1998年に米国議会で成立し、同年以降に米国が自由貿易協定(FTA)を通じて著作権や著作隣接権の保護期間を延長するよう各国に圧力を強める根源となっていることで悪名高い著作権延長法は提出者の名前を取って「ソニー・ボノ法案」(Sonny Bono Act)、あるいはこの法案の成立を強硬に推進したのがディズニーを中心とする米国コンテンツ産業であることを皮肉った「ミッキーマウス法案」(Mickey Mouse Act)の別名で呼ばれています。
共和党に所属するメアリー・ボノ・マック(Mary Bono Mack)下院議員は事故で急逝した夫、ソニー・ボノの後継者として1998年4月に行われたカリフォルニア44区の補欠選挙で当選して以来、亡夫が議会に提出した著作権の保護期間を「個人の死後70年または法人の公表後95年」、また「1978年以前に著作権局へ登録されてパブリックドメインとなっていない著作物は個人の死後95年か公表後120年のどちらか短い方」へ延長する法案を強力に推進して成立させた「ハリウッドの代弁者」の1人として知られています。2003年以降は選挙区の区割り変更でカリフォルニア45区を地盤として当選を重ねて来ましたが、今回の大統領選挙に合わせて実施された下院選挙では2010年の国政調査結果を反映した再度の区割り変更で他候補との調整の結果、カリフォルニア36区からの出馬となりました。マック議員を迎え撃つ民主党は2011年に36区で実施された補欠選挙で当選した現職のジャニス・ハーン議員が44区へ転出し、新人で医師のラウル・ルイス(Raul Ruiz)候補を対抗馬として擁立しました。
現地メディアでは、区割りの変更でマック議員が亡夫から継承した地盤の一部を失い伝統的に民主党の支持が強い地盤が編入されたことでマック議員は苦戦を強いられるのではないかとの下馬評が大勢を占め、11月6日の投票日を迎えます。結果、カリフォルニア州では大統領選・上院選・下院選とも民主党が圧勝。マック議員は事前の予想通り苦しい選挙戦を強いられ、新人のルイス候補に議席の明け渡しを余儀なくされたのでした。
カリフォルニア州36区・投票結果(開票終了)
ラウル・ルイス(民主党・新) 83,402票 51.4%
メアリー・ボノ・マック(共和党・現8) 78,845票 48.6%
ディズニーを始め、さらなる著作権強化を切望する米国コンテンツ産業にとっては2018年に迫った著作権保護期間の再延長期限、つまりミッキーマウスのパブリックドメイン化を目前に代弁者の1人を失ったのは大きな痛手になりそうですが、米議会にはマック議員1人でなく違法複製物をダウンロードしたエンドユーザーのPCをネットワーク経由で破壊する“私刑”権限を著作権者に与える法案を提唱したオリン・ハッチ上院議員(共和党・ユタ州)や今年前半に憲法で禁止された検閲法であるとして『Wikipedia』の24時間閲覧停止などの大規模な反対運動が展開されたオンライン海賊行為防止法案(SOPA)の主導者であるラマー・スミス(共和党・テキサス21区)とボブ・グッドラット(共和党・バージニア6区)の両下院議員、SOPAの対案として上院に提出されたプロテクトIP法案(PIPA)の提出者であるパトリック・レイヒー上院議員(民主党・バーモント州)など「ハリウッドの代弁者」はまだまだ数多くおり、その一翼であったマック議員の落選が米国の知財政策とその影響下にある日本を含めた国内外における権利強化に傾斜した路線との決別につながるかどうか、その結果が出るのはまだ先になりそうです。