映画『DAUGHTER』菅野祐悟監督&関川ゆか インタビュー「これは死生観の話」「死というものをどう捉えていくかがひとつのテーマ」

  by ときたたかし  Tags :  

竹中直人さんと関川ゆかさんがダブル主演を務め、妻を亡くした父と娘の物語を、物理学の概念、荘厳な音楽と映像で描いた映画『DAUGHTER』が、全国順次公開中です。

数々の映画、ドラマ、アニメやゲーム音楽など多ジャンルで音楽制作を行っている作曲家・菅野祐悟さんが初の監督を務め、昨年開催された横浜国際映画祭のクロージング作品として初お披露目され、好評を集めました。

菅野監督、竹中さん演じる父親・晴人の娘・美宙役の関川さんにお話をうかがいました。

■公式サイト:https://saigate.co.jp/daughter/ [リンク]

●菅野さんは本作が初めての映画監督作品ということになりましたが、どのような経緯で挑戦されることになったのでしょうか?

菅野:プロデューサーの酒井さんとは実は昔からの友達で、いつも「何かやりたいですね」みたいな話をしていた中で、映画の企画が持ち上がって来たんです。最初は仲間内だけの、大学の映画サークルのノリで作っちゃおうみたいな感じだったのですが、竹中直人さんに主演で出ていただけることになり、これはとんでもないことになったなと(笑)。

そもそも当初は監督までする予定ではなく、監督は誰かを立てるつもりだったのです。ただ、酒井さんが、僕が監督じゃないと、と言ってくださったので、監督をすることにもなりました。そして竹中直人さんの相手役の女優さんのオーディションをして、関川さんがダブル主演のもうひとりに決まって。その後、昨年5月に開催された横浜国際映画祭でのワールドプレミア上映や、劇場公開も決めていただいて。今日に至るという感じです。

●関川さんはオーディションに受かり出演が決まった時と、実際に菅野組に参加されていかがでしたか?

関川:もちろん以前から菅野さんのことは知っていて、いつかご一緒出来たらうれしいなって。これはみんなが思うことだと思うのですが、今回まさか監督としての菅野さんと一緒に仕事することになるとは思わなかったのですが(笑)、でもとてもうれしかったです。全力でやらなきゃなと思って、頑張って現場に臨みましたね。髪も切って(笑)。

撮影現場では、周りのスタッフさんたちの意見を菅野さんが採り入れる様子がとてもお上手だなと思って見ていましたが、その反面、菅野さんの美意識みたいなものを、最初のうちはみんなまだよく分からなくて。風景や映っちゃ嫌なものがあると言われた時に、なんでだろうみたいな感じになっていたのが、だんだんと菅野さんの感覚が分かるようになっていって、現場がどんどん意見を交換していく感じが素敵だなと思いました。

●部署の枠を超えて、全員で作っているような感じでしたか?

関川:そうですね。わたしもそうでしたし、カメラマンの方もみなさんどんどん提案して、言われた菅野さんも快諾されていたり、とても自由な作品の作り方だなと思って、それはとても魅力的だなと思いました。

●本作は<妻を亡くした父と娘の物語を、物理学の概念、荘厳な音楽と映像で描いた異色作>とありますが、量子物理学の概念で描こうとどうして思ったのでしょうか?

菅野:これは死生観の話にもなっているんですよね。この映画って、死というものをどう捉えていくかっていうことがひとつのテーマになっていて、それって記憶や思い出というものとどう生きていくかみたいなこと、お父さんと娘の親と子の関係値みたいなこともテーマなんです。

僕はキリスト教の教会に併設された幼稚園に行っていて、そこでずっと聖書の勉強を子供の時からやって来たんです。キリスト教の世界も死の概念、人間は死んでも魂は死なないからどこに行くのかとかということが、僕の中でテーマとしてずっとあって、そこでやがて量子物理学という概念と出会うわけですが、ある意味宗教ってスピリチュアルでオカルト的な、非科学的な部分があると思うんですよね。それが科学と結びついたら面白いなと思ったんです。それはある種、人間にとっての救いにもなるだろうと。これは面白いアイデアかも知れないなと思い、脚本家の宇咲海里さんと一緒に、この量子物理学をどう掘り下げて物語にしていくかっていうことを考えました。そして世の中にひとつのことを提示できるのではないかって、考えて作っていったっていうことなんです。

●関川さんは、そのテーマの表現者としては、どのようなことを感じましたか?

関川:私は好きなシーンの一つに美裕(母)と晴人(父)の『魂の重さは21グラム』って会話のシーンがあるんですけど、そういう会話って、この夫婦だからこそできる愛のある会話だと思っています。
物理的に解明されていないことは多くても、そういう会話を病床でできる2人がとてもロマンチックな関係だと思いますし、愛しいと感じました。

まだ解明されてなくてこれからも解明されるかわからない、説明がつかないことも沢山あって。
だからこそ自分の中に答えを待っててもいいんじゃないかな。それが美裕と晴人みたいに大切な人と一緒でも、なにかしら信じるものみたいなものを持っていれば、私も美裕みたいな強くて優しい女性になれるかな?なんて思いました。

この映画のキャッチコピーにもなっている<愛は物理を超えるか>その答えも皆さんの中で見つかるような作品になっていると嬉しく思います。

●菅野さんは、こうして一作品撮り終えたことで、何か気付いたことはありましたか?

菅野:自分が何を良しとして生きているかみたいなことも、ふわっと考えながら生きてきたことも全部問われて、自分のある意味での趣味、思考や生き方、そういうものを全部、世の中に丸裸にして晒されるみたいな、そういう感じがありました。

ある意味では等身大というか、もう逃げも隠れも出来ない、全部バレる職業だなと思いました。音楽ってまだ言葉を発しないのですが、音楽ももちろん専門家が聞いたら、こいつはどういう趣味・思考で、どういう人間かっていうことは分かると思うんですよ。でも映画は、それ以上に分かりやすくバレるっていうか。

今回は恋愛映画ではないですが、仮に恋愛映画だったとしたら、手を握るとかキスをするとか、腰に手を回すとかっていう演出があった時に、演出付けるわけですよね、監督は。するとこいつは普段こういう手の握り方をしてるのかみたいなことが世の中にバレちゃうようなもんじゃないですか。たとえばそういうことも含めて、その人のやっぱスタイルみたいなものが全部分かるような職業だから、映画監督という仕事は、けっこう怖いなと思いました(笑)。

■ストーリー

幼くして母親を亡くした娘・美宙と、 死んだ妻の幻影を追い求める父親・晴人。交錯する愛情に翻弄される親子、そして突きつけられる悲劇…。生きること、死ぬこと、愛すること…そんな人生の問いに晴人は人生を掛け、彷徨い、到達した「答え」とは?

竹中直人 関川ゆか
上地由真 近藤勇磨 若林瑠海 松代大介 奥田圭悟 ゆのん 美莉奈 / かとうれいこ

監督・音楽:菅野祐悟

2023年/日本/DCP/53分

配給:SAIGATE

(C) Megu Entertainment

全国順次公開中

ときたたかし

映画とディズニー・パークスが専門のフリーライター。「映画生活(現:ぴあ映画生活)」の初代編集長を経て、現在は年間延べ250人ほどの俳優・監督へのインタビューと、世界のディズニーリゾートを追いかける日々。主な出演作として故・水野晴郎氏がライフワークとしていた反戦娯楽作『シベリア超特急5』(05)(本人役、“大滝功”名義でクレジット)、『トランスフォーマー/リベンジ』(09)(特典映像「ベイさんとの1日」)など。instagram→@takashi.tokita_tokyo