前回は死亡事故の件についてお話ししました。
今回は、どこにでも起きてしまう休業災害の話です。
労働災害が発生し、療養のために休業が必要だと主治医によって判断され、実際に休業するのが休業災害です。
休業災害の場合、労働安全衛生法に基づき、会社は労働者死傷病報告という書類を労働基準監督署に提出する必要があるのですが、これを出さないと、労災かくしと言われる犯罪行為になってしまいます。
発覚した場合、会社とその責任者は捜査を受けたうえで、検察庁に送検(正しくは送致)されることになるのです。
私も、ある監督署に勤務していた時に、この労災かくし事件を2年間のうちに3回送検しました。
もっとも、労働者死傷病報告を提出していなくても、病院の受診を労災保険でかかった場合、労働基準監督署に報告が行くことになっていますので、ある意味労災自体は隠そうということにならず、同じ法令違反ではありますが、単なる労働者死傷病報告未提出違反ということだけが残り、是正勧告書を交付されることはあっても、送検されることはありません。
厚生労働省では、労災かくし事件について、以前より「労災かくしは犯罪です」キャンペーンを行っていました。
労働者死傷病報告未提出違反、単なる罰金刑にすぎませんが、これを送検する意味というのは非常に大きいことなのです。
労災かくしが行われると、場合によっては医療機関への受診ができず、適切な治療が行われないことがあります。
また、受診できても、健康保険を使うなどするため、自己負担が発生し、そのために治療半ばで通院をやめ、後遺症などの発生の恐れが高くなります。
休むと収入が途絶えるために、会社がいくら補償すると言っても限度があるわけで、結果生活困窮の恐れがあります。
行政の観点からは、事故事例として挙がってこないため、再発防止の指導ができなくなります。
こういったことにならないよう、労働者死傷病報告の提出義務を課し、違反すれば送検し罰則を適用するということになるのです。
それでは、実際に送検された場合、どのようになってしまうのか。
最近は、労災かくしに対して起訴猶予という事例は少なくなっているようで、略式起訴ということになります。
その場合、実行行為者と事業主(法人)に労働安全衛生法違反という前科がつき、個人については市町村にある犯罪人名簿に登載され、罰金納めた後5年間残ることになります。
送検された際には、労働基準監督署が記者発表を行うため、会社名が報道されてしまうことがあります。
報道されると、インターネット上ではずっと残ってしまう恐れがあります。
建設業の場合には、国土交通省や都道府県等に通報され、指名停止処分や営業停止処分を受けることになります。
下請の場合、元請からの仕事がストップしてしまう可能性が非常に高くなります。
仕事を行う上で、犯罪人名簿に前科が残っていると、制約を受けることがあります。
こういったことから、企業崩壊への道を歩んでしまうことも少なくありません。
労災かくしは犯罪です。
長々隠し通せるはずはありません。
ぼろが出てしまうことを考えて、事故が起きたら速やかに救急車を呼ぶということを忘れないようにしましょう。