[筆者コラージュ作成]
2023年8月6日、9日で広島・長崎原爆投下から78年を迎えた。
岸田文雄首相は「広島平和祈念式典」の挨拶で今年5月に日本が議長国として主催した「G7広島サミット」で「世界の首脳たちを戦時被爆地の広島に招集し、ヒバクシャの声を傾聴し被爆の実相に触れて頂いた。その結実として『核軍縮に関するG7首脳広島ビジョン』を発出した功績」を強調したが、果たして被爆当事国としての「言葉の重み」に十分な説得力はあったのか?
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「原爆の父」オッペンハイマーが生んだ「悪魔の兵器」とA.I.は「人類滅亡の脅威」という「過ち」を繰り返すのか?
<リード>
【1】ヒバクシャの声を聞き続けよ!「国連軍縮研究所(UNIDIR)」は既に「REAIM」の議論を始めた
【2】原子爆弾とA.I.の脅威論に共通する「人類滅亡論」とは?
【3】核の報復一斉攻撃リスク ロシアの「死者の手」システムを廃絶せよ
【4】米中露の軍縮領域としてのA.I.と核「三体問題」を論じる叩き台
【5】A.I.と戦略的安定化そして核リスクの減退を目指して
<結び>
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【1】ヒバクシャの声を聞き続けよ!「国連軍縮研究所(UNIDIR)」は既に「REAIM」の議論を始めた
[出典:NHK「広島平和祈念式典」「長崎平和祈念式典」(2023年8月6日・9日)]
第78回「広島平和祈念式典」では広島県の湯崎英彦知事が核抑止論に疑義を呈し「あなたは、今この瞬間も命を落としている無辜のウクライナ市民に対し責任を負えるのですか?ウクライナが核兵器を放棄したから侵略を受けているのではありません。ロシアが核兵器を持っているから侵略を止められないのです。核兵器国による非核兵国への侵略を止められないという現在の状況は『安定・非安定パラドックス』として核抑止論から予想されてきたことではないですか。またあなたは万が一核抑止論が破綻した場合、全人類の命、場合によっては地球上の全ての生命に対し責任を負えるのですか?あなたは世界で核戦争が起こったら、こんなことが起こるとは思わなかったと肩をすくめるだけなのでしょうか?」と問いかけた上で「核兵器は存在する限り『人類滅亡』の可能性をはらんでいるというのが紛れもない現実です。その可能性をゼロにするためには廃絶の他ない、というのも現実なのです。今、核抑止論者がすべきことはこの現実を直視し、そのような責任は取りきれないと。どんなに厳しい安全保障環境にあろうともどうしたら核軍縮を進め、最終的には核廃絶を実現できるかそのための知恵の結集と行動に参画する。私たちには次世代に真の意味で持続可能な未来を残す責任がある」と絶対悪の核兵器を糾弾し、目指すべき核廃絶を改めて提唱した。
また日本は唯一の「戦時被爆国」として、平均年齢80代になったヒバクシャの方々の語り部の声に可能な限り、傾聴し続けるべきである。
第78回「長崎平和祈念式典」ではヒバクシャ代表の工藤武子さん(85)がスピーチした。「原爆投下直後、私たち家族は無事でしたが、被爆から10年余り経ち次第に体調を崩していった父は肝臓がんと診断され、3ヶ月程の闘病の末、亡くなりました。臨終の時、父の顔に酸素マスクを当てていた私は『神様、私の家族をお守りください』という最期の言葉を聞き、涙が止まりませんでした。その後、母と姉、弟、そして被爆時に母の胎内にいた妹までもが相次いでがんで亡くなりました。私自身も3年前、肺がんの手術を受けました。たった一発の原爆で長崎ではおよそ7万4千人、広島では14万人が亡くなり生き残った人々の多くが今なお様々な後遺症に苦しんでいます。」と78年が経っても、がんなどの病で苦しむ数多のヒバクシャの現状を強く訴えた。
同年8月3日には「軍縮会議日本政府代表部」の梅津茂次席が「軍縮会議本会議(CD Plenary)」の非公式セッションで「軍事領域における責任あるA.I.利用(REAIM)」イニシアチブの声明を発表した。A.I.の軍事利用に国際的な共同体の関心が集まっており、「REAIM」のようなオランダ、韓国によって主催された、またコスタリカによっても主催された「ラテンアメリカとカリブ海全自律型兵器の社会人道的影響会合」2022年2月両国で行われた軍縮の中のA.I.軍事利用を位置付ける最新動向である。翌2023年7月18日に「安全保障評議会」は近年で初めて英国大統領の下で「A.I.と国際平和安全保障に関する会合」を開いた。外務副大臣の武井俊輔氏は「A.I.軍事ドメイン(IPネットワークで個々のコンピュータを識別し、接続先を指定する用途の名称)の使用は、「人間中心」と「信頼できるA.I.」を概念として国際法に基づく責任と透明性あるものにすべきだ」と安全保障会合で強調した。このことを見做すとすれば、「全自律型致死性兵器(LAWS)」に関する議論もますます重要になってくる。「核軍縮検証政府専門家会合(GGE)」もブラジルのフラビオ・ソアレス・ダミーコ大使議長の功績に謝辞を示した。
その上でGGEは次の任務として「 特定通常兵器使用禁止制限条約(Convention on Certain Conventional Weapons:CCW)」について締約国会議を年末の審議から離脱する決定を下した。
日本はGGEこそがLAWSに関する国際ルール作りを育むための主催母体に最も相応しく引き続きその役割を果たして欲しいと信じている。日本としても引き続きLAWSやCCWに関する国際ルール作りに貢献していく意向を示した。
2023年6月27日には「人口知能(A.I.)」の軍事利用に関する専門家がスイス・ジュネーヴの「国連軍縮研究所(UNIDIR)」に集い、「未来の戦場における人口知能の影響」をテーマに闊達な議論が行われた「イノベーション・ダイアローグ」が開かれた。ハドソン研究所研究員。陸上自衛隊1等陸佐。1978年生まれ。北海道大学工学部卒、北海道大学大学院工学研究科修了後、2004年陸上自衛隊入隊。との経歴をもつ高木耕一郎氏がパネリストとして招待され討議に加わった。その報告も踏まえて幾つかのA.I.軍事利用と核リスクの議題を叩き台としたいが、ここでは別稿に譲る。
【2】原子爆弾とA.I.の脅威論に共通する「人類滅亡論」とは?
米国は合衆国憲法修正第 25 条 4 項の定めに従い、「2名承認のルール」で法的に大統領が「核のボタン」に手をかける暴走を止めることができる仕組みになっている。
ところが、ロシアは米国の真逆をいく。ロシアには大統領に類似の核のブレーキを法的にかける制度がない。それどころか、冷戦時代の旧ソに始まる核の「死者の手」制度がある。指揮系統に事前入力した最高権威命令をロシアの戦略ミサイル部隊に送信することで、大陸間弾道ミサイルの発射を自動で実行可能にするというプログラミングだ。現在のロシアがウクライナ侵攻しているプーチンの戦争で、もし最高司令官のプーチン大統領の命が奪われたとしたら…その瞬間、報復一斉攻撃のしかも核ミサイルが米国本土を焦土化するリスクがある。いや、米国どころか「惑星存亡の危機」に他ならない。A.I.にも政策的な議論の中のこの要点は命に関わるほど重要だ。ではA.I.はどうであろうか?Open A.I.のサム・アルトマンCEOでさえ、「我々テック企業のA.I.専門家は、我々がA.I.を完全に規制できるという自信を確実なものにするまで少なくとも6ヶ月はA.I.の開発を中断すべきだ」と先頭に立って警鐘を鳴らしている。A.I.は軍事司令に決して介入させてはならないし、決して裁判などでも最終的な判決を下してはならない。原子爆弾とA.I.の脅威論に共通する「人類滅亡論」を討議する。
「Democracy Now! ”AI Expert: We Urgently Need Ethical Guidelines & Safeguards to Limit Risks of Artificial Intelligence ”」によれば、A.I.にも政策的な議論の中のこの要点は命に関わるほど重要だ。それは立て続けに「A.I.の倫理的責任」に問題性を見出して見解を示してきた元Google A.I.倫理研究者のティムニット・ゲブル氏やカリフォルニア大学バークレー校のスチュアート・ラッセル教授(計算機科学者)、そして元Google倫理的A.I.研究チームリーダーのマーガレット・ミッチェル女史らが次々と所属テック企業を解雇されたからである。そして「A.I.デジタル政策センター」のマーク・ロッテンベルク事務局長の所属組織会長で「リサーチ・ディレクター」のマーヴ・ヒコック氏らが、「我々がただ単に安全措置をその場に整備するのではなく、我々は合法的な規則を持たず、今起きているという急速な技術的変革のための行政府の中で専門知識保有していないということで、米下院監視委員会を前に3月早期に証言した」ことも明示されてきた。
ロッテンベルク氏は「今年の早期に回覧されてきたある手紙に署名していた人々の一人について分かったことがある。それは物議を醸す手紙だった。その手法によると、それは長期間に及ぶ『絶滅のリスク』に関して焦点を当てる傾向にあり、そしてそれは、今も開発されてきている、これらのシステムに統制を欠くものとしてそんな関心事を含むものだったからだ。その『人類絶滅』は、我々もまた即座に懸念を持つべき焦点を当てることを必要とするものだ。そして私が話してきたこととは、例えば、埋め込まれたバイアスや差別の複製について一瞬前のものである。それは今すぐに起きていることである。そしてそこにある問題とは今すぐ取り組まれる必要性があるものだ。」と指摘した。
慶應義塾大学大学院の山本龍彦教授(法務研究科)編著の「A.I.と憲法」(日本経済新聞出版社)によれば、A.I.を「刑事法」で裁くことはできない。憲法上「合憲性」があるか否かでA.I.による暴走は止められ得るかもしれないが米国と違って、ロシアには大統領が類似の核のブレーキを法的にかけるような制度はないという。
山本氏の著作の中では「差別」の問題も浮上している。もし仮に裁判官などの裁く側のサポートをA.I.がしていたら?プロファイリングや前歴、原告や被告のそれぞれの個人情報資料を収集し分析する際に、一例として米国の裁判所で黒人の再犯率の方が白人の再犯率より高いという偏見に基づくデータを裁判官や陪審員に渡していた事実があった。米国のオンライン調査報道「Pro Publica」が全資料を入手し分析をかけたところ粗悪犯ほど見落とされがちで、実際の数値では「28%」だった。A.I.は人間が用意したデータの正否を疑うことを知らない。米国裁判の判決はあくまで人間の裁判官と陪審員が最終的な判断を下す。このファイナル・アンサーにはA.I.を決して介在させてはならないのだ。
【3】核の報復一斉攻撃リスク ロシアの「死者の手」システムを廃絶せよ
[筆者コラージュ作成]
こうした前提の上で「核兵器」と「A.I.」の脅威規制を巡る比較討論をするに相応しい叩き台になると思しき論考がここにある。
ロス・アンダーソン著の「NEVER GIVE ARTIFICIAL INTELLIGENCE THE NUCLEAR CODES」<The Atlantic>(June 2023 Issue)を抜粋精読した。
冷戦時代の旧ソに始まる核の「死者の手」システム。指揮系統に事前入力した最高権威命令をロシアの戦略ミサイル部隊に送信することで、大陸間弾道ミサイルの発射を自動で実行可能にするというプログラミングだ。現在のロシアがウクライナ侵攻しているプーチンの戦争で、もし最高司令官のプーチン大統領の命が奪われたとしたら…その瞬間、報復一斉攻撃のしかも核ミサイルが米国本土を焦土化するリスクがある。いや、米国どころか「惑星存亡の危機」に他ならない。
2019年アメリカ陸軍工科大学の同胞で学部長だったカーティス・マクギフィン氏とルイジアナ工科大学研究所の研究教育部長だったアダム・ロウザー氏が議論したテーマで、米国にも迫り来る攻撃に対し新たな技術を開発すべきだと述べた。米大統領が「報復一斉射撃」の命を下せるように来る攻撃の偵察と最後の瞬間の狭間の時の終焉を短縮させる必要があると両名は考えたのだ。
「米国防総省共同人工知能センター(the Pentagon’s Joint artificial Intelligence Center)」所長であるジョン・シャナハン中将は核兵器の自動化について問われ、「私はA.I.の軍事利用に強い支持者はいないと思っている。核命令や制御はただ一つの地域にだけ「核態勢(NPR)」をとるようにしている。」と明言は避けたが、トランプ政権期の対北朝鮮「斬首攻撃」を想起させた。「さもなければペンタゴンは速度だけ機械化された米国の戦争マシーンと化してしまうだろう。2021年の報告書によれば、少なくとも685の継続中のAIプロジェクトがあり、それ以来A.I.への投資額が増加の一途を辿っているからだ。」とした上で、「米空軍のパイロットはA.I.のアルゴリズムによって操作するコックピットで操作を命じられ、全自律型のドローンの群れと共に標的に照準を合わせて、ただボタンを押すだけで撃ち殺すことができる」と。
しかして映画「ドローン・オブ・ザ・ウォー」でも実際に戦場の遠隔にある米本土から操縦施設に入って生きているイスラムテロ組織と関りのあるヒジャブを被った女性たちまで照準に入った時、爆撃が民間人の命をも同時に奪って「モラル・インジャリー(良心の呵責)」に苦しむ米兵幹部の心情が描かれていた。
もしA.I.がそれらのデータ訓練の中に含まれなかった小説の雰囲気がある現象に遭遇したら、A.I.は攻撃が来るという「幻覚」をみるかもしれない。
1983年、旧ソは早期の警告システムが、ミッドウェストの上空の煌めく雲を間違えてミサイルを打ち上げようとした時、崩壊が避けられたのは、唯一、スタニスラヴ・ペトロヴ中佐―持ち上げられるべき偶像のための男だったーが、虚偽の警告だったと彼の中に逸物のようなものを感じたからであった。
核兵器を伴わないA.I.の権威は、にも拘らず、核攻撃が続くというパニックを引き起こすような、うっかり紛争をずっと遠く、ずっと早くエスカレートさせる策略を追求することができてしまう。ないしはエンジニアが意図的に発射を導くという戦闘状況が起こり得る。もし核兵器の使用がその任命された目的を成し遂げるだろうと考えるとしてもだ。
A.I.の司令官は創造的かつ予測不能になるだろう。単にOpen A.I.がDota2の修正版で、決して懸念されない(特に自らの保有する戦闘員を勧んで犠牲にしようとすると分かっている)戦略を伴う戦闘シミュレーション・ゲームにおいて、人間のプレイヤーを打ち負かすように設計された一例もあるように。
今日、疑惑の目で見られているA.I.は、もし、その拡大された使い方で株式市場の暴落や何らかの他の危機を導いたり、逆にこれらの可能性が10年、数10年間かけて退くことにもなるだろう。A.I.は核のスタンドオフの内容でその目標をいかに理解するかにずっと依存していただろう。A.I.に様々なゲームをさせて訓練してきた研究者たちは、この問題のバージョンに繰り返し遭遇してきた。勝利を構成するA.I.の感覚というものは捉え所のないものになり得る。幾らかのゲームにおいて、A.I.は幾らかの小さな環境の変化がA.I.戦略の突然の移行を引き起こすまで、予測できる作法においてコストパフォーマンスを発揮してきた。
A.I.をその司令と制御の中に組み込んでいる幾らかの国家は、他の後追いする動機があるのだろう。もし唯一信頼できる抑止を維持するためにだけだとしたら。ハンプシャーカレッジのマイケル・クレア教授(平和世界安全保障学)は警告してきた。「もし複合的な諸国が発射決定を自動化するとしたら、そこにはウォール街の「フラッシュ・クラッシュ(株価などの瞬間暴落)」に類似した「フラッシュ・ウォー」が起こり得ただろうと。
想像してほしい。米国のA.I.は南シナ海において核攻撃を感知した動きを捉えたとした、潜水艦の音響監視調査の誤解が生じたら?その反撃準備は中国側の保有するA.I.によって気付かれたであろう。そしてそれは実際にその発射プラットフォームの準備を始め主要な核交換の最高潮に達するであろう一連のエスカレーションを解き放つことになったはずだ。
2023年2月21日、米国のジョー・バイデン大統領がウクライナの首都キーウの通りを散歩してから24時間も経たないうちに、ロシアのウラジミール・プーチン大統領が「ロシアはNEW START条約を延長するだろう」と軍縮に舵を切る意向を示していた。しばらくの間、中国は今や米国の全ての都市を破壊するのに十分なミサイルを保有しがちになり、全般的にウクライナ戦争の間は核兵器がロシアにゆとりを持たせるだけのテコの原理を把握してきたので、戦術核を好意的に受け止めてきたという報告もある。しかし冷戦時代は以前の大きさの4分の1以下に米ソの両国の核兵器を軍縮する合意に至っていたが、今では米中露の「三体問題」に亀裂が走り始めている。
【4】米中露の軍縮領域としてのA.I.と核「三体問題」を論じる叩き台
[出典:長崎原爆の日に考える核 廃絶はできないのか…“核抑止論”の是非【8月9日(水)報道1930】]
共同通信の太田昌克論説編集委員はBS TBSの「報道1930」に論客として出演した。まず、番組サイドが用意した「プリンストン大学」による核報復攻撃の撃ち合いをシュミレーションした映像を見た太田氏は「1994年「ブダペスト覚書」当時、ウクライナには(およそ)1900発米ワシントン、欧州も含めて射程範囲の核があった。核のボタンのスイッチを握っていたのはロシアだったから、ロシア大統領がウクライナを殲滅しようと思いあえて核のボタンを押したら、ウクライナから核ミサイルが発射されてワシントンに向かう。その瞬間、ワシントンは核のボタンを押してウクライナを殲滅するぐらいの報復を行い、地球上からウクライナが消えてなくなる。そんなシュミレーションが(ウクライナ側によって)考えられていた」と解説。
「今回のウクライナ戦争でも、なぜこれだけ長期の消耗戦が続いているのか?ロシアが核を保有し脅しをかけ続けているからだ。1945年8月6日・9日が終わって原子爆弾が実際使われた。「マンハッタン計画」を実行したスティムソン陸軍長官でさえ、「核兵器は人類の手に負えないかもしれない」(つまり)絶対悪だという「絶対悪説」を当時の時点から見出していた。だが、現実政治で米ソの核開発競争が始まっていた。「必要悪」として御していくしかないという、現実的判断が働いている。(従って核に対して)人類史的な「絶対悪」との表現は妥当だろう」と、この日のもう一人のゲストだった防衛研究所の高橋杉雄防衛政策研究室長の持論に太田氏はこう自説を展開した。その上で「露中朝の3つの核保有国と日本は対峙している。今、すべきことはこの3カ国をひっくり返すことだ。それぞれ強弱はあると思う。ウクライナ戦争の現状からここにきてロシアとの交渉ということにはならないだろう。抑止力をいまは、保つしかない。中国はどうするのか?核弾道保有量410発だ。ロシアは「ロスアトム」という原子力会社から燃料をもらってこれから増殖炉で核を増やそうとしている。この「ロスアトム」はまだ制裁対象になっていない。包囲網を広げるべきではないか」と指摘。
また結語として「核拡散防止条約(NPT)」体制とは日本とドイツに核保有させず封じ込めるために作られた戦後の国際レジームだ。米ソ、米露が責任を果たし合う議論も介在する。外交を使って相手の意図を汲み取り合いながら信頼関係を醸成していくことによって初めて核を使わない抑止が成り立つ。今こそ、岸田首相がこうした軍縮外交をやるべきだ。外交によって核を使わせず、核を増やすことがむしろ中国にとってのレピュテーション・コストになっていくということを、しっかり東南アジアも巻き込みながら(訴え、中国の)行動変容をさらにまだ追求していくべきだ」と提言した。
ここに「ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)」の発刊した「ARTIFICIAL INTELLIGENCE, STRATEGIC STABILITY AND NUCLEAR RISK」(June 2020)報告書がある。
米露中の軍縮領域としての「三体問題」を考察するのに適した3カ国(他の)軍備管理のデータがまとまっている。大いに議論の叩き台となるのではないか。
【米国】
米国はA.I.(人工知能)発祥の地だ。2019年2月に米国政府は米国A.I.イニシアチブを政策方針として掲げた。A.I.と自律型、無人制度を米政権のための研究開発優先事項とし、「米国防総省(DoD: US Department of Defense)」の「国防イノベーション・ユニット(DIU: the Defense Innovation Unit)」と統合人工知能センター(JAIC: the Joint Artificial Intelligence Center)への投資を導入した。2018年「国防高等研究所(DARPA)」は次のA.I.技術を発展させる運動に20億ドルを投じた。米国は軍事A.I.の開発や強度の研究基地のための最も良く開発した革新のエコシステムをも保有している。世界最大の軍事予算だ。DoDがA.I.に関心を持っている間に、研究調査が時間超過で乱高下しA.I.は決して完全には停止しなくなってしまった。結果として、米国は軍事目的のためのA.I.の採用期間の中で最も先駆けとなる国家となった。全自律型ナビゲーションの無人車両にとっては、一例としてF15戦闘機音声制御によるパイロットのアシスタントをしたり、米軍部隊は既に「航空機訓練移転計画(ATR: Aviation Training Relocation)」を実施することで、ガイドされた軍需品や防空システムの範囲でA.I.に依存してきた。
<◆米軍部隊によるA.I.の軍事導入>
「米国空軍(USAF)」
MQ-25 Stingray UAV
X-47B
「敵性(国家)防空制圧(SEAD:Suppression of enemy air defense)」
The XQ-58 Valkyrie
Perdix UAV swarm
UUV(XLUUV) 無人航走体
「情報収集・警戒監視・偵察(ISR)」
「ロボティクス工学機関の司令と感知における制御アーキテクチャ (CARACAS: the Control Architecture for Robotic Agent Command and Sensing)」制度
「大型無人潜水艦:オルカ(The Orca XLUUV)」
【ロシア】
ロシアは2017年9月にウラジミール・プーチン大統領が「人工知能(A.I.)はロシアだけでなく、すべての人類のための未来である」と宣言した。予測することが難しい脅威がある。だが、A.I.を制する者は世界の指導者として支配者となる。程なくして大いなる力を持ったA.I.開発競争が始まる。2018年3月には「ロシア国防省(MOD)」が専門家会合を運営した。会合ではデジタル経済に関する談話の一部として、A.I.に対する一連の方策がプーチン氏の毎年のロシア連邦議会での演説で公表された。これによりロシア経済のために最も著名な投資銀行の一つであるロシア貯蓄銀行(Sberbank)やA.I.の潜在的な可能性による強い政策提言を加味した国家A.I.戦略の草稿がまとまった。
A.I.戦略の第一草稿としては2019年10月に正式に大衆に公表されたが、その内容は以下である。
(a)A.I.の先進的な開発のための科学的研究
(b)A.I.を伴うソフトウェアの構築と開発
(c)A.I.開発のために必要とされるとデータの質と加速性の増加
(d)A.I.開発のために必要とされるコンピューターとプラットフォームへのアクセスの増加
(e)A.I.のプロの人数の増加とA.I.の恩恵について大衆に周知する
(f)A.I.開発と使用によって影響を与えられた社会関係の規制のための包括的な制度を生んでいる。
ロシアの危機的な脆弱性から諸外国の技術への依存の高さが窺える。ロシアではA.I.の分野で指導者になることと、この領域を統治することを確実にすることの2点を国策の目標にしている。ロシアはフランスやインド、パキスタンによって識別されているような類似の多くの手段で挑戦してきている。だが、2017年の時点でロシアのA.I.開発研究者は6000から6500人しかいない。米国にはAmazonが雇っているだけでも1万人を超えるA.I.専門職が在籍している。ロシアのA.I.制度はロボット工学やスーパーコンピューター、テクニカル・ビジョン、様式認識、ナノ・テクノロジー、エネルギー・生活支援技術、装置、生物工学、生合成、バイオセンサー技術などの主要な分野に優先順位を付している。
2014年のクリミア併合以来、ロシアは米国や中国と同レベルに競争することが喫緊で非常に困難になった事態に直面している。
<◆ロシア軍部隊によるA.I.の軍事導入>
戦略ロケット部隊
「ポセイドン(核弾頭・核推進魚雷(超長射程)/無人原子力潜水艇)」
「キンジャール(極超音速空対地ミサイル)」
「サルマット(大陸間弾道ミサイル:RS-28)
「アヴァンガルド極超音速滑空体(HGV)核弾道」
「ツポレフ Tu-22M3M デュアル対応爆撃機(Tupolev Tu-22M3M dual-capable bomber)」
【中国】
中国のA.I.関連政策のターニングポイントになったのは、2017年の7月に中国政府による「新世代の人工知能開発計画」が発刊されたことだ。中国のA.I.への野心は「デュアル・ユース(民間及び軍事双方の使途に使える技術)」にある。生成A.I.計画がA.I.開発を牽引し、鍵となる外国の技術と先進的な装備に関する脆弱な依存体質を削減することを中国政府は望んでいる。
一例として、「インターネットプラスの人工知能3年間行動実行計画」が同月2016年5月に、米国が機械学習とA.I.に関する国家科学技術会合の新たな副委員会の形成を公表した。
「産業情報技術省(MIIT)」が企業やその他のアクターにガイドラインを提供した。全自律型車両や知的サービスロボット、ビデオ画像識別システム、音声相互作用システム、翻訳システム、そしてスマートホーム製品のようなアプリの開発を追究するための使途でだ。「第13回5か年国家科学技術革新計画」は、中国に国際科学的開発の「高台」を把握し、「連続した15の科学技術革新2030メガプロジェクト」を打ち出すよう呼びかけた。最も重要なこととはA.I.が民間軍事融合の「デュアル・ユース」としての技術を発揮することだ。
一例として「北京技術研究所(BIT)」は、中国最高兵器研究研究所の一つだが、「中国兵器工業集団(NORINCO)」本社で4年でプログラミングを組み込む知能兵器システムを立ち上げるとしている。研究量でいえば、特に最先端をゆく技術の草の根レベル防衛産業の物議を醸しているのは、「中国国家科学技術国防産業総局(SASTIND)」「中国科学技術部(MOST:Ministry of Science and Technology)」の計画で「2023年までの20の新たな生成A.I.革新と開発の※試作地帯(Pilot Zone)」が地方レベルでもA.I.の能力を構築する努力の標的となる。
「A.I.戦略諮問委員会」は「科学技術省」に主要なA.I.関連政策決定のために必要なA.I.関連貢献が伴うように提供する。
2018年以来、中国政府は「百度(バイドゥ)」、「阿里巴巴(アリババ)」、「腾讯控股(テンセント)」、「科大訊飛(iFlytek)」、「商湯科技(センスタイム)」などを情報産業のトップと位置付け、互いに競合し合うことを推奨している。「中国人工知能連合(CAAD: the Chinese Association for Artificial Intelligence)」は中国の名だたる専門家が集う。また「中国国家情報法」を含み民間部門の協力にインセンティブを付加している。
<◆中国軍部隊によるA.I.の軍事導入>
「Type 094 SLBM海上巡航ミサイル」
「Type 096 SLBM海上巡航ミサイル」
「DF-ZF 極超音速兵器」
「CJ-10 air-launched cruise missile」
「GJ-11 Sharp Sword stealth UCAV」
「HSU-001 UUV」
「Extra-large UUVs(XLUUVs)」
【5】A.I.と戦略的安定化そして核リスクの減退を目指して
A.I.技術は今や近い将来、核保有国の抑止能力を強化するためにあるから、A.I.先進国によって敵性国家を打ち負かすだけの報復能力が可能になるという否定的な一面もある。
技術的、経済的、政治的、資源に依存しすぎていると核保有国が不安定な情勢にもなりかねない。
(a)A.I.に関する能力競合の関与
(b)核兵器の近代化と開発への貢献強化
(c)核政策とドクトリンの変化
(d)核兵器の警報作動状況
(e)核ミサイル発射の全自律化(全自動化)
A.I.と核兵器を結びつけることは一般的に言って難しい。だが、ここに3つの推論が挙げられる。
核戦略が働きかけるのは、いかにA.I.と全自律化が過去に誤用されてきたか。またA.I.の最新の先駆性に近年制限がかかっている。
第一にA.I.が核武力に関連するアプリケーションの開発を可能にし得てきたか。安定化することと戦略的安定性に関する不安定化の双方を保有し得る領域的内容に依存すること。A.I.は核保有国間の武力の非対称を強化できた地域で不安定化も成し得た。それは締約国の抑止関係の現状を決断できたからである。核保有国が既にある種の力の対称性を楽しむようなところで、通常戦力と核兵器双方に、A.I.が不安定化される必要はないかもしれない。事実、双方の脆弱性の受け入れを強化することができ、また危機の時にあって核のエスカレーションのリスクが伴う取引のより良い準備ができるという自信を持った核の意思決定者にも提供できたであろう。
第二に、A.I.の先進的な改良を待たずにいてさえ核保有国間の戦略的安定的関係性に関する影響は、実際に軍隊が武装配備される準備が整いA.I.が生まれ変わる事態も考えられよう。
A.I.は最も容易く誤解され得る。それもまた軍縮メカニズムを通じて制御することが困難になる技術だ。その固有の「デュアル・ユース」と複合目的化した性質を与えるという。
国家の信念とは、非核保有国であってさえも敵性国家がA.I.に投資ことは、当然ながら第二撃の脅威に晒す敵国の能力が安全ではない状況を生むことに重要になってくる。そしてそれが国家を戦略的安定性に関する否定的な影響を持ち得る、そして核戦争のリスクを増やし得る事態への対策を採用するように導く。核保有国は諸国の能力やA.I.分野における能力や意図についてより明白に、より開かれたコミュニケーションに興味を持つことを促してきた。また核リスクについても議論を闊達化することは核抑止アーキテクチャーにおけるA.I.の行使からも緊急性をおび得るものといえよう。
第三に、核リスクと見做したら、A.I.技術の軍事的な使用が核戦争の可能性を増すだろう。一例として、近年の軍事A.I.のアプリケーションは未だ脆いものであり、失敗したり、誤用する場合もあり得るだろう。事故や核戦争突入の危機や紛争のうっかりしたエスカレーションの引き金を引きかねない方法によって。反対にA.I.は敵対者の軍事能力を強化することができる。その理由として核保有国が意図的に核レベルを高める決断をするかもしれないことが考えられる。しかしながら現実になり得るこれらのシナリオのための秩序では、数多くの力学を不安定化させることは整理する必要があるだろう。昨今の地政学的内容の中では、A.I.技術だけが核兵器行使の引き金をひくことを想像することは難しい。地政学の緊張感は、コミュニケーションの欠如と目的の不適当な信号を発することが核レベルへ続く危機や紛争のエスカレーションの引き金を引くことでA.I.技術以上に大いなる役割を持たざるにしても、平等の重要性を担うようになる予測困難な変数値を示すかもしれない。
[出典:「ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)」「ARTIFICIAL INTELLIGENCE, STRATEGIC STABILITY AND NUCLEAR RISK」(June 2020)報告書]
<結び>
映画「『Oppenheimer』(オッペンハイマー)」が米国で上映されている。「原爆の父」と呼称される米国の理論物理学者 J.ロバート・オッペンハイマー氏が「マンハッタン計画」に関わった開発の経緯を3時間もかけて撮り下ろした一大スペクタル作品だと米国では激賞されている。しかし、日本ではヒバクシャに対してあまりにセンサティブな問題であり、上映公開に踏み切れないという。レビューによれば、原爆開発の正当性を謳っているようでヒバクシャという恒久的な原爆の犠牲者のことが姿形も見られない作品になっているからではないかと批評されている。
筆者は本稿を「討論企画の叩き台」台本に位置付けたいと考えている。ここで提起した問題のテーマには「普遍性」があり、「夏期休暇が明けてから9月に向けた企画会議で検討するかもしれない」との前向きな返答を頂いた。しかし「広島・長崎原爆から78年」のこのタイミングで書かずにただ待ち続けることができなかったので、未熟ながら先に「討論企画の叩き台」として準備稿とさせて頂いた。
この業界で「商業誌」に挑むには数多のハードルをクリアし続けていかなければならない。それでも平和貢献の一翼を担いたかったためベストを尽くして書き上げた。遅ればせながら「核兵器」という絶対悪を廃絶する議論の一助となることを祈念している。