(日神王子アマテリアス)episode.lost 皇輝~スメラギ~(壱)

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※本ノベライズ版は、前作「日神ジャスティオージ」/宮崎県のご当地ヒーロー(連続テレビドラマ&東京/埼玉/京都/宮崎各地のFMラジオより放送されたラジオドラマ全30回の続編となるメディアミックス小説となっております。)

本アカウント(地方創聖プロジェクト文芸部)の連載記事バックナンバーより前作の世界観をより深く楽しめるノベライズ版が無料公開中!日本の神話伝承~邪馬台国などをテーマに描かれた壮大な大河ファンタジー作品となっております。ぜひこの機会にあなたも要チェック!!

~登場人物紹介~

テルヒコ(本作の主人公/日神ジャスティオージ)
熱い激情、心を燃やし戦う記憶喪失の青年。外見年齢推定20代中盤。太陽の神、アマテラスの力を持つ。(彼個人の立ち位置はスサノヲなどに近い)
鏡の力で本能的に闇を察知し、人類の闇がある限り存在するマガツカミと永遠ともいえる時の中で戦い続ける。弥生、平安、戦国、昭和、令和と様々な時代(老化せず)変わらぬ容姿で現れ戦いの中様々な人々と出会ってゆく。かなり一本気でストイックなところがある青年で話題や流行に疎い、子供からオジン臭い趣味といわれるなど天然なところもある。現代にて学生時代は剣道部に所属した。その正体は邪馬台国の戦火の中命を落とした亡国の王子でもある。
(魏志倭人伝に登場する卑弥呼の弟・補佐的立ち位置)
当時ユタカを守り切れなかったことが彼の中でおおきなトラウマとなっている。
単体でも強い霊力を持ち、邪悪を祓う言霊を祭祀用の古代剣に宿し戦う戦士でもある。

ユタカ(ヒロイン/麗神タチバナ)
アマテライザーを通し現れる女神。テルヒコにその日神の力を与える。
本作最大の謎とも言える存在。男勝りで気丈(クール)な面があり、邪神に畏怖されるほどの力を持つが
子供っぽく繊細な面もあり本質は情が深い人物。
敵の台詞から(封印された女神、マガツヒノカミ/アマテラスの荒魂)だと称されることもあった。

卑弥呼 
邪馬台国の女王。

火野琴美
神出鬼没の謎の女。テルヒコに本編第1話でアマテライザーを託した。

大善 
テルヒコ(海照彦)の実の祖父。考古学者でもあり、神道にもその造形は深い。穏やかで寡黙な学者肌で
戦時中は衛生兵として戦争に参加していた。宮崎県の大学で教授をやっており、当時のテルヒコら友人たちを自らの考古学サークルに招き入れ、全国各地を研究し古代の真相を解明すべく研究していた。
実家は日奉神社という神社であり、海家は(古代邪馬台国)の子孫にあたる。アマテライザーは戦前まで
神社の宝であり、別系統の同族である石上率いる陰陽連特務機関カラス会(のちの組織クロウ)に命を狙われる。

※「(○○)=キャラクター名/台詞」

ある夏のことだった。

西暦2023、それは
焼けるような灼熱の炎天のさなか。

戦士の眼前を舞う大鴉の群れ、
八つの黒き暁光を

黒き異形の頭角を叩き割る掌は、否応なしに震えていた。

愛する者の頬に触れていた同じ手が今や戦いの手となっていることを。

何度となく覚悟はできていたはずだった。しかし自分の脆さ、弱さをまた自覚することになるとは。青年の心象にあのときの光景がリアリティを帯び、よみがえった。

瞳のなか甦る記憶。

ひとときの夢の中でも、幻想のなか、確かな実感(温もり)と共に懐かしい情景に再会できた。だが、一瞬であった。夢は夢でしかなかった。

「また・・・あの光景だ。(テルヒコ)」

いつにない彼女の願いを、掌を離すことがこれ程までにないほど彼には恐ろしく思えた。

とたんに今朝見た夢が今の悪夢へと痛快に引き戻される。だが彼は悪夢を見続け、果てには見慣れていた。

戦力の差は歴然で、いかに多勢に無勢であれども形勢の優位に時間はかからなかった。

痛烈に、恐るに足らぬプロセスでヒーローが戦闘員を薙ぎ倒す、かつての少年らがテレビで熱中した、他人ごととして観戦していた、かの光景(ビジョン)のように“彼ら1単位で8体の鴉”はたった一人によりなし崩し的に沈黙させられていた。

千数百年の怨嗟と、たかだか数年数ヶ月ほどの戦術訓練、この差は歴然のものであった。

とらえた鴉どもの群れ。

掌が礫となり、剣となり、フォークナイフとなり。鋭利な武器となり、彼らを屈辱と共になぶり倒す。

かき消えそうになる自身の夢の記憶を汚す程に

煙幕のようにまとわりつく粘着質、ぎらついた翼を勢いよくむしり、剥ぎ取る。

バーレル(樽)ターキー、フライドチキンのように鴉どもの肉体と軟骨たちは悲鳴をあげ、あらぬ方角へと憎しみごと曲げられ、次々に倒されてゆく。

一人、また一人・・・。

青年(かれ)の手刀に彼ら(鴉ども)の勝利への期待感はへし折られ打ち砕かれていった。

暴力的に引きちぎられる彼女の翼。

ブチブチチチィ!!ブシャアアアアア!!!

「痛いよぉお・・・いたぁい!!(夜叉鴉)」

「!!!(若宮)」

「きく・・・キサマァあー!!!(中嶋)」

むき出しになった筋線維。
主翼から溢れる血。

その声に、一瞬彼の人間としての理性、感情が揺さぶられ剣の初動が鈍る。

「泣き声(テルヒコ)」

「死ねえ!!!!チェリャアアアァッッツ!!!!(中嶋)」

「おいナカジマ!・・・足ッ・・・(トビオ)」

「え?!(眼前に分断される中嶋の両脚が)」

「ナカ・・・(トビオ)」

ドチャリ・・・

絶叫のなかに消え身悶える鳥どもの嗚咽。

夜明けの前に。

繰り出される彼ら(大鴉たち)の連打追撃を払い除け、握りおおせたクチバシを地へ殴り付け。

反対に切り付けられては、吐血し、噛みつかれ啄まれ肉は裂け、粉々に砕かれた心と、なんとか奇跡的に鴉どものうちその2体を無事撃沈させることに成功した青年(テルヒコ/日神ジャスティオージ)は己の五体を引きずりながら

鏡の奥光る、夢の痕を追い今日も歩き出すのだった。

亡霊ー。

「ナカジマ!おいきくちゃんよ・・・(トビオ)」

「ギャアーッ!!ナカジマ!ナカジマ!(びぃっこチャン)」

終わりのなき旅路。

いつこの戦いは終わるか、その回答は誰も知らない。

だが、目の前に現れた無数の影は安息の暇(いとま)を与えてはくれない。

立ちはだかった8体の“カラス怪人”、といえる容貌。

黒き羽と共に日神皇子の前に現れた、かつて彼が対峙したあの男、石上雅也の姿によく似た、二本足のカラスたちが仰々しい叫びと共に、終末の未来、大火(インフェルノ)へ自らを招き入れんとするかのような仰々しい鳴き声で、己のなかこみ上げる不快感を倍増させてゆくのだった。

それでも戦いは続く。

日常の人々が忘れても、

彼の戦いは。

「どうせ、夢よ・・・みんな(ユタカ)」

事件の前日ー。ある日・・・

普段、“いないはず”の彼女が
どういうわけか目の前に存在しているその違和感に、白昼夢のなかの彼は何一つ気付かなかった。それは、それまでずっと求めていた、平凡を描いたまるで絵のような綺麗な景色だった。

「(・・・・・・)(テルヒコ)」

できたばかりの海沿いの遊園地(アミューズメントパーク)。テラス近くは、親子連れや観光客で延々にぎわっているようだった。

「来たかったとこって、ひょっとしてここ(遊園地)か?(テルヒコ)」

普段馴染みのないその場所にやってきたテルヒコの前になんとも言えない表情でユタカは視線を斜め下にそらせ、ため息混じりに続けた。

「たまにはいいでしょ。お前もちょっとくらい羽伸ばしたらどう・・・。(ユタカ)」

「・・・なんのつもりだ?(テルヒコ)」

「いーから行こっ!(ユタカ)」

「GO!(ユタカ)」

走り出すユタカ。

「なぁ、ユ(テルヒコ)」

「あーっ!あれ(観覧車)よ!あれ乗りたい!(ユタカ)」

「子供じゃないんだぞ・・・(頭を掻きむしるテルヒコ)」

「えー、いいから早く!つまらないヤツね!(ユタカ)」

「・・・まったく(満更でもなさそうな嬉しそうなテルヒコ)」

「・・・ひょっとして私と、いるのがやなの?(ユタカ)」

「“いぃや”、・・・。そんな、こ(いいや、嫌じゃないと言う意味/テルヒコ)」

「・・・(ユタカ)」

「・・せっかく、私が張り切って連れてきてやったっていうのにッ・・・(ユタカ)」

「なによ・・・!(ユタカ)」

「いいや、“いや”いや”・・ぁんなこったァアない!!(聞いてないのか?!)(テルヒコ)」

(なんでも言ってみろ、なんでも聞いてくれるって約束したじゃないの・・・)

「ししぃ~い、しっしっSHI、知らない!!(ユタカ)」

「ちょ、ちょっと待て、誤解だ!違うったら(テルヒコ)」

ちゃかちゃか小走りになるユタカを追いかけるテルヒコ。

「・・・・・(100メートル走って一旦振りかえるユタカ)」

「来なさいよ。時間が無駄になるわ。(ユタカ)」

「なんか、こうやってると。
昔みたいで幸せだ。(テルヒコ)」

「私は幸せじゃなーい!!(じたばた訴えるユタカ)」

「俺は幸せだよ。(テルヒコ)」

「・・・(ユタカ)」

「手、ほらさっさと・・・お前も出せ。(ユタカ)」

「怖いのよ、高所だから。落っこっちゃったらどうすんのよ・・・。(階段の段差で主張するユタカ)」

フサッ・・・・(!!)

「なな、なんでっ・・・(ユタカ)」

想像と遥か違うところ(ユタカのデコッパチ)に彼の温かい手のひらが置かれている、それを。

あえて彼女は払い除けようとはしなかった。

何度もガンをつけてきたはずの眼は、見れなかった。何故だかこのときだけは。

あまりに長い歳月のなか、相手の存在に慣れすぎてしまって。

他人という距離さえもう忘れていた気がする。そう互いに思っていた。

他人のようで、どこかしら完全には割りきれない見えぬ糸が両者の間、緒を引いているかのようであった。

「なんのつもり(ユタカ)」

「思い出したんだ。(テルヒコ)」

「昔、君は俺の妻だった・・・。(テルヒコ)」

「なっ・・・!!それを(どうして今頃・・・)(ユタカ)」

「(戦国時代)耳川(耳川合戦)で戦ったあのとき、何年か俺たちはいっしょに暮らしてた。だが、どっちかが先に死んで・・・

こんなに大事なこと。なんで俺は・・・忘れてしまって、すまなかったと思ってる。(テルヒコ)」
※前作(追憶の神器/レガリア)ラストにて

「ずっとこうしていたかった・・・(テルヒコ)」

「そんなことあったかしらね。(ユタカ)」

「覚えてなくていいんだ。・・・なんかゴメンな。こんな話を、迷惑だったな。(テルヒコ)」

「大嫌い。(ユタカ)」

「・・・やめて。いずれ忘れるんじゃないの。結局そうやって・・・そんなんだから、こっちサイドから・・お前を振ってあげたの。ショックでその辺の池かなんかにどぼーんとあんたは飛び込んじゃったのよ。だから覚えてないのよ。(ユタカ)」

「・・・へたくそな嘘も変わってないな。(テルヒコ)」

「昔は昔、今は今・・・今さらよ。(ユタカ)」

しばし沈黙を終え、ユタカはカラッとした顔で笑った。

「へんちくりん・・・
ヘンな人生よね、お互いに。(空を見るユタカ)」

「いろいろ見すぎたんだ。多分、俺たちは・・・(テルヒコ)」

「もう、いいんだ。これ以上・・・
ユタカが苦しむのを見ることは耐えられない。(テルヒコ)」

「どうして苦しいか、わかる?(ユタカ)」

(どうして私の胸が痛いのかお前にわかるか?)

(このまま彼女の手を引いて誰も知らぬ場所へ逃げ去れたら、どれほど楽になれるだろう)

「じゃあ、ずっと・・・忘れないと約束しろ。そしたら嫌いにだけはならないでやるから。(ユタカ)」

「・・・(テルヒコ)」

(どうせ、忘れるんだわ。このときくらい根掘り葉掘り聞いてやる・・・)

「お前のおじいさんの神社、橘家がずっと社家をやってたって話を聞いたわ。(ユタカ)」

「そうらしいな。鞠子おばさんから聞いたのか?(テルヒコ)」

「ええ。(ユタカ)」

ユタカはおぼろ気な記憶を思い出していた。
あのとき(合戦の数年後)、先に死んだのは自分のほうだったことを。

おそらく目の前の彼は覚えていない。

「・・・あのあと、私より他に橘の姓を名乗ったのは誰?」
(橘命※当時彼女の偽名)

「教えて、怒んないから。(複雑な表情でごまかすように笑うユタカ)」

男の脳裏に、あのとき喪失感に身を任せ合戦の最中火の海へ消え逝く自らの後ろ姿だけがボンヤリと思い出されていた。

そのとき、その出来事は起こったー!

すれ違い様に“感じた”光景。
(“マガツカミだ”)

遊園地の敷地を母親と共に幸せそうに歩く幼き少女に伸びる黒き異様なシルエット(揺らめく残像)を青年の瞳は捉えていた。

シュッ!

「・・・あぶないッ!!(テルヒコ)」

ドサッ!

「きゃああっ!!ママ!(少女)」

「チィッ(夜叉鴉/きく)」

「(コイツは“カラス”・・・!)(テルヒコ)」

黒き羽。少女の母親に覆い被さる巨大な鴉(夜叉鴉)めがけ、青年は咄嗟に体当たりしていた。

「・・・(現れた紳士/若宮)」

「大丈夫か?!逃げろ!・・・(テルヒコ)」

その攻防を見つめる者、観覧車の側にいた無表情のスーツ姿の男(若宮)

男(若宮)が何一つ変わらない表情(かお)で突如猛ダッシュし、夜叉鴉(女性を襲撃した怪物=少女きく)と格闘しているテルヒコに対し追突、後ろ回し蹴りを見舞っていた。

変貌する紳士・若宮。コピー&ペーストされたかのような2体のカラス人間(若宮&きく)の口から放たれゆく熱い呼気が、怪物特有の口臭と混じりテルヒコのカラス男そのものへそれまで根強くいだいていた嫌悪感を揺さぶった。

「?!(若宮の前から消えた対象※テルヒコ)」

「創聖ッツ!!(テルヒコ)」

ピキュィイーンッッツ!

目をたちどころに眩ます光ー!
頑強なる鎧(ヒヒイロカネ)へと変化する肉体。

カラス男(若宮)が放つ数倍の威力で自らの先制攻撃が死角より絡め取られ、自らに対して倍加された※圧力/(四方投げ)となり返されることを瞬時の彼(若宮)は気付けずその術中に見事嵌まってしまう。
(四方投げ=合気柔術の基本技)

「招霊せよー!(ユタカ)」

ビシュッ!!(刃の鈍い残心音が響く)

「・・・・・・!!!(薙刀を胸部に突き付けられる若宮)」

白き爆煙、風の音と共にその女神は姿を現した。

清浄無垢なる白、正否裁定を下す無情さを表した黒の容貌(かお)。

ユタカの招霊(しょうれい)する戦闘形態の一側面である“マガツヒ”(耳川合戦時に現れたものと異なる姿である)。

「私を忘れないでもらえる・・?!腕をあげたわね!・・・だけれどまだまだ脇が甘いわよ!(ユタカ/マガツヒ)」

「助かった!!なっ・・・・(コイツら!)カラス男(しかも2体も)?!!(テルヒコ)」

「(ますますコイツら)キニ・・・クワナイキニクワナイ・・・(2体の戦士を見つめるきく/夜叉鴉)」

「・・・・・!!(若宮/大鴉)」

「せっかく、本当のこと言えたのに・・・・!(ユタカ/マガツヒ)」

繰り広げられる攻防をよそに、はるか上空から向けられる眼光。

「・・・きくちゃん、なにムキになってんだろ。なんか私カンにさわるよーなこと言ったかなぁ。(かごめ)」

観覧車の中から彼らの戦いを見下ろしていた黒い着物姿の少女かごめ(クロウ構成員の一人)は自らとさして変わらない年端もいかぬ同年代の少女(きく/同じく構成員)の奇行(一般人への襲撃)に首をかしげていた。

全く感情のない“オブジェクト”しか配置してないハズの町。それも親子だけをターゲットになぜあの子は襲ったんだろう。

その親子は、不幸にも少女が作り出したその空間(夢)に迷い混んだ、人々の魂であった。

「カアァアアァアーーーッッツ!!(きく)」

「ハア、ハァア・・・・これは私の、わたしの・・・(きく)」

少女(きく)の作り出した夢の中(幻術世界)。

「きくちゃん、早く離脱しな!きくちゃんにはそいつら~ムリ!ムリだから。(かごめ)」

「(かごめェ)・・・!!(夜叉鴉/きく)」

「ダメだこりゃぁ~(かごめ)」

未熟なワザ、きくの能力(念波)の巻き添えをくらい、“迷い混んでしまった”母親と娘の恐怖に満ちた顔を見つめる夜叉鴉の目は血走っていた。

自分がなぜオブジェクトのはずの、この世界における“平凡な親子”に飛び掛かっていったか、その心理をきく自身あまり深く掘り下げてまでは、気に止めずにいた。

私はコイツらに、奴ら(親子と目の前の“二人”)になにムキになってるんだろう。

“外で遊べる”今日は待ちに待ったその日

“今日は私のための日”なんだ。だからいつも遊んでくれる若宮といっしょに、楽しみにしていたのに。

この場所で、“楽しそうにしてる”あの二人。

何もかも、気に食わない・・・。

(少女きく)が体感する、それまで自らの前に現れていた父母兄弟友人たちなどのオブジェクト(設定)ではない生きた人間たち(親子/テルヒコら)が持つ感情の揺らぎが、平時施設の塀のなか囲まれ、ヘッドセットの冷たい感触に包まれ無感情の研究員らと共に過ごしてきたきくにとって激しい拒否反応となり、またその感覚(親子から放たれたイヤな感じ)は、自らが潜在意識の底では欲していたものであった。

彼ら(かごめ/きく/若宮)は、生まれ落ちた日から、人の暮らす平和な日常のそれとははるか遠い世界にいる、所謂影の者ら(物部/モノノベ)であった。

(組織クロウ)。
その旧来の名称は陰陽連特務機関カラス会。
一説に国家を霊的に防衛するため組織されたといわれるその機関。

クロウの実態は今日までメンバー含め一切が謎に包まれてきた。

構成員のほとんどが戸籍を持たず、あらゆる政治・経済・芸能などあらゆる業界の中枢を支配する、“日本最古の秘密結社”といわれている。

彼らは産まれ落ちたその日から呪術的な術法をはじめありとあらゆる技というワザにおいて英才教育を徹底し受け育てられる。

彼ら(上層部カラス会)の中でもここ10年ほど前より発案されたとあるプロジェクト(神童=スターシード計画)。

狭霧に包まれたその計画において一つの完成形といえる天才少女であるかごめは、同じ計画の副産物である、零落した未熟児(欠陥品)ともいえる少女きくの能力そして精神の中で暴走するマガについて慮ることができずにいた。

バサアァッッツ!!!(※広がる羽音)

「あいつ、ら・・・ぐッツ!(テルヒコ)」

互いにダメージをかばいながら、飛び去る二羽のカラス(大鴉と夜叉鴉)。

「・・・ユタカ!!(テルヒコ)」

バサッ!!(悪夢から解放され、ベッドから起きたテルヒコ)

「・・・また、奴ら(カラス男)の夢だ(テルヒコ)」

「・・・(テルヒコ)」

「まさか、俺のもとまで会いに来るために、彼女は(テルヒコ)」

クロウ施設内、日本庭園(枯山水)を前に、二人の男がそれまでの事態を遠くより見守っていた。

「しかし、きくもたいしたモンだよな。一週間も・・・あれが遊びってんだから・・・あんなもん(意識世界)。よく玉の緒(シルバーコード)が切れねぇな・・・俺なんて未だに1時間とも持たねぇかんなあ。(トビオ)」※シルバーコード=魂と肉体を結ぶエネルギーの糸だといわれている。

子供らの悲鳴が別室から聞こえる。

「俺も昔はあんなだったなぁ。でもまあ、しばらくすりゃ出られるから、辛抱だな。(トビオ)」

部屋を覗いて見回るトビオの目に、複数の男らに取り押さえられるきくの暴れる姿が見えた。

「放せェ!!はなせンノヤロォオ!!・・・(気を失うきく)」

「サードアイ(第三の瞳)の鍛えすぎだな、おきくちゃんは・・・(トビオ)」

「あの娘たちは特別なんですよ・・・。(中嶋)」

「もっとあいつらには肉を食わせた方がいいかもな。俺も・・・幽体離脱かぁ・・・こういうのはよくやるんだがな。(スプーンを曲げマスクに貼り付けるトビオ)」

「トビオくんも同期なんだっけ?きくちゃんとは。(中嶋)」

「まあ、俺は13だから、そういやあんたとは18も違うんだよな。(明らかに青年のような低い落ち着いた声で話すトビオ)」

「あなたのような中学生他に見たことないわ。(八王子)」

「化粧崩れのバケモン(少女の容貌の老婆)が何いってんだよ。そもそも皆似たようなもんだろ。(施設内に響く林のアナウンス)」

「偉そうに!引きこもり風情が、出て来なさいよ!!(八王子)」

「ナカジマ!オゥウウイッ!ナカジマ!ヤキュウッ!!ヤキュウヤキュウヤキュウ!!ヤロウッッゼッッーーーーー(びぃっこチャン)」

※びぃっこチャン=組織内で飼われているカラス

「まただ・・・誰が吹き込んだんだ?!五月蝿(うるさ)いんだよ!!まったくぅ!(しかもなんだよ“びぃっこチャン”って名前は・・・)(中嶋)」

「プププ・・・(響き渡る林のアナウンス)」

「君(林)か、犯人は・・・(中嶋)」

「・・・(林)」

「お~いナカジマ、野球やるぞやきゅう。(加茂)」

「加茂!!お前っかァア・・・(キレる中嶋)」

「・・・ってそれ(野球ってゲームのこと)か!!・・・ちゃんと頼んだ事はやってくれたか?(中嶋)」

2020年(3年前)クロウが急遽組織として解体されることがわかり、平時よりそれまで顔をつけあわすことのなかった彼ら構成員を纏め、個人のメンバー同士として扱うことは並大抵の気苦労と常人の神経でできることではなかったと、中嶋は切々と思い返していた。

(※以下、中嶋の記憶)

神社に奉職していた父の言伝て(命)により、歴史の継承者であるという加茂逹(かもいたる)君という青年に初対面する・・・緊張の一瞬や・・・!!

ピンポーン

「はっ、はじめまして・・・(高層マンションの最上階にてインターホンを鳴らす中嶋)」

(うっ、なんじゃこの散らかった汚部屋は・・・)

「ああ、あんたが、その中嶋さんね。・・・うっわまた回復しやがった!!ちょっとワリィいま取り込んでてヨッシャ・・・(ゲーム画面と会話する加茂)」

(コイツ、真っ昼間からなんや、ゲームやってんのか・・・)

「そこ置いといて。やる?アンリアルトーナメンツ。キングオブクソゲーだけど。(加茂)」

「こうやってチェック(エゴサ)してんだよ(別画面にきり変え仕事を続ける加茂)」※エゴサーチ

中嶋が画面に視線をやるとそこには旧カラス会のSNSアカウントがうつしだされていた。

自己紹介のページに若き次世代の代表者として紹介されている若宮の顔写真。

「なかなかイケメンだよな~。っおいおいまたコイツ(粘着リプライ)かよwww(加茂)」

SNSに書き込まれた悪口(リプライ)に対し高速でからかい捲し立てる(クソリプに更なるクソリプで返している)加茂の嬉々とした姿。

「あとこのサイト(別ページを見せ)も俺が作ってんだけど・・・運営任せてた外国人が逃げちゃってな。(加茂)」

「あえて酔ってるくらいの中二(中二病)な文章がよかったりするんだよ。嘘っぽいくらいが怪しまれない。(加茂)」

「コイツ(日神オージ)、君も知ってるのか?(中嶋)」

中嶋が指差した先にうつされていたものは、ひなたが慣れない操作で立ち上げた地方創聖プロジェクトの公式SNSアカウントだった。

「あぁ、ってうっわフォロワー少ねぇな。まあこれくらいが平均かな。フォローしといてやろっかな。フフ!(加茂)」

「偽装していてもこっちにはバレバレなんだよ・・・きゃっつら(奴ら/日神オージども)め・・・!!(中嶋)」

「俺たちがいる以上好きにどうこうできねーよ。たかだか“ミヤギ”の連中だろ?(加茂)」

「ああ、“宮崎”らしいな。(中嶋)」

「だが奴ら石上少佐と互角にやりあってきたと言うじゃないか。(中嶋)」

「どうこうしようにも、あれ(日神鏡※アマテライザー)が奴らの手にある以上・・・」

(※以上が中嶋の回想)

「ハイハイ学級委員長さん。できました、皆さんの霊符。(加茂)」

「完璧だ(確かに5000枚)・・・こんなにいつ作ってたんだよ。(中嶋)」

「夜書いた。悪いかよ?(加茂)」

~数時間後~

ヘッドセットに包まれ、組織の一室にて眠りについていた少女(きく)。

瞑想ルームにてほとんどの時間を過ごしていたかごめ、揺蕩うまどろみのなか、きくの意識とふれあうように二人はそれぞれの自室で眠りについていた。

(少女らの夢の続き)
黒い高級車のドアの前で、二人(若宮ときく)の間に無言が続く。

「・・・ありがと、さっきは助けてくれて。(きく)」

「・・・(微笑む若宮)」

にこりと微笑む男(若宮)は何処から持ってきたか、ピンク色の風船をきくに笑顔で手渡した。

「・・・(笑顔になるきく)」

きくは心なしか満足しているようであった。

何一つ喋らないその青年(若宮)、彼に手を引かれとぼとぼ歩く少女きくの後ろ姿は皮肉にも平凡な日常を幸せに暮らす親子のようであった。

その心に広がる満たされない歪みはノイズとなり、日増しに広がりつつあった。

夕焼けを背にこの日の少女の回遊(アソビ)は終わった。

その組織が、設立された意味。

彼らが目指すその場所とは。

内部抗争により滅びたカラス会(クロウ)の残光。

その奥で瞬く瞳・・・。

「母さん・・・・・やつが、来るよ。(マモル)」

蠢き出す新たな期待感。誕生への残響音・・・
彼は祈っているようだった。

「・・・(かごめ)」

少年が手に入れられなかった世界(夢)を見つめる瞳

少女(かごめ)は観覧車の中で一人、見下ろす街のなか佇む彼女(ユタカ)を見てある予測をたてた。

そして、予見していたー。

(いい度胸ね。しっかし・・・)

「はじまるわ。新たな天と新たな地。この場所(私たちの夢の中)にいる、貴女はいったい何者なの・・・?(かごめ)」

彼女(ユタカ)の強い眼差しは高層にいるかごめそのものへと向けられていた。

(次回へつづく)

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