『大阪市西成区』人生を教わった旅

  by ももぷに  Tags :  

どんよりとした空気は、天候のためだけではないだろう。町全体をおおう、やるせなさ、焦燥感、何かを捨てて逃げてきたであろう人々。大阪西成には、裏社会の縮図があった。

訪れてから、もう2年近く経つにも関わらず、未だ脳裏に刻み込まれ忘れられない大阪への旅がある。大阪市西成区、通称あいりん地区。今までもこれからも訪問することなどないと、たかをくくっていた街。自分とはまったく関係のない無関係の土地だと思い込んでいた。

その西成からSOSが届いた。夫の知人からだ。生活を今後続けていくための、手続きを手伝って欲しいのだという。近くに頼れる知人はいない。ひとりではどうにもならないそうだ。民生委員にもお願いができないという。
「いいよ。行ってあげようよ」
その一言で決まった。深い考えもなく、関東から大阪へと旅立った。夫と二人して、西成を目指した。

新今宮駅前の改札口で知人と待ち合わせをした。知人とは初見だった。野球帽を深くかぶった知人の目は、うつろな瞳で遠くを見ていた。心ここにあらず、そんな感じにみうけられた。

「右へは行くな」
知人が強い口調で言った。
「右側は治安が悪すぎるんや」
立っている場所からは、よくわからなかった。ただ、駅周辺には、ただならぬ雰囲気が漂っていた。住んでいる人がいうのだから、避けたほうがいいに決まっている。

4泊5日の大阪の旅。西成を目指してきたからといって、西成には泊まれない。心斎橋のホテルから知人の手続きを手伝うことになっていた。

1日目 大阪観光

通天閣に登る。知人曰く、「ずっと大阪におるけど、初めて登った」。東京で例えれば、東京タワーみたいなもの、らしい。

2日目 病院探し

知人は西成にある病院へ通っている。医者は治す気などないという。顔を見て薬を出して終わり。ほんの3秒くらいの診察だという。病院がある日、他の患者と一緒になって行列に並ばなければならないそうだ。
「世捨て人の集団や」、知人はぼやく。

少しでも病気を治してもらえる医者を探し出す。

3日目 西成区役所

生活保護課までエレベーターに乗る。扉が開いた瞬間、異臭が鼻をつく。

自分の名前が書かれた画用紙を高々と掲げながらワーカー達が、大声で名前を連呼している。

受付で「保護の相談に来た」と伝える。受付の女性は機械的に「かなり待ちます」と告げる。具体的な時間も不明だそうだ。呼び出しはマイクを通じて行われる。待ちますといわれたからには、待ち時間は覚悟しなければいけない。

待合室は、吹き溜まりの世界だった。他から排除され、はじかれ、行き場所を失った人々が肩を寄せ合い生きている、そんな印象が強く残った。部屋に戻りたくないとごねる老人。待ち時間の長さにあきらめて帰る人。大声で騒ぐ人。ワーカー達は、名前を連呼し続けている。

それよりも、申し訳ないが、悪臭に気分が悪くなりそうだった。

待つこと3時間30分。やっと名前を呼ばれ相談室へと入る。
優しげな眼差しの男性が説明を始めた。
「生活保護は国民の権利です。申請はいつでも受けます。誰でも申請はできますから」
思いのほか柔らかい物腰。これなら、保護を申請しても大丈夫そうだ。
「ただし、受けられるかどうかは、別問題です」

そこに現実を見た。

4日目 西成の街を歩く

いよいよ最後の大仕事。知人の家に行く。

駅で待ち合わせをする。静まり返った街。人通りは多くない。

すぐに知人がやってきた。

何かに導かれるようにして西成へやってきたのだろうか。何故知人が西成にいるのか、理由は知らない。逃れたい何かがきっとあったのだろう。

家の近くには、数件のホテルがあった。どのホテルも1泊500円など、普通では考えられない値段だ。看板にはひらがなで説明書きがされている。

”くすりやるひと おことわり”

こんな断り書きも西成ならではだ。

商店街入口すぐに布団を売っている店があった。こんな店もあるのだと思った。が、値段を見て驚いた。
「た、た、高い」

知人の家は狭いながらも快適そうだった。だが、敷きっぱなしの布団がぼろ雑巾のようだった。新しいものをプレゼントしてあげたい。そう思った。
入口すぐの布団屋が頭に浮かんだ。しかし、あの値段では躊躇してしまう。
そこで、近隣にあるというホームセンターまで行くことにした。

途中、デイケアセンターで道を尋ねる。扉が開いた。タバコの煙と共に、中から女性が出てきた。奥では利用者らしき男性達が、マージャンをしている。

電車に乗り込み、安い布団を購入し、知人の元へ帰る。

道のいたるところで、人が寝そべっている。酒をあおっている人もいる。ほとんどが高齢の男性ばかりだ。
それが西成の現実なのだと思った。今がよければよい、今さえ楽しければいい、そんなことを思いながら暮らしているのかもしれない。

5日目 帰宅の途につく

西成は生きている。怒り、悲しみ、憎しみ。そんな負のエネルギーで満ち溢れている。すべてを包み込み飲み込み、西成は生きている。行く場のない人達がいる。西成に来るしかなかった人達がいる。生きるとは何だ、何故人は行き続けるのか、自問自答を繰り返している。

街全体に流れるやるせなさ、あきらめにもにた感情、人生どんなにがんばったって、ダメなものはダメなのだと、つい感じてしまう。でも、みな、生きている。それでも、生きているのだ。

今まで背負ってきた人生、捨ててきた人生、色んな人生の哀愁がそこには存在している。
西成のすべてを見てきたわけではないのだから、そんなやつに西成を語る資格などないのかもしれないが。

日本にありながら、日本ではない街。遊び半分、冷やかし半分で訪れないほうがいい。
治安が悪い、これだけは頭に入れておいたほうがいい。

これまでテレビやサイトでしか見たことがなかった西成への旅、人生を教わった気がする。

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