柳楽優弥はじめ豪華俳優陣登壇! 映画『最後の命』初日舞台挨拶

  by 松沢直樹  Tags :  

登場人物の描写があまりにも緻密なことから「映像化が不可能なのではないか?」といわれていた芥川賞作家・中村文則氏原作の映画『最後の命』が、11月8日に劇場公開となった。
本作は、主演俳優陣に、柳楽優弥、矢野聖人、比留川游を迎えた。 また、主題歌「Snowing」は、Coccoが担当。

さらに、NYチェルシー映画祭で、最優秀脚本賞を受賞したため、加速度的に注目を集めて公開初日を迎えた。新宿バルト9は、満席の状態。作品上映後、松本准平監督、柳楽優弥氏ほか主演俳優陣が登壇し、舞台挨拶を行った。

 

冴木裕一(矢野聖人)とともに、凄惨な事件に巻き込まれて心の傷に苦しむ「明瀬桂人」を演じている柳楽優弥。

柳楽優弥「本日はありがとうございます。柳楽優弥です。この作品は、僕にとってもまた新しいチャレンジみたいな部分もあったので、最後まで観劇いただき有り難く思っています。ありがとうございます。」

幼少期に明瀬桂人(柳楽優弥)とともに凄惨な事件に巻き込まれて苦悩する「冴木裕一」を演じている 矢野聖人。

矢野聖人「みなさん、こんにちは。矢野聖人です。僕はこの作品に、出られたことをすごく誇りに思っています。今日はよろしくお願いします。」

幼なじみである明瀬と冴木が幼少期に負った心の傷に触れる中で、徐々に精神を蝕まれていく「小泉香里」を演じている 比留川游。本作が、映画デビュー作品となる。

比留川游「こんにちは。比留川游です。今日は、公開初日に来ていただいてありがとうございます。最後まで、今からの話も楽しんで行ってください。」  

2011年に、辻岡正人、穂花、上山学、でんでん、根岸季衣を迎えた劇場公開作品『まだ、人間』を制作。 『最後の命』が、劇場公開2作目となる松本准平監督。

松本准平監督「今日は、本当に来ていただいて有り難うございます。みんなで魂をこめて作った作品です。お気に召していただいたら、本当にうれしく思います。本当に今日はありがとうございました。」

司会「松本監督にお尋ねします。本作の原作の中村文則先生は、人間の内面描写に比重を置いた作品の映画化は無理だと思ったと考えていたとおっしゃっています。そんな作品を、なぜ映画化しようと思ったのか教えてください。」

松本准平監督「中村さんの作品が本当に大好きで、最後の命とは別の作品を読んだ時から、とても感激しました。それで、中村さんの作品や世界観を映像化したいと思ったんですね。最初に、掏摸(スリ)を読んだんですけども、面白かったんです。 でも、中村さん個人の初期の頃の原点というか、中村さんの魂がストレートにこもっているものに挑戦したいというんですかね。

僕自身も、中村さんの迷いというか葛藤に自分を重ねる部分がありました。最後の命を読んで、映像化は難しいと思いましたけど、挑戦しがいがある題材だと思いましたし、何より本当に最後に感動できる作品なので、やりたいと思いました。」

司会「作品化したいという思いを、監督は、原作者の中村文則先生に、お手紙でオファーされたと?」

松本准平監督「はい、柳楽君にもお手紙差し上げたんですけど、大切だなと思ったので、自分の気持ちが伝わると思ったので、直筆の手紙を送りました」

柳楽優弥「直筆だったんですか? あれ? すいません変な突っ込みしちゃいました。」

松本准平監督「汚くなかった? あの手紙。だけど直筆(会場笑い)」

司会「柳楽優弥さんに質問です。原作者の中村文則先生は、少ない台詞で、おびえや人間の内面を表現していて、柳楽さんを天才だとおっしゃっています。今回の役は、どのような感じだったでしょうか?」

柳楽優弥「ほんと天才って、いい加減な言葉ですよね。(会場笑い) でも、そう言っていただけるとうれしいですね。関係ない話なんですけど、ストーカーみたいだとか、喧嘩が強い人とかみたいな、キャラが濃い役が多かったんですよ。(会場笑い) 今回の作品の桂人という役は、僕がデビューした頃に演じていた原点に近いような役柄で、そういう意味でも新たなチャレンジって感じたんですね。
撮影初日に松本監督が、”桂人は、自殺にあこがれているんです”って言うんですよ。新年早々ヘビーだなと思いますよね。(会場笑い)だから、覚悟を決めたというか、魂を決めてしっかり挑みたいという気持ちになりました。」

司会「松本監督、柳楽さんは現場でどんな感じでいらっしゃったんですか?」

松本准平監督「いや、ほんと入り込んでる感じで。なんというか、どよーんというか、引きずるくらい存在感がある感じでした。さっき、柳楽さんから初日のアドバイスの話がありましたけど、二人でお話したいっていう話があったんですね。で、”監督、この話、暗すぎませんか?”って(会場笑い)」

司会「続きまして、矢野聖人さんにおうかがいします。原作者の中村文則先生は、試写で鑑賞した後、直接矢野さんに、”本当に君は冴木だった”と絶賛されたということですが、矢野さんにとって冴木裕一とは、どういった役だったでしょうか?」

矢野聖人「中村先生から、直接言っていただいたのは、とてもうれしかったですね。原作者の方からコメントをいただくって、なかなかないことですから。また、僕敵に挑戦的な役だったんで、不安もいっぱいありましたけど、冴木を演じられたことが幸せでした。」

松本准平監督「完全に冴木でしたね。事前にカット割りを用意するんですけど、撮影前に事前に話し合いながら進めていくんですね。本来は、引いて撮る予定だったところを、演技が真に迫っていたので、急遽アップで撮ったり。」

司会「続いて、比留川さんにおたずねします。本作の原作者の中村先生は、比留川さんが今回が初映画作品ということで、高い才能をお持ちの方だから、今後の作品が楽しみですと絶賛されておられました。香里という役は、比留川さんにとってどんな役だったのでしょうか。」  

比留川游「最初に台本をいただいた時に、香里はちょっと共感できるなってのがあったんですね。自分に矛盾を感じていることとか、自分の心に闇を抱えていることとか理解できたんですね。初めての作品だったんですけど、共感できる部分があったんで、やれたんだと思います。」

司会「心に闇を抱えているんですか?」

比留川游「はい(会場笑い)」

司会「誰しもそういう部分はあったりしますからね。松本監督、比留川さんはいかがでしたか?」

松本准平監督「最初、本読みといって、台本を読むんですね、その時は本当に一瞬人選に失敗したかなと(会場笑い)」

比留川游「本読みをしたことがなかったので、どれくらいのテンションで読んだらいいのかわからなかったので、ほぼ棒読みだったんですね(会場笑い)」

松本准平監督「でも撮影が始まったら、こうしてくださいっていうと、ちょっと考えて、次のテイクではきちんと決めてくれて、センスのある方だなと思いました」

司会「ここからは、現場で思い出に残ってるエピソードがあったら教えていただきたいのですが」

松本准平監督「まあ、こういう作品だったので、撮影は雰囲気が重かったんですよ。寒いシーンもあったし、真夜中に撮っててすごく辛かったですよね。あと、火とか。作品で火を焚くんですけど、それが辛かったりとか」

柳楽優弥「あとキャストの中の話でいうと、矢野君が家に帰って寝ている時に、夢の中で桂人が出てきたっていう」

矢野聖人「ありました。あれは撮影して真ん中くらいだったかな。寝ている時に桂人の夢を見たんですよ。でもそれは桂人じゃなくて、柳楽君だったんですよ。僕が、柳楽君に襲われるという夢を見たわけです。(会場笑い)ただ、僕は起きた時にこんな夢見たってくらいな感じで、柳楽君にも話したんですね。柳楽君も”そうなんだ”って言ってくれて。それだけ作品に入っていたのかなと」

柳楽優弥「まあ、和気あいあいするような作品ではなかったのはたしかですよね。作品の内容が作品ですし」

司会「では、比留川さんも現場で印象に残っているエピソード、教えてください!」

比留川游「現場にいるときに、待ち時間があって、柳楽さんの隣に座って待つ時があったんですね。何回か、私は話しかけられていると思って答えていたんですけど、柳楽さんは桂人のままでそこにいて台詞を言っていたんですね。
役に入っているから、周りが見えなくなってるんですけど、私、自分に話しかけられてると思って何回か返事しちゃいました。でも返事をしても聞こえてなかったみたいで、恥ずかしい思いをしちゃいました。」

司会「何回もそうだったんですか?」

比留川游「それがすごく自然だったんで、私に話しかけてると思っちゃったんですね。」

司会「え? じゃあ会話がそれで成立してたんですか?」

比留川游「してないです(会場笑い)それに気づいて、そうですよね。違いますよねって(会場笑い)」

柳楽優弥「まったく気づいてなかったです。お互いが気づいてない会話してたってことですよね(会場笑い)」

司会「和気あいあいとした現場じゃなかったからっていうお話を聞きましたけど、待ち時間とか、みなさん何をされてたんですか? 矢野さんとかは?」

矢野聖人「僕は、柳楽君が撮影してるときの待ち時間とかは、ストーブに当たりながら台本読んでました。一回だけ、衣装さんが起こしてくれたことがあったんですよ。 “あんた死にそうになってから、ここで寝ていいよ”って(会場笑い)。つまり、寒さに体をさらして、誰にも心を開かない状態にしないと、役ができないかなとか考えてたのかもしれません。ええと、ほかの話がしたいです(会場笑い)」

司会「そのぶん、うちあげは盛り上がったって聞いてますけど、そうなんですか?」

柳楽優弥「盛り上がりましたね。和気あいあいと現場を進める作品じゃなかったんで、お互い撮影中話すことが少なかったんですね。だから、話したかったんだよって。ようやく話せたねとか言って話をしたよね(会場笑い)」

松本准平監督「三日ぐらい、連日打ち上げしたんですよ。みんな話したかったんだよって感じで、朝まで話して、また夕方から打ち上げするって感じで。逆にそっちのほうが死にそうになりましたね(会場笑い)」

作品鑑賞後の来場者は、主演俳優陣の屈託ないトークに和んでいた。 だが、作品中のイメージとのギャップに驚いていたのも事実だ。 舞台挨拶のトークの中でも垣間見られるが、本作は、不安な材料ばかりが見つかりがちな時代に、新たな希望を見いだせる作品だと思う。複雑な人間関係や心象風景を表現した映像は、心に必ず響くと思う。 ぜひ劇場で本作の全容を確かめていただきたい。

『最後の命』 新宿バルト9ほか全国公開中

出演:柳楽優弥 矢野聖人 比留川游 内田慈 池端レイナ 土師野隆之介 板垣李光人 りりィ 滝藤賢一 中嶋しゅう
監督:松本准平 原作:中村文則「最後の命」(講談社文庫)
配給・宣伝:ティ・ジョイ

映画『最後の命』公式サイト
http://saigonoinochi.com/

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松沢直樹

福岡県北九州市出身。主な取材フィールドは、フード、医療、社会保障など。近著に「食費革命」「うちの職場は隠れブラックかも」(三五館)」近年は児童文学作品も上梓。連合ユニオン東京・委託労働者ユニオン執行副委員長