2000年代の日本を走り抜けたお化け番組「M-1グランプリ」。一億総お笑い時代への幕開けとなったM-1は「マイク1本、1000万」を合言葉に、プロアマ問わず結成10年以下でさえあれば誰もが舞台に立つことを可能にした。チャンピオンの条件もただひとつ「一番面白かった一組に1000万円を贈呈する」―1000万円が手に入るばかりではない。「M-1チャンピオン」の肩書は即ち「芸人として約束された未来」を意味する。挑戦者の誰もが一攫千金を狙い、ネタを捻り出し、声を張り、結果発表にまるで人生が終わったかのような涙を流す。M-1が起こしたムーヴメントは、差し詰め現代に甦った「ゴールドラッシュ」さながらであったといえよう。
そして区切りの第10回をもって、M-1の歴史は終了となった。
M-1終焉後、大会委員長であった島田紳助氏の提言で、新機軸のお笑いコンテストの開催が発表された。それが「THE MANZAI」である。この番組のルーツは30代後半以上であれば、記憶の片隅に残っているであろう伝説の漫才番組「THE MANZAI(タイトル同)」。紳助・竜助、ツービート、B&B、やすきよ、ぼんちetc…コンテストではなかったものの、全国区のゴールデンの枠で選ばれた漫才師が真剣にネタをぶつけ合う空間。この番組は、プロアマの境界線を敢えて引かず門戸を開いたM-1が結果飽和状態にあったのを見限り、プロとプロの真剣勝負をを現代に甦らせることに意図があった。
しかし、紳助氏の思いは半ばにして断たれてしまう。一時は開催が危ぶまれたこともあり、発起人不在の大会という状況もあり、その浸透度は一部のお笑いマニア以上には波及していない。今回のキー局であるフジテレビもナインティナインを司会に擁立し、連日深夜に予選で選ばれた認定漫才師が必死に「THE MANZAI」の復活アピールしている。この番組がお笑いマニアだけの間だけで語り継がれる1年限りの祭典で終わらせるのは、余りにも酷ではないか。M-1により眠っていた才能を喚起させた若手も、M-1開催時に参加できなかったベテランも関係ない。その年最も面白い「プロの漫才師」を選ぶ大会が連綿と受け継がれることを願い、以下に見所を示していこうと思います!
今回の「THE MANZAI」の概要を少し。初夏より始まった予選の参加総数はプロの漫才師1516組。予選1回戦・2回戦を経て「認定漫才師」と呼ばれる全50組が選出。認定漫才師間で行われる本戦サーキットは、M-1に例えるなら準決勝を複数回行うというところか。全5回の本戦サーキットはそれぞれ20組がランダムに出場、2本ネタを披露する機会が必ずあり、全サーキット終了時点で審査員による合計ポイントの上位15組が晴れて決勝進出。敗れた16~25位の中でワイルドカード決定戦(これもM-1の敗者復活戦と同義)を行い、上位1組が晴れて決勝へ。26位以下は敗退が決定する。
次に認定漫才師の顔ぶれを項目ごとにクローズアップしていきます。
【芸歴対決~結成20年超えのベテランから結成1年目の超若手まで】
芸歴の壁を取っ払ったことにより、M-1不参加を余儀なくされていた漫才師が多数予選に参加することとなった。その代表格が1990年結成のはりけ~んず。M-1の予選・敗者復活戦のMCで永らくお馴染みであったが、晴れて認定漫才師となったはりけ~んずの漫才は安定感溢れる大阪のしゃべくり漫才。ボケの前田氏がアニメおたくということもあり、マニアックなアニメネタも楽しみの一つである。他の結成20年超えはメッセンジャー、博多華丸・大吉と、ローカルのテレビ番組を中心に安定した人気を誇る二組が残った。90年代半ばの結成組ではアメリカザリガニ、シャンプーハット、テンダラー、ダイノジ、バッドボーズ。そして16年目のブレイクを狙うスパローズ。元々はコント師であったが、泣かず飛ばずの現況に正気を失ったか、いきなり結成15年目の昨年度から自虐をネタにした漫才へシフトチェンジした。16年間の鬱屈した「売れない」というストレスが人をここまで変えてしまうのかという沙汰に、笑いどころか涙なくして見ることは出来ないだろう。
対照的に結成わずか1年目で大抜擢されたのは夕凪ロマネコンティ。台本丸暗記としか思えないような棒読み漫才は、見れば見るほどハマる不思議さ。ボケの名輪女史は30代後半と、年齢だけはベテラン。男女コンビということもあり、在りし日の南海キャンディーズのようなインパクトを残すことができるか。そして、昨年のM-1で彗星の如く登場したマヂカルラブリーは結成5年目。野田クリスタル氏のボケとも天然とも本気ともつかないリアクションの波状攻撃に、観客はいつの間にか引き込まれてしまう。既に行われた本戦サーキット第1戦で堂々の2位発進。今後行われる予選で好結果を残せば決勝進出はほぼ手中と言っても過言ではないだろう。結成5年目以下の布陣はその他、ウーマンラッシュアワー、さらば青春の光、ドレッドノート、2700、プリマ旦那、ぽ~くちょっぷ、吉田たちと、賞レースでも見かける顔ぶれが揃った。
(後編へ続く)