スティーブ・ブシェミにかなり入れこんでいた。彼はほとんど主役はやらない、いつも端役としてセットの中の小物のように画面のどこかに配されている。
そこに惹かれていた…映画の中でかならず「変な顔の男」などと揶揄される、一度見たら忘れられないあの顔が筆者は大好きだ。
『デスペラード』を見に劇場に出向いたというのも、ブシェミ目的ではあるが前年公開された『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア(1994)』でのアントニオ・バンデラスがなんとなく気になっていたからでもある。
『夜明けのヴァンパイア』を読んで頭に描いていたアルマンドのイメージと映画でバンデラスが演じたそれとはまったくくい違っていたというのに、そこに惹かれてしまったのだ。
さて、話を『デスペラード』に戻そう。
ブシェミのシーンの後に、マリアッチ(アントニオ・バンデラス)がバーのステージに立ち歌うシーンが始まるオープニング・クレジットだ。
ギターをかたどったぎらぎらのセットの前で、ギターを奏で歌い、長い足をゆっくり移動しつつ、観客の中のゴロツキをギターで殴り飛ばす。
このシーンを当時見た時の衝撃は、なんと表現すべきか。たがが緩んだように、心の中で「カッコいい!カッコいい!」を連呼していた。
『エル・マリアッチ』から『デスペラード』へ
「デスペラード」とは“ならず者”という意味だ。(イーグルスのアルバムにも 『ならず者 Desperado (1973)』 がある、参考まで)
バンデラス演じる主人公は、一見ギターケースに見えるが実はその中にはハンパない数の武器を隠し持ち、ある男に復讐を企てる“ならず者”だ。
“マリアッチ シリーズ”の一作目は、1992年に全米公開された『エル・マリアッチ』である。そこに描かれる主人公、マリアッチは金のない流れ者の歌手で殺しや武器には無縁の男だった。
「黒ずくめでギターケース」を持っていたという偶然でギャングのボス アズール(この男がパパイヤ鈴木氏にそっくりなのだ)と間違われ、命を狙われるようになる。
マリアッチを演じたのは、『デスペラード』で助っ人として登場する2人組の中の一人 カルロス・ガラルドーで見た目は中肉中背のちょっとマシュー・ブロデリック似の俳優だ。
俳優たちの素人くさい顔と演技にちょっぴり笑いつつも、ロドリゲス自身の手による編集でそれまで見たことがないようなメリハリの効いた独自の作品に仕上がっている。
『エル・マリアッチ』は、制作費 7000ドルという全編スペイン語の低予算のインディーズ映画…自費製作に近い形だったようで、ロドリゲスは新薬の臨床実験に協力するなどして資金稼ぎをしたといわれる。
1992年といえば、スパイク・リー監督の「マルコムX」、ティム・バートン監督「バットマン・リターンズ」をはじめ「ボディ・ガード」「JFK」「氷の微笑」などが公開(全米)された年。その中にあって小作ながら200万ドルの興行収入をたたき出し、気をよくして(おそらく配給元が… コロンビア・ピクチャーズである)続編を作ることになった。
それが『デスペラード』である。なんと、制作費は1000倍の700万ドル!
筆者の想像では、出演者のギャラと火薬代が制作費の大部分をしめていると思われる。
「ハチャメチャどんぱち映画」では済まされない
この映画が、一作目の『エル・マリアッチ』より格段によくなっているのは、俳優陣の顔と演技は当然だが、音楽とテンポのよい展開と前作よりさらにぶっ飛んだ演出だ。(事実、劇中では数えきれない人たちが吹っ飛ぶ)
そこにあるのは単純なストーリーと銃撃戦、火焔、血だけだ。
ラテン版マカロニウェスタン(勝手ながら、そう呼ぼう)そしてピッタリハマった曲が最高なのだ。
劇場で初めて観たとき、「こんなハチャメチャでどんぱちだけでいいの?」って独りごちるも、「いやいや、おもしろくてカッコよければいいやん!」と即、開き直れるほどの痛快さだ。
この物語の語り部になるのだろうと勝手に期待していたのもつかの間、あっさりと消されるブシェミ、タランティーノ演じる集金人もマシンガンのようにけたたましく喋るだけ喋ったら銃で吹っ飛ばされる。いやはや、劇中で何人の人間が吹っ飛ぶだろう。
いよいよ敵地に乗り込むぞという時に2人の助っ人を呼び、軽快に相手を倒しつつ共に敵が待つ屋敷へ向かうと思いきや、仲間二人もあっけなく殺られてしまう。
それでもマリアッチは仲間の死を悲しむでもなく、そっけなくその場から車で走り去ってしまうのも驚かされる。彼にとって助っ人はただの道具に過ぎないのか…と。
「流れ者が町にやってきてどんぱちやり放題。敵を倒した後、町をさっていく…以上!」
ストーリーはこれだけの説明で済まされる。
しかし、映画全てを語るとなればそう簡単に片付けられない。“動と静”、“スピードとスロー”を自在に操りメリハリのきいた演出に音楽が絡められ、前作に比べソフィスティケートされた潔い作品に仕上がっている。
本作でメジャー・デビューを飾ったサルマ・ハエックは、美しく甘い歌声を聞かせてくれる。
ティト&タランチュラ(Tito & Tarantula)の『Back to the House 』、ロス・ロボス(Los Lobos)の『Cancion del Mariachi 』メロディアスなギターをフューチャーした音楽の絶妙さ、殊オープニングとエンディングの2曲はこれ以上にハマる曲はないだろう、まったくもって凄すぎる選曲の妙だ。
サントラは他にカルロス・サンタナも参加、どの曲もギターのカッコよさに悶絶してしまう。
ロス・ロボス − Cancion del Mariachi
ティト&タランチュラ - Back to the House
「マリアッチ三部作」の三作目になる『レジェンド・オブ・メキシコ』は、バンデラス、ハエックに加え、ジョニー・デップ、ミッキー・ローク、エヴァ・メンデス、そしてウィレム・デフォーまで登場する豪華さだ。
(『エル・マリアッチ』を除いた2作には、ロドリゲスの従兄弟ダニー・トレホも出演)
ロドリゲスの『バーバレラ』のリメイクが、立ち消えになってしまったのが残念でならない。
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http://www.originalprop.com/blog/2009/05/03/true-lies-desperado-ruger-p90-pistol-movie-prop-gun/
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http://www.imcdb.org/movie_112851-Desperado.html
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http://www.heyuguys.com/instant-watch-guide-june-2013/desperado/