警察庁は一連の遠隔操作ウィルス事件などのサイバー犯罪への対応を統括するサイバー犯罪担当審議官の役職を4日付で新設し、鈴木基久政策評価審議官兼官房審議官が同審議官を兼務することになりました。ところが、この人事をめぐって早くも鈴木氏はの役職に不適格ではないかとする疑問の声がネット上で次々に上がっています。
遠隔操作ウィルス事件で誤認逮捕された4名のうち神奈川県警に逮捕され裁判所で保護観察処分を受けた後に処分取り消しとなった大学生の取り調べで強引な自白強要が行われていたことに関して、2003年に発生し裁判で全員無罪となった志布志事件を受けて現在の神奈川県警トップである久我英一本部長が鹿児島県警本部長在任時に公表した再発防止策の文書が鹿児島県警のサイトから削除されていることを指摘し「志布志事件の反省が全く生かされていない」と批判されていることは2月25日の記事([リンク])で既に報じていますが、今回サイバー犯罪担当審議官に就任した鈴木氏の場合は2006年3月に高知県で発生した白バイ衝突死事故当時の高知県警本部長であったことが問題視されているのです。
高知県警が捜査費用不適正処理問題で揺れる最中に発生した事故
この事故が発生した当時、高知県警は北海道警や愛媛県警など全国の警察本部で相次いでいた裏金問題が注目される中で捜査費用の不適正処理問題が浮上し、橋本大二郎知事(当時)の主導で県庁に設置された調査チームとの対立を深めていました。2007年には県庁の調査チームがまとめた結果報告書をめぐり、鈴木本部長が知事に対して「これを公表すれば知事は危うくなる」「取り扱いを慎重にした方がいい」と圧力を匂わせる発言をしたことが同年6月19日付の高知新聞で報じられています。その捜査費用不適正処理問題に対する批判が不可避と見られていた中で発生したのが、この白バイ衝突事故でした。
刑事裁判の認定事実では駐車場を発進したスクールバスが法定速度で走行していた白バイと衝突し白バイを運転していた巡査長が死亡した交通事故とされていますが、逮捕・起訴されたスクールバス運転手の片岡晴彦さんは当初から「バスは信号待ちで停車していた」と起訴事実を否認し、バスに乗車していた多数の児童も「信号待ちで停車していたバスに白バイが猛スピードで突っ込んで来た」と証言したにも関わらず裁判ではそれらの白バイ側に不利な証言や物証がことごとく否定され、同僚警察官のあいまいな証言が重視されると言う不自然な経過をたどったまま2008年に最高裁で禁錮1年4か月の有罪判決が確定しました。
再審請求──証拠とされたスリップ痕に捏造の疑い
特に、検察側が物証として提出した「バスの急停車を示すスリップ痕」の写真をめぐり片岡さんの弁護人や支援グループは当初から再現実験に取り組み「急ブレーキをかけても写真のようなスリップ痕が付くことは有り得ない」との結果を提示していましたが、刑事裁判ではこれらの警察側に不利な証拠は一切が採用されませんでした。
最高裁で敗訴し、実刑が確定した片岡さんは2010年に収監され刑期を満了した後に「写真のスリップ痕は捏造」とするフィルム鑑定家の写真鑑定書などの新証拠を提示し「捏造された証拠に依った有罪判決は不当」として再審請求を行っており、今月中に片岡さんと高知地裁・地検の三者協議が予定されています。
審議官ポスト新設が遠隔操作ウィルス事件の捜査に与える影響は?
このように、余りにも不自然な経過で有罪判決が確定し警察の証拠捏造の可能性が指摘されている事件当時の県警トップであった人物がサイバー犯罪担当審議官となったことに対して『2ちゃんねる』では早くも複数の板に遠隔操作ウィルス事件に絡めてこの不自然な人事を懸念する内容のスレッドが乱立しています。また『Twitter』でも捜査への悪影響を懸念する声や、当初の逮捕容疑で処分保留となった後に日本航空に対する爆破予告を書き込んだとされるハイジャック防止法違反容疑で再逮捕された被疑者の弁護人が足利事件で再審無罪を勝ち取った佐藤博史弁護士であることから「冤罪界の頂上決戦」と評するツイートなどが投稿されています。
【遠隔操作事件】警察側は志布志事件と高知白バイ事件の責任者!弁護側は足利事件の弁護士【冤罪!?】(NAVERまとめ)
画像:「冤罪 高知白バイ事件 片岡晴彦さんを支援する会」のトップページ(http://haruhikosien.com/ [リンク])
(3月7日追記)2月25日付記事の訂正を受け、本記事についても一部の記述を修正しています。