カオス*ラウンジが、燃えている。
制作・発表ともにネットを中心として活動するアーティストを集め、「ネット」と「アート」の分断を克服するためのヴィジョンを示すことを目標に活動してきた、黒瀬陽平氏・梅沢和木氏・藤城嘘氏のカオス*ラウンジ*1が、発表した作品を巡って、twitter、2ちゃんねる、画像投稿SNSであるpixivを巻き込んだ大騒動に発展してしまった。
*1:カオス*ラウンジ
http://chaosxlounge.com/[リンク]
発端となったのは、梅ラボこと梅沢氏が、評論家・小説家の東浩紀氏率いる合同会社コンテクチュアズのオフィスに描いた作品に、日本最大の画像掲示板『ふたば☆ちゃんねる』で誕生したキャラクターであるキメラこなた、通称「キメこな」を中心に据えたことがtwitter上で明らかになったこと。
また、同作品が雑誌『美術手帖』に掲載されたことも、『ふたば☆ちゃんねる』のユーザーを逆撫ですることになった。自分たちが作り上げた「キメこな」でお金儲けをしている、と捉えられたのだ。
本来、「キメこな」が生まれた経緯も、梅沢氏の今回の作品も、インターネット上からさまざまな画像を組み合わせることからブリコラージュと呼べるものであって、手法自体には相似点が多い。
それにもかかわらず、多くの反発が起きてしまったことについて、梅沢氏はこう述べる。
「住人たちのルールを分かっていなくて、結果的に土足で踏み入れてしまった。このことには本当に申し訳なかったと思います。」
もう一つ、争点となったのは著作権の問題だ。
閉じられたネットコミュニティだった『ふたば』での匿名の作者達のコラージュを、さらにコラージュした梅沢氏の作品に対して、著作権侵害ではないか、という声が、twitterや2ちゃんねるから次々に上がった。
アメリカでは、ロイ・リキテンスタインやアンディ・ウォーホルらが確立したポップアートの文化があり、フォトモンタージュに関して2002年に連邦最高裁により、「コラージュを禁止することはパロディを認めないことであり、思想・言論の自由を侵すものである」との判断が下されている。
一方日本では、フォトモンタージュで使われた写真の著作権を認める判決を下した「パロディ事件」という先例があり、アメリカなどより著作権を擁護する姿勢が強い。
「梅ラボ作品の著作権問題について、ぼくたちは権利保持者との話し合い、議論の場を持つきっかけになるのではと思っていたのですが、現状ではネット上の第三者の声ばかり大きく、それによって空気が作られている状態です」
カオス*ラウンジ代表として、黒瀬氏はそう発言する一方で、梅沢氏の作品そのものについて目を向けて欲しい、と語る。
「当事者どうしで話し合わない以上、著作権問題は何ら本質には触れ得ません。梅ラボもブログで語っています*2が、この作品の主題は東日本大震災です」
*2:うたわれてきてしまったもの
http://d.hatena.ne.jp/umelabo/20110524[リンク]
アートに対して震災が与えた影響は、という問いに黒瀬氏はこう分析する。
「日本を出てゆくアーティストと、日本に留まるアーティストに分かれていくと思います」
そういった中で、「今後も震災以後の日本について考え続けたい」というカオス*ラウンジ。数々の非難に晒されている現状を、どのように打破しようとするのだろうか。
「私はストレートに、これからより良い作品を作り続け、示していくしかないと思っています。キャラクター文化を享受していながら、震災について考える、というのが私達に今できるひとつの表現です」
藤城氏はそう述べ、これからもネットとアートを結ぶ活動を続ける、と強調する。
「カオス*ラウンジはもともとは、形のないネット上の繋がりやコミュニケーションを現実空間へ引き出すムーブメントとして始まりました」
図らずもネット上でアート活動する難しさや日本に置けるコラージュの位置づけ、さらにネット上での「嫌儲」の空気など、数々の問題点を浮き彫りにした「キメこな騒動」。
「今回のことがあって、コミュニケーションというものの意味について改めて考える事ができました。日本では『ネットの空気』という独特の圧力が強く働きますが、今はネット上だけでなく会う人にもいろいろな意見や助言を頂いていて、それを受け止めた上で、活動を続けていきます」
そう語ったのは藤城氏。
カオス*ラウンジはそれまで作品を投稿し続けてきたpixivから7月末に退会。今後は独自に作品を発表していくことことになった。
ネット上の嵐が吹き荒れる中、カオス*ラウンジの今後のアクションがどのような作用を巻き起こしていくのか、目が離せない。