ドキュメンタリー映画『僕が宇宙に行った理由』平野陽三監督インタビュー 「夢を持つのっていいことだよって、観ている人に感じてほしいです」

  by ときたたかし  Tags :  

実業家の前澤友作さんが宇宙に飛び立つまでの訓練の様子や、国際宇宙ステーション(ISS)での12日間の滞在、そして地球へ帰還した後まで、約7年間に渡って密着したドキュメンタリー映画、『僕が宇宙に行った理由』が現在公開中です。

監督は前澤さんとともに宇宙に向かった平野陽三さんで、ロシアでの過酷な訓練生活や、宇宙での前澤さんの本音にも迫り、臨場感あふれる映像作品に仕上げました。本物の宇宙を捉えた本格派ドキュメンタリーでもある本作について、平野監督にお話をうかがいました。

■公式サイト:https://whyspace-movie.jp/ [リンク]

●前澤さんが宇宙旅行の会見を開かれた当時、アーティストや映画監督も連れて行くと言われてましたが、今回それが実現したわけでしょうか?

それは違うんです。実は混同されている方がとても多いのですが、前澤はアメリカのスペースXの月のプロジェクトの方で映画監督やアーティストを連れて行きたいと言っていて、今回僕が行かせていただいたのは、ISSという国際宇宙ステーションの方なんです。月の方は10人以上の乗れる大きな宇宙船なので、たくさん連れて行ける予定です。

●実は2本の宇宙プロジェクトが走っていたわけなんですね。

そうですね。ようやく1本が今終わり、一応こうしてアウトプット出来た、という段階です。

●今回の作品は、壮大なスケールの夢を追うことって素晴らしいものであると同時に、プロの宇宙飛行士と同等のスキルが求められるので、かなり大変そうだという印象も強かったです。

確かに「訓練は大変だったでしょう?」って言われて、毎日大変なことはあったはずなのですが、総合してみるととても楽しかったですし、今はいい思い出の方が多いかなと思います。

ただ、しんどかったことも確かですね。長時間勉強しないといけないですし、ロシア語、英語に耳を傾けて集中しないといけないですし、フィジカルなトレーニングで言うと、宇宙酔いを再現するための回転椅子ですよね。それに耐える訓練があり、これが本当に辛かったです。朝一に訓練がよく入ったのですが、夜寝る前、晩ご飯を食べる時まで気持ち悪いのが続いていて。これを日本に戻ってロシアに行ってと、半年ほど繰り返しました。

●そういう過酷な準備を経て実際に宇宙に着いた時など、感動のピークはどのあたりだったのですか?

最初に無重力を感じた時ですね。ロケットに乗っていて、まだシートベルトをしているのですが、体の負荷がなくなって、「あ、これ浮いている」って感じた瞬間です。けっこう序盤ですね。10分経っていないぐらいで。

●宇宙に着く前なんですね。

いえ、もう宇宙なんです。100キロ以上の上空って基本的に宇宙と呼ばれているのですが、そこに本当に数分で到達しちゃうんです。10分くらいで200キロ上空に行ってるので、完全に無重力に近い状態です。

その瞬間にもう地球が見えるんです。丸く見え始めるので、その無重力を感じながら青い地球を見るっていう。そのタイミングがセットで来たので、そこが、僕が一番感動した瞬間でした。

こういうことを体験して宇宙を知り始めたら面白かったので、この作品でもっと宇宙を知ってもらえるきっかけになればいいなと本心で思います。

●そもそも今回の映画は、映画として作る目的は当初なく、前澤さんの指示でもなく、ご自身の体験が元で提案されたそうですね。

やり切れなかったことは12日間という限られた場所と環境、時間だったのでたくさんあり、それこそ映画にすることは決まっていなかったんです。記録用にちゃんと映像を収めなくてはいけなくて、僕に課せられたこと出来る限りのものを撮ってくること、そこで起こったことをちゃんと地上に持って帰るということが責務で、そこに神経を使った宇宙滞在でした。

でも、宇宙から地球を見させてもらって、なんて素晴らしい星なんだって、地球って大事にしないといけないよねと思ったわけです。それと同時に、地上を見渡してみたら戦争をしていて。この乖離が自分の中ですごかったんですね。なんて無情なんだろうという。そのコントラストを表現することで、何か考えるきっかけになってくれればいいなっていう思いで、「一本映像繋いでいいですか?」と前澤さんに言いました。

●本作、年末公開なので前澤さんがかつて宇宙を夢見た時の年代の子どもたちも観るかと思うのですが、メッセージはありますか?

子どもたちには、宇宙に行くアドベンチャー感を感じいてほしいです。ロケットが飛び立つところ、地球の綺麗さなどは、子どもたちに観てほしいと思いますが、もうちょっと複雑にも捉えていくと、中学生以上、中学、高校、大学生で大人になった時の夢が何かある人や、もうすぐ社会人になる人たちに一番観てほしいなと実は思っています。宇宙のことと同じくらい、前澤のような大人なのに、ここまで破天候でピュアにチャレンジしてる人がいる姿というのは、観てもらいたいことだなと思いました。

●なかなか夢を持ちにくい時代とも言われますが、夢を持って強く突き進んでいる人の姿を見せることには意味がありそうですね。

本当にそうだと思います。他人に夢を持ちなよとか挑戦しなよみたいなことって、僕個人の性格としてはあまり言いたくないし、言われるのも嫌なタイプなのですが、夢を持っている人間がここまでやり切って挑戦している姿を真正面から伝えるものって、ありそうでないと思うんですよね。なので夢を持つのっていいことだよって、観ている人に感じてほしいです。

■イントロダクション

本作は、前澤友作が、過酷な検査やトレーニングを経て宇宙に飛び立つまでの道のりや、国際宇宙ステーション(ISS)での12日間の滞在、そして地球へ帰還した後まで密着したドキュメンタリー映画です。
日本の民間人として初となる宇宙旅行に密着し、宇宙にまつわるバックステージを鮮明に詳細に描いた初めての作品となります。

少年時代にハレー彗星を見たことで宇宙に興味を抱き、「どうしても、宇宙に行きたかった」と語る前澤が、民間人として宇宙に行くことができることを知り、人知れず宇宙旅行にむけてプロジェクトを始動したのが2015年。そこからカメラを回し始め、2021年にソユーズ(ロケット)が打ち上げられるまでに要した期間は約7年。宇宙に魅了され、夢に向かって挑戦し続ける一人の男の姿と、迫力のある音や映像の打ち上げシーン、そしてISS滞在中の貴重な宇宙での映像が一つの物語として収められています。
監督は、前澤とともに宇宙に向かった平野陽三。
ロシアでの訓練生活や、宇宙での前澤の本音に迫った、臨場感あふれる映像を届けます。

(C) 2023「僕が宇宙に行った理由」製作委員会

ときたたかし

映画とディズニー・パークスが専門のフリーライター。「映画生活(現:ぴあ映画生活)」の初代編集長を経て、現在は年間延べ250人ほどの俳優・監督へのインタビューと、世界のディズニーリゾートを追いかける日々。主な出演作として故・水野晴郎氏がライフワークとしていた反戦娯楽作『シベリア超特急5』(05)(本人役、“大滝功”名義でクレジット)、『トランスフォーマー/リベンジ』(09)(特典映像「ベイさんとの1日」)など。instagram→@takashi.tokita_tokyo