幕張メッセで開催中のIT・家電の総合展示会『CEATEC2013』。今年は業界の全体的なトレンドという意味ではやや方向性を欠くイベントだったが、そんななか、大手電機メーカーのブースは“4Kテレビ”を前面に押し出すところが多かった。もう説明はいらないかもしれないが、現在のフルHDテレビ(1920×1080)より画素数にして4倍も高解像度(3840×2160)な次世代規格テレビだ。なるほど、デモ映像をひと目見ただけで違いのわかる高精細な画面は確かに次世代を感じさせてくれる。映像にこだわる自宅シアター派やヘビーゲーマーに対する訴求力は非常に高そうだ。
“3D”はどこへいった?
液晶、レーザー、有機ELなど、メーカーごとに表示方式の違いはあれど、どれも美麗な4Kテレビの映像に見とれながら各社のブースを見て回っていたのだが、ひとつ気になったことが。今年は“3D”の表記をまったく見かけなかったのだ。よくよく調べてみれば、一部メーカーのカタログの隅に小さく別売の3Dメガネが記載されているのを見つけることができたが、今年の会場では3Dは本当に見る影もなくなってしまっていた。2年前までは「3D!3D!」の大合唱だったのに、あの勢いはいったいどこへいってしまったのか?
各社のブースで説明員(技術者)や広報担当者をつかまえて3Dについて訊いてみたところ、「やはりリビングで3Dメガネを掛けてテレビを見るというスタイルを定着させるのは難しかった。特に日本では“メガネ on メガネ”になる人も多く、抵抗があった」と、3Dを主軸に据えた販売戦略の失敗を認める広報担当者や、「まぁあれはウリになりませんよね」と苦笑交じりに本音を吐露してくれる技術者にも会うことができた。
ハードの普及に欠かせないコンテンツも広がらないままだ。3Dの導入で先行したアメリカでは、3D映画の公開本数は2012年をピークに減少を続けているし、2D/3D版が同時公開される映画で3D版を選択する人は3割程度にとどまっている。また、映画と並ぶキラーコンテンツと期待されたスポーツの3D中継も、一部BSチャンネルで細々と放送されるのみ。スポーツ専門チャンネル・ESPNが今年いっぱいで3D専門チャンネルから撤退することを決定するなど、先行きは暗い。
4Kテレビは売れるのか?
では、4Kテレビは売れるのだろうか。家電メーカーは現在、数年前に3Dテレビを発表した時のようにこぞって4Kテレビを押し出してきているが、3Dと同じ轍を踏むことはないのだろうか。
メーカー関係者の見通しは楽観的なようだ。その理由としては、日本政府が次世代放送サービスを日本の成長戦略に組み込み、全面的にバックアップしようとしていることが挙げられる。今年6月には放送事業者と大手電機メーカー、大学教授らが参加する『次世代放送推進フォーラム』が立ち上がり、産学官一体で4K放送の早期実現を目指すことを表明した。
それではメーカーの都合で要りもしない付加価値をユーザーに押し売りしていた3Dと同じではないかと思われるかもしれないが、4Kは映像それ自体が最大の魅力だ。また、わずらわしいメガネが必要な3Dと違い、4K放送はテレビだけあれば視聴可能なことも大きい。そして購入動機の大半を占めるであろう価格についても、4Kテレビの実勢価格は、かつて薄型液晶テレビの普及速度が加速するきっかけとなった“1インチ1万円”ラインを切るところまで落ちてきている。東京オリンピックでテレビ需要が見込まれる2020年は、2~3年前に地デジ化対応でHDテレビを買った人たちの買い替え時期にあたるため、普及は自然と進む可能性が高い。4Kビデオカメラや小型4Kモニターなど、コンテンツ制作に必要な環境も整ってきた。
以前から4Kディスプレイの画質に惚れ込み、「次に買い換えるなら4K」と考えていた筆者にとって、安くて良質な製品が発売されるようになってくれるためにも、4Kテレビには広く普及してほしいのが本音。今回話を聞くことができたメーカー関係者の中には、一般視聴者のニーズに関わらず、フルHDテレビから4Kテレビへの転換は“既定路線”と断言する人もいたが、やはりニーズに向き合った製品でなければユーザーはそっぽを向いてしまうことだろう。4Kテレビは海外メーカーとの競争も激しい。4Kテレビの高画質は多くの人の心を捉えると確信するが、価格が海外メーカー製より数万円分も高くなるようなら、日本の成長戦略となるはずもない。
画像:ソニーブースの56型4K対応有機ELテレビ(参考出展)