NASA探査機の採取サンプルに太陽系外由来とみられる微粒子
NASAの探査機「スターダスト」が地球に持ち帰ったサンプル採取器から、太陽系外からのものとみられる7個の微粒子が見つかった。ひょっとすると人類は、太陽系外の物質を初めて手に入れたのかもしれない。
ただし、微粒子の大きさはわずか。比較的大きい微粒子でも、数十μm(マイクロメートル)つまり0.02~0.09mm程度しかない。これがどんな物質であるのか分析するのに、まだ2~3年必要とする。
これほど小さな微粒子をどうやってつかまえたのだろうか?どうやって「太陽系外のもの」を捕らえたのだろうか?どんな物質でできているのだろうか?…興味は尽きない。
スターダスト (Stardust) はアメリカ航空宇宙局 (NASA) のディスカバリー計画による宇宙探査機の一つである。ヴィルト第2彗星とそのコマの探査を目的として1999年2月7日に打ち上げられ、約50億kmを旅して2006年1月15日に地球へ試料を持ち帰った。
NASAは1996年にスターダストの製造を開始。1999年2月7日に打ち上げられ、地球の軌道を越える(しかし交差する)最初の軌道へ投入された。デルタIIロケットはヴィルト第2彗星へ直接到達するために十分なエネルギーを持っていなかったので、2001年1月に地球によるスイングバイで加速した。2004年1月2日に彗星の尾の中に入り、コマからの試料を採取して写真を撮影した。
スターダストはそれ以外にもいくつかの目標を達成した。2000年3~5月と2002年7~12月にかけて、太陽系の外に起源を持つと思われる塵の粒子の流れとほぼ同じ方向に飛ぶのを利用して、エアロゲル収集器で星間物質を集めた。宇宙塵を地球に持ち帰った最初のサンプルリターン・ミッションであった。
どうやって宇宙空間の微粒子を捕らえたか?
スターダストの主要ミッションは、彗星のちりを採取することだった。こちらは2004年初めに成功し、ビルト第2彗星を取り巻くハローから粒子を捕捉した。これらの粒子は、45億年前に太陽系を形成した物質の性質を知る手がかりとなる。彗星は当時の名残をとどめる存在と考えられているからだ。
しかし、スターダストにはもう一つの目的があった。それは、星間物質を採取すること。火星と木星の間を回るビルト第2彗星への接近を目指して飛行中に、チームは探査機に搭載したちりの採取装置を、ちりの粒子が星間空間から太陽系内に流入していると思われるエリアに向けた。
同探査機に搭載されたちりの採取装置はテニスラケットのような形状をしており、機体のソーラーパネルの上に、宇宙空間へ向かって突きだしている。ラケットヘッドにあたる部分は30センチ四方よりやや大きく、アルミニウム製の枠の中に、アルミニウム製のセルが格子状に並んでいる。
個々のセルには、シリカ(二酸化ケイ素)でできた多孔性物質で、軽量で密度が空気並みに低いエアロゲルが詰まっている。このエアロゲルは、ちりの粒子を壊さずそっと捕捉するためのものだ。
ラケットの一方の面は彗星のちりを捉えるために、もう一方の面は、それよりはるかに採取しにくい星間塵を捉えるために用意されていた。こうして、スターダストは2000年3~5月と2002年7~12月にかけて、ラケットの裏側を使って、星間物質を集めることに成功した。
微粒子の大部分はデブリ(ゴミ)だった
さて、こうして集められた、彗星と星間物質の微粒子はカプセルに詰められて、2006年1月15日にユタ州のグレートソルトレーク砂漠にあるダグウェイ性能試験場 (Dugway Proving Ground) の近くに着陸、回収された。
回収された宇宙塵は現在も分析が進められており、彗星の微粒子からは、これまでにカンラン石やグリシンなどが発見されている。今回、NASAは星間物質の分析結果を報告。太陽系外からの物質の可能性がある宇宙塵が7個見つかったと発表した。
宇宙塵の粒子は、彗星のちりの粒子よりはるかに小さく、直径が1マイクロメートル以下のため、粒子が形成したトラックを見つけ出すことはとりわけ骨の折れる作業だ。そこでNASAは、すべてのエアロゲルを自動走査型顕微鏡でスキャンし、得られた何十万という顕微鏡画像に目を通す作業を、「Stardust@home」というWebサイトを通じて市民科学者たちに託した。
その結果、トラックの候補が69個見つかった。NASAが見つけたのはたったの2個だった。そして最終的に31個のトラックがエアロゲルから取り出されたが、これらトラックを形成した粒子のうち3つを除くすべてが、スターダスト探査機の機体から分離してエアロゲルに衝突したデブリ(ゴミ)だと判断された。
しかし、エアロゲルを囲むアルミニウム箔の部分からも、さらに4つの粒子が見つかり、あわせて7つの微粒子のの兆候は、これらが星間空間に起源をもつ可能性が高いという。
この推定はまだ100%確実ではない。しかし、これら7個の粒子が衝突時に残した痕跡の角度は、星間塵の流れがあった方向に一致する。またこれらの粒子は、望遠鏡での観測から予想されるとおり、サイズが非常に小さい。
さらに、見つかった粒子は組成や構造が驚くほど多様だ。最も大きい粒子は、「フワフワした雪片のような結晶構造をもち」、おそらく高温にさらされたことを示唆しているという。
粒子の起源を確かめる試金石となるのが、粒子に含まれる酸素の同位体組成を測定することだが、測定の完了には2~3年を要する。「同位体組成が太陽系の物質と異なっていれば、粒子が星間空間から来ていることが証明される」という。
太陽系外微粒子に未知の物質も?
これまで、太陽系外に人類が進出したことはもちろんない。宇宙探査機ボイジャー1号が、2012年8月25日にようやく太陽系外に到達した。現在は太陽から約200億キロ付近を飛行中である。そこにある試料を持ち帰ることは不可能だ。
一方、望遠鏡による星間塵の雲の観測は、以前から行われている。星間物質の多くは、光学望遠鏡や電波望遠鏡を用いることで発見されている。天体から発せられる光(電磁波)のスペクトルを分析すると、物質によって光の性質が微妙に異なるので、宇宙の果てにある物質であっても、それが何であるかがわかるのだ。
宇宙空間は、まったく物質の存在しない真空状態のように思われるが、実際には、全体にわずかながら「星間物質」と呼ばれる物質が漂っている。星間物質の質量比は、水素が約70%、ヘリウムが約30%で、残りが宇宙塵と呼ばれる珪素・炭素・鉄などの重元素である。
星間物質には、さまざまな元素が結びついた星間分子(interstellar molecule)も発見されている。その分子は地球上では存在しないものも多数発見されているのが興味深い。
星間分子は恒星間の希薄空間(星間空間)の中でも、一部にある高密度な分子雲中に存在する分子の総称。1930年代に光学望遠鏡によって観測された、希薄な分子雲中を通った紫外線の吸収が、分子雲の中に存在するCH、CNによるもであると1940年に確認され、初めて星間空間に分子が存在することが示された。
その後、1960年代以降、電波望遠鏡が発展するに伴い、OHの発見を皮切りに多数の分子が発見され2000年までには100種類以上の分子が発見されている。
その中には水素H2 や、塩酸HCl、二酸化炭素CO2 などのお馴染みの分子から、ヘプタトリエニルラジカルC7H や、プロトン化水素分子H3+、ブタジニルC4H などの地球上では存在しない分子も宇宙空間には存在する。今回の星間物質に、ひょっとしたら太陽系には存在しない未知の物質が発見されるかもしれない。