ごく一部しか成功例が無い“低予算スリラー”で何か新しいのかを考えた『ダウンレンジ』北村龍平監督インタビュー

  by ときたたかし  Tags :  

「VERSUS」「あずみ」「ゴジラ FINAL WARS」などで知られふ北村龍平監督が手がけたシチュエーションスリラー『ダウンレンジ』が現在公開中。

6人の大学生が相乗りした車が広大な山道を横断中にタイヤがパンク。実はそれはただの事故では無く、誰かからの銃撃であると気付き、そこから恐怖がスタート……。この“終わりなき絶望”を北村監督はどう作り上げたのか。話を聞いた。

■謎のスナイパーに狙われていく者たちという、ありそうでないようなアイデアが本当に素晴らしいですね!

低予算でアクションの製作は難しく、となるとホラーやスリラー系になるなかで、でも『ソウ』シリーズや『キューブ』シリーズなど、ごく一例しか成功例がないわけです。何が新しいのか、何が怖いのか、って話をしている時に脚本家がポロっと言ったのが、「スナイバーに狙われたら?」って。僕はアメリカに暮らしていることもありますが、それほど恐ろしいことはないんです。見えない場所から撃たれたら、もうなすすべがない。現実では絶対に遭遇したくない状況ですが、映画の題材としてはまさに「それだ!」と。これは金脈だぞって、ふたりで掘り下げて。

■その対象となる若者たちの演技力や存在感もリアルでした。たいがいホラー映画だと無名の若者というだけで死亡フラグとわかりますが、わからない感じが秀逸でした。

軍人の娘ケレンを演じたステファニーは演技経験豊富ですが、もうひとりの大人しいジョディを演じたケリー、まだ演技学校の学生でした。でも、経験がある人よりもよかったりするんです。その初々しい感じ、危うげな頼りない感じがね。上手な芝居をしてしまうことばかりが、必ずしもベストではない。それよりもその人が背負ってきたものとか、経験してきたものが出るほうがいいと思うタイプで、そうやって選ぶ基準は昔と変わらないですね。『あずみ』(03)で上戸彩を見た時、まだ無名のブラッドリー・クーパーを見た時とか、直感としかいいようがないけれど、ずっと一貫しています。

■大人気作の『VERSUS -ヴァーサス-』(01)の頃の北村監督に戻ったみたいなことも言われているようですが、ハリウッドのシステムへの挑戦的な意味合いもあったのでしょうか?

規模が大きい分、時間もかかれば、様々な意見にコントロールされていくのがハリウッドシステムなので、そこをあえて無視してインディペンデント体制で作ったことが挑戦と言えば挑戦でしょうか。通常のハリウッドの流れで作るのではなく、日本の、しかもアニメをメインにしている真木太郎プロデューサーと組んで、これまでのノウハウを活かし、完全なインディペンデント体制で作り上げたのがこの作品。それで『VERSUS -ヴァーサス-』(01)の時代に戻ったと、言われているのかもしれませんね。

■実際に撮り上げてしまうことがまずすごいですよね。

ハリウッドでインディペンデント体制で本当にやりきれるのか? と最初に真木プロデューサーに言われましたが、伊達にこの街で7年サバイブしてきていないからと、今まで培ってきたノウハウと経験値と人脈でならできる、と。映画製作というのは、時にまるで内部テロリストとのバトルで、本来、味方であるべきいろいろな人たちと戦わなくちゃいけないこともあるのですが、今回はそういうことはなく、内容的にはやりたいことをやりたいようにやりきれました。インディペンデント体制でなければこうはいかなかったと思います。

■また、『激突!』(71)を初めて観た時のショックがよみがえりましたが、どういう映画に影響を受けましたか?

僕は『ヒッチャー』(86)という映画が大好きで、素晴らしいと思っています。今回の映画に出てくる敵のスナイパーの設定についても、もちろんアイデア段階ではいろいろな意見を言う人がいましたが、僕は超自然的な存在にしようと決めていました。軍人上がりやテロリストにする気はまったくなかったので、スナイパーという形式はとっていても、僕の中では『死』そのものを象徴しているキャラクター。一番影響を受けている作品は、『ハロウィン』シリーズのマイケル・マイヤーズですね。人間なのか何なのかもわからないじゃないですか。ああいう存在にしたかった。

■そういう情熱的なこだわりが『ダウンレンジ』みたいな面白い作品に機能的に結実していくのだなと、今回改めて痛感しました。

自分にしか生み出せないものをなんとかして作りたいという欲求が、『ゴジラ FINAL WARS』(04)を撮っていても『ルパン三世』(14)を撮っていても、それこそ『あずみ』(03)の頃からありました。『あずみ』(03)の時は縦に360度回るカメラワークでチャンバラを撮ったり、『マッドマックス』シリーズみたいな荒くれ者が集まる宿場町を撮りたいとか、『ゴジラFINAL WARS』(04)でも動きが早くて総合格闘家みたいなゴジラにしたいとか。あまり個性を出しすぎるとメジャーやコマーシャルからは遠ざかっていくけれども、個性を殺してまでメジャーを撮るのならば、何故自分がやる必要があるのか? クリエイティブはいつもそのバランスとの戦いです。『アベンジャーズ』シリーズなどのマーベルの映画は僕も大好きだし面白いですが、監督の個性はあまり感じられません。クリストファー・ノーランのような監督は作家性を十分に持ち込みながらもメジャー作品を撮れる稀有な才能だと思います。僕もあんな風に、どんな題材であれ、自分の作家性を感じさせられる監督でいたいなと思います。

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『ダウンレンジ』
http://downrangethemovie.com

ときたたかし

映画とディズニー・パークスが専門のフリーライター。「映画生活(現:ぴあ映画生活)」の初代編集長を経て、現在は年間延べ250人ほどの俳優・監督へのインタビューと、世界のディズニーリゾートを追いかける日々。主な出演作として故・水野晴郎氏がライフワークとしていた反戦娯楽作『シベリア超特急5』(05)(本人役、“大滝功”名義でクレジット)、『トランスフォーマー/リベンジ』(09)(特典映像「ベイさんとの1日」)など。instagram→@takashi.tokita_tokyo