こんにちは、みんなの銀行デザイングループ グループリーダーの林です。「みんなの銀行デザインの現在地」の2本目となる本記事では、デザイングループの3つのチームの1つ、「サービスデザインチーム」について詳しくご紹介したいと思います。
皆さんはサービスデザインと聞いてどのようなイメージを持ちますか? カスタマージャーニーの作成やワークショップのファシリテーション等をイメージする方もいるかもしれません。たしかにこれらはわかりやすい象徴的なタスクですが、長い時間をかけてサービスを育てていく中では、ごく一部の仕事にすぎません。
本記事ではインハウスのサービスデザイナーが現場でどのような仕事をしているのかご紹介します。生きたサービスデザインの実態を知っていただく機会になれば幸いです。
サービスデザインチームの概要
まず初めにサービスデザインの一般的な定義ですが、経済産業省が公表した資料では「顧客体験のみならず、顧客体験を継続的に実現するための組織と仕組みをデザインすることで新たな価値を創出する方法論」とされています。すこし難解なので、個人的には「顧客とサービス(企業)がつながり続けるために必要な全てをよりよくすること」と捉えています。
そんな私たちサービスデザインチームの仕事内容を簡単に要約すると「ユーザーの定性/定量データから課題を捉え、関係者を巻き込みながら仮説の構築と検証を繰り返すこと」になります。
金融サービスの特性上、金融のプロフェッショナルでなければ企画や判断が難しい場面もあり、そのようなプロフェショナルと連携しながら、我々は徹底的に「ユーザー起点」で考えることに注力しています。
ちなみに起点となるユーザー調査はほぼ全て内製化しています(※アンケートの一部のみ外注)。リサーチャーという専門人財は在籍していませんが、サービスデザインチームのメンバー自身が、プロジェクトを推進するための手段として、行動データ分析やデプスインタビュー、アンケート調査をいつでも自分たちで実施できるようにしています。
関与する仕事の領域は前回の記事でもご紹介した通り、「B2C」領域だけでなく「B2B(2C)」領域も、そしてそれぞれで「既存事業のグロース」と「新規事業の創出」に関与しています。
次の章では、上記領域の中でも日ごろ最もリソースを割いて取り組んでいる「①みんなの銀行アプリを育てる」領域にフォーカスを当ててサービスデザインチームの具体的な仕事内容をご紹介したいと思います。
本記事の後半で、「②みんなの銀行の新しい事業を生み出す」「③BaaSの新規顧客開拓支援」に関しても簡単にご紹介させていただきます。
サービスデザインチームの仕事
①みんなの銀行アプリを育てる
まず前提として、「①みんなの銀行アプリを育てる」領域では、主に「ユニット」と呼ばれる機能単位の部署横断型チームに分かれて検討を進めていますので、頭の片隅に置きながら読み進めてください。
大まかには「調査」→「課題定義」→「施策検討」→「具体化」という発散と収束を繰り返す一般的なフローに集約されますが、その内容はケースバイケースで大きく変わりますので、以下6つのケース別に詳しくご説明します。
Case1. マイナスからゼロへの改善
例えばアプリの動線上で明らかに離脱している箇所がある、著しくアクティブ率が低下しているといった状況を改善するような取り組みが該当します。この場合サービスデザインチームでは行動データ分析から該当箇所を特定し、その原因を推測し、そのままソリューションの検討に移ることが多いです。
ソリューションを検討するうえで、UIの改善はもちろん、新たにリリースした箇所が原因だと判断すれば、速やかに切り戻しも行います。また、クイックに対処するために、ポップアップやメールによるコミュニケーションでの改善も併せて検討します。
機会損失やクレームに繋がる可能性も高いケースのため、比較的短いスパンで実施する取り組みになります。
Case2. ゼロからプラスへの改善
ターゲットユーザーが喜ぶような改善を行うことで、継続アクティブ率向上を目指すケースです。
例えば「レコード」という他の銀行やクレジットカード等を連携することで資産を一元管理できる機能があります。連携した口座やカードごとに入出金の推移を棒グラフで見ることができるのですが、レコードを好んで継続的に使ってくれるヘビーユーザーは、グラフ画面よりもレコードのトップ画面で複数の資産の残高や利用額を見比べる使い方をしていることが分かりました。
この部分の体験を向上し周知することが、継続アクティブ率向上につながると考え、現在はレコードトップ画面の改善に注力しています。
このようなケースでは、行動データからヘビーユーザーを抽出し、彼らに対するインタビューからハマっているポイントを明らかにした上で、改善箇所を見極めていきます。
急を要する改善ではないことと、定性的な情報を元に関係者と合意形成しながら進めるため、やや中期的なスパンで実施する取り組みになります。
Case3. 会社事情の機能追加
Case1,2のようにユーザーデータから改善点を見出す流れではなく、会社として必要な機能がビジネスサイドから降りてくるケースです。例えばローンの増枠機能等、ユーザーにとってうれしい側面もありますが、どちらかというと会社の収益的な観点で必要と判断し、実装するような案件です。
この場合のサービスデザインチームのタスクは、ビジネス側から降りてくる要件の理解と、それをプロダクトデザイナーに的確に伝えるためのUIフローへの落とし込みがメインになります。そしてプロダクトデザイナーと一緒にユーザビリティテストを繰りかえし、徹底的に使い勝手を向上させていきます。
Case4. ユニットの指針を見直す
みんなの銀行にはサービス全体としての指針がありますが、各ユニットがより手触り感を持って運用できるように、それらをさらにブレイクダウンしたユニットごとの指針があります。
日ごろ活動を行う上で拠り所となるものですが、Case1,2,3の改善を実施していく中で、だんだんと当初の想定とは変わってくることもあり、ユニットの指針自体も定期的に見直し、実態に即した内容にアップデートしていく必要があります。またそのタイミングで機能全体を俯瞰して見渡し、全体の整合性をとりながら改善点を考える取り組みも行います。
この場合、ユニットメンバーでまとまった時間を確保してワークショップ形式で進めることが多く、サービスデザインチームは全体のリードを担います。
ファシリテーションはもちろん、材料となるユーザーデータや競合他社情報の準備、ワークショップ結果のとりまとめと可視化等、メンバーで合意形成しながら進めるために必要なタスクを行います。
こちらは年に一回程度の頻度で、比較的長期的なスパンで実施します。
Case5. サービス全体のコミュニケーション改善
ここまでは冒頭にお伝えした「ユニット」と呼ばれる機能単位のチームの中での取組をご紹介しました。ユニットはクイックに物事を進められる反面、個別最適になるリスクもはらんでおり、サービス全体を俯瞰して捉えることも必要不可欠です。
私たちサービスデザインチームは特にその視点を強く持ち、ユニットや部署を横断して働きかける役割を担います。
横断的な取り組みの事例として、獲得から利用促進まで一気通貫でコミュニケーション施策を考えるプロジェクトを主導しています。
こちらはプロダクト改善やCRM施策を実施してもアクティブ率が伸びづらい状況に対し、「アクイジション(顧客獲得)」と「リテンション(顧客維持)」で想定しているターゲットユーザーが異なることが原因の一つであるという仮説を持って始めた取り組みです。
後述する通り、サービス全体のペルソナは設定されていますが、開業当初に設定したもので、やや実態と乖離していることもあり、共通認識としてあまり機能していませんでした。
そこでこれまでサービスデザインチームが蓄積してきたユーザーデータを元に、特によく使ってくれるヘビーユーザーの特徴から、増やすべきターゲットユーザーを明確に定義し、そのユーザーを戦略的に獲得し、維持するための一連の施策を、マーケや企画のメンバーと一緒に推進しています。
この取り組みはユニット(機能)毎に考えていては適切な仮説やソリューションは生み出せません。
みんなの銀行を認知したきっかけや口座開設理由、普段どのような文脈でアプリを利用しているか、アプリ内をどのように回遊しているか、みんなの銀行にハマっているポイントは何か等、ユーザーとサービスのすべての接点を俯瞰して捉えることで初めて効果的な施策を考えることができます。
ちなみに現在はこのような全体像を常にアップデートし続けるためにヘビーユーザーへのインタビュー調査を定型化し、隔月で10~20人の方にインタビューを実施しています。
Case6. サービス全体の指針を見直す
さきほどのCase5でお話しした通り、みんなの銀行サービス全体のペルソナやカスタマージャーニーマップといった指針があるものの、開業当初から更新されず、実態と乖離している部分もあり、あまり共通認識として機能していませんでした。
サービス全体の指針として頻繁に変えるべきものではないですが、サービスを開始して3年が経ち、いよいよ見直すタイミングに来ています。
Case5の取組の中でターゲットとすべき優良ユーザーのイメージが固まりましたので、こちらをベースにペルソナを再定義し、カスタマージャーニーを描きなおしたうえで、各タッチポイントの位置づけや方針を整理し、それにそって各ルールの見直しまで踏み込む予定です。
またこの取り組みによって出来上がったものが形骸化しないよう、あらかじめ関係各所を巻き込み一緒に作り上げることはもちろん、その後の運用ルールのすり合わせやアップデートを怠らないようにしたいと考えています。
以上、「①みんなの銀行アプリを育てる」領域におけるサービスデザインチームの仕事内容をご紹介しましたがいかがでしたでしょうか?実際の現場ではこのように大中小さまざまなサイクルを行ったり来たりしながら、泥臭く回し続けることで、サービス全体の顧客体験の向上に取り組んでいます。
その他の領域での活動について
ここまで「①みんなの銀行アプリを育てる」にフォーカスを当てて紹介してきましたが、他の領域での活動についても簡単にご紹介したいと思います。
②みんなの銀行の新しい事業を生み出す
この領域は、拠り所となるユーザーのデータが全くないため、0ベースから仮説を構築していくことになります。
デスクリサーチや新しいサービスのユーザーになりそうな方をつかまえてインタビューを実施することから始め、課題の洗い出しとペルソナの設定を行います。
設定したペルソナに対する理想的なシナリオをストーリーボードとして描き、ユーザーになりそうな方に提示してコンセプトテストを実施し、結果によってアイデアを考え直したり、そもそものターゲットを見直して調査からやり直したりします。
このようなことを繰り返して必要な機能のあたりをつけながら、ユーザーストーリーマッピングを作成してMVPを定義し、具体的なUIの検討に移っていくような流れになります。
③BaaSの新規顧客開拓支援
この領域ではBaaS事業の営業支援を行っています。
BaaSとは
“Banking as a Service”の略称です。ビジネスパートナーの皆さまに銀行サービスをインターネットを介して提供するものです。アプリやサービスの中にこの金融機能(システム)を組み込み、非金融事業者様が金融事業をクイックに始めることができるサービスです。
お客さまのサービスにみんなの銀行の機能を組み込んだ場合、その先のユーザーにどのような体験を提供できるか、具体的なペルソナやカスタマージャーニーを描き、必要に応じてプロトタイプを作成するといった取り組みになります。
お客さまからすると、自社サービスに銀行機能を導入した際に、どのようなことができるのか、自分たちのユーザーにどのようなメリットがあるのかイメージが湧きづらい部分があるため、我々サービスデザインチームが普段実施しているユーザー起点のアプローチを取り入れ、少しでもイメージが湧きやすくなるようにサポートしています。
サービスデザインチームのこれまで、これから
このように広く様々な仕事を担っているサービスデザインチームですが、最初から明確な役割やプロセスが与えられていたわけではありませんでした。
プロダクトデザインやコミュニケーションデザインが開業前からFjordと協業しながら活動していたのに対し、サービスデザインは開業後に新しく設けられたロールになります。2021年10月に私がみんなの銀行初のサービスデザイナーとして参画し、当時まだ誰もプロダクト改善の経験がない状況の中で、手探りでプロセスを開拓していくところから始まりました。
色々と進め方を検討する中で見えてきたのは、インハウスデザイナーとして長期的にプロダクト改善を行っていくには、関係各所との関係構築が極めて重要であり、それまでアクセンチュアが行ってきたコンサル的な進め方を踏襲してはだめだということでした。多少遠回りでもメンバーが共感し易い方法を選び、一つずつ合意形成しながら進めることで、関係構築を行うことに注力しました。
例えば改善の根拠とするユーザーデータについて、インタビューの結果よりもコンタクトセンターに届くお問い合わせの方が重要だと考えるメンバーがいれば、まず大量にストックされた何千とあるVoCを地道に分類して傾向を示したうえで、そこに行動データやインタビューを組み合わせて取り組むべき課題を絞り込んだり、あるいは設定されたペルソナに共感できないメンバーがいれば、そのペルソナの元となったユーザーインタビューの動画を一つずつ一緒に見ながら進めたりしました。
このように、サービスデザインの方法論をおしつけるのではなく、関係するメンバーの反応に応じて柔軟にやり方を変えながら進めることで、少しずつ他部署の信頼を得て、サービスデザインの必要性を認識してもらい、成功事例をつくって他のプロジェクトへ水平展開することで、今のサービスデザインチームの形ができていきました。
現在はチームメンバーも増えて軌道に乗ってきましたが、会社全体が発展途上であるのと同様に、サービスデザインチームもまだ進化の途中です。会社の状況に応じてお役立ちの領域を変化させながら、さまざまな領域でよりよい顧客体験を実現することに貢献していきたいと思います。
また前回の記事でも書いたように、より良い顧客体験を実現するためには、私たちデザイナーだけでなく、一緒にサービスをつくり、伝えていくメンバーにも同じようにユーザーを理解してもらうことが必要です。
私たちサービスデザインチームは、会社の中でだれよりもユーザーを理解している組織として、ユーザー起点のマインドセットを会社の隅々に浸透させるためにやるべきことを考え、新しいことにもチャレンジしていきたいと思います。
本記事では「サービスデザインチーム」についてご紹介させていただきました。次回は「プロダクトデザインチーム」の紹介になります。ご期待ください!