募集時の健康診断

  by 元ダンダリン社労士  Tags :  

依然として就職活動が厳しい時代です。

有効求人倍率が上昇したと言われていますが、完全失業率には変化なし。

雇用のミスマッチ、つまり働きたい人の職種と、働かせたい職種が一致しないという状態が続いているだけです。
こんな中での就職活動は、たとえアルバイトなどでも困難を極めます。

そんな就職活動の際のお話です。

 

採用の際、履歴書などのほか、健康診断の記録を持参させる会社もあるようです。

本来、採用の際にそのようなものが必要なのでしょうか。

採用されるまでは労働者とはなりませんので、労働基準法令の規制がありません。

採用方法などを規制する法律は職業安定法。

その職業安定法においては、第5条の4の第1項にこのように記されています。

 

公共職業安定所等は、それぞれ、その業務に関し、求職者、募集に応じて労働者になろうとする者又は供給される労働者の個人情報(以下この条において「求職者等の個人情報」という。)を収集し、保管し、又は使用するに当たつては、その業務の目的の達成に必要な範囲内で求職者等の個人情報を収集し、並びに当該収集の目的の範囲内でこれを保管し、及び使用しなければならない。ただし、本人の同意がある場合その他正当な事由がある場合は、この限りでない。

 

この条文の主語である公共職業安定所等には、募集する者も含まれていますので、求人を行う企業はこれに該当します。

ここでは、あくまでも採用という目的の達成に必要な範囲で個人情報を収集を可能としております。

 

以前、求人誌に関して規制をかけようとした際に、それを防ごうとリクルート事件(労働省ルート)が起きました。

こういうことからも、本来規制が必要だけれども中途半端な内容になってしまっているのは否めません。

 

そういう中で、応募書類の中に健康診断の個人票を持参させるのはどうなのか。

 

厚生労働省の職業安定部局ではこう言っています。

 

合理的・客観的に必要性が認められない採用選考時の健康診断の実施:考慮する必要があります

 

これも、法令上の文言ということではなく、業務取扱要領に記載してあることをさらに解釈して言っているだけのことです。

ただ、そういう趣旨であることから応募書類に機械的に健康診断の個人票を持参させることは問題があるでしょう。

必要性を認める認めないの合理性は、仕事の性質上必要であるというのがかなり限定されるはずですから、認められないほうが多いでしょう。

あわせて、健康診断の費用は当然応募者負担ということになってしまいますので、本来は禁止などするべきことだと思います。

ただ、前述のように、職業安定法自体が中途半端な規制であることから、全くのフリーな状況が出来上がっているわけです。

 

一方、採用された場合は、労働者という扱いになりますので、労働基準法令の適用を受けます。

労働安全衛生法では、雇入れ時に健康診断を受けさせる義務を事業主に課しています。

これは、採用選考のためのものではなく、配置を決める参考にするためのものです。

当然、事業主に義務を課している以上、費用の負担も事業主になります。

ところが、この雇入れ健康診断について、直近3カ月以内に実施した健康診断の個人票をじさんさせることにより、この健康診断に代えることができるとされています。

これを悪用し、健康診断の個人票を応募書類にしてしまい、その提出を受けたことにしてしまっているのが実情でしょう。

 

健康診断の費用、医療機関によってまちまちですが、おおよそ1万円前後。

採用されるかどうかも分からない個人が負担するには酷な金額であり、このようなことで費用を浮かせようとしても、それなりの人材しか集まらない結果となることでしょう。

元労働基準監督官の社会保険労務士です。 19年間労働行政に従事し、ワークライフバランスの崩壊により辞職しました。 現在福岡の地で社会保険労務士として仕事をしています。 労働関係の実務なら、他の社労士には負けません。

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