【ブラジル戦の惨敗を振り返る】なんとかならなかったコンディションとなんとかして欲しかった選手起用。「ブラジル戦が意識改革になった」と後に振り返る選手は現れるか。

  by 香椎みるめ  Tags :  

 「もっとできるチームだからこそ悔しい」と監督に言わせた惨敗。サッカー日本代表は15日、FIFAコンフェデレーションズカップ開幕戦でブラジル代表と対戦し、0対3で敗れました。ブラジルは3分にネイマールのボレーシュートが炸裂し、48分にはパウリーニョが追加点を奪い、後半アディショナルタイムに途中出場のジョーがダメ押し。試合途中で“ガス切れ”を起こした日本はブラジルにうまくあしらわれるばかりでした。

 ブラジル相手の惨敗が当然に思えて仕方ない理由。

 確かにブラジルは強かったが、日本は(もう少し)なんとかならなかったのか。なんとかならなかった原因はコンディションにあると思います。後半半ばから選手たちの足は止まっていました。“ガス切れ”を起こせば、一枚上手どころか五枚くらい上手だったブラジル相手に致命的です。ただ、カタールでのイラク戦から中3日の移動を強いられたのは確かで、国際サッカー連盟(FIFA)には(難しいと思いますが)日程の再考を強く望みます。

 注目選手の動きはどうだったか。頼もしい言葉でチームを引っ張る本田圭佑や長友佑都ですが、それぞれ病気と左膝半月板損傷で苦しんだシーズンを終えたばかり。CSKAモスクワの選手は、強引な突破から右足でシュートを放ち、遠目のFKからジュリオ・セーザルを強襲するなど、まずまず存在感を放っていました。一方、インテル・ミラノの選手は、復帰後も本調子ではないようで、心と身体のギャップに苦しんでいるようです。

 ブラジル戦翌日の調整を「疲労」で回避した吉田麻也はより深刻かもしれません。前半から満足に動けていませんでした。香川真司にも言えますが、新天地のイングランド・プレミアリーグを経験したことによる疲労蓄積は必ずあるはずです。吉田は昨夏のロンドン五輪から働き続け、終盤戦は股関節痛のアクシデントと満身創痍。こうして各選手の状況を眺めていると、ブラジル相手の惨敗は当然の帰結に思えて仕方ありません。

 南アフリカW杯とロンドン五輪の反省を生かした選手起用を。

 ただ、選手起用については、なんとかなったと思いますし、なんとかして欲しかったです。後半10分過ぎからの日本は、運動量が明らかに低下しており、フレッシュな選手を入れるべきでした。それで劇的に変わるとは思えませんが、何もしないよりマシです。若い選手に厳しい状況を体感させるのも、必ずしも結果が求められないコンフェデ杯の意義でしょう。それでもアルベルト・ザッケローニ監督は「動く」のが遅かったです。

 個別の選手交代はどうだったか。56分、清武弘嗣→前田遼一以降、次の交代は78分の遠藤保仁→細貝萌まで待たなければなりませんでした。89分の本田圭佑→乾貴士の交代は、まさに焼け石に水。左サイドの香川は守備の貢献が十分ではなかったので、フランクフルトで“守備の貢献を覚えた”選手を思い切って送り出してもよかったはずです。乾は香川や岡崎慎司よりも縦への突破で相手陣内の深くまでボールを運べる選手でもあります。

 ザックがブラジル戦のスタメンに信頼を置いているのは分かります。ただ、日本代表は南アフリカワールドカップとロンドンオリンピックで「選手層の薄さ」に苦しみました。代表全体のレベルアップを考えて、次のイタリア戦はコンディション重視の選手起用に踏み切るべきです。ザックはウディネーゼの選手の「保守的」なメンタリティを3-4-3採用で変えたそうです。その彼が今、保守的になっていないでしょうか。

 ラストパスの前のパスをかっさらい、中途半端な攻撃から一気の逆襲。

 ここからはブラジルから学ぶべきことをいくつか挙げていきます。一瞬の迷いも許さない、速くて力強い守備は、日本に小気味よくつないで崩すことを許しませんでした。アジアレベルの守備がラストパスをなんとかカットするものなら、ブラジルの守備はラストパスの前のパスをかっさらうイメージです。ダヴィド・ルイスやグスタヴォらの“ボールを奪おうとする強さ”や“足を出す反応の速さ”に対抗できたのは本田くらいでした。

 イージーミスもあったものの、ブラジルのボールコントロールは流石でした。ベーシックテクニックが特に優れているからこそ、スピーディーな攻撃を展開できるのでしょう。サイドへの速い展開は、仮につながらなくても、好位置でのスローインやCKになっていた印象です。また、パウリーニョが足を振り抜くシュートスピードはJリーグでは体感できないものでした。一方、日本はコンディションの悪さからか、全体的にパススピードが緩く、ミスも相次いでいました。

 ブラジルは前半と後半の開始直後にゴールを奪ったことで、楽にゲームを進められたに違いありません。どちらの得点シーンにも言えますが、日本にチャンスをつくらせてもシュートは打たせず、鋭い逆襲を繰り出しました。アジアではピンチに終わっても、ブラジルのような試合巧者はゴールにきっちり結びつけてきます。その意味で、枠に飛ぶかどうかはともかく、乾貴士のような“縦に仕掛けてシュートを打ち切れる”選手の必要性を感じました。

 「ブラジル戦が意識改革になった」と後に振り返る選手が現れることを強く望む。

 朝4時から日本がボコボコにされる試合を見るのは最悪だと思う反面、最高でもありました(決してMではございません)。数多くの課題を明らかにすることが出来たのですから。代表に“ショック療法”を施し得るのはブラジルかスペインくらいでしょう。代表に入っていても入っていなくても「ブラジル戦が意識改革になった」と後に振り返る選手が現れることを強く望みます。

 ザッケローニ監督の采配は、前述した通り、なかなかの不満が残るものでした。ショックの残る選手たちを心身両面で出来るだけ回復させつつ、個々に何をすべきかを伝えて実行させることが今求められます。

香椎みるめ: フリーのライター、英日翻訳者、校閲者の三刀流。平成生まれ。性別は秘密。ウェブマガジン「GIGAMEN」で10年、計1890本以上の記事を執筆。サッカーの観戦記から始まった物書き屋は、「Yahoo!ニュース」や「ガジェット通信」に掲載された経験も活かしつつ、今は日本市場へ参入する海外企業の皆さんとタッグを組みながら、ありとあらゆる「文字を書くお仕事」をこなす日々。

Twitter: GigaMirumeK