人は集まると大きな力を発揮する。少し前の話ではあるが、アラブ世界で起こった大規模な民主化運動「アラブの春」は群衆の大きな力を示した例といえるのではないだろうか。このように群衆は集まると大きな力を発揮する反面、一度コントロールを失うと暴行事件や大量窃盗のようなトラブルに発展する可能性も秘めており、群衆心理は個人の心理とは別の特性をもっているとも考えられる。ここでは、社会心理学者のル・ボンが提唱した古典的な群衆心理の仮説について紹介していきたい。
ル・ボンが提唱した群衆心理の法則
1.道徳性の低下
群衆に混ざると個人のモラルは最低レベルにまで低下し、無責任になり衝動的に行動しやすくなる。ある人が石を投げたり、物を壊したりすると多くの人が同調し、止められなくなる。「赤信号、みんなで渡れば怖くない」というギャグは群衆心理における道徳性の低下を表している一言といえるかもしれない。
2.暗示にかかりやすくなる
群衆になると暗示にかかりやすくなり、正確な判断力が失われてしまう上に心理的な感染が顕著になってくる。たくさんの人が集まる場所で火事などがおきると、一斉にパニック状態になって非常口がいくつかあるにも関わらず、同じ出口にみんなが殺到したりするケースなどがこれに該当する。
3.思考が単純になる
個人では思慮深い人であっても群衆にまぎれることによって、無意識のうちに個人としてのアイデンティティが低下してしまい、モノの見方や考え方が単純になる。そのことで結果的に感情的な考え方や行動が顕著になってくる。
4.感情的な動揺が激しくなる
感情の動揺が強くなり、興奮状態に陥りやすくなる。音楽ライブなどはこのような群衆の興奮しやすい性質を上手く利用している好例と考えられる。
ル・ボンはこの仮説を1895年に刊行された「群衆の心理」で発表している。ル・ボン自体は貴族階層の人間であり、群衆に襲われる側だったので、群衆は集まると野蛮で凶暴になるという考えをもっていたようだ。確かに現在でも大規模なデモをみていると野蛮な行動をとっている人を目にすることもあるが、皆さんはどうお考えだろうか?
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