スタジオジブリ最新作『風立ちぬ』がついに20日から全国343館454スクリーンで一斉公開された。20日の午後13時時点で前作『崖の上のポニョ』(2008年・興行収入155億円) 対比127%と好調な滑り出しを記録。だが、一方で、すでに観た客からは「子ども向けではない」という批判も聞く。
筆者は試写会で本作を鑑賞したが、会場でも反応は同様だった。大人の胸には響く作品なのだが、子どもにはなかなか理解が難しい。なぜなら、『風立ちぬ』は戦争の時代を思い出させるが故に強く胸を打つ作品であるからだ。よって戦争を知らない世代は、『風立ちぬ』を見るに当たって予備知識が欠かせない。そこで今回は映画を見る前に知るべき4つの予備知識をご紹介したい。
1.堀越二郎は零式艦上戦闘機の生みの親。
堀越二郎は幼い頃から空に憧れていた相当な飛行機オタクである。東京帝国大学を首席で卒業した後は、現在の三菱重工に入社し、美と実用性の高い飛行機を設計し続けた。だが、当時は戦争まっただ中。彼が作らなければならなかったのは、戦闘機だった。
だが、彼は信念は曲げない。エンジンが気に食わなかったので、海軍の方針に反対してエンジンを換えさせたというエピソードもあるように、彼は飛行機に美と実用性を追い求めていた。しかし、日本は戦争に負け、彼の作った飛行機はほとんど帰って来なかった。
自分の作った戦闘機が戦争に加担し、そして、戦争に負けてしまったことを彼はどう感じたのだろうか。『風立ちぬ』は堀越のやる瀬ない気持ちを描いた作品でもある。
2.堀辰雄と妻は不治の病・結核だった。
この物語のモデルとなったもう1人の人物・堀辰雄が書いた小説『風立ちぬ』は、当時は不治の病として知られていた結核を煩う夫と妻の悲恋の物語であり、妻の死の翌年から、鎮魂曲(レクイエム)として書きはじめられた小説である。長期的な療養を必要とする人たちのための療養所「サナトリウム」で2人で過ごす愛と喪失の日々。治らぬ病を抱えながらの2人での愛の日々が、ジブリ作品のモデルとなっていることも心に止めておくべきだろう。
3.軍国主義へと突き進む、激動の時代
第一次世界大戦の特需景気の後、1923年に起きた関東大震災の影響で日本は不況が続いた。悪化するばかりの状況を打破しようと、日本は、31年に満州事変を巻き起こし、戦争へと突き進んでいく。今以上の格差社会。不安定な情勢。明日の自分の命さえ危うい。そんな状況の中で人々はどんな思いで生きていたのだろうか。想像を遥かに越えた辛く厳しい時代だっただろう。
そんな時代だからこそ、堀辰雄の小説の一節にある「風立ちぬ、いざ生きめやも」(風が吹いた。生きることを試みなければならない)という言葉は胸に響く。この言葉は映画でもキーワードとなってくる。
4.意味深な荒井由美の『ひこうき雲』の歌詞
ジブリ映画のために書かれた歌なのでは?と思う程、マッチした荒井由美の『ひこうき雲』。何処か切なく、だが、希望も感じさせるこの歌の歌詞は映画の感動を強くさせている。
空に憧れて
空をかけてゆく
あの子の命はひこうき雲
(荒井由美『ひこうき雲』より)
5.ジブリ初?! 大人の恋愛&キスシーン
本作で描かれているのは、大人の恋愛だ。もちろん、キスシーンもいっぱい。ジブリでキスシーンといえば、『崖の上のポニョ』の「ぽにょ、そーすけ好きー♡ちゅっ」という些細なキスくらいだと思うのだが、本作は想像以上にちゅっちゅっ、ちゅっちゅっ、している。だが、仕方ないのだ。明日をも分からない時代なのだ。激動の時代を生きた人々のリアルな大人の恋愛がここにある。
いかがだっただろうか。この4つの知識さえ頭に入れておけば、ジブリ映画『風立ちぬ』 も楽しめるはず?! 戦前・戦中という激動の時代を力強く駆け抜けた人々の苦悩に想いを馳せながら、あなたもこの感動の映画を是非是非ご覧あれ。
【リンク】風立ちぬ公式HP
*URL : http://kazetachinu.jp/