「宇宙安全保障」の軍縮と「宇宙ベンチャー台頭時代」の「宇宙旅行移住」開発競争に向けた「宇宙裁判所」計画

  by tomokihidachi  Tags :  

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今、米・ハワイ「インド太平洋宇宙軍」の傘下に新設される「在日米宇宙軍」と自衛隊の「宇宙作戦群」が連携することか計画されている。既に韓国の「在韓米宇宙軍」としての「烏山米空軍基地」も傘下に治めた米軍は、日米韓の宇宙軍拠点のトライアングル構築に向けたロードマップ造りを急務としている。 本稿は、2019年9月12日「軍縮・科学技術センター」主催の令和元年「軍縮・不拡散講座」における「グローバルコモンズ(宇宙、サイバー空間)における軍備管理」講演に始まり、新たな「宇宙兵器」の「軍縮」動向に触れる。また「宇宙ベンチャー台頭」で「宇宙ビジネス」の開発競争本格化から宇宙商業紛争解決を目指す「宇宙裁判所」計画の存在を周知し、「宇宙旅行移住」時代を迎えるスペース・ユニバーサル課題について「国際宇宙法学」の 観点から総体的に問題を解き明かす野心的な挑戦を試みたい。
 
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「宇宙安全保障」の「軍縮」と「宇宙ベンチャー台頭時代」の「宇宙旅行移住」開発競争に向けた「宇宙裁判所」計画
<リード>
【1】「国連宇宙法体系」の成り立ちと宇宙軍縮の起源
【2】ロシアーウクライナ侵略の米欧経済制裁に打撃を受ける「ロシアの宇宙産業」
【3】「自衛隊宇宙作戦群」と提携「在日米宇宙軍」を新設 インド太平洋地域の日米韓宇宙軍拠点に
【4】世界で展開される「宇宙安全保障」の成り立ちと展望
【5】宇宙の「軍事利用」から進む「民間商業利用」への移行
【6】2028年までの「月面探査」実現を目指す「アルテミス計画合意」
【7】「宇宙移住」のための地球生態系「縮図」を月や火星に適用 「コアバイオームテクノロジー」とその法体系学
【8】アラブ首長国連邦(UAE)主導!世界初「宇宙裁判所」創設計画始まる
【9】「国際宇宙法」からみる「国」または「私人」による「宇宙資源」の採鉱および利用は適法か?
【10】本格化する「民間人」の「宇宙ツーリズム」時代に「宇宙ホテル」「宇宙宅急便」「月保険」新たな「宇宙ビジネス」チャンス到来!
<結び>
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【1】「国連宇宙法体系」の成り立ちと宇宙軍縮の起源

 第一次世界大戦後、1919年にフランスで開催された第2回国際航空法会議で採択された国際航空条約(パリ条約)は第1章「一般原則」第1条「全ての締約国が完全に独占的な統治というものを、それに先立つ主権の大気の高位にある排他的空間(宇宙)を統治するものとして高位締約国契約を認めるものとする」として、「完全かつ排他的な主権」を有する旨を規定するに至った。この原則は、1926年の「イベロ・アメリカン航空条約」や1928年の「パン・アメリカン航空条約」にも盛り込まれた。その上に、第2次世界大戦中の1944年に採択された「国際民間航空条約(シカゴ条約)」の第1条にも、「パリ条約」第1条と同じ文言が置かれた。領空の物理的範囲について、「シカゴ条約」第2条は、パリ条約第1条にいう主権の及ぶ空間の垂直的範囲について、「少なくとも大気の存在する空間(Air Space)までは国家の主権が及ぶとしつつ、それよりも高い高度の利用可能な空間が領空に含まれるかどうかについて、確たる規範は成立していない」旨が指摘されている。現行の条約の目的として国家の領土はそれ自体を含むものとして、母国と植民地さらに接続水域の双方だと認める条約規定がある。
「航空法」のケースではパリ条約までは第2条「無害航空の自由」を許与する旨を規定していた。しかし戦時中に消滅するに至る。「海洋法」に規定されている「領海」においては「無害通航権」が確立している。だが航空機は高速で人々の在住する土地の真上を飛行して空爆が可能であることから、沿岸国と海洋国の間。対して「下土国」と「航空国」との間の利益調整を「規範形成力学」において法体系化してきた経緯がある。
[出典:<早稲田大学国際法研究会>宇宙法体系の基本的な性格に関する試論―海洋法及び航空法との比較―中村仁威著]
 
 上記を踏まえて「国連宇宙法体系」の特徴はいかなる「規範形成力学」から成り立って来たのか?

 1957年10月 旧ソ連のよる世界初の人工衛星「スプートニク1号」の打ち上げ成功。国際宇宙法の主要な法源は条約にあり。
 1959年 国連総会補助機関「宇宙空間平和利用委員会(COPUOS)」設置。
 同年6月上旬に10日間 本委員会開催。2月に2週間 科学技術小委員会(STSC)/3月末から4月にかけて2週間
 1962年コンセンサス方式採用 (2019年9月時点で92カ国がメンバーだった)
 1963年12月13日に国連総会は「宇宙空間の探査及び利用における国家の活動を律する法的原則に関する宣言」の決議(法原則宣言)を採択。
 1966年に米ソが条約草案を提出し合い、同年7月からCOPUOSの法律小委員会で28カ国の代表による交渉から12月に「宇宙条約」の案文をまとめた経緯がある。
当時、「キューバ危機(1962年)」後の翌年には「部分的核実験停止条約」を締結する方向に「デタント(緊張緩和)」を推進しており、「宇宙条約」も「宇宙空間」における「軍縮」の枠組みの意義を帯びていた。    
 2017年6月 本委員会に北朝鮮がオブザーバー参加申請したが、認められなかった。  

 1979年に設置された「軍縮会議(CD : Conference of Disarmament)」が「多国間軍備管理」を交渉する唯一の国際組織だ。
 1985年〜1994年には「宇宙の軍備競争防止(PAROS)アドホック委員会」を設置。
「CD」では条約作成を目指す草案が提出された。⑴ 包括的ウェポニゼーション禁止条約案 ⑵ 個別的ASAT禁止条約案 ⑶ 信頼醸成措置(CBM)提案。2005年から始まった議論は「透明化・信頼醸成措置(TCBM)」
 
 ◆「包括的ウェポニゼーション禁止条約案」の概念では「宇宙兵器」の利用と「軍事衛星」の利用が対置されている。
⑴禁止行為として、「宇宙条約の『大量破壊兵器(WMD)』の配置禁止のみならず、いかなる種類の兵器やシステムも禁じられている」。
また「攻撃の起点と終点の決め方」を3つ挙げている。(A)「地上→宇宙(宇宙空間の定義問題)ミサイル防衛との識別」(B)「宇宙」→「宇宙」(C)「宇宙」→「地上」。
⑵「宇宙兵器」の定義問題として、(A)能力ベースか(B)設計・製造目的ベースか(C)ASATの最も手軽な兵器は弾道ミサイル
攻撃能力のある宇宙物体の配置が禁止されているのが「宇宙兵器」で、「軍事衛星」の利用はMDミサイル防衛や核軍備管理(地上の軍隊など)に地上の軍事力支援を行うことは「合法」とされている。

「軍事衛星が狙われた史実から事例」を幾つか挙げる。
▪️2014年9月、10月と「米国家海洋大気局(NOAA)」の「気象衛星データ情報システム」にハッカーが侵入し、情報窃盗するという事件が起きていた。
  この時2つの可能性が浮上した。 
⑴地上局でハッカー行為完成と諜報行為=国際法違反ではなく、「国内法」の問題。
⑵気象衛星の観測ペイロードに侵入していた場合は「国際宇宙法」違反となる。
  なぜなら宇宙物体(Space Object)の管轄権・管理は登録国が保持している。また、他国の宇宙活動に有害な干渉禁止と規定されているからだ。
▪️2011年のケースでは、「国際宇宙条約」に加入していないイランがアフガニスタン上空からイラン北東部の原子力施設の情報収集を行う米国無人機を「GPS衛星信号」の「欺瞞(スプーフィング)」によってイラン領域内に誘導した後、捕獲した事件が挙げられる。
▪️2007年10月20日、2008年7月23日に米国政府衛星ランド サット7号がそれぞれ12分以上、また2008年6月2日に2分、10月22日に9分、テラAM-1地球観測衛星がTT&Cの制御を各自サイバー攻撃で奪われた。
▪️ウクライナがロシアの通信衛星にサイバー攻撃を行い軌道を変更させたというロシア側の主張

 「宇宙軍備管理」における現行法で最重要とされるのは、「宇宙条約」第4条「領土権・請求権の凍結」。「平和的目的=非侵略」とは必ずしも一致しない(一定の軍事利用は許容している)。故に事実上、平和と安全のため「南極条約」並みに非軍事化を達成することができると見做されている。その「宇宙軍縮」で比較的新しい動向だったのは「PAROS」だ。
最大25カ国からなる「宇宙の軍備競争防止政府専門家会合(GGE)」が「宇宙の軍備競争防止(PAROS)」についての法的拘束力を有する文書(=条約)の実質的要素を検討した
その条約案は現状、「宇宙空間における兵器配置防止条約(PPWT)」案のみである。

【2】ロシアーウクライナ侵略の米欧経済制裁に打撃を受ける「ロシアの宇宙産業」

2022年2月24日にロシアがウクライナに侵攻して以降、ウクライナの副首相兼デジタル改革大臣の援助要請に応え、「SpaceX社」CEOのイーロン・マスク氏が迅速に同社のスターリンク通信衛星受信端末と通信サービスを提供したことは既に周知の事実だ。ロシアの打ち出した2030年までの長期的な「宇宙開発基本方針(2013年)」によれば、2020年までは宇宙機器輸出の拡大を図った後に最終的には世界最大の宇宙機器輸出国となるという野心を抱いていた。
だが、ウクライナ戦争を機にEUと米国による経済制裁を下されたロシアは「宇宙産業関連」分野にも及ぶ制裁への対抗措置に出てきた。下記の時系列で整理する。
2022年2月26日、ロスコスモスは、ギアナ宇宙センターからの打ち上げについてEUとの協力停止し、打ち上げ要員を含む技術者や作業員を引き上げると発表。
2022年3月2日、ロスコスモスは、バイコヌール宇宙基地から人工衛星を打ち上げ予定であったOne Web社に対し、当該人工衛星が軍事目的に使用されないことの保証及び、英国政府がOne Web社の事業から撤退することを要求。
2022年3月3日、ロスコスモスは、米国に対するロケットエンジンの供給を停止すると発表。
2022年4月30日、ロスコスモスのロコジン社長が、ISS計画から撤退すると表明。
2022年7月26日、ロスコスモスのポリンフ社長が、ISS計画について、2024年以降に離脱する意向を表明した。
[出典:慶應義塾大学 宇宙法研究センター第14回宇宙法シンポジウム「先端的な宇宙活動に関する法的課題」研究会 成果報告(2023年2月9日)]

これまではロケットの打ち上げサービスにおいて世界レベルの市場競争を牽引していたロシアが、ロケットの打ち上げ機会を失い、先端衛星輸出も夢と消えたことになる。
ロシア・ウクライナ戦争の初期には、「SpaceX社」から「米国国際開発庁(USAID)」が1330端末から購入して提供しており、その性能が軍事用途であった可能性が否めないことから、米欧がウクライナ軍に提供している衛星画像も、民間企業の合成開口レーダー(SAR)画像が中心だった。
もはや、強固な宇宙産業、宇宙強国を目指すことこそが国家安全保障を打ち固める重要な要素と世界的に見做されることとなった。
米国のジョー・バイデン政権は宇宙産業強化のための許認可規制の緩和とより柔軟な民間宇宙サービス調達、地球・月経済圏の構築競争の主導権を握る名目で思い切った企業活動支援策などを行う。としている。
中国の習近平政権が目指す2022年1月28日に公表した5回目の「宇宙白書」でも、宇宙産業の強化こそが国家戦略全体の中で持つ重要性を強調するとし、先進宇宙技術開発を加速させ、新たな宇宙応用産業を創り出すことにより宇宙活動の全分野で世界を牽引していく宇宙大国を目指せると確信する。その信念に技術改革が「宇宙の一帯一路構想」を完成させるという総合的な国家安全保障に向けた「民間宇宙産業力」を重視した決意が滲んでいるという。
[出典;<月刊 経団連>「『米中ロの宇宙政策と国際法上の課題』―ポスト『ロシア・ウクライナ戦争』を考える」青木節子 著(2022年10月)]

 

【3】「自衛隊宇宙作戦群」と提携「在日米宇宙軍」を新設 インド太平洋地域の日米韓宇宙軍拠点に

[出典:産経新聞「<独自>米、在日宇宙軍を創設へ 中朝の脅威に対応」(2023年9月14日)]

「在韓米宇宙軍(烏山米空軍基地)」で、米軍のショーン・スタッフォード軍曹長が「我々が目標とするインド・太平洋圏内で傘下に属すことになる日本の新たな司令部を間もなく立ち上げる計画がある。我々の努力を同期し、我々の同盟にとって最良の青写真の可能性を確実なものにしたい」と述べた。スタッフォード氏と在韓米宇宙軍副司令官のチャールズ・テイラー少佐も「日本では数は少ないが、既に人選された保護人員たちが働いている」としたが、さらに何人が予想されるのか、また新たな指示ではどこを拠点にするかは明らかにしなかった。7月に「在日米横田空軍基地」で、日米の宇宙関与会談をカウンターパートナーである日本の「自衛隊の宇宙作戦群」と行ったことを受け、米宇宙軍インド太平洋司令官のアンソニー・マスタリル准将は「これらの会談と宇宙ワーキング・グループを通じて次に続くのは、我々日米の国家と全ての責任あるアクターのための宇宙での安全性と安全保障を確実にするための協力へと続くロードマップを我々が築いていくことにある」と日米の宇宙領域への我々の強固な同盟をさらにずっと拡大させることを表した。
「日米韓3首脳会談」でも米国のジョー・バイデン大統領と日本の岸田文雄首相、韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が取りまとめた「日米韓パートナーシップの時代」宣言と共に、中長期的な指針を示す「キャンプデービッド原則」と共同声明「キャンプデービッドの精神」など複数の成果文書を発表した。中でも共同声明には「宇宙の安全保障協力に関する三者対話を強化する。特に宇宙領域への脅威と見做す。国家宇宙戦略。そして責任ある宇宙使用」などの「宇宙政策」に対し日米韓3首脳は合意している。
 2023年7月、米宇宙軍はインド・太平洋ハワイの真珠湾ヒッカム共同基地で活動した。「韓国宇宙軍の始まり以来、米韓軍事司令官たちはそのような地域の調査及び偵察を提供できる可能性ある貢献は何か?に目覚めてきた」
と前述のテイラー少佐は語り、その上で「我々は北部の敵対的な存在があり、それ故にこの一帯内部で全ての構成要素となっているものと共に統合され同期化された専門知識を提供する如何次第にかかっている」と提言した。
[出典:「STARS AND STRIPES」“Space Force is branching out with new subordinate Command in Japan”(August 30, 2023 ) ]

 2019年12月には米宇宙軍、2020年5月には日本の自衛隊に「航空自衛隊宇宙作戦隊」が創設されている。それに続き、2023年には「宇宙航空研究開発機構(JAXA)」が「米航空宇宙局(NASA)」とレーダーを共同で保有し宇宙監視の情報共有している日米協力体制を防衛省中心にシフトする方針が打ち出されていた。「宇宙基本計画」改定により「宇宙を戦闘領域/作戦領域」へと位置付けられた。当時、中国やロシアが衛星の破壊や追跡などの軍事開発を進めており、米軍に新設された宇宙軍トップのジョン・レイモンド宇宙作戦部長(当時)が「中露などの宇宙兵器や宇宙ごみからも自国の軍事・商業衛星の安全を確保するための宇宙監視の役割がある」と強調した。
「宇宙空間はもはや平和空間ではなくなった。戦闘空間になりつつある」からだとレイモンド氏は予てからリスクを危惧していた。
 [出典:「『宇宙外交』時代へ 軍事費をコロナ医療費に」飛立知希著<ガジェット通信連載JP>(2020年11月1日)より]

日本政府は2023年夏に「宇宙安全保障構想」を策定した。宇宙からの安全保障と宇宙における安全保障の2軸で取りまとめる方針を打ち出したのだ。具体的には「宇宙からの安全保障」について、自衛隊や海上保安庁などが宇宙空間を利用して「情報収集(諜報)能力」を大幅に強化することで、情報戦対策の整備を図る。また、「衛星コンステレーション」などによる情報収集、民間通信衛星の活用を含めた安全保障用通信衛星の多様化、日本版全地球側位システム(GPS)の準天頂衛星「みちびき」の機数増などを通じた「衛星側位」機能の引き上げが挙げられる。現時点での日本における「PNT(側位・航法・時刻)」情報の取得は、この「みちびき」と米国のGPSを併用することで精度を高めている。11機体制になれば、PNT情報の取得に関して安定性や信頼性がより向上する上に高精度側位サービスの利用が広がると見られている。
防衛利用目的の衛星は数種類あり、PNTの計測に必要な信号を送信するものこそが「側位衛星」だ。
 前述した日米の側位衛星ほか、世界では「欧州連合(EU)」の「ガリレオ」、ロシアの「グロナス」、中国の「北斗」などが該当する。側位衛星は対応する受信機を設置することで、自身の位置情報特定以外にも、弾道ミサイルの誘導に利用するなどの戦闘行為における武器の命中精度向上に寄与している。
 他方で、敵性国家の弾道ミサイル攻撃をいち早く探知して追尾するのが「早期警戒衛星」であり、弾道ミサイル発射の熱を衛星に搭載された赤外センサーに感知した信号を地上に送信する。遠距離部隊や国家間での情報のやり取りに利用されるのは、「通信衛星」だ。日本にはXバンド防衛通信衛星「きらめき」があり、自衛隊の艦艇や航空機との高速通信などに活用されている。自衛隊の活動及び戦闘領域は陸海空に留まらない。宇宙やサイバー空間まで広域にわたる。 
遡ること2022年12月、岸田文雄政権は日本の今後10年見通しで外交・防衛政策の指針となる「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」など所謂「安保関連3文書」の改定を閣議決定した。
攻撃抑止の鍵を握るのは、敵の射程圏外から対抗措置をとる「スタンド・オフ」防衛能力ではあるが、敵性国家の脅威早期検出し、迅速な反撃にシフトするための衛星監視データの活用など「宇宙軍拡」の恐れが高まっている。
[出典:宇宙ビジネス最前線<日経MOOK>監修:KPMGコンサルティング]

【4】世界で展開される「宇宙安全保障」の成り立ちと展望

[筆者コラージュ作成]

◆米国:世界で最も完備された宇宙状況監視(SSA)システムを持つのは2019年8月に創設された米国の「統合宇宙軍(SPACECOM)」だ。米国でSSAを担うのは同年12月に新編された「宇宙軍」ではなく「統合宇宙軍」である。統合宇宙軍は「米戦略軍(STARTCOM)」を改組した組織であり、以前にはSTARTCOMがSSAを任されていた。
 日本を含めた米国の同盟国や友好国の政府機関や企業は戦略軍及び統合宇宙軍と「SSA協定」を締結した。宇宙状況のデータを取得するとともに、交換条件として自国の衛星運航状況データを戦略軍に提供していた。
 米国はそうした「宇宙監視ネットワーク(SSN)」を構築しており、米軍の運用衛星は「宇宙配備宇宙監視衛星」や「宇宙状況監視計画衛星」「宇宙追跡監視システム衛星」の3種類が公表されている。またカナダの防衛省が運用するサファイア衛星からもネットワークから情報が提供されている。
天体観測の実力が抜きん出ている国家は強力な軍隊をもち、軍事衛星の保有数なども多い場合が一般的だ。例外とされるのが宇宙の平和利用をずっと掲げてきた天体観測技術がズバ抜けた能力を持つ日本だけではないか。
だが、宇宙作戦隊の中心任務としての「宇宙状況監視(SSA)」は元来、軍事用語だ。米国防総省はSSAを「宇宙作戦遂行のための必要な宇宙物体や作戦環境についての知識」と定義しており、宇宙作戦が前提とされている。
軍事SSAの重要任務として、「不審衛星」の発見、自国衛星を守るなど反撃態勢を整える動きがある。
一方で、宇宙をめぐる現状では、SSAは軍事領域のみの問題ではなくなっているのが実情だ。衛星運用者の増加が顕著であることが要因として考えられるという。
2022年12月23日に日本では第27回宇宙開発戦略本部が開催した「宇宙基本計画工程表(令和4年度改訂)」が決定した。同工程から2023年度に運用がスタートしたのが宇宙状況把握(SSA)システムである。
2020年12月時点では「国連宇宙物体登録簿」に衛星登録を行う諸国は63カ国で、国の他に2つの国際組織と「欧州宇宙機関(ESA)」、「欧州気象衛星開発機構(EUMETSAT)」も「打ち上げ国」の衛星登録を行なっている。
さらに国だけでなく、さらに多くの企業や大学、研究所が大小様々な衛星を運用している。「民生利用」としてもいかなる物体がどこに飛翔しているのか、という情報は「軍事コミュニティ」以外でも宇宙の安全利用には欠かせない問題になっている。
現在では宇宙機の運用に影響を及ぼす太陽活動や、地球近辺に飛来する隕石、彗星などの「地球接近天体(NEO: Near Earth Objects)」のような自然の脅威も監視対象に含めてSSAを理解する方が一般的になっていると言っても過言ではない。今後、民用・商用の宇宙利用のためのSSAビジネスの発展も十分に予測できる。
 また、日本の「宇宙領域把握(SDA)」衛星が2026年に打ち上げを予定しており、岸田政権は予算を大きく計上していることが分かっている。
 さらに2019年7月にはフランスの国防相が「自国の重要な衛星の周辺に護衛のための小型衛星を配置するとし、それが攻撃されそうになったら護衛目的の衛星がレーザーその他の手段で反撃能力に出る方向に舵を切り、対SSA反撃能力機器の開発を進める」と宣言した。フランスは同年9月1日に宇宙司令部を220名体制で空軍内に創設しており、近い将来、空軍が「航空宇宙軍」に名称を変える予定もあった。
 フランスは欧州最大の宇宙能力を保有する国家で、米露に次いで「画像偵察衛星」や「電子偵察衛星」を運用した国として知られ、特に後者は米露以外ではフランス他インドのみが保有しているという。
日本は米国以外との「SSA協力」も進み2017年にはそのフランスと宇宙技術取り決めを締結している。 
[出典:「中国が宇宙を支配する日 宇宙安保の現代史」青木節子著<新潮社>]

◆欧州: 「欧州連合(EU)」は「安全保障分野」の「公共調達ディレクティヴ」を制定している。他の分野ならばともかく、機密情報の取り扱いや一般の公共調達規則に馴染まない点があり、故にEUは「自国の安全保障上の利益に反する情報の提供」及び「自国の安全上の重大な利益を保護する措置」に関して認められたEU法制(EU機能条約346条)をしばしば援用してきた。だがこれに対し、欧州裁判所は「安全保障上の利益」や「安全上の利益」という例外規定は厳粛に限定されなければならないとの判決を出した。例外規定の安易な援用を否定した。これを受けて2009年にEUは「防衛及び安全保障分野の公共調達に関するディレクティヴ(防衛等ディレクティヴ)」を制定。以来、EU各国はこの「ディレクティヴ(指令)」に基づく安全保障分野の調達を整備することになる。EUでは「レギュレーション(規則)」と「ディレクティヴ(指令)」の2つの形式に分けて用いられている。
 前者は採択されると直接的に各国で法令としての効力を持ち、各国の法律に優先する。対照的に後者は達成すべき結果を示し、その達成手段は各国に委ねるものであるため直接的な効力はなく、各国政府に対し「ディレクティヴ」に沿った国内法の制定を義務づけるものである。これによりEU域内の法制度が調和することになる。
 1996年「西欧軍備機構(WEAO)」発足。WEAO体制とは異なる枠組みを志向する英独仏伊が「防衛装備共同調達機構(OCCAR: Organization Conjointe de Cooperation en matière d’Armement)」なる国際組織を創設。
 EUでは上記4カ国に加え、スウェーデン、スペインも併せた6カ国がEU防衛関連売上げの9割以上を占める。OCCARは協力原則に4点を挙げている。
 「宇宙分野」では「多国間偵察衛星システム(MUSIS)」がOCCARの共同調達の対象だった。 
欧州軍備庁高雄は2004年「欧州防衛庁(EDA: European Defence Agency)」として実現した。だが、実務上の重要性から欧州における安全保障目的の調達は、防衛等ディレクティヴに規律される各国政府の調達とOCCARによる共同調達が併存する形になっている。
 従来、宇宙分野の公共調達は、国の研究開発プロジェクトが中心であり、企業側は比較的短期間の少量生産を求められるのに対し、安全保障分野の公共調達は、装備品として比較的長期かつ量産が必要とされると認識してきた。しかし、今後「衛星コンステレーション」の増大などの量産が必要とされたり、宇宙を利用する政府が拡大して安全保障での宇宙利用が拡大したりなどすれば、宇宙分野の調達は、より参照すべき点が多くなる。
 防衛企業と宇宙企業は重複することが多く、宇宙分野は防衛市場の動向にも影響される。寡占化が進み、政府の交渉力が相対的に低下したことで、発注者への示唆となるだろう。さらに産業政策としても少数の大企業に対して予算を集中させ国際競争力を強めるか、競争力の弱い中小ベンチャーにも予算を配分し、一定の域内競争を確保するか。さらには投資を通じて技術革新を図るか否かは、「自律性確保」のあり方が課題である「宇宙輸送分野」も対岸の火事ではない困難な課題である。宇宙の安全保障面における重要性が急速に増える中、宇宙産業が安全保障調達制度を直接的に利用することも増えていくだろう。
[出典:「世界の宇宙ビジネス法」第2章「宇宙ビジネスを規律する各国法」コラム3「欧州における安全保障分野の調達制度」谷 瑞希/小塚荘一郎共著<商事法務>]

 ◆「ファイブ・アイズと日独仏の宇宙監視ネットワーク」が進んでいる。「ファイブ・アイズ」とは、米、英、オーストラリア、ニュージーランド、カナダ間で結ばれた情報共有同盟のことである。2013年に米国で「スノーデン事件」が起こった。当時ロシアに亡命中で「元米中央情報局(CIA)」職員亜だったエドワード・スノーデン氏が「米国家安全保障局(NSA)」の個人情報収集問題を暴露した事件。この事件を契機として、英国では「ガーディアン紙」が英国諜報機関による承認を受けてNSAと水面下で秘密取引を交わしていたことが分かったと報じるなどして現れた5カ国関係の「諜報能力共有」を指す。
[出典:「秘密保護法で封殺される『知る権利』と『表現の自由』飛立知希著<bukupe>書評(2013年12月15日)]
 
このようなシステム建造だけでなく「SSA」の2つの「多国間机上演習」参加についても特筆しておくべきことである。
⑴2016年から参加「米戦略軍」「統合宇宙軍」主催の「宇宙状況監視多国間机上演習(2017年からグローバル・センチネルと改称)」シリーズ。より軍民両用的。
2019年には米、豪、カナダ、英、仏、独、伊、日本、韓国、スペインの10カ国が参加。
⑵米空軍(2020年からは宇宙軍)主催の「シュリーバー演習(ウォーゲーム)」。安全保障に特化している。2001年に開始。
2009年には米、豪、カナダ、英国が参加。2014年前述4カ国が「連合宇宙作戦」を行うパートナーとなる。2015年にはニュージーランドも加わり、米英を基軸とする「ファイブ・アイズ諸国」の絆の強さを世界に誇示。
  2016年からは独と仏、2018年には日本も招待されるようになった。ファイブ・アイズ+日独仏というフォーメーションをとった。2019年に仏と独はやはり「連合宇宙作戦」を戦う「パートナーシップ協定」に調印。
  その背景事情として、中国やロシアの宇宙での軍事行動が過激化したことが考えられる。
 
 日本も「在日米宇宙軍」を新設し、それ以前に結成された「自衛隊宇宙作戦群」と提携する計画が明るみに出るまでは、従来の航空自衛官が「JAXA」や「米統合宇宙軍」の「連合宇宙作戦センター(CSPOC)」に派遣され、SSAデータ解析技術などの訓練を受けていた。防衛省自体としては山口県に2023年度以降の運用開始を目指し、SSA設備「ディープ・スペース・レーダー」を設置する計画もあったという。
[出典:「中国が宇宙を支配する日 宇宙安保の現代史」青木節子著<新潮社>]

【5】宇宙の「軍事利用」から進む「民間商業利用」への移行

世界の宇宙の「軍事利用」の流れは1950年〜1980年代は「戦略レベル」に、1990年代以降は「作戦・戦術レベル」と大別できる。
 現代に続く「後者」の「宇宙利用」とは、衛星から得た情報による軍事活動の抜本的な強化と戦果に直接貢献することにあった。
 軍事衛星は「偵察衛星」や「通信衛星」など多岐にわたる軍事用途がある。ミサイルなどの誘導利用に与する側位衛星のほか、敵性国家による弾道ミサイル発射を探知する早期警戒衛星にも「迎撃」や「核抑止」戦略に不可欠とされた。米国の代表的な軍事用衛星通信ネットワーク「Wideband Global SATCOM(WGS)」の衛星開発は、米航空機大手ボーイング社が主な契約者である。このほか、代表的な開発企業として、米軍需大手「ロッキード・マーチン社」が国防を牽引している。従来の宇宙開発は米国の「全地球側位システム(GPS)」や「全地球航法衛星システム(GNSS)」が開発され、宇宙システムの軍事用途の宇宙戦時代が到来した。
 「宇宙安全保障」においては「オフセット戦略」が重要視された。第3の「オフセット戦略」として、「人工知能(A.I.)」やドローン、量子コンピューターなど新技術で対抗する動きが主流となった。民間の技術やサービスを宇宙政策に誘導することを目指した米トランプ政権時代の「宇宙政策指令(Space Policy Directives : SPDs)」をバイデン政権もほぼ変わりなく継承している。
 特に通信衛星の軍事利用として民間サービスを取り入れた「ミルサトコム(MILSATCOM: Military Satellite Communication)」や「コムサトコム(COMSATCOM: Commercial Satellite Communications)」が挙げられる。前者は高度なセキュリティ機能と防衛機能を備えた軍事衛星通信。後者は様々な商用衛星通信を軍において積極活用していくものだ。
 また米政府や米軍が民間企業の顧問となってある一定の購入を保証する「アンカーテナンシー」契約制度が民間支援の一環として有用されている。
衛星リモートセンシング分野で、「米国家偵察局(NRO)」や「米国家地理空間情報局(NGA)」などのインテリジェンス機関が、小型衛星コンステレーションシステムを持つスタートアップ企業の衛星画像サービス調達をしているのが一例である。

 「宇宙状況監視(SSA : Space Situation Awareness)」「米国の宇宙偵察網(SSN : Space Surveillance Network)」
 宇宙配備の探査・追跡衛星(SSA衛星)
  2010年 米国が宇宙配備宇宙探査システム(SBSS)光学センサー衛星 初号機打上げ
  2011年3月〜運用段階に
  2013年 カナダがサファイヤ(Sapphire : SSA衛星)
  2018年12月11日 日本が日本宇宙基本計画工程表「項目21 SSA」に「将来の宇宙状況把握(SSA)情報収集能力向上を検討するため、宇宙状況把握(SSA)衛星などの技術動向などを調査する」とした。 

 宇宙システムでは敵の攻撃に耐久し、その機能を維持する「抗たん性」強化が必須となり、米国は多数の小型衛星を連携させる「超小型・小型衛星コンステレーションシステム」の構築や商業利用の時代へと移行していく。
「民生部品(Commercial Off The Shelf : COTS)やオープンソフトウェアの活用により、衛星・ロケット・地上局の小型化や低廉化、リードタイムの短縮が加速化している。
 日本でも、世界初の「スペースデブリ(宇宙ごみ)」観測衛星を打ち上げたアストロスケールホールディングスに対して、「宇宙航空研究開発機構(JAXA)」がアンカーテナンシー契約を結び「デブリ除去(ADR)」技術を支援する取り組みも進んでいる。
 欧州連合(EU)の地球観測プログラム「コペルニクス」は、宇宙産業のイノベーション推進と国際協力の強化を名目に気象観測データを無償開放している。軍事分野の宇宙開発利用として、「北大西洋条約機構(NATO)」が象徴的とされる。NATO軍として加盟国同志が情報共有し、通信アセットを共同利用したりするなど広域な地域では衛星通信に一定の競争力があり、社会インフラとして各国間で協力体制を築き上げることが肝要だという。
 日本とEUは衛星データを相互交換しており、「防災計画」の立案や「気候変動対策」にも役立てている。2030年に向けた国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」の目標にも貢献する一翼を担っていると言っても過言ではないだろう。
[出典:<日経MOOK>「宇宙ビジネス最前線」監修:KPMGコンサルティング]

 

【6】2028年までの「月面探査」実現を目指す「アルテミス計画合意」

[出典:「三菱電機」 DSPACE<読む宇宙旅行>「月から「地球見」する日―「アルテミス計画」って?日本の役割は?」林君代著(2021年10月15日)]

 昨今、注目されているのが「アメリカ航空宇宙局(NASA)」を中心に進行中の「アルテミス計画」である。火星探査を長期目標に据えつつ、月周回有人拠点(Gateway)を設け、それを活用して、2024年までに月南極付近への有人着陸、2028年までに持続的な月面探査の実現などを目指すプロジェクトである。本計画協力の基盤となる文書に2020年10月に「アルテミス合意」なる非国際約束文書を米、日、加、英、豪、伊、ルクセンブルグ、アラブ首長国連邦の計8カ国が作成している。
 月面探査に関する喫緊の例で言えば、2023年(令和5年)4月26日に日本のスタートアップ民間企業の「ispace社」による世界初の月面軟着陸の試みが失敗した。
第211回国会衆議院内閣委員会(令和5年4月28日)で国民民主党の浅野哲(あさの・さとし) 衆議院議員が「宇宙ベンチャー」について質疑している。「米国やフランスでは航空宇宙工業生産高が増大しているんですが、日本では官需が9割であり、生産高も横ばいの状態が続いています。」とした上で、「官需の割合が高い日本の宇宙産業においては宇宙ベンチャー活動というのはJAXAと協力する企業に留まっており、その数はとても少なく、日本の宇宙ベンチャーは投資家からの認知度も低いため資金調達に苦労しているという現状もあると聞いています」。答弁に立った高市早苗(宇宙政策担当)国務大臣は、同年3月7日にJAXAが行ったH3ロケット試験機一号機の打ち上げ失敗の事例を挙げ、「H3ロケットが我が国の宇宙活動の自立性確保と国際競争力強化のためには重要な基幹ロケットであり、これからの打ち上げの成功と抜本的強化に取り組んで参ります」と述べ、「宇宙産業への参入や投資の促進など好循環を生み出すと思っている」と期待を滲ませた。[出典:第211回国会 衆議院内閣委員会 第17号(令和5年4月28日)議事録]
第211回国会衆参両議院で令和5年5月12日までに審議終了した「平和的目的のための月その他の天体を含む宇宙空間の探査及び利用における協力のための日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の枠組協定の締結」事案は承認されている。[出典:衆議院議案審議経過情報]
 振り返ってみれば2021年6月15日に参議院は「宇宙資源の探査及び開発に関する事業活動の促進に関する法律案(宇宙資源法案)」を可決。同法が成立した。宇宙資源採掘を認める本法案は米国とルクセンブルク、アラブ首長国連邦(UAE)に続き、4カ国目となる。天体で採掘された宇宙資源に対する所有権を国策で認めたのだ。[出典:<Sustainable Japan>(2021年6月16日)]

 「宇宙政策」の歴史が浅い日本に対し、世界の宇宙政策先進国に目を向けてみよう。2023年8月23日、インドの「チャンドラヤーン3号」が氷のクレーターと鉱物からなる月の南極に宇宙船を着陸させた最初の国として歴史にその名を刻んだ。また「月」資源探査について蘭のライデン大学が2016年に「宇宙資源のガバナンスに関するハーグ国際作業部会(The Hague International Space Resource Governance Working Group: ハーグWG)」を設立し、研究者、法律家、ビジネス関係者らの参加を得て、宇宙資源の探査及び利用に関する国際立法の在り方について討議してきた。2019年11月にハーグWGは成果文書として将来の国際枠組みの構成要素を発表した。学界での蓄積とビジネス関係者らのニーズをヒアリングして多数国間で設定することが望ましいと考察されたモデルケースを集めた「提案文書」になっている。
 「アルテミス計画」がモデルケースと考えられている根拠には事業の参加国だけで必要最低限で設定する手法が実現性の高さを窺わせている点にあるという。
[出典:<早稲田大学国際法研究会>宇宙法体系の基本的な性格に関する試論―海洋法及び航空法との比較―中村仁威著]

「月協定」第1条「月の定義」⑴太陽系の地球以外のすべての天体 ⑵月を回る軌道、月に到達し若しくは月を回るその他の飛行経路(宇宙空間部分)。
1979年に「宇宙空間平和利用委員会(COPUOS)」での「月」の範囲を画定する議論が行われた。「地球周回軌道、地球周回軌道に至る飛行経路を除く太陽系の宇宙空間部分」=「月」という合意。
これら地球以外の天体とその周回軌道などは実質的に「非軍事利用義務」があるのか?
⑴月はもっぱら平和的目的のために利用される。
⑵月における武力による威嚇、武力の行使その他の敵対的行為または敵対的行為による威嚇を禁止。
⑶「大量破壊兵器(WMD)」を月周回軌道に乗せたり、月面条の配置を禁止。
⑷月面上における軍事基地、軍事施設及び防備施設の設置、あらゆる型の兵器の実験並びに軍事演習の実施は禁止。
 豊富な「月」資源。水資源、アルミニウムやチタン、鉄などの鉱物資源や将来の核融合発電の燃料になる「ヘリウム3(太陽の核融合によって生じ、太陽風に乗って月の表面に吸着したと考えられている)」の売買など「宇宙資源開発」競争が冷戦期からの米ソによる2大超大国の独占権では、もはやなく、米中の台頭と新たに「グローバルサウス」のインドを筆頭に宇宙開発競争が加速化している。
 こうした「宇宙産業ビジネス法務」のカテゴリーで米国調達方式を日本に応用する可能性も濃厚である。
[出典:「世界の宇宙ビジネス法」小塚荘一郎・笹岡愛美編著<商事法務>]

【7】「宇宙移住」のための地球生態系「縮図」を月や火星に適用 「コアバイオームテクノロジー」とその法体系学

【出典:京都大学・鹿島建設プレスリリース】

 今、人災とも言える「地球沸騰化」による「異常気象現象」が続く中、人類が安定して居住できる惑星は現時点で「地球」のみであり、その地球環境を修復する努力が2030年達成を目指す「SDGs(持続開発可能な目標)」などの取り組みが続いている。同時に、地球以外の場所での人類の生存可能性をテストするための多様な試行錯誤が始まっている。
 人類が地球外で長期間居住した実績を持つのが「国際宇宙ステーション(ISS)」である。宇宙独特の閉鎖性空間にも拘らず、1998年の打ち上げ以降24年間にわたり宇宙空間での長期滞在が実施されてきた。
 ISSは本来、2016年に運用終了の予定だったが、2014年1月に「米国航空宇宙局(NASA)」は2度目の延長を決め、4極の合意を得て、2015年末に2024年までの運用維持が決まった。
 人類の地球生態系において代わりの効かない生態系を「コアバイオーム」という。またその複合体である「コアバイオーム複合体」とは地球生態系を構成する上でなくてはならない基本構造と定義する。
 地球自体の生態系を惑星規模で見た場合、表面積の7割を占める「海洋」が主要バイオームとなり、残り3割の「陸域」においては森林、草原、砂漠、氷床などのバイオームがある。その中に人間活動を基調とした人工的な農地や都市、発電所、交通網などの一定面積を占める環境負荷を与えたり、逆に共生が図れる要素になると指摘されている。

「コアバイオーム」の3形態として以下が定義されている。
⑴「通常状態(Standard Biome)」:各コアバイオームが一般的に正常に機能し、生物多様性が保持された状態のこと。
⑵「極端状態(Extreme Biome)」:湖においてラン藻類など特定の植物プランクトンにより生物多様性が減じられた状態(赤潮が発生している状態も含む)のバイオームのこと。
⑶「居住可能(Habitable Biome)」:人間が居住可能な状態になっているものを示し、「里山」や「田園都市」のような光景のこと。
 
「京都大学大学院総合生存学館」の山敷庸亮教授(SIC有人宇宙学研究センター長)が目指す「コアバイオーム複合体」は、上記3形態を「陸域」から「海域」への環境匂配に添った序列として表現する。
 宇宙移転のためのテクノロジーとして考えられる必要不可欠な環境技術として、<生命維持装置>の開発と運用が根本にある。「空気」「水」「食料」「居住」「衣服」以外にも、長期滞在で最重要なのは⑴「宇宙放射線の遮蔽」と⑵「微小重力への対応」が求められる。この2障害を打開するための核心技術を<コアテクノロジー>と位置付けている。 
 「宇宙移住」へ向けた宇宙生活の課題を学問に落とし込み理解の助けとするのが、「宇宙居住」「宇宙惑星」「宇宙生命」からなる「アカデミズム体系」とする。
⑴「宇宙居住」:月や火星における1000人の社会を築くことを目標におき、その上に「生命維持装置」を基盤とする「循環型社会」を構築する。すなわち宇宙居住を「微小重力に対する解決策」の考察を行う学問とする。
⑵「宇宙惑星」:移住先の惑星に関する多岐にわたる安全性を惑星科学の観点から明らかにする。宇宙放射線や隕石・小惑星と戦う学問とする。
⑶「宇宙生命」:地球外閉鎖環境で人類の生存と社会の維持に不可欠な生物資源生産のため、低重力や低大気圧などの宇宙空間における環境条件下で食料自給や木材生産の実現化を目標とする。
以上の3学問体系を<コアテクノロジー>として地球における資源利用の効率化へ向かうフィードバックとする。

 同じく「京都大学大学院総合生存学館」の土井隆雄宇宙飛行士(SIC有人宇宙学研究センター)は「有人宇宙学」を「人類が宇宙に進出するための学問」と定義している。「有人宇宙学」は人類が宇宙のいかなる環境においても生き延びるための知識を学ぶ学問であり、地球以外の月や火星に適用すれば、それぞれの地球外の宇宙惑星で生存権を獲得できる「人間社会の存続可能条件」の知見を高める学問になるということを示す。
 太陽系に地球以外に「人間が活動できる条件(人間条件)」を満たす天体として、ISSが挙げられる。人類は科学技術を使うことで宇宙に「人間条件」を満たす天体を作ることを可能にしてきた。この他、「水条件」生命条件」「社会条件」も相互関係のある必要条件になっていると言える。特に総体的に「人類が宇宙に社会を作ることができる条件(社会条件)」の模索が続く。

 しかし、宇宙移転先環境における「宇宙社会」の構築を支持するには、⑴「宇宙法・社会学」及び「宇宙医療」の法体系がいかに適用できるか?を考察することを踏まえ、地球上の各国の国内法がいかに適用されるかの「国際法・国内法」の二面性で思考していかなければならないだろう。
 「宇宙基本法」において地球以外の惑星空間の土地の所有はできないことになっている。だが、そこで築かれた建築物などの「管轄権」は各国政府に委ねられる。一方で、宇宙開発が民間主導で進められれば、ガバナンスを決定づける法の選択を検討する必要性がある。「宇宙空間」に適用すべき法体系は国際法に基づくものだ。
 「宇宙基本法」と各国「国内法」の関係性として、⑴「管轄権問題」や⑵ 国際施設の法はどの国に準ずるかという問題、⑶ 資源の権利は採掘者(国)に帰属するのかという問題がある。
 また、犯罪者はどの国の法律で裁くのか、巨大事故が発生した場合にその責任はどの国に帰せられるか、宇宙で誕生した人間がどこの国籍になるかなどが議論を呼ぶと見られている。
 「宇宙医療」については「遠隔医療」「微小重力に関する影響評価」「リハビリ施設の確保」「宇宙放射線に対する疾病対策」「低酸素症」や「減圧症」に対する緊急医療体制の確立も急務であろう。
これまで「国際宇宙法」は司法機関や罰則規定が曖昧だった。だが、「有人宇宙学」が言われるようになってから、次のような画期的な「宇宙裁判所」の創設計画が中東で始まっている。
[出典:「有人宇宙学 宇宙移住のための3つのコアコンセプト」山敷康亮・編共著<京都大学学術出版会>]

【8】アラブ首長国連邦(UAE)主導!世界初「宇宙裁判所」創設計画始まる

2021年2月1日、「ドバイ国際金融センター裁判所(Dubai International Financial Centre: DIFC)」と「ドバイ未来財団(Dubai Future Foundation: DFF)」が、世界の宇宙ビジネス支援を名目に「宇宙裁判所(Court of Space)を創設する計画を発表した。本プロジェクト立ち上げにより「アラブ首長国連邦(UAE)」が近年の宇宙開発の進展状況とともに裁判制度を発展させ、特に商業宇宙活動に関する紛争に即応、対処できる機能と能力を高める上で、指導的な地位に立つことを目標としていることに関係している。
 「国際ワーキンググループ(IWG)」における宇宙関連の法的イノベーションを調査する役割を果たすとしているが、特筆すべきは「ニュースぺース」の成長を反映し、伝統的には「国家間交渉という」高いレベルで宇宙関連紛争を解決されてきたことについて「宇宙裁判所」が民間レベルの紛争を取り扱うという方針を打ち出していることにある。「宇宙紛争ガイド」は司法へのアクセスを可能にしたファシリテータ的な役割を担う上で、「宇宙裁判所」のリソースや手続き、所用期間、費用、及び利用者の期待も含まれた実務上の問題を提示することになるだろう。
DIFC裁判所の首席裁判官ザーキ・アズミ閣下によれば「宇宙裁判所は、21世紀の国際的な宇宙開発が求める切迫した商用化の需要に応えるための新しい司法支援ネットワークを構築することを手助けすべく(宇宙産業の発展と)並行して行われるグローバルなものとなり、各国の結びつきが一層強まるにつれて発展ができるようにするには、多様かつ迅速な経済活動が必要になる。複雑な商事契約にとって、ビジネスを支援し、保護するための安心と確実性を提供する裁判制度も同様に、イノベーティヴなものとして、追いついていくことが求められる」と述べている。

地球に居住していると地球圏外のことには鈍感になりがちだ。宇宙社会生活ならではの「災害事象(隕石衝突やスペースデブリ(宇宙ごみ)対策)」をいかにリスク管理するか?という重大懸念が持ち上がっている。「スペースデブリ(宇宙ごみ)」の接近対策・回避策をどのように対処するかは地球周回軌道においては絶対的に重要だ。だが、月や火星の表面では圧倒的に多いであろう隕石や小惑星の衝突リスクを具体的に考察していく必要性があるという。 
[出典:「世界の宇宙ビジネス法」小塚荘一郎/笹岡愛美・編共著 コラム4「ドバイの宇宙裁判所」ヘレン・タン著<商事法務>]

 「国際宇宙法学」研究の第一人者、「慶應義塾大学大学院」の青木節子教授(法務研究科)は「宇宙旅行移住」について次のように言及している。「3層構造の「国際宇宙ステーション協定(ISS協定)」(1998年)は米露、「欧州宇宙機関(ESA)」加盟国、日本、カナダの国際協力で建造され運用している。文書としては ⑴「ISS協定」⑵4つのMOU ⑶NASAと協力機関の3層構造から成っている。これらの間で必要が生じた際に結ばれる実施取極のうち、法的拘束力を有するのは「ISS協定」のみである。こうした国連宇宙諸条約による「保護」は踏襲していても、天体活動に広く適用されるものではない。これまで宇宙に滞在した人はほぼ全て「人類の使節」として事故・遭難・地上への緊急着陸などの場合にあらゆる可能な援助を「宇宙条約」第5条で定める「宇宙飛行士」に付随する細則の「救助返還協定」と共に付与されてきた。しかしこれからは地球周回軌道上やISS内での数日から2週間程度の滞在をさらに超えて月に滞在する「宇宙ツーリズム」の観光客も多岐にわたる宇宙ビジネス企業も遅かれ早かれ実現すると見做されている。さすれば「宇宙飛行士」特別の援助や保護は近い将来の実態にそぐわなくなってくるだろう。となれば、宇宙飛行士の類型には入らない「乗員」と乗客としての「飛行参加者」などの分類を国際ルール作成で規定していく必要性が出てくるのではないか。月や火星の厳しい自然環境下では、地球上の民主主義国家が「人権保護」の保障を個人の自由で認可するとともに地球圏外で生きる将来の宇宙移住者全体の安全保障と生存権をいかに担保していくかが命題となってくると言えそうだ」と今後の展望を予見した。
[出典:Part4「コアソサエティ」Chapter 1「宇宙法」青木節子著「有人宇宙学 宇宙移住のための3つのコアコンセプト」山敷庸亮 編<京都大学学術出版会>]

【9】「国際宇宙法」からみる「国」または「私人」による「宇宙資源」の採鉱および利用は適法か?

 ◆宇宙の軍備管理を巡る現行国際法の体系
 国際宇宙法は大きく大別して2つある。
⑴「国際法の実質的法源(ソフトロー)」は「国連総会決議(8つの宇宙関連総会決議)」や「行動規範ガイドライン」など。
⑵「国際法の形式的法源(ハードロー)」は「国際慣習法」、「条約」、「国連宇宙5条約」、「その他の条約」の構造と存在形式からなる。
※ソフトローには文書の「法的拘束力」がない。

 「国際宇宙諸条約」の重要規則のうち、これから問われてくる「争点」を整理する。
「月」その他の天体を含む宇宙空間は全ての人類の活動領域であり、宇宙探査・利用(Exploration and use)は、全ての国の利益のために行われなければならない。
これに対し、調整困難なもう一つの規則に比すと、宇宙空間の領有は禁止。法解釈によっては私人の所有も禁止。争点は、宇宙資源を国・私人が自由競争で採鉱し、所有することが適法か否かとなる。
 また、天体上は平和利用義務がある。宇宙空間(真空部分)は「大量破壊兵器(WMD)」の持ち込みのみが禁止されている。
 自国の宇宙活動(私人の活動を含む)には、政府が直接に国際責任を有するという規定は、全ての条約の中で宇宙条約だけが持つ特色である。
 宇宙物体(衛星やロケット、それらの構成物・部品を含む地上で製造し、宇宙に導入された人工物全て)は国籍を持たない。
 宇宙物体を登録した国が管轄権・管理の権限(Jurisdiction and Control)(≒主権)を行使する。(船舶や航空機に対する国の権限と類似するが、国籍がない点が異なる。)

 「宇宙条約」第6条「国家の責任」「私人による活動であっても締約国が国際的責任(International Responsibility)を有する。」詳細には「宇宙空間における自国の活動について、それが政府機関によって行われるか非政府団体によって行われるかを問わず、国際的責任を有し、自国の活動がこの条約の規定に従って行われることを確保する国際的責任を有する。(中略)許可及び継続的監督を必要とするものとする」。
 この点が「宇宙安全保障」に及ぼす影響を考えることを必要とする規定を明示している。
 
【論点】何が「自国の活動」に該当するか?
 領域内の自国民や外国人の活動(属地的管轄権)や領域外の自国籍を持つ自然人(私人)、法人の活動(属人的管轄権)
 宇宙物体の落下、衝突などに対する損害賠償は「打ち上げ国」という類型の国が負う。 
 宇宙物体に起因する地上損害は無過失責任、宇宙空間での損害は過失責任による。
 他国の宇宙活動に有害な干渉を与えないように自国の宇宙活動を行う義務がある。サイバー攻撃に対して正当化に有用となるか?
 これらの「国際宇宙法」の中でも最も重要視されているのは、「賠償責任」を担う「損害責任条約」と「宇宙物体登録条約」第1条(c)である。
「宇宙条約」第7条「損害に対する当事国の責任」では「宇宙物体が他の締約国やその自然人などに損害を与える場合に国際的に責任を有する(International Liable)」と規定。
 同条第9条「有害な汚染、干渉の防止」第1文に「他の締約国の対応をする利益に妥当な考慮を払って宇宙活動を行うことを求める。」とある。同条第2文では「地球外物質の導入から生じる地球の環境の悪化などを避けるように宇宙活動を行い、必要な場合には適当な措置をとる」とされている。
 その中でも極めて画期的なのは「宇宙損害責任条約」だ。前述したが第2条「無過失責任」では「危険責任主義を反映。私人が行う宇宙活動であっても、国家が直接に国際的な責任を負う。また地表及び飛行中の航空機に対する損害については「無過失責任」を負う」とある。
 ソフトローでも(国連)法律小委員会で作成された法的拘束力のない文書が国連総会決議で審議され2007年に「宇宙物体登録向上勧告」が。2013年には「国内法制定勧告」がなされている。
 「宇宙物体登録条約」の原則は⑴打ち上げ国が宇宙物体を登録する⑵複数の打ち上げ国がある時、そのうちの1カ国が国連登録⑶登録国は、打ち上げ国であるとされる。
⑶こそが「宇宙物体登録条約」第1条(c)「私企業が打ち上げを調達した衛星を登録することによって、国は打ち上げ国と自認することになる。」と定められている。
[出典:「グローバルコモンズ(宇宙、サイバー空間)における軍備管理」慶應義塾大学大学院の青木節子教授(法務研究科)<「軍縮・科学技術センター」主催「軍縮・不拡散講座」>(2019年9月12日)]

 米ソの冷戦は第二次世界大戦終戦前から始まっている。1967年に始まった「NPT不拡散条約」、「核兵器禁止条約」の発効など人類は1945年の広島、長崎への原爆投下という断じてあってはならない愚行を反省し、長い時をかけて「核軍縮」を推進してきた。だが、宇宙法・サイバー法はまだそこまで進展していない。「スプーフィング」というイランなどのローグステイトによる悪用ではなく、日本のような唯一の戦争被爆国が主導して宇宙衛星の乗っ取りなどを合法的にする仕組み作りにコミットし、北朝鮮の地上局にも監視基地を人工衛星とセットで設置することで法規範や判決以外の縛りをかけたり、監視の目を光らせ続けることが可能になるのではないだろうか。 

【10】本格化する「民間人」の「宇宙ツーリズム」時代に「宇宙ホテル」「宇宙宅急便」「月保険」新たな「宇宙ベンチャービジネス」チャンス到来!

[出典:(社)「スペースポートジャパン」]

 今、「宇宙ビジネス産業」が勢いを増している。
 現在の民間人が行くことのできる「宇宙旅行」には「オービタル飛行」と「サブオービタル飛行」の2つの飛行形態によるものがある。前者は地上から打ち上げられた後、人工衛星のように地球を周回する軌道に乗って飛行するもの。宇宙船に乗って周回したり「国際宇宙ステーション(ISS)」に滞在する用途に当たる。後者は地上から宇宙空間まで一気に上昇し、地球を周回せずにそのまま地上へ帰還する飛行で、旅行者は宇宙から地球を一望したり、5分間程度の「無重力状態」を体験することができるという。米国のヴァージン・ギャラクティックやジェフ・ベゾズ氏が設立したブルー・オリジンなど複数社が「サブオービタル飛行」を提供している。
 世はまさに「宇宙移住」時代を迎えようとしている。億単位の「宇宙旅行」産業に追随する今、まさに世界各国の企業が「次期宇宙ステーション」や「宇宙ホテル」など関連宇宙ビジネスを構想、競合している。

 また宇宙港(スペースポート)の計画も進展が目覚ましく、国内では北海道や大分県で離発着できる「宇宙港(スペース・ボート)」を目指す計画が打ち出されている。2022年12月12日、「日本航空(JAL)」が公表したのは「大分県」×「兼松」×「シエラスペース(Sierra Space)」が同年2月から「宇宙往還機ドリームチェイサー」の活用検討を行うパートナーシップとしてJALも参画するという意思表示。さらに「ドリームチェイサー」を「アジアでの着陸拠点」と位置付け、開発企業のシエラスペースは2024年末までにISSへ物資を輸送するとの名目でNASAと契約を交わしている。初期は無人輸送機としてのみの用途だが、近未来志向では有人計画もあるという。

 一方、2022年9月に北海道十勝地方の大樹町は「北海道スペースポート(HOSPO)」で、人工衛星打ち上げ用ロケット発射場「Launch Complex―1(LC-1)」を着工。HOSPOが志向するのは「民間企業も使える世界に開かれたロケット射場」だ。1980年代から大樹町は「航空宇宙産業基地」の候補地に指定されて以降、官民一体の「宇宙のまちづくり」を目指してきた「宇宙のまち」である。町興しに宇宙産業が貢献して60年間続いていた人口減少にも歯止めをかけたそうだ。[出典:「三菱電機DSPACE」<読む宇宙旅行>「大分、北海道…どこから旅立ち、どこに帰る?宇宙港を選ぶ時代へ」林公代著(2023年1月12日)]

 「スペースワン」は小型衛星用の宇宙輸送システム、すなわち小型ロケットの開発から打ち上げ、宇宙空間まで人工衛星を運ぶ事業を推進してきた。「宇宙宅配便事業」に取り組んでいるという。これまでに自前の発射場「スペースポート紀伊」を建設し、小型ロケット「カイロス」の開発に邁進してきた。アジアでは初めて民間の発射場を保有することになったスペースワンは、宇宙産業ではあるものの、広い意味では『運送業』と認識。宇宙空間の軌道上まで荷物を運ぶことで運賃による収益を得るサービスを運営しているという。(「スペースワン」阿部耕三 取締役(企画・営業・渉外本部本部長))
 
 宇宙保険は「保険の目的」と「時間軸」で種別化されている。2023年4月「三井住友海上火災保険」は宇宙保険専門チーム「宇宙開発室」を立ち上げた。同社のMS&ADインシュアランスグループが初めて「宇宙航空研究開発機構(JAXA)」の「きく1号」という人工衛星打ち上げ時の「宇宙賠償責任保険」を日本で初めて幹事社として引き受けたのが1975年。2017年〜2021年度の元受保険料シェアは、保険料ベースにおいて国内損保でトップをマークした。2022年には、宇宙スタートアップ企業「ispace」と世界初の「月保険」を共同開発した。「三井住友海上火災保険」の企業営業第5部 兼 宇宙開発室上席スペシャリスト エアロスペースの林洋史氏によれば、「月保険のポイントは、目的と時間軸で4種類に分かれていた従来型の宇宙保険とは異なり、打ち上げから月面着陸までをシームレスに補償する点です。地上と違い、宇宙空間および月面では損害を目視できません。ランダー(月着陸船)から発信される様々なデータを地上で受信し、船体の状態を確認。データ受信ができないなどの当初予定の月面着陸が達成できない場合などに保険金をお支払いする仕組みが月保険です。今後は、月面開発を企図している事業者へ保険を提供していきます」とのこと。また同社は同年7月からJAXAと「宇宙旅行保険事業」の共創活動を開始している。
[出典:<日経MOOK>「宇宙ビジネス最前線」監修:KPMGコンサルティング]

<結び>
 漫画「宇宙兄弟」小山宙哉著<モーニング>がベストセラーの平積みに置かれていた時代、日テレ系アニメシリーズ化、小栗旬主演の実写版映画化など空前の旋風を巻き起こし「宇宙ブーム」が到来を告げた。
 時代設定は第1巻から2025年と少々近未来が舞台。既に「宇宙で実用可能な空飛ぶ車」の開発成功や「国際宇宙ステーション(ISS)」に「遠隔操作外科手術用ロボット(MIRA: Miniaturized In-vivo Robotic Assistant)」で宇宙事故に遭った宇宙飛行士を救護したりと漫画家小山宙哉氏の研究し尽くされた「宇宙愛」から珠玉のエピソードが紡ぎ出された本作。コミック雑誌<モーニング>というやや大人向けの世代が読者ターゲットだ。
 現実世界でも2021年12月には前澤友作氏が民間の日本人初の「国際宇宙ステーション(ISS)」滞在者となり、宇宙から中継したことも話題になった。2025年に予定されている「大阪万博」でも「空飛ぶ車」は実用化のパイロット版をお披露目されるのではないかと「日経TRENDY」が期待を込めて予測している。また2022年11月23日には「欧州宇宙機関(ESA)」が民間人の中でも初の身体障害者宇宙飛行士で英国人のジョン・マックフォールさんを採用した。19歳でバイク事故に遭い右足切断から一転して陸上競技者となり、2008年「北京五輪パラリンピック」では陸上100m競技で銅メダルを獲得している。身体障害者から躍進したマックフォールさんの宇宙飛行士起用は「ユニバーサル・ノーマライゼーション」の旗印を宇宙に突き立てた、と言っても語弊はなかろう。他方、ロシアのプーチンが始めたウクライナ戦争を機に再び「軍事利用」される宇宙の軍拡化を強く警戒する。
 また「月」資源を巡る熾烈な採掘合戦を人類はこの先も繰り広げていくのだろう。だが「宇宙」には「夢」がある。子どもたちがプラネタリウムを鑑賞して目を輝かせ、贈り物には天体望遠鏡をねだっているような子が、いつか、天文学者や宇宙技術者、そして宇宙飛行士になる死に物狂いの努力を続けて人生を謳歌するための険しき門戸に挑戦するのかもしれない。未だ「宇宙ビジネス」は数十億単位の「宇宙旅行」など一般人には非現実的で儚い夢に思えるが、「戦争」で無辜な命が星の数ほど犠牲になることに寄与するのではなく、人類が「夢」や「ロマン」を見てきた「宇宙」の平和利用にこそ注力し、「地球沸騰化」が起きていると国連が呼称した今夏の異常気象を克服する「科学」の力に賭ける未来を信じてみたい。

tomokihidachi

2003年、日芸文芸学科卒業。マガジンハウス「ダ・カーポ」編集部フリー契約ライター。編プロで書籍の編集職にも関わり、Devex.Japan、「国際開発ジャーナル」で記事を発表。本に関するWEBニュースサイト「ビーカイブ」から本格的にジャーナリズムの実績を積む。この他、TBS報道局CGルーム提携企業や(株)共同テレビジョン映像取材部に勤務した。個人で新潟中越大震災取材や3.11の2週間後にボランティアとして福島に現地入り。現在は市民ライター(種々雑多な副業と兼業)として執筆しながら21年目の闘病中。(株)「ログミー」編集部やクラウドソーシング系のフリー単発案件、NPO地域精神保健機構COMHBOで「コンボライター」の実績もある。(財)日本国際問題研究所「軍縮・科学技術センター」令和元年「軍縮・不拡散」合宿講座認定証取得。目下プログラミングの研修を控え体調調整しながら多くの案件にアプライ中。時代を鋭く抉る社会派作家志望!無数の不採用通知に負けず職業を選ばず様々な仕事をこなしながら書き続け、35年かけプロの作家になったノリーンエアズを敬愛。

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